宇都宮・浜松の二強が崩れる前夜
総務省統計局の家計調査には、餃子の支出金額という項目があります。ここで長年日本一を争ってきたのが宇都宮市と浜松市でした。
その二強体制が崩れて宮崎が日本一になったのは、2021年から2022年にかけてでした。今回振り返るのは、その前夜というべき2020年の夏です。
2018年、ストリート餃子フェスから始まった動き
話は少し遡ります。小野寺さんは2017年に焼き餃子協会を立ち上げ、その翌月の2018年3月、宮崎市内のアーケード街にいました。
焼き餃子協会は、日本全国の焼き餃子文化を広めることをミッションにしています。宇都宮と浜松だけが餃子の街ではない、という第三極づくりが大きな狙いでした。
日本の餃子文化というものは、宇都宮と浜松だけのものではないんですね。第三極を作るのは、私にとっても大命題でした。
その第三極の候補が宮崎でした。餃子の超消費エリアであり、味のレベルも高いと小野寺さんは話します。
宮崎市内のアーケードにカセットコンロとフライパンを並べ、宮崎の美味しい餃子を参加者が自分で焼いて食べる。それが「ストリート餃子フェス」でした。
当時の宮崎は、宇都宮・浜松に次ぐ3位から前年に4位へ落ちていました。3位奪還を掛け声に、宮崎市役所や市民、焼き餃子協会宮崎支部長の常好さんと手を取り合って企画したイベントです。
提供されたのは、市民に愛される餃子の丸岡、餃子の聖地・高鍋町の馬渡と高鍋餃子、そして三股町の新進気鋭・八三一の餃子でした。
料金は30分1500円で焼き放題・食べ放題。自分でフライパンで焼いて食べる形式で、大好評だったといいます。
それまで宮崎県内では餃子のイベントがほとんど行われていませんでした。このフェスをきっかけに、県内で餃子イベントが頻繁に開かれるようになっていきます。
マツコの知らない世界とコロナ禍が重なった2020年春
県内で餃子イベントが広がる最中の2020年、コロナ禍が発生します。
緊急事態宣言直前の2020年3月31日、小野寺さんは「マツコの知らない世界」に出演し、お取り寄せ餃子の世界を紹介。宮崎県高鍋町が餃子の聖地であることを伝えました。
この放送が宮崎市内に流れた結果、市民が「宮崎の餃子はそんなにいいものだったのか」と気づき、餃子の購入が増えたといいます。
もともと宮崎市民には家で餃子を食べる文化がありました。緊急事態宣言による外出自粛が重なり、家で餃子を焼いて食べる量は倍ほどに増えたと小野寺さんは話します。
宮崎出身・すみれ子さんが語る「丸岡一択」の食文化
ここからは、宮崎県出身のゲスト、すみれ子ThePoisonLadyさんへのインタビューです。ポッドキャスト「アテクシの屍を越えてって」を配信し、ポッドキャストスターアワードの公式アンバサダーも務めています。
すみれ子さんは、宮崎が餃子王国だと知ったのは後のことだったと振り返ります。
宮崎が餃子王国っていうのは、後に知る感じでしたね。当たり前に生活の中に餃子が溢れていたので。
今でも週に1〜2回は焼き餃子の家だといいます。食べるのは丸岡餃子一択。宮崎では生餃子を持ち帰る「餃子の丸岡」が定番で、各家庭には餃子を焼くための平らで大きな専用フライパンがあるほどです。
買う量も家庭単位で桁が違います。
買う時もだから100個単位とかですよね。単位が多分おかしいです。
注文時には「粉多め」という頼み方があります。粉を多めにすると水分が出てもべちゃつかず、余ればご近所に配ったり、翌日の弁当に入れたりできるそうです。焼いた餃子をそのまま弁当に入れる文化も語られました。
丸岡の魅力を尋ねると、すみれ子さんは「トータルバランス」と答えます。
小粒、薄皮、野菜とお肉のバランスが良い、プラスタレも美味い。全部美味い結果っていう、栄養完全食だと思っております。
丸岡の味が家庭の基準になっているため、他の餃子だと「これじゃない」と感じてしまうといいます。子どもが匂いだけで「今日は丸岡じゃない」と気づいたエピソードも語られました。
今は地元の家族に頼んでお取り寄せし、常温便のときは丸岡のタレを忍ばせてもらうそうです。柑橘の日向夏を使ったタレも人気で、ノーマルのタレも酢と醤油だけではない旨味があると2人は語り合います。
そのタレが小さなパウチ入りである点だけは、2人そろって「ボトルで欲しい」と不満をこぼしました。
需要が急増しても供給を増やさない丸岡
すみれ子さんによれば、丸岡には一族しか入れない調合部屋があり、レシピは社員にも明かされないという噂があるそうです。
秘密の調合があるから量を増やせないんじゃないですか。何が入ってるかわからない、丸岡一族しか教えないっていうのがあるらしいです。
コロナ禍で需要が急増したとき、丸岡は関西にあった店舗を畳み、九州だけに絞りました。作る量をあえて増やさず、売り切れたら終わりというスタイルです。
2020年上半期、宮崎が「日本一」を名乗った夏
