「もうちょっとしがみつく」独立をめぐる2人の温度差
冒頭のお便りは「イナケンさんいつ会社辞めんの?」というもの。イナケンさんの答えはシンプルでした。
いや、もうちょっとしがみつく。
ホストは、会社勤めが月160時間、年にすればさらに膨らむ時間だと計算しながら、「人生フェーズがある」というイナケンさんの言葉に切り込みます。いつのフェーズになったら独立するのか、という問いです。
イナケンさんは、明確なゴールがあるわけではないと前置きしつつ、20代をガッツで量をこなす時期と位置づけてきたと話します。就活も学生時代もその考えでやってきて、振り返れば筋は悪くなかったといいます。
ホストは、相手の生き方を否定するつもりは一切ないと繰り返し強調します。あくまで選択肢の一つとしての提示だと断ったうえで、それでも疑問が残ると続けます。
行動量を担保できなかった三十代で会社を離れるっていう敷居って本当にできますかって。
ホストの論点は、新しいアクションを起こすコストは「今」が一番安いということです。家族や子どもができれば守るものが増え、独立はより難しくなるのではないか、という見立てを示します。
「見てる世界が違う」中長期の果実と今のワクワク
これに対しイナケンさんは、見ている世界が違うのかもしれないと応じます。今の会社の人脈や環境をレバレッジして、30代半ばから40代で独立していく人が多いというのです。
要は俺の人生の先の延長にそういう未来もあるんだなっていうのはなんとなく透けてるから。
ホストは、その未来はもちろんあると認めつつ、「遅かれ早かれするなら先にやった方が良くないか」と食い下がります。
ホストが持ち出すのは、幸せな状態を最短最速で手に入れたいという価値観です。本気でこれだと思う選択肢を早く潰していくことが、なりたい状態への時間短縮になると考えています。
さらにホストは、40歳まで五体満足で思考できている保証はどこにもないと指摘します。今抱いている気持ちを大事にしてほしい、そういう人が増える社会を作りたいと話します。
一方でイナケンさんは、二元論ではないと返します。中長期の果実の最大化を見据えながら、今のワクワクも取りに行くことは両立できるという立場です。
バランス取りながら中長期の果実最大化を見据えて、今のワクワクも取りに行くは別にできなくはないなっていう気がしてて。
サッカーの逆算思考と「修行を積み上げる」生き方
イナケンさんは、自身の思考の原型に学生時代のサッカーを挙げます。サッカー選手を目指していた頃は、ワールドカップの開催が4年に一度と決まっているため、未来から逆算する発想が身についたといいます。
アスリートには最盛期と体の限界があるので、何歳までにこうなっていなければならない、という逆算が必要でした。しかし体の限界がないフィールドでは、修行を積み上げて後で回収する生き方が自分に向いていると話します。
だから今はなんか修行期間みたいな感じで過ごしてる。感じが多い気がする。
ホストは、ここは共感できないと明言します。その考え方は、自分の思考回路も肉体も現状維持のままだという前提を少し含んでいるように聞こえる、というのが理由です。
ホストは、10年後も同じ考え方ができているとは思っていないと言います。だからこそ一日一日を大切に生きたい、というマインドだと説明します。
さらにホストは、修行はゴールに着いてからも続くものだと指摘します。どうせ修行するなら、早めに本当にやりたい修行をした方がいいのではないか、という主張です。
マサラタウンからチャンピオンロードへ ゲームで語る現在地
話はゲームの比喩へと展開します。イナケンさんは、自分の感覚に近いのはドラクエやポケモンの世界だと言い出します。
マサラタウンからいきなりチャンピオンロード行かないよねみたいな。
ホストは、それこそが自分の独立のストーリーだと反応します。会社で働いていた頃は、そもそもマサラタウンにも行けていなかった、ゲームのスイッチすら入れていなかったといいます。
もうゲームをできてなかったんですよ。DSのスイッチ入れてなかったんですよ。
一方イナケンさんは、自分はポケモンというフィールドにいる自覚があると語ります。今はチャンピオンロードの手前で、まだ何番目かのジムリーダーを倒している段階だと現在地を示します。
だからレベル上げを今して、チャンピオンロードをいかに一番気持ちよく勝つかっていうのの周回ゲームをしてる感じ。
ホストは、そこまで見えているなら選択的に選んでいるということだと納得します。自分がやったことをわかったうえでの選択なら、もう言うことはないと引き下がります。チャンピオンロード ── ポケモンで、四天王とチャンピオンに挑む最終エリアへ続く長い洞窟の道。ゲーム終盤の関門を指す。
不思議なアメで一気に登る派、攻略本で埋める派
2人の違いは、ゲームの遊び方そのものに現れます。イナケンさんは、ドラクエで役職を変えるとレベルがリセットされる話を例に、どのタイミングでどのジムリーダーを倒すかを見据えていると語ります。
ホストは、自分は違うやり方だと言います。レベルが足りなくても突っ込んでいく、その方が経験値をたくさんもらえるからだと説明します。
