なぜ肥育専攻の高校生が酪農の牧場へ?
島根県出雲市の川上牧場に、地元の農業高校生が職場体験に来ています。毎年恒例のこの職場体験の様子を、酪農家の川上さんが配信で届けるところから、この回は始まります。
川上さんが最初に聞いたのは、なぜ川上牧場を選んだのかという点です。高校生は、学校で牛の勉強をしていて知識を深めたいと思い、牧場を希望したところ、先生から川上牧場を勧められたと話します。
牛について勉強していく中で、もうちょっと深めたいな、知識を深めたいなと思って牧場を希望したところ、川上さんがいいっていうとこで。
高校生の専攻は肥育牛です。川上さんが「肥育牛の牧場もあるのでは」と尋ねると、そちらには友達が先に行ってしまったとのこと。川上さんは「残ったやつ川上行けや、みたいな感じ?」と笑いながらツッコミを入れます。
ただ、話を聞いていくと、高校生はもともと酪農をやりたかったことがわかります。今年は和牛甲子園 ── 全国の農業高校生が育てた和牛の肉質や取り組みを競う大会。高校生による和牛の甲子園として知られていますと和牛の全共 ── 全国和牛能力共進会の略。5年に1度開かれる和牛の品評会で、「和牛のオリンピック」とも呼ばれますが重なり、大動物を学ぶ生徒も少なかったため、酪農に人数を割けなかったそうです。
それで酪農は酪農までなんか人数は割けらん、割けられんってなって。
むちゃくちゃじゃん。だって牛いるじゃんでしょ?
牛はいるのに乳牛のプロジェクトに回る生徒がいない、という学校の事情に、川上さんは「ひどいな」と苦笑い。数年後にはホルスタインの全共があるので、その時は逆転してほしいと話しています。
白と黒の色合いがかわいい?ホルスタインへの熱量
高校生が酪農を好きな理由は、ホルスタインがかわいいから。川上さんがホルスタインのかわいさを視聴者に伝えてと頼むと、高校生は色合いを挙げます。
なんか色合いが白と黒でかわいい。
(和牛に)白がちょっと入っただけやないか。
川上さんのツッコミに対し、高校生は「違うんですよ」と反論します。肥育牛は太らせる必要があるのでぽっちゃりしているけれど、ホルスタインは「牛みたいな感じ」なのだそうです。
川上さん自身も農業大学校の出身で、酪農に行きたかったものの、学校では繁殖と肥育を勉強していたといいます。両方やってよかったと振り返りつつ、今は乳牛のほうが面白いと感じていると話しています。
そのうえで川上さんは、他の肥育農家や和牛農家には和牛をやりたい生徒が行っているのだろうと受け止めます。高校生は、先生が自分の酪農への意思をくみ取ってくれたのだと思う、と話していました。
太らせる必要があり、ぽっちゃりした体つき
白と黒の色合いで、いかにも「牛」らしい見た目
動物看護師志望から畜産の面白さへ
将来の話になると、高校生は入学当初は動物看護師になりたかったと明かします。最初はペットなどの愛玩動物のコースに行くつもりだったものの、勉強するうちに酪農や畜産も面白いと思うようになったそうです。
さらに高校生は、畜産は気軽に始められず体験する機会も少ないため、高校でしかできないという理由で入る生徒も結構いると話します。川上さんは「将来めっちゃ見据えてるやん」と驚き、今までの子とは熱量が違うと感心しています。
畜産の面白さについて、高校生が挙げたのは自分で育てた家畜を出荷し、食べてもらう瞬間です。先輩が販売する場に付いて行ったとき、買ってくれた人の顔を見て嬉しくなったといいます。
買ってくれた人の顔見るとなんかあ、嬉しいなみたいな。
育てた牛を食べるのは可哀想?畜産と愛玩の線引き
川上さんはライブ配信で「可哀想」という意見をもらうことがあると話し、高校生に率直に聞きます。せっかく自分で育てた牛なのに、なぜ食べるのかと聞かれたらどう答えるのか、という問いです。
高校生はまず、家畜とペットでは飼育目的が最初から違うと答えます。そして、かわいいと思う気持ちはあっても、畜産と愛玩を分けないと自分たちも肉が食べられなくなると続けました。
畜産と愛玩とは分けないと、やっぱ僕たちもお肉食べれなくなっちゃう。
川上さんは「めっちゃ正論」「大人に聞かせたい」と反応します。犬や猫が好きで入学した高校生が、どうやってこの線引きを整理できたのかを尋ねると、答えは意外なものでした。
この答えには、配信を聴いていたリスナーから拍手が届いたそうです。好きだからこそ割り切るという高校生の考え方は、この回の核といえるかもしれません。
自分で育てた牛はまだ食べたことがないものの、3年生に上がる前には食べることになりそうだと高校生は話します。屠畜を見たいかと聞かれると、殺されるところを見たいのではなく、育てた牛がどんな過程を経るのかを知りたいと答えました。
川上さんもこの考えに共感します。自分で育てた牛が最終的にどうなるのかを知りたいし、できるなら人の役に立つ美味しいお肉や牛乳になってほしい、と話しています。
ヴィーガンや環境負荷の意見にどう答える?
