ヘルパーの休日に届いた、酪農業界の厳しいニュース
この回が配信されたのは月7日の土曜日。川上さんは2週間に1回の酪農ヘルパー ── 酪農家が休みを取れるよう、搾乳や餌やりなどの作業を代わりに行う人や仕組み。毎日休めない酪農で、休日を作るために使われていますの日でお休みです。
川上さんは月末に広島への出張があるため、ヘルパーをイレギュラーに入れているそうです。午前中に種付け2頭などの仕事を済ませて、午後は子どもと映画のゴジラを見に行く予定だと話しています。
一方で、話題は酪農業界の厳しい状況にも及びます。北海道と関東では、牛乳の生産調整 ── 需要に対して生乳が余らないよう、生産量を抑える取り組み。酪農家にとっては搾れる量や収入に直結しますが始まっています。全国に広がるかどうかは消費の動向次第だとして、川上さんはコップ1杯の牛乳や、行楽先での乳製品を呼びかけました。
前日には、北海道の牧場が億単位の負債で倒産したという大きなニュースも出たといいます。その前から、畜産の肥育農家の倒産もぽつぽつ報じられていたそうです。
川上牧場も本当に、風が吹けば飛んでいくような弱小牧場なんで、頑張らないといけないなというところでございます。
「猫は上が下、ウサギは下が上」なら牛は?
お便りコーナーで取り上げられたのは、TikTokから届いた、動物を飼っているリスナーの質問です。
猫は立場が上の子が下の子を舐めます。ウサギさんは立場が下の子が上の子を舐めます。牛さんはどうですか?
ななき さんから
牛同士が舐め合う姿は、牧場では日常の光景です。それでも川上さんは、舐める方向に上下のルールがあるかどうかは知らなかったと率直に話します。
子牛とか見てたりすると、お乳探すので大きい方を舐めてたりしますし。上の大きいやつが下の(子牛の)頭とか舐めてるところ見たりとかしますし。
そこで川上さんが調べてきた結論は、舐める方向だけでは上下は決められないというものでした。下位の牛が上位を多く舐める研究もあれば、その逆の研究もあるそうです。
最近の研究では、上下関係よりも、仲がいいか、以前に舐めてもらったか、年齢が近いかといった、牛同士の社会関係そのものが大きく関わっているとわかってきたといいます。
アログルーミングとは何か、牛に上下関係はあるのか
牛が別の牛を舐める行動は、研究ではアログルーミングと呼ばれます。日本語にすると「社会的毛づくろい」のような意味です。
アログルーミングで特によく舐められるのは頭や首だといいます。牛は自分の体を舐めて手入れしますが、額や首の上のあたりには舌が届きません。そこを別の牛が舐めて、毛や汚れを取ってくれるわけです。
ただし牛のアログルーミングは、単なる掃除ではありません。昔から、牛同士の社会関係を作ったり保ったりする行動でもあると考えられてきました。
そもそも牛の群れには、のんびりした見た目に反して、かなりはっきりした社会関係があります。餌場で1頭が来ただけで別の牛が場所を譲ったり、ベッドから退いたり、頭をぶつけられる前に避けたりする行動が見られるそうです。
牛の群れには優位・劣位の関係があり、群れの構成が安定していれば、その関係もわりと安定します。とはいえ、学校の成績表のように何をするときも同じ順位になるほど単純ではないとのこと。餌場で強い牛、場所取りで強い牛、特定の相手にだけ強い牛など、関係はいろいろです。
下が上を舐める?上が下を舐める?食い違う研究結果
昔からある仮説のひとつが、下位の牛が上位の牛を舐めるというものです。実際に、順位の低い成牛のほうが舐める行動を多く行ったという報告もあるそうです。
この仮説では、「舐めておくから、餌場で少し許してね」「攻撃しないでね」と、社会的な利益と交換している可能性が考えられてきました。
人間でいうとですね、ちょっと言い方は悪いですけども、上司にゴマをするみたいなことですね。よ、社長って。
ところが、別の牛群を調べた研究では、むしろ順位の高い牛のほうが積極的にほかの牛を舐めていて、舐める行動の多くが上位から下位へ向けられていました。さらに別の乳牛の研究では、順位が高い牛ほど、時間がたつにつれて舐めてもらう相手の数が少なかったという結果も出ています。
川上さんが紹介した研究の結果を並べると、食い違いがよくわかります。
| 研究 | わかったこと | 順位との関係 |
|---|---|---|
| 過去の研究 | 順位の低い成牛のほうが多く舐めた | 下位から上位へ |
| 別の牛群の研究 | 順位の高い牛が積極的に舐め、多くは上位から下位へ | 上位から下位へ |
| 別の乳牛の研究 | 順位が高い牛ほど、舐めてもらう相手が時間とともに減った | 上位ほど舐められにくい |
2024年に有蹄類 ── ひづめを持つ動物のなかま。牛や馬、鹿、豚などが含まれますの毛づくろいをまとめたレビューでも、牛については順位と舐める方向の関係は研究結果が一致しておらず、まだはっきりしていないと整理されているそうです。
舐め合いから見えてくる、牛の友達関係
では牛が舐めている姿から何がわかるのか。川上さんが面白いと挙げるのが、「この牛とこの牛は仲が良い」という親和関係です。
2020年の乳牛の研究では、以前自分を舐めてくれた相手を、あとで自分も舐める傾向が確認されています。1回舐めてもらったら1回返すという厳密な交換ではないものの、舐めてもらった関係がある程度返ってくる可能性があるということです。
