「うちもコミュニティをやるべき?」はなぜ繰り返し聞かれるのか
今回のテーマは、カスタマーサクセスの施策としてのユーザーコミュニティです。
山田さんも松木さんも、コミュニティをいつ、どのように始めるかという相談をよく受けるといいます。
「CS立ち上げてまだコミュニティやってないんだけど、なんか他の会社やってるからうちもやるべきなのかな」とか、「いつからやるべきなのか」みたいな相談は、コンスタントにありますね
山田さんは、Sansanでユーザーコミュニティを立ち上げた経験を持ちます。関わっていた時期に、一度でも参加した人を含めて約500名の規模にまで育ちました。
今回取り上げるのは、すでにコミュニティを立ち上げたリスナーからの相談です。
解約防止やエンゲージメント向上のためにユーザーコミュニティを立ち上げました。イベント開催時は盛り上がるんだけれども、オンライン上で日常的なコミュニケーションが生まれず、閑散としてしまっています。どうすれば活性化しますか?
活性化の方法を考える前に、そもそもオンラインの場が必要なのかを確認したいですね
前編では、成立条件と目的、設計の順に掘り下げます。
コミュニティが育つ「5つの条件」とは
山田さんが紹介したのは、コミュニティコンサルティング企業FeverBeeによる5つの条件です。商材や顧客層に、「コミュニティが機能する土台があるか」を考える手がかりになります。
1つ目は、利用者に疑問が生まれる頻度です。山田さんは、これを最も大きい要素だと考えています。
2つ目は、組み合わせやユースケースの多様さです。SalesforceやAWSのように、会社によって使い方が大きく異なる製品が例に挙がります。
3つ目は、繰り返し、継続して使われることです。利用頻度が低いと疑問も生まれにくいため、高頻度で長く使う製品は相性がよいといいます。
4つ目は、利用者に自己解決の文化があることです。ゲームの掲示板のように、利用者同士で解決しようとする土壌があると育ちやすくなります。
5つ目は、共通の関心軸があり、その動機が強いことです。ゲームなら「このゲームをクリアする」という共通の目標がこれに当たります。
| 条件 | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| 疑問の量 | 利用者が疑問を持つ頻度が多い | 山田さんが最も大きいと見る要素 |
| ユースケースの多様さ | 組み合わせやユースケースが多様 | Salesforce、AWS |
| 反復利用・継続 | 高頻度で長く使われる | サブスクリプション型の製品 |
| 自己解決文化 | 横のつながりで解決を好む | ゲームの掲示板 |
| 共通の関心軸 | 関心が揃い、動機が強い | ゲームをクリアするという目標 |
5つの条件すべてが揃う必要はありません。1つか2つでも強い条件があればコミュニティは機能しやすい。逆に、該当する条件が少なかったり、弱い場合には、盛り上がりを生み出しにくくなりますね
条件が弱い製品は、コミュニティを諦めるべきか
今は5条件に当てはまらなくても、将来その状態になり得るのでしょうか?
山田さんは、見込みがあるなら取り組む価値はあると答えます。
松木さんは、最初の3条件は製品特性に左右される一方、自己解決の文化や共通の関心軸には工夫の余地がありそうだと整理します。
この5条件の充足が弱かったとしても、運営が汗をかいてやることによってそれなりに維持できると思うんですけど、自分たちでその自立してコミュニティが勝手に盛り上がってみたいな。やっぱりこっちからすると期待するじゃないですか。
だけど、この5条件弱いとそうもいかないよね。だから自分たちで汗かかなきゃいけないよねって話になるのかなっていう感じですね。
松木さんは、5条件を使えば、立ち上げ時にチーム内の期待値を揃えられると話します。自走を目指せるのか、運営が継続して働きかける前提なのかを共有しておくことが大切です。
コミュニティマーケティングの3機能は、なぜ一足飛びに進まないのか
次の論点は、何のために運営するかです。山田さんは、コミュニティマーケティング協会が定める3つの機能を紹介します。
山田さんは、顧客を理解し、育成し、新たな顧客を創造する順序で説明します。
顧客理解
コミュニティを通じて顧客を知る
顧客育成
顧客の活用や関係を深める
顧客創造
既存顧客が新たな顧客を呼ぶ循環を生む
山田さんによれば、経営者が期待するのは、新たな顧客が生まれる「顧客創造」であることが多いといいます。
松木さんは、四半期や半期で成果を求められがちだと指摘します。山田さんはSalesforceやサイボウズを挙げ、条件を満たす企業でも年単位の時間がかかっていると説明します。顧客創造には、それに見合う活動量と時間が必要です。
CLG(コミュニティレッドグロース)は何をもたらすのか
顧客創造に至るまでの時間が長いと感じる場合、コミュニティの価値をどう説明すればよいのでしょうか。
山田さんが紹介したのは、Gainsightが提唱するCLG(Community-Led Growth、コミュニティレッドグロース)です。
この回では、CLGの価値を次の5つで整理しています。
顧客が他の顧客の活用方法を学ぶ。オンボーディングの効率化につながる
