肌寒い朝と職場体験の前日、今日の牧場の段取りは?
配信日は10月6日の火曜日です。最高気温23度、最低気温15度ほどで、川上さんは「朝起きて半袖じゃもう寒い」と感じるくらいの冷え込みだと話しています。
この日の川上さんの仕事は、前日に雨で行けなかった堆肥の配達です。注文の2台分を届け、その帰りに籾殻を取りに行き、近所の家庭菜園の人にもローダーで堆肥を運ぶ予定だそうです。
さらに翌日には牛群検定 ── 牛1頭ごとの乳量や乳成分などを定期的に測り、記録する仕組み。酪農家はこのデータを飼養管理や改良に役立てますが控えていて、その書類づくりも進めるといいます。
翌日からは中学生の女の子が1人、川上牧場に職場体験に来ます。電話でははきはき話せていて大丈夫そうだとしつつ、川上さんは「楽しみでもあり、心配でもある」と、少しそわそわした様子です。
またあの配信の方でも、中学生が職場体験している模様をですね、お伝えしようかなと思います。
note、未来の牛乳、公式LINE、ポッドキャストランキングのお知らせ
乾杯の前に、川上さんは牧場の活動をいくつか紹介しています。毎日の音声配信は文字起こしして再構成し、noteの記事として毎日公開していて、より深く知りたい人向けにメンバーシップも用意しているそうです。
Instagramでは「#未来の牛乳」として、リスナーが考えた「こんな牛乳や乳製品があったらいいな」をデジタルアートにして販売しています。売り上げは、子ども食堂への牛乳支援や小中高の食育活動の費用にあてる予定だといいます。
公式LINEは、毎日の配信を聞けない人のために、週に1回まとめ記事が届く仕組みです。
また、この配信はYouTube、stand.fm、Spotify、Substackなどでも聞けます。川上さんはポッドキャストのランキングサイトを見て、キャリアのジャンルで川上牧場が上位に入っていたことに驚いたそうです。具体的な順位は書き起こしでは聞き取れませんでした。
結構ね、聞いてくださってるんだなと思ってびっくりしましたね。ありがとうございます。
ジャージーやブラウンスイスの牛乳は飲んだことがある?
お便りコーナーの質問は、配信アプリSpoonから届いたものです。
川上さんはホルスタイン以外のジャージー、ブラウンスイス、ガーンジーの牛乳は飲んだことがありますか?違いは感じましたか?
川上さんの答えは「ある」です。コロナ禍の前、5〜6年ほど前の川上牧場では、ホルスタイン、ジャージー、ブラウンスイス、レッドホルスタイン、黒毛和牛を飼っていたといいます。
いろんな品種を飼っていた理由は2つあります。川上牧場は酪農教育ファーム ── 子どもたちの酪農体験や食育を受け入れる牧場を認証する制度。牛とのふれあいや仕事体験を通して、食と命の学びの場をつくっていますの認証牧場なので子どもたちに喜んでほしかったこと、そして川上さん自身が牛好きで、実際に飼うとどうなるのかを知りたかったことです。
当時は職場体験の子どもたちと品種ごとの牛乳を飲み比べたり、レンジで温めてお酢をかけるだけのカッテージチーズにして食べ比べたりもしていたそうです。SNSや口コミサイトで使っているアイコンもジャージーだといいます。
まあ風味が違うというか、匂いが違うというか、そういうぐらいで。食レポが下手くそなんでね、あんまり感想とかないんですけども。
ただし、ガーンジーは飼ったことがないため、川上さんは自分の味の記憶として断定せず、資料でわかっている特徴を紹介すると前置きしています。そのうえで、この回の結論を先に示します。
スーパーの牛乳はなぜホルスタインが基準なのか
日本で牛乳といえば、多くの人が思い浮かべるのは白黒模様のホルスタインです。川上さんによると、日本の乳用牛はホルスタインが圧倒的に多いため、ふだん「牛乳の味」だと思っているものは、かなりホルスタインが基準になっています。
一方、世界にはジャージー、ブラウンスイス、ガーンジー、エアシャーなど、さまざまな乳用品種がいます。品種によって乳量も、脂肪やタンパク質の割合も違うそうです。
川上さんは、昔から飼われている品種の比較でも、ジャージー、ブラウンスイス、ガーンジーはホルスタインより乳タンパクの濃度が高い傾向があると紹介しています。同じ「牛乳」という名前でも、原料の牛が違えば中身も同じではない、というわけです。
ジャージーは「量より濃さ」、でも必ずおいしいとは限らない?
