自分の主語が「餃子」になった人物
聞き手は焼き餃子協会代表理事で餃子ジョッキーの小野寺力さん。ゲストのやーまんさんとは、2023年3月にTBSの番組「熱狂マニアさん」で出会って以来の再会です。
やーまんさんは、自分自身を「餃子」と表現する独特の人物です。近年はポッドキャストで餃子の歴史を語る「やーまんの餃子ラジオ」を始めるなど、活動の幅を広げています。
お久しぶりでギョーザいます。
小野寺さんが今の肩書きをたずねると、やーまんさんの答えはやはり「餃子」でした。
肩書きは基本的にずっと餃子です。
主語が餃子になると話が追いにくくなるため、今回はわかりやすく話してほしいと小野寺さんがお願いする一幕もありました。
餃子作りを始めたきっかけは、体調不良
やーまんさんが本格的に餃子作りに没頭し始めたのは、5、6年前のことです。きっかけは、意外にも体調不良でした。
ネットで買ったシャンプーでアレルギーが起き、皮膚がボロボロになって仕事にも行けなくなったといいます。食欲も落ち、どんどん痩せていきました。
安全に食べられるものを探した結果、大好きな餃子ならと思い立ち、皮から作り始めたそうです。
餃子だったら私餃子大好きだから食べれるかもしれないと思って。
両親から「前作ってくれたやつの方が美味しかった」と言われた悔しさもあり、夢中で作り続けたところ、気づけば3ヶ月が経っていました。
そして、ある変化が起こります。
なんか気がついたら肌が治り始めたんですね。
ご飯を食べるようになったことや心が元気になったことなど、要因は複数あったと本人は振り返ります。それでも、やーまんさんの中では「餃子はすごい」「餃子は薬なんだ」という感覚が芽生えました。
なぜ働かず、餃子を作り続けるのか
体調が治り、働こうかと考えたやーまんさんですが、そこである疑問にぶつかります。
なんでこんなに餃子を作ることが大好きで、こんなに幸せなのに、なんで私がわざわざ働かなきゃいけないの?
餃子を愛する自分は、働かずに餃子を作った方が世界のためだと考えたといいます。そこで、働かず餃子作りだけをしたら人生がどうなるのか試してみることにしました。
SNSで発信しながら餃子を作り続けるうちに、気づけば「餃子になって」ずっと作り続ける現在の生き方にたどり着いたそうです。
喜ばれても嬉しくない、探求という動機
SNSで出会った人たちの後押しで餃子イベントを開いたこともありました。しかし、そこでやーまんさんはある事実に気づきます。
なんか別に人に美味しいって言われても全然嬉しくないなっていうことに気が付いてしまって。
もちろん来てくれることは嬉しい。ただ、それが探求のモチベーションにはならなかったといいます。人に振る舞うのは時間もかかり、疲れる割に満たされない感覚があったそうです。
一方で、友人を呼んで自分の餃子について議論する時間は楽しかったと語ります。作り方や込めた感覚を一緒に深掘りする対話に、やーまんさんは喜びを感じていました。
かつて友人から言われた言葉が、その感覚を言い当てていたといいます。
餃子好きなんじゃなくて、餃子という概念を愛してるよね
食べ歩きをする餃子好きとも、店を開きたい人とも違う。やーまんさんの向かう先は、そのどちらでもありませんでした。
「餃子とは何か」を探求する
やーまんさんのゴールは、自分が探し求める美味しい餃子を極めること。そしてその先には、より大きな問いがあります。
餃子とは何なのかを探求してるって感じですね。
その問いは、自分にとっての餃子を超えて、人類にとっての餃子へと広がっているようです。
人はどうして餃子を作り始めたんだろうっていうところ、すごく気になってますね。
餃子作りで最も楽しいのは「調和遊び」だとやーまんさんは言います。餃子に合わない食材はこの世に存在せず、バランスと選び方次第で、どの食材でもいい調和が生まれると考えているそうです。
時には「イメージ餃子」も作ります。食材の組み合わせから考えるのではなく、思い出や記憶、聴いた音楽から発想する方法です。
切ない部分は、ああ、しそだなとか、この感覚はトマトだな
普通に美味しい餃子を目指すのとは違い、予想もしない食材が登場するのが面白さだと語ります。小野寺さんは、その発想を「アーティストのようだ」と評しました。
一番美味しかった餃子と、感謝のカツアゲ
これまでで一番美味しかった餃子は何か。やーまんさんが挙げたのは、シェアハウス時代のエピソードでした。
体調が悪そうな友人を心配し、その友人のためではなく、その友人を思い浮かべながら作った餃子です。CHARAさんの「優しい気持ち」という曲を頭の中でループさせながら作ったといいます。
なぜそれが一番美味しかったのか。やーまんさんは「感謝のカツアゲをしないこと」だと表現しました。
人のためにっていうのは、私、結局感謝のカツアゲを心の中でしようとしてるところだと思ってて。人を使って自分を満たそうとしている行為だと思ってるんですよ。
「ために」ではなく、相手の幸せや健康を勝手に願い、思いを込める。エゴを起点にしつつ他者が絡むことで、いい調和が生まれるのではないかと考えているそうです。
味の面白さで印象に残っているのは、ラムとニラの茹で餃子を燻製にしたもの。「本当に食べたことないものを食べた」という出会いが、大きな喜びになると語りました。
オーソドックスも極める、日本の餃子へのリスペクト
前衛的な発想が目立つ一方で、やーまんさんはオーソドックスな餃子を極める時期もあると話します。
中国の餃子と日本の餃子は違うという意見もありますが、やーまんさんはそこに餃子のポテンシャルを見ています。
