停電の国から戻って考えたインフラへの感謝
番組の冒頭、山田さんは海外出張から戻った松木さんに、現地の様子を尋ねます。松木さんによると、仕事自体は無事に終えられたものの、電波環境が非常に過酷で、停電もたびたび起きたそうです。
(海外では)電波環境がですね、非常に過酷な環境でして、和田さんに入っていただいて本当に良かったなっていうふうに思ってます。
二人は、子どもの頃にはどの家にもロウソクがあったことを振り返りつつ、最近の日本では停電を意識しなくなったと話します。松木さんは、日本のインフラは決して当たり前ではないと強調されています。
電力会社とか水道局とかに感謝した方がいいってことですよね。
松木さんは、インフラ事業者のカスタマーサクセスもぜひ支援していきたいと感想を述べ、二人は「インフラに感謝しながら」本題へ入ります。
コミュニティは時間とともにどう成熟していくのか
今回のテーマは、前回の「コミュニティを立ち上げる際の注意点」に続く、運用が始まった後の構築と運営です。山田さんはまず、コミュニティ成熟度モデルを紹介します。
山田さんは、コミュニティは人のつながりであり、学校や地域の自治会と同じように時間とともに変化していく生き物のようなものだと説明します。整理の仕方には諸説あるものの、山田さんが聞いた範囲では4段階に分けるのが一般的だそうです。
立ち上げ期
運営側から仲の良い顧客や成果の出ている顧客に声をかけ、参加者を集める
活性化期
人が人を呼び、「参加して良かった」という声が生まれ始める
共創期
メンバー同士の助け合いや投稿が増え、コミュニティ内に役割の差が生まれる
自走・拡張期
運営が働きかけなくても、メンバー主導でユーザー会などが企画される
立ち上げ期について山田さんは、コミュニティは存在自体が知られていないため、最初は誰も入ってくれないと指摘します。そのため、活動が好きで、特に見返りがなくても手伝ってくれる顧客に声をかけて集めることから始まります。
活性化期は、前回紹介したリスナーの「その時は盛り上がるけれど」という悩みがまさに当てはまる段階だそうです。山田さんは、この活性化期にずっと滞留するコミュニティが多いと話されています。
共創期になると、UGC ── User Generated Contentの略で、企業ではなくユーザー自身が作成・投稿するコンテンツのこと。口コミやレビュー、コミュニティ内の投稿などが該当しますと呼ばれるユーザー投稿が増えていきます。山田さんは、UGCが生まれてくるのは盛り上がっている証拠だと説明します。
最終段階の「自走・拡張」はどこまで目指すべきか
自走・拡張期まで到達したコミュニティについて、松木さんは「全ベンダーの憧れ」だとしつつ、実際にはほとんど目にしたことがないと話します。山田さんも、ここまで行っているコミュニティは相当少ないと認めています。
自走・拡張期まで行けるかどうかは、前回伝えた「コミュニティが活性化する条件」にどれだけ当てはまっているかにも左右されますね
松木さんは、「自走拡張は稀有なケースなので、その手前の共創を理想状態としておくほうが無難かもしれない」と発言。山田さんもこの意見に同意し、「望みすぎずに」というスタンスを示しました。そのうえで、成熟度のフェーズは、どのKPIを設定するかと密接に関係していると話を進めます。
フェーズごとにKPIをどう積み上げるか
KPIの設定に悩む担当者は多いですが、山田さんは、フェーズがあることを押さえたうえでKPIを設定するのが正しいとされていると説明します。
立ち上げ期では、活動量をKPIにするのが良いそうです。具体的には参加人数、1か月あたりの投稿数、投稿の閲覧数、イベント後のアンケートなど、コミュニティ全体の活動の総量を測ります。
経営から見たら「だからなんなの」みたいな話はあるんですけど、まだコミュニティが未成熟な時はもう、しょうがないかなっていう感じですよね。
松木さんはこの段階を、経営側に「準備段階」として認識してもらうとよいのではないかと応じます。
活性化期に入ると、コミュニティへの満足度、投稿によって自分の問題が解決したかを測る解決率、リピート率などが求められるKPIになります。