続いて川上さんは、ヴィーガンなど食の選択が広がるなかで出てくる意見を取り上げます。牛は地球温暖化や環境破壊につながる、牛の餌のトウモロコシを作るなら人間の食べ物を作ればいい、カロリーベースで考えれば牛はいないほうがいい、という主張です。
高校生は少し考えながら、自分たちも肉は食べたいし、動物性のタンパク質も取らないといけないのではと答えます。そのうえで「数字だけが全てじゃない」と言葉にしました。
そうですね。数字だけが全てじゃないというか。
川上さんは、言語化して答えられることを評価します。食の多様性が豊かになるほどそう言う人は増えるので、生産現場に立つ前に反論できる意見を持っておいたほうがいいとアドバイスしています。
本音として「うるせえわって思うよね」と川上さんが漏らすと、高校生も「じゃあ食べるなよとは言いたいですね」と笑います。ただ川上さんは、畜産には人間が食べ物を作れない放牧地や畑を有効利用するという観点もあり、そこも勉強していく必要があると付け加えました。
環境破壊や温暖化につながり、餌の穀物を人間の食料に回すほうがカロリー効率がよい
肉や動物性タンパク質への需要があり、人が食べ物を作れない土地も有効活用できる
動物看護師か畜産技術者か、進路の分岐点
高校生は大学進学を考えていますが、動物看護師系に進むか、畜産関係に進むかで迷っていると話します。畜産は今学んでいる知識が活かせて進みやすく、動物看護師はもともと目指していた職業だというのが悩みの理由です。
そこは今分岐点なんですよね。
川上さんはアドバイスではないと前置きしつつ、畜産や酪農は何歳になってもできるけれど、動物看護師は学校に行って資格を取らないとなれないと話します。畜産に進むなら何をしたいかと聞くと、高校生の答えは「畜産技術者」でした。
川上さんによると、畜産の指導員や研究員は県の職員の仕事になります。牧場の従業員や新規就農の場合、年収が高い人でも700万円ほどで、そこに届くのも30代から40代、20代は手取りが少なく365日働くことが多いそうです。
一方で、畜産の技術普及員は人がまったく足りておらず、引く手あまたで中途採用も多いといいます。公務員なので、頑張れば管理職クラスにもなれて安定している、と川上さんは説明しました。
高い人でも年収700万円ほどで、到達は30〜40代。20代は手取りが少なく、365日働くことも多い
県の職員で人手不足。中途採用も多く、頑張れば管理職クラスも目指せる
高校生は「夢がありますね」と反応します。実際に、学校の先生の同級生か後輩にあたる女性が、帯広の畜産大学に進んで県の職員になっているという話も出ました。
農林高校から大学へ、進学のハードルは高い?
川上さんは、農林高校には大学進学向けの勉強がないことに触れます。高校生も「勉強してない」と認めますが、川上さんは畜産を学べる大学は全国にあると励まします。
そこ今大学の数と生徒数全然余って枠いっぱい余ってるんですよ。
川上さんによると、学生が少なく大学は取り合いになっていて、国立は大変でも私立なら入学金を払えばほとんど落とされないだろうとのこと。県の職員の窓口があるような進学先を選べば、自己推薦でも行けるので大学選びで悩むことはあまりない、と話しています。
つなぎ飼いとフリーストール、何が違う?
川上さんが現場に来て思ったことを聞くと、高校生は牛の飼い方の違いを挙げます。川上牧場はつなぎ飼い、学校はフリーストール ── 牛をつながず、牛舎内を自由に動ける状態で飼う方式。寝床は1頭ずつ仕切られていて、牛が自分で選んで休みますで、どちらにどんなメリット・デメリットがあるのかという質問です。
川上さんの答えは、つなぎ牛舎は牛が動かないので個体管理がしやすいというものです。学校は頭数が少ないのですぐわかりますが、100頭、200頭となると、発情した牛を探すのも大変になります。
餌の管理も同様です。フリーストールでは、どの牛がどれだけ餌を食べているかがわかりにくい一方、つなぎ飼いなら「この子は食べていない」と把握しやすいそうです。
頭数を聞くと、学校の乳牛は28〜30頭ほど、川上牧場の牛舎は80頭ほど入るといいます。つなぎ牛舎は牛が動かない分、スペースが小さくて済むのも特徴です。
| 項目 | つなぎ飼い(川上牧場) | フリーストール(高校) |
|---|---|---|
| 牛の動き | ずっとつながれて動かない | 牛舎内を自由に動ける |
| 個体管理 | 発情や餌の食べ具合を把握しやすい | 頭数が多いと探すのが大変 |
| 規模 | 約80頭が入る牛舎 | 乳牛28〜30頭ほど |
つなぎ牛舎は消える?アニマルウェルフェアの波
川上さんは、つなぎ牛舎の成り立ちも説明します。戦後の食糧難のなかで牛乳や肉の生産を増やす政策がとられ、海外の事例をまねて、狭い国土で生産性を上げるために始まったのがこのスタイルだそうです。