いろんな場所で、その文化の中で色を変えながら、形を変えながら、でもみんなの身近にいれる存在っていうポジションをちゃんと得られる
戦後の日本で培われた焼き餃子文化で育ってきた自分として、先人が作ってきたものをリスペクトし、日本らしいオーソドックスな餃子も極めたいと語ります。
小野寺さんは、スタンダードと前衛の両方を行き来する姿を、普通の絵も前衛的な絵も描いたピカソになぞらえました。やーまんさんも、その言語化に納得した様子でした。
軸を取り戻すために、人の餃子を食べる
やーまんさんは、煮詰まった時や、ただ美味しく餃子を食べたい時に人の店へ足を運びます。名店には名店の理由があり、そこから自分に足りないものを学ぶためです。
特に活用しているのが、餃子の満洲や味の素の餃子といった、味が安定しているものです。同じものを定期的に食べることで、自分の味覚や捉え方の変化を確認しているといいます。
安定しているものをその味覚でどう捉えるのかっていう部分を確かめたり、確認作業としてもちょっと。使わせていただいたり
小野寺さんも、自分の軸がわからなくなった時に餃子の王将を食べに行くと共感しました。ずっと試作を続けていると、良し悪しがわからなくなるという感覚は、二人に共通するものでした。
自分に足りないものを学び、餃子作りに生かすため
体調でも変わる自分の味覚や捉え方の変化を確認する「軸」にするため
餃子バーのイベントと、大学院という進路
自分の評価軸を突き詰めてきたやーまんさんですが、最近は人の評価も大事かもしれないと感じ始めているといいます。
そんな中、6月30日に餃子を提供するイベントが決まりました。会場は京王井の頭線の富士見ヶ丘駅近くにある「MOONLOOP CAFE」です。
この店は、多大学の学生が集まって起業したサークルが運営しており、学生起業の大会で準優勝した実績もあります。餃子バーをやりたいと考えていた代表と、やーまんさんの思いが偶然一致して開催が実現しました。
やーまんさんがお店をためらってきた理由の一つには、視覚障害があるため一人では衛生管理ができないという課題がありました。人手が必要になる負担が、二の足を踏ませていたのです。
一人ではという部分の、人を雇うほどの、最初収益的なこと考えたり、毎回作る時に絶対人が必要ってなると結構大変だよなっていう部分も結構懸念としてやっぱりあった
その課題と、餃子バーをやりたい学生団体のニーズがかみ合い、需要と供給が一致した形です。当日はお店のコンセプトに合わせた「MOONLOOPな餃子」を提供します。
提供する餃子には、キャベツやレンコン、牛豚の合い挽き肉、ししとう、豆乳、トマトペースト、生姜、ココナッツオイルなどを検討中とのこと。単品6個で1,000円、飲み物とデザートが付くプレートで2,000円を予定しています。
一方で、やーまんさんは今、大学院受験も控えています。指導を受けたい教授のいる歯学科を目指し、聴講生の制度を使って授業に通っているそうです。当面は学業を優先する方針です。
起業の構想と「餃子の島」という夢
やーまんさんは、今年中にできるかは未定としつつ、餃子で会社を起こそうと考えています。会員制の餃子バーなど、形はこれから検討する段階です。
その構想には、独特の思想が込められています。
会員制餃子バーに関しては、もう値段を決めないで、この世の資本主義の上にいる金持ちどもから金をせしめてやろうという気持ちがありまして。
そこで得たお金で、物価高騰に苦しむシングルマザーたちに冷凍餃子を無料で配りたいという野望も語りました。餃子の歴史の講演やライター業への関心もあるといいます。
そして、長期的な目標として語られたのが、驚きの夢でした。
島を買って、餃子の島を作りたい。
餃子のために品種改良された豚や牛、野菜が育つ、すべてが餃子のために存在する島。さらにそれを国として認めてもらいたいという野望まで飛び出しました。
小野寺さんは、火星で初めて餃子を作りそうなタイプだと笑いつつ、その夢の高さを面白がりました。
ブランドとしての「やーまん」を確立するために
話を聞き終えた小野寺さんは、やーまんさんの活動の核心をこう整理しました。
大事なのは、やーまんさんという人がどういう価値観や思想を持つのか、ブランドとしての「やーまん」を確立していくことだと。だからこそ、自らポッドキャストで発信しているのだと理解が進みました。
なんとなく今の話で全て決着つきました。最初の話だと、この人はなんでこういうことやってんだろうが全然ハテナが頭に浮かんだんですけど、なんとなくわかってきましたよ。
最初は修行僧のように餃子を作る人がなぜ発信するのかわからなかった。しかし対話を通じて、その動機の背景が見えてきたと小野寺さんは締めくくりました。
やーまんさんの活動は、Instagram、X、そしてポッドキャスト「やーまんの餃子ラジオ」で追うことができます。
まとめ
自分自身を「餃子」と名乗るやーまんさんは、体調不良をきっかけに餃子作りへ没頭し、人に喜ばれることよりも「餃子とは何か」を探求する道を選びました。イベントや起業、大学院進学、そして餃子の島という壮大な夢まで、すべてが餃子を軸につながっています。
- 餃子作りは体調不良の中で始まり、やーまんさんにとって「餃子は薬」という感覚につながった
- 動機は人に喜ばれることではなく、「餃子とは何か」を極める探求にある
- 食材の調和や、思い出や音楽から発想する「イメージ餃子」に楽しさを見出している
- オーソドックスな日本の焼き餃子文化へのリスペクトと前衛的な発想を、両方大切にしている
- 餃子バーのイベントや起業、餃子の島という夢まで、ブランドとしての「やーまん」を軸に活動を広げている