共創期では、オンボーディングの短縮、サポートチケットの削減、活用率やヘルススコアの改善といった、カスタマーサクセスとしての成果が出始めます。山田さんはこれを、カスタマーレッドグロース ── 顧客が自社の成長を牽引する考え方。コミュニティを通じて顧客同士の支援や紹介が生まれ、事業成長につながる状態を指して使われますを回収できている状態だと表現しています。
最後の段階が事業成果で、リテンション率の向上、エキスパンションの増加、コミュニティからのトスアップ、事例化などが該当します。
| 段階 | KPIの種類 | 具体例 |
|---|---|---|
| 立ち上げ期 | 活動量 | 参加人数、投稿数、閲覧数、アンケート |
| 活性化期 | 満足・解決 | 満足度、解決率、リピート率 |
| 共創期 | CSの成果 | オンボーディング短縮、チケット削減、ヘルススコア改善 |
| さらに先 | 事業成果 | リテンション率、エキスパンション、事例化 |
山田さんは、ここまで説明できている企業はかなり少ないとしつつ、Salesforceが日本向けのコミュニティ紹介資料で、“所属者のリテンション率が非所属者より数十パーセント高い”と示していたのを見たことがあると紹介します。長く続けることで、こうした統計を示せるようになるという見方です。
経営層はいきなり高い効果を求めがちですが、山田さんは、段階的にKPIを積み上げていく考え方をまず知ることが大事だと語ります。一足飛びには進めないことを伝える際に、協会の人間の発言を引用して理解を得るのも1つの方法だそうです。
参加者に4つのロールを持たせるとは?
成熟度のフェーズを登っていく方法として、山田さんはコミュニティマーケティング協会のナレッジを紹介します。それが、コミュニティの参加者にロールを持たせてコミュニティ内を活性化させるメソッドです。
松木さんは、このロールを参加者自身も認識しているのかを尋ねます。山田さんの答えは、特に初期メンバーで人数が少ない時期には、運営側から「コントリビューターになってください」と依頼するというものでした。
これ(コントリビューター)は運営側からお願いしないと、やっぱり自発的に現れるっていうのはちょっと時間がかかるんですよ。
チャンピオンも運営側から依頼する役割です。ただし山田さんは、やりすぎると偉そうに見えるため、運営が「この人は実はすごいお客さんなんです」とほどほどに持ち上げ、自然と会話が集まるように設計するのがよいと話されています。
松木さんは、ロールの名前で呼ぶことは少なくても、いろいろなイベントで「こういう方たちがいる」と具体的にイメージできたと振り返ります。山田さんは、きちんと分けて最初から狙って設計することが重要だと補足しました。
アワードはコミュニティをどうブーストするのか
4つのロールで少しずつ盛り上げるコミュニティを、さらにブーストさせる方法として山田さんが挙げるのが、アワードとの接続です。アワードは毎年シンボリックなユーザーを表彰する取り組みで、国内ではサイボウズやSansan、マネホ、海外ではSalesforceが有名だそうです。
山田さんによると、Salesforceのアワードに選ばれると、狼のシンボルが入ったパーカーがもらえるそうです。Salesforceは動物をシンボルにしており、ウルフのアイコンは特別なトレイルブレイザー ── Salesforceが自社製品のユーザーや学習者コミュニティを呼ぶ名称。学習プラットフォーム「Trailhead」とも結びついていますしかもらえない設計になっていると説明されています。
「あ、ウルフ着てる。すげえ!」ってなるのがいいらしいんですよ。
山田さんは、アワードで選ばれた人にチャンピオンになってもらい、その後アンバサダーになってもらうという流れを紹介します。松木さんは、立ち上げ初期には発信者側のメリットが少ないという話があったが、アンバサダーになることでメリットを享受できるモデルになるのだと理解を示しました。
ただし山田さんは、製品がある程度市場で認められていることが前提だと注意を促します。Salesforceのように多くの企業が使っている製品であれば、アンバサダーは一目置かれ、転職にも有利になりそうだと話されています。
多分セールスフォースさんだとどこの会社も使ってるから、なんか今度ウルフの人来るらしいぜみたいな話になったらやっぱすごくないですか?