象徴的に登場したのが、ポケモンの「不思議なアメ」です。イナケンさんは、レベルだけ上げてポケモンが懐かない状態にたとえ、過程を飛ばすと大事なものを忘れるかもしれないと話します。
なんかすっ飛ばしちゃうと、なんか過程にある大事さ忘れちゃうかもあるなっていう気が俺の信条としてあって。
ホストは、そこは自分にはないと即答します。ゴール自体に価値を置いていないというイナケンさんに対し、ホストは一気に登りたい派だと自分の立ち位置を確認します。
ホストは、自分はゲームをクリアするために手段を選ばず、不思議なアメも使うタイプだと言います。ポケモン図鑑を埋めることには興味がないとも付け加えます。
俺は攻略本見て隅から隅までアイテム集めてから次に進みたい。
ホストは、自分はポケモンというゲームだけでなく、いろんなゲームをやりたいのだと整理します。欲しいところだけ取って次のゲームへ移り、いろんな面白さを享受したいというイメージです。
クリアが目的。手段を選ばず一気に登り、欲しいところだけ取って次のゲームへ移る
過程を大事にする。攻略本で隅々まで集め、着実にレベルを上げて登る感覚を味わう
3周したアニメは?ジャンプ当てクイズで見えた好み
話題は、ホストが3周しているというジャンプ作品の当てクイズへ移ります。ヒントを重ねながら、イナケンさんが答えを絞り込んでいきます。
バトルではなくスポーツ、完結している、今アニメが放送されていない、といったヒントが出そろい、ホストが答えを明かします。作品はハイキューでした。
ここでホストは、なぜイナケンさんの口からハイキューが出てこなかったのかが気になると掘り下げます。イナケンさんは、あまり好きではない理由が2つか3つあると答えます。
- 絵柄があまり好きではない
- 女子人気が圧倒的に高く、キャラの消費のされ方が違う
- 作者の前の連載作品が好きだったので、別ジャンルで売れたことに引っかかる
ホストは、この3点のうち作品そのものに触れているのは絵柄だけで、あとは論点がずれていると指摘します。特に女子人気への言及に執着が見えるとして、そこを深掘りしていきます。
「少年ジャンプなんだから」少年の定義をめぐる問答
イナケンさんは、尖った思想だと断りつつ、少年ジャンプなのだから心が少年のものの作品であってほしいと語ります。
少年ジャンプなんだから少年、これは年齢の少年じゃなくて、心が少年のものの作品であれって思う。
ホストは、その少年の定義を問います。定義がアバウトなのに、なぜ女性は少年に入らないと考えるのかが不思議だと切り込みます。
ホストの論は、男か女かは管理しやすいように技術的に決めたものにすぎない、というものです。少年の心が誰にでも宿ると考えれば、性別を条件にするのは十分条件にならないと展開します。
じゃあ少年の心って誰にでも宿ってるって思ったら誰にも宿ってると思うんですよ。
この問答を受けて、イナケンさんは「確かに」と応じ、女子人気を理由にする2点目は取り下げられます。
絵柄と作者への思い入れ 飛ばす漫画・読む漫画の話
3つ目の理由として、イナケンさんは作者への思い入れを挙げます。かつて連載していた「四ツ谷なんちゃら怪談」のような独特の絵柄が好きだったといいます。
その絵柄を生かした作品だと思っていたのに、絵柄は変わらないままスポーツで売れたことに引っかかる、というのがイナケンさんの感覚です。綺麗な絵、絵で見せる描写が好きだとも語ります。
イナケンさんは、小学生の頃からジャンプを毎週読み、新連載を読んでは飛ばす漫画と読む漫画に分けてきたと言います。ハイキューは序盤で飛ばす漫画にカテゴライズしたと明かします。
ハイキューはだいぶ序盤に飛ばす漫画にカテゴライズしたから、これをカテゴライズした瞬間にあんま興味を失って、ちょっとヘイトもいく対象になってたかもしれない。
ホストは、自分は作品しか見ていないので背景情報はどうでもいいと返し、なぜ3周したのかという本題へ話を戻します。
ハイキューを3周する理由は「心の教科書」
ホストがハイキューを3周した理由は、感動するから、つまり最も感情を動かされる作品だからでした。見るたびに毎回泣いてしまうといいます。
ホストが好きなのは、キャラクター一人ひとりが葛藤を抱え、その葛藤を生む固執した考え方から抜け出して、より素直になっていくストーリーです。
その葛藤を生んでる自分の固執した考え方から逸脱して、より素直になっていくみたいなストーリーに僕は見えてるんですよ。そこがめちゃくちゃ好き。
ホストは、プライドや見栄を脱してバレーボールに素直に向き合う姿勢が勉強になると語ります。自分もこうありたいと思える、心の教科書のような存在だといいます。
イナケンさんは、ハイキューのストーリーを精読するというより、それを取っ掛かりに半分は自分のことを考えているのではないか、と読み解きます。
ホストはこれを肯定し、自分は内省が好きなのだと認めます。ハイキューは、ありたい状態を見失ったときに確認したい作品だと語ります。
自分が好きなんじゃん。
そうですよ。自分が好き。