ところが今では、牛をずっとつなぎっぱなしにするのは動物虐待だと言われることがあります。農水省からはアニマルウェルフェア ── 家畜が快適に暮らせるよう配慮して飼育するという考え方。ストレスや苦痛を減らし、本来の行動ができる環境を重視しますの指針が出ていて、牛を歩かせる時間を作ることや、狭いスペースへの押し込みをなくすことが求められています。
戦後の食糧難
牛乳や肉の増産政策で、海外をまねてつなぎ牛舎を導入
現在
つなぎっぱなしは動物虐待だという声が出る
アニマルウェルフェアの指針
歩かせる時間を作るなど、移動制限の見直しを求める
川上さんの見通し
数年後にはつなぎ牛舎がなくなるかもしれない
つなぎ牛舎がなくなったら川上牧場はどうするのか、と高校生が尋ねると、川上さんは「助けてくださいって訴える」と答えます。アニマルウェルフェアはヨーロッパが自分たちの農産物を売り出す海外戦略として作った言い方で、日本の飼い方とは合っていない気がする、とも話しています。
新しく牛舎を建てられればいいものの、今は建設費も高く、法律の問題もあって難しいのが現状だそうです。
出雲市の酪農家は4000軒から20軒へ
川上さんは、高校生が小さい頃に牛を見たことがあるかを尋ねます。答えは「あんまないですね」でした。
昔は米農家が牛を1〜2頭飼うのが当たり前で、出雲市にも4000軒ほどの農家があったといいます。それが今では20軒しかないと川上さんは話します。
昔はもう本当にお米農家さんで牛一、二頭飼ってみたいなんで、出雲市でやっても4000軒ぐらいあったんですよ。
牛が身近でなくなった分、消費者との距離も遠くなり、少しにおうだけで苦情が来ることもあるそうです。しかも残る20軒の半数は、あと5年、10年でやめてしまうだろうと川上さんは見ています。
はい、レア中のレアみたいな。SSRぐらいになってる。
普及員になったら川上さんに指導する日も?
高校生が普及員という仕事を知ったのは、畜産の勉強をするなかで本やネットで調べたのがきっかけです。研究ができて、酪農の良さを伝えることもできると知り、「これいいな」と思ったそうです。
川上さんは、いずれ高校生が自分に指導する立場になるかもしれないと冗談めかして話します。代々続く牧場に、大学を出たばかりの若手が「こうしたらもっといいですよ」と言いに行くと、「本当に牛飼ったことあるのか」と言われてしまうこともあるのだとか。
その時俺もうるせえって。
高校生の返しに、川上さんは「言えたらいいけど、クビになっちゃうからね」と笑います。それでも、新しい技術はどんどん出ているので研究は本当に大事だ、と期待を込めていました。
飼料設計を学ぶ場がない、という悩み
悩みを聞かれた高校生が挙げたのは、学校の研究課題です。肥育して和牛甲子園に出すという内容ですが、いきなり肥育の世界に入れられ、何もわからない状態で飼料を決めるのは難しいといいます。
(飼料設計を)学ぶ場がはい、あんまないなって。
授業でも少ししか触れないため、ネットで調べるべきかと悩む高校生に、川上さんは自分の発信を紹介します。全国から研修生を受け入れ、一緒に勉強する様子をYouTubeやポッドキャストで流しているので、「飼料設計 川上牧場」のように検索すれば多くの情報が出てくるそうです。
それをまとめたのが「酪農データバンク」で、さらに川上さんの知識を入れたChatGPTも作っているといいます。川上さん自身も非農家出身で、先輩や先生の言葉がわからず自分で調べた経験から、みんなが同じ二度手間をしないようにサイトを作ったのだそうです。
元々は全然サラリーマン家庭で育ってやってるんで、マジで同じ悩みしてるんですよ。
高校生は「今日帰ってから使ってみます」と答えました。川上さんは、久しぶりにしっかりした考えの子が来たと驚きつつ、残りの日程でも職場体験を続けていくと締めくくっています。
まとめ
職場体験初日の雑談からは、酪農を好きな気持ちと、畜産を仕事として割り切る視点をあわせ持つ高校生の姿が見えてきます。川上さんは進路や業界の現状を率直に伝えながら、これからの畜産を担う若い世代を応援していました。
- 高校生は学校の事情で肥育専攻になったものの、もともと酪農がやりたくて川上牧場に来た
- 「好きだからこそ割り切らないと牛に失礼」という考えに、川上さんもリスナーも感心した
- 進路は動物看護師と畜産技術者で迷っており、川上さんは普及員の人手不足や安定性を紹介した
- つなぎ飼いは個体管理がしやすい一方、アニマルウェルフェアの流れで先行きが不透明になっている
- 出雲市の酪農家は約4000軒から20軒に減り、学ぶ手段として酪農データバンクなどが紹介された