立ち上げ期のコストはなぜ最も重いのか
松木さんは、アワードなどの施策にはコストがかかり、リターンを求める経営層への説明ではコストとリターンの計算が欠かせないと問いかけます。
山田さんは、コミュニティのコスト構造を理解していない人が多いという印象を持っています。スタートアップと同じく、立ち上げ期が最もコストが高く、ミニマムで始めても負担は大きいそうです。
お客様だからなんか適当にできないじゃないですか。やっぱりきちんと頼まなきゃいけないですし、ちゃんとスキームを整えた上でやらないと、あ、考えてませんでしたじゃちょっと失礼ですし。
松木さんは、立ち上げ期を「コストは最も高いのにリターンは最も少ない」状態だと整理します。一方で自走・拡張期まで進むと、ユーザーが自主的に活動し、運営側は承認を出すだけになりやすいと、山田さんはSalesforceの例を挙げて説明しました。
立ち上げ期はコストが最も高く、リターンは最も少ない
自走・拡張期は手間がかかっても、メリットがそれをはるかに上回る
そのため山田さんは、コストとメリットがクロスする損益分岐点まで何年かかるかを、最初に見越しておくことが大事だと語ります。
各フェーズにかかる年数の目安は?
松木さんの質問を受け、山田さんは各フェーズの期間を挙げます。ただし、製品やサービスの特性によるため正確にはわからないとしたうえで、あくまで自身の感覚と周囲を見た印象による目安だと前置きされています。
松木さんが「中期計画レベル」だと受けると、山田さんは損益分岐が起こるのはおそらく3年ほどだろうと感覚論として述べました。
そういうふうな時間感覚で説明しないと、さっき松木さんが言ったみたいに途中でやんなくなっちゃう、自然消滅しちゃうっていう風になっちゃうのかなって。
さらに山田さんは、撤退ラインをきっちり決めるのは難しいとしつつも、必ず見直すタイミングを作っておくことを勧めています。
フェーズアップしなくてもよいコミュニティとは
松木さんは、いつまでも活性化フェーズにとどまらないよう、活性化フェーズのKPIを持ち、いつまでにどうなったかを見直していくことが重要だと整理します。
一方で山田さんは、フェーズアップそのものを目的にする必要はないと考えています。活性化フェーズであっても、カスタマーレッドグロースのフレームに沿って得たいものが得られているなら、柔軟に判断すればよいとお話しされています。
(フェーズアップしてなくても)得たいものが得られてるっていうんでしたら、まあこのフェーズでコミュニティとしては機能してるしいいやっていう考え方もあるんで。
松木さんは、定性的な声の重要性も指摘します。顧客と最も多く接するカスタマーサクセス担当者が、コミュニティ活動によってCS活動が楽になったと感じているかどうかは、数字にしにくいものの、継続の見極め材料になりそうだと述べています。
コミュニティは事業にとって何の「装置」なのか
振り返りの中で、山田さんはコミュニティを事業から見た「装置」だと表現します。オンボーディングを楽にする装置、新規顧客を連れてきてくれる装置、サポートチケットを削減する装置、事例を作ってくれる装置などです。
山田さんは、装置としての効果の大小にかかわらず、事業的にありがたいと思えればよく、あとはコストの問題だと話されています。
松木さんはこの例えを非常にわかりやすいと評価します。運営中の担当者は「自社のコミュニティは何の装置か」と考えることで社内での意義が明確になり、これから作る担当者は、どのような装置になりそうかを話し合うことで自社ならではの役割が明確になりそうだと締めくくりました。
まとめ
今回のエピソードでは、コミュニティを4段階の成熟度で捉え、段階に応じてKPIを積み上げ、ロールとアワードで活性化させ、長い時間軸と自社にとっての役割を経営と共有する考え方が語られました。
- コミュニティは立ち上げ・活性化・共創・自走拡張の4段階で成熟し、現実的には共創期を理想とする考え方もあります
- KPIは活動量から満足度、CSの成果、事業成果へと段階的に積み上げます
- コントリビューターやチャンピオンは運営から依頼して育て、アワードでアンバサダーへつなげます
- 立ち上げ期はコストが最も高く、山田さんの感覚では損益分岐まで3年ほどかかるため、時間軸と見直しのタイミングを共有することが重要です
- フェーズアップだけを目標にせず、コミュニティが事業にとって何の装置なのかを言葉にして判断します