同じ研究では、年齢の近い牛同士がよく舐め合う傾向もありました。同じ時期に育ち、長く一緒に過ごしてきた幼なじみのような馴染みが関係しているかもしれないそうです。
牛は誰とでも均等に付き合うわけではなく、いつも近くにいる牛、一緒に横になる牛、よく舐め合う牛といった特定の相手がいます。こうした強いつながりは、近くで過ごすことやアログルーミングで保たれていると考えられています。
牛が誰かを舐めていたら、どっちが偉いだけではなく、この2頭普段から一緒にいるなと見る方が面白いかなと思います。
放牧に近い状態で暮らす香港の野生化牛を調べた研究では、順位の高いメス牛ほど多く毛づくろいを受け、順位の高い牛同士で選んで舐め合う行動も確認されました。研究チームは、下位が上位に奉仕するというより、社会的な絆を強める行動として考えるほうがいいのではないかとしています。
2025年の研究では、野生化牛がほかの牛同士の毛づくろいに第三者として割り込む行動が調べられました。舐めている牛と強いつながりを持つ別の牛が、その毛づくろいに介入する傾向があったそうです。
人間っぽく言えば、「あれ、私と仲のいい牛が別の牛といちゃいちゃしているぞ」みたいな感じですかね。
もちろん、牛が人間と同じ意味で嫉妬しているとまでは言えない、と川上さんは添えています。それでも牛が、自分と相手だけでなく、ほかの牛同士の関係まで見て動いている可能性が示されたわけです。
この回で紹介された研究を年代順に並べると、見方が少しずつ広がってきたことがわかります。
母牛の舐めは別物。牧場で舐め合いを見るときのポイント
ひとつ分けて考えたいのが、出産後の母牛が子牛をものすごく舐める行動です。これを「母牛のほうが順位が上だから」と考えるのは違うといいます。
母牛による舐めには、子牛を乾かしたり、母子の関係を作ったりする母性行動としての意味があります。同じ「舐める」でも、成牛同士のアログルーミングとは分けて考える必要があるそうです。
牧場で牛の舐め合いを見かけたら、川上さんは次のような点を一緒に見るといいと話します。
- 誰が誰を舐めているのか
- 1回だけか、何度も同じ組み合わせか
- その2頭は普段も近くにいるか
- 餌場ではどちらが場所を譲るか
- 新しく群れに入ってきた牛か
1回の観察と、長い観察とでは、言えることがまったく違います。
AがBを舐めたから、Aが下でBが上、とは今の研究からは言えない
いつも一緒にいて、よく舐め合い、近くで休んでいるなら、強い社会関係があると考えやすい
牛の社会関係は、酪農の管理にも関わってきます。群れを組み替えたり、新しい牛を入れたり、別の群れへ移したりすると、安定していた関係が崩れ、牛は誰が強いか、誰のそばにいるかを作り直すことになります。
だからこそ、牛の社会行動を理解することはアニマルウェルフェア ── 家畜が心身ともに健康で、本来の行動ができる状態を目指す考え方。日本語では「動物福祉」と訳されますにも飼養管理にもつながる、と川上さんは話します。誰と一緒に暮らしているかも牛の環境だという視点です。
質問への答えとして、川上さんは、牛は上が下を舐めるとも下が上を舐めるとも決まっていない、それより誰と誰が舐め合っているかを見ると牛の社会が見えてくる、とまとめました。
牛群という名前の通り、牛は1頭だけで生きている動物ではないです。群れの中で相手を覚えて、距離を取り、仲のいい相手を作り、時には競争して、時には舐め合う。
川上牧場が子牛のペアを大人になっても隣にする理由
最後に川上さんは、自分の牧場での工夫を話します。川上牧場は子牛から親牛まで育てる自家育成の牧場で、子牛のときにペアにした牛は、親牛になってもつなぎ牛舎でなるべく隣同士にしているそうです。
ペアの牛は、実際によく舐め合っているとのこと。群れや餌場を変えるときも隣同士にすると落ち着いていて、隣に別の牛が来るとけんかをすることもあるといいます。
(子牛のときにペアにした牛は)大きさが全然違っても、餌場譲ったりとか、体調悪かったらなんか舐め合ったりとかするっていうのが、あったりするので。
ペアリングで発育が良くなるという調査もあるそうで、川上さんはペアリングを意識することで牛にとっていい環境が作れるのでは、と話しています。
締めくくりには、Kindle本『酪農未経験者のために遺伝改良と飼料設計編』と、そのデータを読み込ませた「ファームエコAI」を紹介しました。黒毛和牛の交配をチェックできるアプリ「和牛交配チェック」は利用する牧場が87に増え、年内に100牧場を目指しているそうです。
まとめ
「牛は偉い牛を舐めるのか」という質問に対する答えは、研究ではどちらとも言い切れない、というものでした。舐める方向より、誰と誰が舐め合っているかに目を向けると、仲の良さや過去の関係が絡み合う牛社会が見えてきます。
- 牛の毛づくろい(アログルーミング)は、下位から上位、上位から下位の両方の研究結果があり、方向だけでは上下関係を判断できない
- 舐め返しや年齢の近さ、仲間との絆など、牛同士の社会関係が舐め合いに大きく関わっている
- 母牛が子牛を舐めるのは母性行動で、成牛同士の毛づくろいとは意味が違う
- 群れの組み替えは社会関係を崩すため、誰と暮らすかも牛の環境として管理に関わる
- 川上牧場では子牛のペアを親牛になっても隣同士にし、落ち着きや助け合いにつなげている




