流動性とは何か。入退社だけではない複数の定義
第18回のテーマは「組織の流動性をどう設計するか、流動性とは何か」です。宇尾野さんが池原さんに、流動性という言葉を聞いて思うことを尋ねるところから話が始まります。
池原さんはまず、辞めていく人をどう設計して組織を作るのか、という新陳代謝の話として受け取ったと話します。しかし考えるうちに、社内の流動性にはもっと多くの定義があるのではと感じたそうです。
辞めていく人のことをどう設計して、それをこう鑑みて組織を作るのかなっていうふうに最初は考えたんですけれども、でも部署移動も流動性だなとか。
宇尾野さんはこの見方に同意し、流動性を大きく3つの層で捉えたいと整理します。外から入って出ていく動き、社内での縦横斜めの人の動き、そして仕事の動きです。
私がA部署にもいるし、B部署に兼務してたり、社内副業やったりみたいなことも、なんか一個の定義として入れたいなと。
つまり、この回の「流動性」は退職率のような数字だけを指すのではなく、人の動きと仕事の動きを全部ひっくるめて社内の流動性をどう上げるかという広い問いとして扱われます。
外部との出入り
人が外から入り、外へ出ていく新陳代謝
社内の人の動き
縦横斜めの部署異動や配置転換
仕事の動き
兼務や社内副業など、1人が複数の仕事を持つ
三年後の組織を数字で設計する。退職率と在籍年数
池原さんは、ちょうど会社の3年後、5年後の事業計画を具体的に書いていたと話します。そこでは、どの等級のメンバーが何人いてどこに配置されるかを考えていたそうです。
ただ、中長期で考えるときは「今いる人がずっと成長してくれる」前提になりがちだと池原さんは言います。ライフイベントで辞める人がいるかもしれないなかで、経営者は流動性をどう設計するのかと問いかけます。
(池原さん)新陳代謝、つまり入社して辞めていくという流動性は、経営者としてどう設計すればいいのか。
宇尾野さんは、3年後の組織を考えたとき、全員がそのままいるわけではないと置いたうえで、2つの数字を決めることを挙げます。1つは退職率、もう1つは同じ部署にどれくらい在籍するかです。
宇尾野さんによると、退職率を毎年何パーセントに置くかは会社の経営判断です。あわせて、たとえば3年経ったら別の職種や部署へ動く前提を設計しておくといいと話します。
CSで最初入った人が三年後にはCSのリーダーになってるか、もしくは営業に行ってたり、それこそ人事に行ったりみたいなことを言っておいた上で、この動きが必ず発生するっていうルールでやっていただく。
こうしたルールを置くと、リーダー候補が1人しかいない場合に、外から採るのか、その人を上げるのか、別の候補を並べるのかを早めにイメージできるようになると宇尾野さんは説明します。
そもそも流動性は必要なのか。安定とのトレードオフ
池原さんは、そもそも流動性はなければいけないのかと問います。ずっと同じ人がいてくれた方が安心という見方もあり、経理一筋のようにナレッジが蓄積して良いという考えもあるからです。
宇尾野さんの答えは、会社が大きくなっていく、あるいはマーケットが変わっていくことを前提にするなら流動性が必要、というものです。
顧客が全く変わらない、法律的にも絶対変わらないとされている領域とか、もしくは会社自体もそんなに大きくする予定はない場合は、あまり流動性作らなくても。
むしろ、変わらない前提の会社では、流動性を作ることでかえって不安定さが増し、安定した業務ができなくなると宇尾野さんは指摘します。
一方で、お客さんが変わればこちらの業務も変わる必要があり、会社を大きくするなら新しい人も入ってきます。流動性を意図的に設計するか、ないものとしておくかで大きな違いが出るというのが宇尾野さんの立場です。
顧客も法律も変わらず、会社を大きくする予定もない。流動性はむしろ不安定さを生む
顧客やマーケットが変わり、会社を大きくしたい。業務も人も変わる前提が必要
どこまでの不安定さを許容できるか。流動性の塩梅
池原さんは、入って辞めるときと、社内でぐるぐる動かすときで、設計上の注意点はあるのかと尋ねます。
宇尾野さんは、流動性は基本的に「安定していた場所が不安定になる」デメリットを瞬間的に生むものだと前置きします。そのうえで、どこまでの不安定さを許容できるかが論点だと話します。
営業の人が五人いて、この五人のうちの半分を半年に一回別の部署に動かしましょうっていう流動性ってどうですかね。
いや、かなりしんどい。
では5人のうち1年に1回1人だけ変わるならどうか、と宇尾野さんが問い直すと、池原さんは「なんとか耐えられるかな」と答えます。この塩梅が企業や組織によって違うと宇尾野さんは言います。
ここまでやって大丈夫かいなっていうところの塩梅、線引きはイメージ持っていただいた方がいい。
宇尾野さんは、退職率や異動の発生率をデジタルに決めている会社の事例を紹介します。退職率は必ず10パーセントを切らないようにし、3年以上在籍率を50〜60パーセント程度に置いている会社があるそうです。
