Spoonから届いた「フリーマーチンってなに?」という質問
今回の配信は、お便りコーナーからスタートします。配信アプリのSpoonに寄せられた、ある質問がテーマです。
牛にはフリーマーチンという性別があると聞きました。どういう牛のことを言うのでしょうか?
川上さんによると、これは酪農業界ではよく知られている話。でも、ほかの生き物と比べてもなかなか特殊な性別なので、初めて聞く人にも丁寧に伝えていきたい、と切り出します。
同じ性別どうしの双子ではなく、オスとメスの双子異性双子 ── 性別の異なる2頭が双子として生まれること。牛では、同性の双子とは違う特殊な現象が起きることがあります。の場合に、メス側に繁殖できない状態が起こることがあるそうです。
見た目はふつうのメス牛。でも実際には子供を産むことができない。それがフリーマーチンと呼ばれる牛です。
なぜ起こる?お腹の中で血液が混ざり合う仕組み
では、なぜこんなことが起こるのでしょうか。カギは、双子がお腹の中で育つときの「胎盤」にあります。
オスとメスの双子が子宮で育つとき、胎盤が一緒になっていることがあります。すると、その胎盤を通じて2頭の血液が混ざり合うことがあるんですね。
このとき、オスのホルモンや遺伝子情報がメスの胎児に影響を与えます。オスの生殖器のほうが早い段階で発育し、ホルモンがたくさん出るためです。
その結果、メス側がホルモン異常のような状態になり、生殖器が育たないまま生まれてくることになります。
オスとメスの双子
子宮の中で2頭が一緒に育ちます
胎盤が一緒
胎盤を通じて2頭の血液が混ざり合います
オスのホルモンが影響
早く発育したオスのホルモンがメス側に流れ込みます
メスの生殖器が育たない
見た目はメスでも繁殖できない個体になります
川上さんによると、この現象はオスとメスの双子の90パーセント以上で発生すると言われています。残りの1割ほどは、ちゃんと生殖機能を持ったメスとして生まれてくるそうです。
見た目ではわからない?現場での見分け方と検査の限界
では、現場ではどうやってフリーマーチンを見分けているのでしょうか。まず、生まれてすぐ「オスとメスの双子だ」とわかった時点で疑うことになります。
見た目はメスですが、大きくなっても発情しません。生殖器の状態を昔ながらの方法で確認することもあるそうです。
今は遺伝子検査でフリーマーチンかどうかを調べることもできます。ただ、川上さんはその精度にも限界があると話します。
フリーマーチンと出ていても、検査で出ていても、生殖機能を持つ牛なんてのもたまにいたりするので、一概には言えないっていうところになったりしますね。
つまり、見た目だけでもわからないし、検査してもはっきり言い切れない。そういう難しさがあるのがフリーマーチンなんです。
経済価値がほとんどない?酪農現場でのつらい現実
フリーマーチンには、酪農の現場ならではのシビアな側面もあります。オスとメスの異性双子が生まれた時点で、メスは繁殖に使えないため、生後1か月ほどでお肉用の肥育牧場へ売られていきます。
ただ、メスなので体が小さく、オスと比べてお肉の量も少なくなります。そのため、経済的な価値はほとんどない、と川上さんは話します。
生産価値というか経済価値っていうのがほとんどない生き物がこのフリーマーチンですね。悲しいことに。
科学的に見ても、フリーマーチンは特殊な存在です。染色体がモザイク状になっていて、外見はメスでも内部はオスのような影響が出ている状態だといいます。
お腹の中で性が育っていく段階で、中途半端な状態になってしまう。それがこの現象の正体だと説明されました。
牛から学ぶ「性の多様性」と、役目を全うできる未来
ここから話は、少し深いテーマへと広がっていきます。川上さんは、フリーマーチンを通じて「性の多様性」を感じてほしいと語ります。
一方で、価値がないとされる牛たちがかわいそうだ、という思いも川上さんは口にします。生まれた時点で「お金にならない」と扱われてしまう現実があるからです。
海外では、そうした経済性の低い牛を引き取り、アニマルセラピーアニマルセラピー ── 動物とふれあうことで、人の心や体を癒やすことを目的とした活動のこと。に使う牛として活用する牧場もあるそう。それを日本でやってみようとする若い人もいるといいます。
経済性や持続性という点では難しさもあるけれど、その子たちが役目を全うできる方法もあるのではないか。川上さんはそんな希望も語っていました。
双子の牛はどれくらい珍しい?川上牧場での実際
配信の後半では、リスナーのコメントに答えながら、双子の牛がどれくらい珍しいのかという話にも触れています。
そもそもオスとメスの組み合わせになる確率が4分の1ほど。さらに、双子になる確率自体が10パーセントくらいだといいます。つまり、かなり珍しい出来事なんですね。
川上さんは、以前に黒毛和牛の分娩があり、子牛が亡くなってしまってがっかりした話を振り返ります。そのときも、オスとメスの異性双子でした。
子牛もなんとかこう温めて、一輪車にお湯を張って助けようと思ったけど、やっぱり低体温症でちょうど亡くなってしまいましたけども。
経済的には共済金共済金 ── 農業共済制度にもとづいて支払われる保険金のようなお金。家畜が死亡した場合などに補償されます。が受け取れる一方で、「この子を飼っていたら違ったのかな」とモヤモヤ考えてしまう、という複雑な胸のうちも語られました。
フリーマーチンが出るのは、川上牧場の頭数規模だと2年か3年に1回ほど。あまり出てほしくない現象ではあるけれど、いつか経済的に役立つようになったら嬉しい、と締めくくります。
まとめ
今回は、リスナーの質問から「フリーマーチン」という牛の特別な性の現象を掘り下げました。見た目はメスでも繁殖できないことが多く、科学的にも性のモザイクのような存在。生き物の多様性と不思議さを感じさせてくれるお話でしたね。
- フリーマーチンは、オスとメスの双子で生まれたときにメス側が繁殖能力を持たなくなる現象
- 胎盤を通じて血液が混ざり、オスのホルモンがメスの胎児に影響することで起こる
- オスとメスの双子の90パーセント以上で発生し、検査でも見分けが難しい
- 経済価値がほとんどなく、酪農現場ではシビアに扱われる現実がある
- 牛を通じて、自然界にある性の多様性や、命の役目について考えるきっかけになる