ジャージーは茶色くて、ホルスタインより小柄な牛です。川上さんはジャージーの特徴を「量より濃さ」とまとめています。
ジャージーは1頭あたりの乳量がホルスタインより少ない傾向がある一方、乳脂肪や乳タンパクなどの乳固形分 ── 牛乳から水分を除いた成分の総称。乳脂肪、タンパク質、乳糖、ミネラルなどが含まれ、多いほど濃い牛乳になりますが高い品種です。
たくさん牛乳を作るのが得意
1リットルの中に脂肪やタンパク質を濃く入れるのが得意
ジャージーの牛乳がよく「濃厚でクリーミー」と言われるのも、乳脂肪や乳固形分が高くなりやすいという成分面から考えると、そう感じやすい条件があるからだと川上さんは説明しています。
ただし、ジャージーだから絶対においしいわけではありません。研究でも、ジャージー由来の乳製品が官能評価ですべて高評価になるわけではないそうです。
濃い牛乳が好きな人もいれば、さっぱりした牛乳が好きな人もいます。ここはね、ワインとかコーヒーとかと一緒かなというところですね。
ブラウンスイスの牛乳はなぜチーズの話で面白くなる?
ブラウンスイスは、茶色から灰褐色の大きな牛です。川上牧場でも昔飼っていたので、川上さんはその牛乳を飲んだ経験があります。
ブラウンスイスもホルスタインより乳量が少ない場合がありますが、タンパク質、カゼイン、乳固形分が高くなる傾向があるそうです。比較研究では、牛乳を固める性質である凝乳性がよく、チーズの歩留まりも高かったといいます。
ブラウンスイスの話で鍵になるのがカゼイン ── 牛乳に含まれるタンパク質の大部分を占める成分。酸や酵素で固まる性質があり、チーズづくりの中心になりますです。牛乳を飲み物として見る人と、チーズ職人とでは、牛乳を見る目が少し違うと川上さんは話します。
牛乳からどれだけ効率よく固形物を取り出してチーズにできるか、そこが重要になります。その中心になるタンパク質がカゼインです。
そのためブラウンスイスの牛乳は、単にホルスタインより濃いというだけでなく、加工したときの性格が違う牛乳として見ると面白い、というのが川上さんの見方です。
ジャージーとブラウンスイス、濃い牛乳同士でも何が違う?
ジャージーもブラウンスイスも乳固形分が多いので、同じようなものだと思う人もいるかもしれません。けれど川上さんは「そうでもありません」と言います。
特に高い乳脂肪濃度が特徴になりやすい
乳タンパクやカゼイン、凝固性などチーズ加工との相性が注目される
同じ「濃い牛乳」でも中身のバランスが違うことこそが品種の面白さだと、川上さんは話しています。
ガーンジーの牛乳はなぜ黄金色になる?
ガーンジーは、ジャージーと同じくイギリス海峡の島に由来する乳用品種です。少し黄色みを帯びた黄金色になりやすく、「ゴールデンミルク」と呼ばれることもあるそうです。
その色に関わっているのがベータカロテンです。川上さんは、アメリカのガーンジー協会やケンタッキー大学の資料でも、ガーンジーは高い乳固形分とベータカロテンを特徴とする品種として紹介されていると話しています。同じ飼養条件で比べた研究でも、ガーンジーの乳脂肪はベータカロテン濃度が高かったそうです。
草を食べる
牛が植物に含まれるベータカロテンをとる
体内で代謝
一部はビタミンAに変わるが、変わり方には品種差がある
乳脂肪へ移る
ガーンジーではベータカロテンが乳脂肪へ移りやすい
黄色っぽく見える
牛乳やバターが黄色みを帯びる
ガーンジーの牛乳を初めて見ると「これ本当に牛乳?」と思うほど、ホルスタインの牛乳と色の違いを感じることがあるそうです。ただし、餌に含まれるカロテノイドの量などでも変わるため、ガーンジーなら必ず同じ黄色になるわけではありません。
牛乳の味は品種だけで決まらない?牛乳のテロワール
ここからが今回いちばん大事なところだと川上さんは言います。品種は、牛乳の味を決める要素の1つでしかありません。
味に関わる要素として、川上さんは次のようなものを挙げています。
日本の牧場を調べた研究でも、飼料の違いによって牛乳の成分や風味が変わることが確認されているそうです。川上さんは、同じジャージーでも北海道で放牧するのと、牛舎でTMR ── 粗飼料と濃厚飼料などを混ぜ合わせた「完全混合飼料」のこと。牛が栄養のバランスよく食べられるように設計されていますを食べさせるのとでは、乳脂肪の脂肪酸組成などが変わると例を挙げます。
川上さんはこれをワインにたとえます。ワインもブドウの品種だけで決まらず、土、気候、雨、収穫時期、醸造方法で変わります。牛乳も同じように、品種、餌、季節、土地、飼い方、搾乳、殺菌が重なって最後の味になるので、牛乳にもテロワール ── ワインの世界で、土壌や気候など産地の環境が生む味の個性を指す言葉。フランス語で「土地」を意味する語に由来しますのようなものがあると考えると面白い、と話しています。
ホルスタインは味で負けている?毎日の牛乳を支える力
ジャージーは濃く、ブラウンスイスはチーズ向き、ガーンジーは黄金色。そう並べると、ホルスタインはただの普通の牛に見えそうですが、川上さんは「これ違うんです」と強く否定します。
ホルスタインのすごさは、非常に高い乳量です。同じような条件ではジャージーより乳量が多く、ブラウンスイスと比べてもホルスタインのほうが多く乳を出すという研究がたくさんあるそうです。
毎日手頃な価格で安定して牛乳を飲める。その裏にはですね、ホルスタインという品種のものすごい能力があるということをね、知ってもらえるといいかなと思います。
牛乳も品種で選ぶ時代が来たら?