その会社は、3年経ったら必ず異動する前提で組織を設計しています。だからこそ議事録を残す、情報を残す、新しい人が古い人に教わる仕組みを丁寧に作っており、不意に人が辞めても適応できると宇尾野さんは話します。
流動性が仕組み化を生む。適材適所を探す旅として
池原さんは、流動性がないとエキスパートがいる部署がたこつぼ化し、生き字引のような人に聞かないとわからない状態になりやすいと指摘します。
その人教えてくれなかったりする。
逆に人が動くことで、マニュアルができ、動くたびに更新されると池原さんは言います。リモートが多い自社でも、新しく入った人がマニュアルを見直して更新してくれることがあり、流動性が高まると仕組み化しやすいと感じたそうです。
宇尾野さんは、何から何まで動かす必要はないと補足します。最後に何のためにやるかといえば、それは適材適所を探し続けるためだと話します。
その適材適所を探し続ける旅だと思ってもらって、本当にその人がここにマッチしてたんであれば、別にさっきのルールは若干緩くしてもいい。
中途採用で入ってきた人がいきなり最適配置されていることは意外と少ないと宇尾野さんは言います。だからこそ、個別に動かすのではなく、会社の仕組みとして動くルールを置いておくことに意味があるという考えです。
関係が悪くなったからどちらかが辞めるといったバッドシナリオだけにしないためにも、会社の仕組みとして少し余地を残しておくことが大事だと宇尾野さんは話します。
説明のない異動が退職を招く。池原さんの原体験
池原さんは、個別対応をしていると「あの人だけ異動したのはなぜか」という疑問が浮かんでしまうと話します。そのうえで、会社員時代の自身の経験を思い出しながら語ります。
中途で入った会社で3年ほど同じ仕事をし、最初は大変だったものの3年目から非常に楽しくなったそうです。ところが乗ってきたタイミングで急に異動になり、違う仕事をするよう言われたと池原さんは振り返ります。
説明が何もなくて、なんかもう外れちゃったっていう、なんか喪失感がすごく大きくって、それが実はちょっと退職の引き金にもなってしまった。
宇尾野さんは、もし社内異動制度が明確にあり、活躍している人でも意図を持って動かすと先に伝えられていたら、受け止め方はまったく違ったはずだと応じます。
こういう取り組みをもってして新しいチャレンジを流されたんだなって思うかというのは、すごく運命の差ですよね。
つまり、同じ異動でも、ルールと意図の説明があるかないかで、本人にとっての意味が大きく変わるという話です。
社内副業と部活。関係性を作る軽い流動性
宇尾野さんは、異動という大きなライフイベントまでいかずとも、社内で副業をしたり兼務を推奨したりする会社が増えていると話します。池原さんも「社内副業は結構聞く」と応じます。
池原さんの会社でも、働きながら社外メンターをやっているメンバーがいて、まさに社内副業をしていると紹介します。他の事例を尋ねると、宇尾野さんは大企業からスタートアップまで例があると答えます。
宇尾野さんが挙げるのは、業務の延長ではない副業です。たとえばCSの人が社内イベントを人事と一緒に企画したり、エンジニアのQA、つまり品質管理をサポートしたりするケースです。
専門性を活かすだけではなくて、会社の中のいろんな仕事を知るとか、社内でのつながりを増やすみたいなことを、社内イベント一発やるよりも、ちょっと一緒に仕事する場面作ってあげるだけでもサポートできたりする。
池原さんは、外資系やフレンドリーな風土の会社に多い「リソースグループ」を紹介します。D&Iについて学ぶグループなどが社内にあり、部署をまたいだグループに入るのも一つの手だと話します。
宇尾野さんは、もっとライトなものとして部活や、沿線が近い人だけで集まる飲み会の例も挙げます。物理的に近い人の方が会いやすく、そこから流動性を作るやり方もあると話します。
アルムナイネットワークの意味と、維持の大変さ
池原さんは、辞めた人を同窓生のようにグループ化し、辞めた後も交流の機会を持ち、あわよくば戻ってきてもらうネットワークが流行っていると聞いたと話します。その意味を宇尾野さんに尋ねます。
宇尾野さんは、出戻りの人は会社の文脈やルールを知っているため、普通の中途入社者より学ぶコストが低いと説明します。だから門戸を開けている状態を可視化する意味があると話します。
出戻りの方の方が会社のコンテキスト、文脈とかルールのあり方とかも全部知ってたりするんで、普通の中途入社者の人よりも学ぶコストが低い。
さらに、アルムナイに業務委託で仕事を依頼したり、その人がファンになってリファラルで人を紹介してくれたりする事例もあると宇尾野さんは挙げます。基本的にはいいことが多いと言います。
ただし、宇尾野さんはアルムナイネットワークはメンテナンスがとても大変だと強調します。池原さんも、外資のコンサルファームが年1回ホテルの大広間を貸し切ってパーティーを開く例を挙げ、それほど貴重なリソースなのだと話します。
