なぜ今日は「と畜」の話をするのか
この日の配信は、いつもの牧場の日常トークとは少し違います。川上さんは冒頭で、苦手な方はここで聞くのをやめてほしいとていねいに前置きします。
きっかけは、スプーンという配信アプリのリスナー・マルコさんから届いた質問でした。
この前YouTubeでと畜器具の動画を見ていました。豚は電気ショックで行うみたいなのですが、牛はと畜する際にどのように行っているんですか?
川上さん自身も農業大学校の出身で牛のと畜を見たことはあるものの、専門的な仕組みまでは詳しく知らなかったそう。そこでAIで調べた内容をもとに解説していきます。
牛さんって可愛いなって思ってる方とか、そういう話は苦手だなっていう方は、今日はちょっとお休みしてもらってね。
と畜の目的は「確実に意識をなくすこと」
まず川上さんが強調したのは、と畜の大前提です。それは確実に意識をなくしてから処理するということ。
と畜場では、牛に苦痛や恐怖を与えないよう、まず意識を確実に失わせる「スタンニング」を行います。これは動物福祉の考え方に基づくものだと説明されます。
スタンニングは殺すための処置ではなく、痛みや意識を遮断するための工程だと川上さんは繰り返します。そのうえで、すぐに放血する流れになります。
スタンニングは殺すためだけではなく、痛みや意識を遮断するための工程です。
搬入から放血まで、どんな流れで進むのか
川上さんは、と畜までの全工程を順を追って説明します。まず搬入前は、水を確保しつつ一定時間の絶食を行います。
これは、胃や腸に内容物が残っていると汚染につながるため。うんちやおしっこによる汚れを減らす目的があります。
と畜場の中は、牛が落ち着けるように設計されています。滑りにくい床や、静かに一頭ずつ進むレーンなどが工夫されているそうです。
さらに、大声での声かけや電気棒の乱用は禁止されていて、獣医師が健康状態を確認してから工程に入ります。
スタンニングの後は、30秒以内を目安に速やかに放血します。これは脳への酸素供給を止めて、意識が戻らないようにするためです。作業者は失神状態が続いているかを連続して確認します。
なぜ豚は電気で、牛はボルトなのか
リスナーの質問の核心である「豚と牛の違い」について、川上さんはスタンニングの方法を紹介します。
牛で最も一般的なのは「キャプティブボルト」という方法です。前頭部の正しい位置に器具のピストンを当て、瞬間的な脳への衝撃で意識を失わせます。
大型で頭蓋骨が厚い牛に適していて、即座に深い失神が得られるのが特徴です。倒れた後は、姿勢の喪失や角膜反射の有無などをその場でチェックし、反応が残る場合は再スタンニングを行います。
一方、豚で主流なのが電気スタンニングです。頭部に通電して脳をてんかん様の状態にし、意識を遮断します。牛でも一部の施設や若い牛では採用されているそうです。
電気スタンニングが主流。頭部への通電で意識を遮断する
キャプティブボルトが多い。体格が大きく頭蓋骨が厚いため機械的スタンが安定しやすい
体格の差と頭蓋の厚さ、動物の反応の違い、器具の確実性が理由です。牛は機械的スタンが安定しやすいのです。
なお、二酸化炭素を使うガスの方法もありますが、こちらは主に豚や家禽向けで、牛では一般的ではないとのことです。
この順番には3つの理由がある
川上さんは、なぜこの手順で進めるのかにも触れます。理由は大きく3つ。
動物福祉
痛みや恐怖を最小化する
安全
大きな動物が暴れるのを防ぎ、作業者の安全を守る
品質
ストレスや不適切な処理が肉質に影響するのを避ける
ストレスや不適切な処理は、肉のpHや出血の状態にも悪影響を与えるそう。安定した品質のためにも、この工程が重要になります。
また、宗教的な配慮についても紹介されました。ハラール認証では事前のスタンの可否が国や認証によって異なり、コーシャは原則スタンなしの教義とされます。川上さん自身「コーシャは初めて聞いた」と話しています。
18年前に見た現場と、伝えることの意味
解説の後、川上さんは自分が実際に見たと畜の記憶を語ります。20歳のとき、今から18年ほど前の学生時代のことです。
頭のところに弓、矢みたいなやつをバーンって撃って、と畜している状況でした。
当時の方法から変わっている部分はあるものの、衝撃を与えて失神させるという考え方は同じだろうと川上さんは話します。
現場の処理はとても速く、そして綺麗だったそう。ドンとやってから首を切り、5分から10分ほどで頭だけになっていたと振り返ります。
あっという間に内臓がダラっと出てきてね。つられて枝肉になっていく様を、今でも思い出します。
そのうえで川上さんは、苦手な人がいるとわかっていても、この話を伝える意味を語ります。
関東には、と畜を見学できる家畜処理場もあるそう。興味がある人は予約して行ってみるのもいいし、まずはYouTubeで見て、それでも本物を見たければ現場へ、と川上さんは勧めています。
まとめ
リスナーの素朴な疑問から始まったこの回は、牛のと畜が「確実に意識をなくしてから」という動物福祉の考え方に貫かれていることを教えてくれます。苦手な人もいるテーマだからこそ、酪農家がていねいに伝える姿勢が印象的でした。
- 牛のと畜はまず確実な失神(スタンニング)を行い、そこから放血するのが原則
- 牛はキャプティブボルトが主流、豚は電気スタンニングが主流で、体格や頭蓋骨の厚さが理由
- 動物福祉・安全・品質の3つの理由から、この工程順が守られている
- 反応が残れば再スタンするなど、チェックの運用が徹底されている
- お肉や牛乳の生産に必要なことだからこそ、酪農家として伝えていきたいと川上さんは語った