顧客同士で質問への回答や課題解決を行う。サポートチケットが減る
成功事例やユースケースが共有される
熱量の高い顧客が他の顧客を紹介したり、発信したりする
製品への要望や改善アイデアを受け付ける
さっき言った三段階目の顧客創造まで行かなくても、少なくともコミュニティ真面目にやればこの五つは享受できるよねっていう考え方が、私の解釈のコミュニティレッドグロースですね。
山田さんは、CLGを顧客理解・育成・創造を具体的な活動として捉えるCS寄りの考え方だと位置づけます。松木さんは、経営層の背景や会社の方針に合わせて、説明の切り口を選ぶとよいと整理します。
マーケティング寄り。顧客理解・育成・創造を年単位で辿る
CS寄り。learnからfeedbackまでの5つの価値を実践で得る
オンラインかオフラインか、オープンかクローズか
目的が決まったら、次は設計です。松木さんは、どのようなコミュニティを立ち上げればよいかを尋ねます。
1つ目は顧客との接点です。オンライン、オフライン、ハイブリッドのどれにするかを考えます。山田さんは、オンラインの場は「あったらよい」程度なら、必ずしも設ける必要はないと話します。
2つ目は公開範囲です。誰でも見られるオープンな場か、顧客などに限定したクローズな場かを、業界や製品の特性に合わせて選びます。
やっぱり自分たちがやってることをそんな堂々と晒すのに抵抗があるような商習慣のところは(オープンは)向きませんし。
山田さんは、オープンには外から盛り上がりが見える良さがあり、クローズには安心感があると説明します。BtoCでは、ユーザー投稿コンテンツを通じて検索からの流入を狙う方法もあります。
日常的な会話が生まれない原因は運用形態にあるのか
3つ目は運用形態です。常に会話できる場を開くのか、イベントに合わせて集まるのか、分科会を設けるのかを考えます。
四半期に数回しか使われないような、そういうふうなニッチな製品だった場合、常にやっててもなんか閑散とするじゃないですか。
山田さんは、新卒採用向けの製品なら季節の行事に合わせた運営が考えられると話します。利用頻度や季節性と運用形態が合っているかを見る視点です。
松木さんは、冒頭の相談も、オンラインで常時開く形がサービスに合っていないのかもしれないと指摘します。山田さんも、運用形態の選択が原因となる可能性を挙げます。
コミュニティといえばオンラインで常時質問を受け付けるもの
利用頻度や季節性に合わせ、常時・イベント・分科会などから選ぶ
松木さん自身も、以前はコミュニティならオンラインで常時質問を受け付けるものだという先入観があったと振り返ります。
製品ではなく「業務ドメイン」を関心軸に据える理由
4つ目は参加方式と対象です。誰でも参加できる形、承認制、招待制などの方式と、顧客だけにするか、見込み顧客も含めるかを決めます。
山田さんは、中途採用関連の製品を扱う会社で、顧客かどうかにかかわらず、人事担当者なら参加できるコミュニティを見たと話します。
松木さんは、業務領域を交流の軸にすることは利用者にとって嬉しい設計だと受け止めます。関連する悩みが生まれたときに、自然とサービスにも目が向くのではないかと話します。
二人は、顧客が得たい成果を重視する点がCSらしいと語ります。立ち上げ前に設計軸を整理すれば、実行計画も立てやすくなります。
| 設計軸 | 選択肢 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 接点 | オンライン・オフライン・ハイブリッド | 対面の要素が必要かどうか |
| 公開範囲 | オープン・クローズ | 商習慣、業界、製品の特性 |
| 運用形態 | 常時・イベント連動・分科会 | 利用頻度や季節性 |
| 参加方式と対象 | 誰でも・承認制・招待制、顧客のみか見込み顧客も含むか | 関心軸を製品に置くか業務ドメインに置くか |
先人の知恵で「自然消滅」を防ぐには
最後に、山田さんは自身がコミュニティを立ち上げた当時を振り返ります。
いや、私もSansanのコミュニティ始める時にここまで考えてたかって全く考えてなかったんですよね。
出発点は、まずユーザー会を開こうというものだったといいます。その経験も踏まえ、重要なポイントと長く続ける必要性を理解して、活動を積み重ねることが大切だと話します。
松木さんは、立ち上げたコミュニティが途中で自然消滅する話も耳にするといいます。これから始める人には、先人の知恵を同じ失敗を避ける手がかりとして活かしてほしいと話し、後編へつなげました。
まとめ
コミュニティの活性化を考えるときは、自社の製品と顧客に合う土台があるか、何を成果として期待するか、どのような場をつくるかを順に整理します。運営の工夫だけでなく、立ち上げ時の期待値と設計を見直す視点が示されました。
- 疑問の量、ユースケースの多様さ、継続利用、自己解決文化、共通の関心軸という5条件で、自社との相性を考える
- 条件が弱い場合は、自走や大規模化を期待しすぎず、運営が働きかける前提を共有する
- 顧客創造には時間がかかる。学びや相互支援など、CLGの5つの価値から成果を捉える視点も持つ
- 接点、公開範囲、運用形態、参加方式と対象を、顧客の特性や利用頻度に合わせて決める
- 製品の話に限らず、顧客が関心を持つ業務領域を交流の軸として考える