スポーツ漫画に自分を投影したくない イナケンの読み方
イナケンさんは、スポーツ漫画かそれ以外かで言えば、それ以外の方が好きだと気づきます。理由は、スポーツ漫画がリアルなものを描きがちだからです。
サッカーをやっていたイナケンさんにとって、サッカー漫画は自分と重ねやすい題材です。しかし、漫画に自分を投影したくない気持ちが強いといいます。
でも俺は漫画に対してその自分を投影したくない感もあるから。
ホストは、だからこそイナズマイレブンのように、サッカーのようでサッカーではない作品の方が見やすいのだろうと整理します。作品の善し悪しではなく、構成や作りの好みの違いだと2人は確認します。
ホストは、好きな漫画と嫌いな漫画の両方を聞けば、その人の価値観が大体つかめると話します。イナケンさんも、確かに出てくると思うと同意します。
ブルーロックとキャラ消費 「苦手」の正体をたどる
続いてイナケンさんが挙げたのが、単行本を追いかけているのにあまり好きになれない作品、ブルーロックです。作品自体は好きだと言います。
イナケンさんが苦手なのは、作品そのものではなく、それを取り巻く周辺の環境でした。女子人気でキャラクターが消費されている感覚が引っかかるといいます。
ホストは、腐女子という言葉に踏み込み、その定義を問います。男性が生理現象としてシコるのと同じように、腐女子のそれも生理現象と捉えられないのか、と迫ります。
だからそれはなぜ捉えないですか?生理現象だから?って考えたら、腐女子のそれも生理現象と捉えてくださいよ。
イナケンさんは、腐女子そのものが嫌いなわけではないと言い直します。作品を通してサッカーが好きになるより、キャラクターの関係性や推しに力点が向いていることが苦手なのだといいます。
ホストは、作者があえて腐女子に消費されることを狙って書いている可能性を問います。その仮説を捨てきれないのに否定するのは傲慢ではないか、という指摘です。
イナケンさんは、売れる戦略としてそうしたキャラクターを作ることはありだと認めたうえで、あくまで「ダメではなく苦手」なのだと立場を明確にします。
ダメってわけじゃない。苦手っていう話。
ホストは、否定するくらいの勢いかと思っていたと拍子抜けします。イナケンさんの発言の塩梅がちょうどよく、傾向値の話に留めている点に、逆に言うことがなくなると語ります。
「視点が違うから消費も違う」国が違うという整理
ホストは、2人に共通してどういう状態が苦手なのかをさらに掘り下げます。イナケンさんは、作品を100パーセント読み込むのが自分の読み方だと答えます。
ホストは、自分と違う楽しみ方をしている人を見ても否定的には感じないと言います。むしろ、同じ作品を好きなのに違う楽しみ方をしていることに興味が湧くといいます。
だって自分の価値観アップデートできるかもしれへんのに。
ホストは、もっとワクワクして生きたいから変化し続けたい、だから相手の面白がり方を聞きたいのだと語ります。同い年でもおばあちゃんでも小学生でも、一人ひとりに聞いていきたいという姿勢です。
イナケンさんは、自分は作品と作者と自分という関係性で完結していると答えます。読んで面白かった、それ以上でも以下でもないといいます。
一方でイナケンさんは、自分と180度違う理解のされ方をしている現象自体が面白いとも語ります。楽しめないのではなく、面白がりと価値観の違いの両面があるという整理です。
でも俺が面白いって思う要素と全く百八十度違う理解できないところに作品が見られてるっていうことが、面白いなって。
最終的に2人は、視点が違えば消費の仕方も違う、という点で折り合います。イナケンさんは、これを「国が違う」ことにたとえます。
言葉が国が違うから通じないなら、それはお互いの世界にいるよねって話。
ホストは、世界が一つになっていく動きは止められない不可逆なものだと感じているとして、移民政策の問題へ話を広げます。民主主義では、施策を選んでいるのは結局自分自身だと指摘します。
ホストは、SNSで他人に怒りをぶつけることに疑問を投げかけます。世の中の見え方は自分が変わらないと変わらないのに、他人に変化を強要するのはおかしいのではないか、というのです。移民政策の是非を尋ねたところで、イナケンさんがトイレに立ち、この回は一旦閉じられます。
まとめ
独立のタイミングという問いから始まった会話は、ゲームの遊び方、好きな漫画の理由へと移りながら、2人の価値観の違いをあぶり出していきました。攻略の仕方も作品との向き合い方も、その人らしさそのものだという気づきが残ります。
- ホストは一気に登り欲しいところだけ取る派、イナケンさんは過程を大事に着実に登る派で、ゲームの遊び方に価値観が表れる
- ホストにとってハイキューは、葛藤から素直になるキャラを通して自分を内省する「心の教科書」
- イナケンさんは作品を100パーセント読み込む読み方で、キャラ消費や自己投影とは距離を取りたい
- 好きと嫌いの両方を聞けば、その人の価値観が大体つかめるという視点が示された
- 視点が違えば消費の仕方も違う。それを「国が違う」と捉え、互いの世界を尊重する整理に落ち着いた