どれがいちばんおいしいのかと聞かれたら、川上さんの答えは「飲み比べてもらうのが一番」です。品種が違えば味が違い、さらに牧場、餌、季節、殺菌方法が違えば、牛乳には思っている以上に味の幅があるといいます。
今回あらためて調べて、川上さんが面白いと感じたのは味だけではないそうです。ジャージーは少ない乳量で乳固形分を多く生産し、ブラウンスイスはチーズの歩留まりや凝乳性に特徴があり、ガーンジーは色で見てわかる特徴がある。品種改良は乳量を増やすだけでなく、どんな牛乳を作りたいかで理想の牛まで変わるという点です。
コーヒーなら産地や豆で、お米ならコシヒカリ、つや姫、きぬむすめのように品種で選ぶ文化があります。川上さんは、牛乳にも牛の品種で選ぶ文化があっていいのではと考えています。
今日は濃いものが飲みたいからジャージー、チーズを作りたいからブラウンスイス、ガンジーの黄金色の牛乳を試してみようみたいな、そんな売り場があったらですね、牛乳って今よりもっと面白い商品になるんじゃないかなと思ったりしますね。
ジャージー牛乳やガーンジー牛乳を見かけたら、ふだんの牛乳と飲み比べて、どっちがおいしいかだけでなく「何が違うの?」と考えながら飲んでみてほしい、と川上さんは呼びかけています。
いろんな品種を飼ってわかった、風味と採算の現実
質問への回答のあと、川上さんは当時の実体験も話しています。搾りたてのジャージーやブラウンスイスの牛乳で家で作ったチーズは、「あれはうめえですよ」とのこと。
ただ、川上牧場では全品種を同じ餌、同じ飼養環境で飼っていました。すると乳量が増えるにつれて風味の特徴がなくなっていったそうです。
乳量が少ないうちは品種ごとの風味の特徴がある
乳量が増えると風味の特徴がなくなり、乳量はホルスタインより少ないまま
やっぱり餌代が高くてね、その採算が取れない、取りにくいんですよ。ジャージーとかブラウンスイスだと乳量少ないんで。
商品化も考えなくはないものの、ほかの牧場ですでに作っているところもあるといいます。川上さんがむしろ伝えたいのは、牧場ごとの牛乳の味の違いです。
本当にみんな(牧場ごとに牛乳の)味が違うんですよ。
これまでの流通では、いろんな牧場の牛乳を混ぜて、成分も味も安定させる努力がされてきました。そのうえで川上さんは、牛や牧場の違いを感じられる取り組みをやっていきたいと話しています。
ホルスタインとジャージーを掛け合わせれば、いいとこ取りになる?
配信の終わりに、リスナーから「単純にホルスタインとジャージーを掛け合わせたら、いいとこ取りなんてことはないですよね」というコメントが届きました。
川上さんによると、交雑の1代目はホルスタインとジャージーのいいとこ取りのようになることもあるものの、逆に中途半端になってしまうこともあるそうです。
特徴を生かしつつ、品種改良でその能力を伸ばすことができるので、僕はそっちの方がいいんじゃないかなと思ったりしますね。
ホルスタインの乳脂肪を上げたいなら乳脂肪を改良し、ジャージーの乳量がほしいならジャージーの乳量を改良する、というのが川上さんの考えです。海外には交雑で飼う牧場も多く、日本でも乳脂肪対策として取り組む牧場はあると補足しています。
最後に、Kindle本『酪農未経験者のために 遺伝改良と飼養設計編』、その内容を読み込ませたFarmEcho AI、黒毛和牛の近交係数を計算できるアプリ「和牛交配チェック」も紹介されました。アプリは現在70名以上が使っていて、年内に100名を目指しているそうです。
まとめ
ジャージーは濃さ、ブラウンスイスはチーズ加工との相性、ガーンジーは黄金色、ホルスタインは高い乳量と、品種ごとに牛乳の個性ははっきりあります。それでも川上さんがいちばん伝えたいのは、牛乳の味は餌や季節、飼い方、殺菌まで含めて決まり、どれも同じ白い飲み物ではないということでした。
- 川上さんはジャージーとブラウンスイスを昔飼っていて、牛乳の風味の違いを実際に感じています
- ジャージーは乳脂肪、ブラウンスイスはカゼインとチーズの歩留まり、ガーンジーはベータカロテンによる色が特徴です
- ホルスタインは高い乳量で、毎日手頃な価格の牛乳を支えています
- 牛乳の味は品種だけでなく、餌、季節、飼い方、殺菌方法などが重なって決まります
- 川上さんは、品種や牧場ごとの違いで牛乳を選べる文化があったら面白いと考えています