インタビューを踏まえ、話は2020年の夏へ戻ります。持ち帰り文化とコロナ禍の巣ごもりが重なり、宮崎の餃子熱は一気に高まっていました。
家計調査を毎月集計していた小野寺さんは、2020年4月以降、宮崎市の支出金額と購入頻度が宇都宮や浜松を上回っていることに気づき、県内の餃子店に共有していました。
家計調査はおよそ2か月後に発表されます。6月までのデータが8月に発表され、集計すると宮崎市が宇都宮・浜松を超えて日本一でした。「2020年上半期、宮崎が日本一」と名乗れる結果です。
この発表に合わせ、2020年9月には県内の餃子店が集まる「宮崎市ぎょうざ協議会」が立ち上がりました。
小野寺さんが目指したのは、宇都宮餃子会という圧倒的チャンピオンとの「プロレス」でした。ライバル関係を作り、ジャイアントキリングのようなストーリーで盛り上げたいという狙いです。
すごいチャンピオン、巨人のようなチャンピオンを、新しく出てきた新参者がヒョイと倒す。そういうストーリーがあった方が燃えるよね、と。
一方で浜松には餃子店の団体がなく、浜松餃子学会は餃子店の団体ではないため、同じ構図では組みにくかったといいます。
最も恩恵を受けた丸岡と、協議会に入らない理由
上半期日本一が話題になり、多くの取材が宮崎に入りました。その取材先の多くが丸岡でした。
食文化を取材するとなると、丸岡の店に張り、山のように餃子を持ち帰る客を捕まえてインタビューする映像が多く流れたといいます。
関係者に協議会への参加を聞いたこともありましたが、需要が増えても供給量は増やせないこと、丸岡だけが目立って協議会全体のバランスを崩したくないことから、目立ちたくないという考えがあったそうです。
そのため、丸岡は現在も宮崎の餃子団体には入っていません。
三大都市へ、そしてお取り寄せ餃子・丸岡の楽しみ方
2020年の通年の家計調査では、宮崎市は宇都宮・浜松に次ぐ僅差の3位に終わりました。あと一歩で一位、ジャイアントキリングには届きませんでした。
翌2021年からは団体が「宮崎県ひなた餃子連合会」へと拡大し、県全体で大きな予算を持ってイベントを行うようになります。
その結果、2021年から2022年にかけて願い叶い、宇都宮・浜松を超えて餃子の支出金額で日本一になりました。
現在は宇都宮・浜松の二大都市に宮崎を加えた「餃子三大都市」として並べて見られるようになっています。
今週のお取り寄せ餃子は、その丸岡です。50個入りで1550円、40個入りで1240円と圧倒的に安いのが特徴です。
丸岡は冷凍せず冷蔵の生餃子のまま発送します。賞味期限は発送日を含めて4日間と短く、東京に届く頃には残り2日ほど。届いたらすぐ食べるスケジュール感が必要です。
餃子中心なスケジュールを餃子ファーストで生活していただく必要があるんじゃないかなと。
粉を落とすと変わる、生餃子の焼き方
丸岡の焼き方について、すみれ子さんと具体的に語り合いました。すみれ子さんの家では、粉をつけたまま焼くのが伝統だったといいます。
これに対し小野寺さんは、宮崎市役所の人から聞いたコツを紹介します。粉はできるだけ落とした方が美味しいというのです。
落とし方は、大きなボウルに水を張り、餃子を手でつかんで一瞬くぐらせるだけ。皮は破れず、粉がきれいに落ちるといいます。
粉を残すと、コーンスターチがお湯の沸点を下げたり、水分が皮ではなく粉に吸われて皮のもちもち感が下がったりします。粉を落とすと皮のもちもち感も底のパリパリ感も上がるそうです。
餃子本来の味を楽しんでなかったこの何十年かっていう悲しみが訪れるかもしれないけど。絶対やります。
もう一つのコツがフライパンです。すみれ子さんの家は冷たいフライパンに並べる派でしたが、小野寺さんは温めてからお湯を入れることを勧めます。
冷たいフライパンに水を入れると沸騰まで時間がかかり、その間に皮が水を吸って伸びてしまいます。丸岡の皮はとくに溶けやすいため、短時間でさっと蒸し上げる方が仕上がりが良くなります。
水から始めると沸騰まで1分かかるところ、温めたフライパンにお湯を入れれば30秒ほど。この差で全然変わってきます。
まとめ
2018年のストリート餃子フェスから始まった動きに、マツコの知らない世界とコロナ禍が重なり、2020年上半期に宮崎は餃子日本一を名乗るまでになりました。通年ではあと一歩届かなかったものの、その積み重ねが後の三大都市入りにつながっています。宮崎出身のすみれ子さんが語る「丸岡一択」の食文化と、粉を落とす焼き方も見どころです。
- 宮崎の餃子日本一は、宇都宮・浜松の二強が崩れた2021〜2022年に達成された
- 2020年は上半期に宮崎が日本一を名乗り、通年では僅差の3位に終わった
- 宮崎には生餃子を持ち帰り、家庭で焼いて食べる文化が根づいている
- 丸岡は供給量をあえて増やさず、目立ちすぎない姿勢から協議会には入っていない
- 丸岡の生餃子は粉を水で落とし、温めたフライパンで焼くと皮の食感が上がる