それぐらいプラスになることも多いっていう、まあ厳然たる事実があるんで、皆さんやってらっしゃるし、それぐらい採用が難しいっていうことの表れでも思う。
出戻りは活躍しやすいのか。うまく活用するコツ
宇尾野さんは、研究でも出戻りした人の方が入社後のパフォーマンスが高く、リテンション、つまり定着も高いという話があると紹介します。
一方で、出戻りしてもすぐ辞めてしまう人もいると宇尾野さんは付け加えます。合わずに一度辞めた人が、戻ってもやはり合わなかったとなるケースです。だからこそ制度設計をしっかり考えるべきだと話します。
アルムナイネットワークやった方がいいんですかねみたいな。やった方がいいと思いますけど、結構苦労されますよっていう話はよくしてます。
うまく活用するポイントを問われた宇尾野さんは、出会いの場だけ作っても、一緒に取り組むものがないと人を引き寄せられないと答えます。小さなネタを渡してあげることが大事だと言います。
宇尾野さんは、面白い事例として卒業生インタビューを挙げます。退職者にインタビューし、今の社員と対談させることで、意外な近況が見えてリテンション施策にもなるそうです。
また、社内の新規事業コンテストにアルムナイネットワークから人を調達してよいことにし、一緒に取り組む例もあると宇尾野さんは紹介します。池原さんは「具体物が必要ですね」とまとめます。
流動性の目的は関係人口。つながりが成果を生む
池原さんは、今日のテーマである流動性は「関係人口をどう広げるか」に帰結しそうだと述べます。宇尾野さんも同意し、外側の関係だけでなく、社内でも多くの人とつながっている個人を作れると成功に近いと話します。
ただし、宇尾野さんは、ネットワークを作っただけでは経営者は納得しないと釘を刺します。そのつながりから新しいアイデアや、他部署とのコラボレーションが生まれることまで見たいという考えです。
そのつながりの先にある何か変化みたいなところまで追ってあげれると、この流動性を上げた意味、新しい社内の知恵みたいなものが生まれてくる。
池原さんは、ネットワーク分析の本を読んだ経験を紹介します。領域をまたいで、いろんなコミュニティ、部署、年代、人とのネットワークがある人ほどパフォーマンスが上がりやすいことが明らかになっているそうです。
宇尾野さんは、弱いつながりをたくさん持つ人を何人生み出せたかが、経営として大事な指標の一つだと話します。そのための流動性であり、そのための退職率でもあるという捉え方です。
成果を出す人のメール。感謝の言葉が多いという特徴
池原さんは余談として、ネットワーク分析家が成果を出している人のメールを分析した話を紹介します。パフォーマンスが高い人には2つの特徴があったそうです。
1つは、いろんな部署の人に送っている履歴が多いことです。パフォーマンスが上がりにくい人は、自部署だけや先輩だけに偏る傾向があると池原さんは言います。
もう1つは、感謝の言葉が多いことです。「ありがとうございます」「嬉しいです」といった言葉を、パフォーマンスが高い人は頻繁に使っていたそうです。
いろんな部署の人に送っている履歴が多い。自部署や先輩だけに偏らない
「ありがとうございます」「嬉しいです」といった言葉を頻繁に使う
池原さんは、関係人口を増やしながら、いろんな人に感謝の関係を築くことがパフォーマンスにつながるとまとめます。宇尾野さんも、コラボレーションを促す小さな作法を持つ人が増えるといい会社が増えると応じます。
流動性の設計っていうのは、いろんな関係人口を増やして、コラボレーションの機会を社内社外で広げていってあげるっていうことなのかもしれない。
立ち上げから乗り越える「負荷」。次回への問い
最後に宇尾野さんが振り返りを求めると、池原さんは、最初は流動性を入社と退職しか思い浮かばなかったが、コラボレーションというキーワードが強く印象に残ったと話します。
宇尾野さんは、このテーマをさらに深掘りたいと語ります。組織が立ち上がってから一定のところまでいく間、流動性はとても負荷が高いと言います。
その負荷を乗り越えないと、創造性やコラボのきっかけは作りづらいと宇尾野さんは話します。この切り替わりのタイミングを、経営としての「アート」だと表現します。
なんかこの負荷が高いものをちゃんと乗り越えないと、創造性とかコラボのきっかけが作りづらいっていう、なんかこの切り替わりってすごくアートだなと思ってて。
宇尾野さんは、流動性についてリスナーに思うことがあれば、ぜひコメントを寄せてほしいと呼びかけ、続きは次回とされました。
まとめ
組織の流動性は、入退社の新陳代謝だけでなく、社内の人の動きや仕事の動きまで含む広い概念です。この回では、流動性を意図的に設計するかどうかで会社の発展が変わること、そしてその目的が最終的に関係人口とコラボレーションの拡大にあることが語られました。
- 流動性は「外部との出入り」「社内の人の動き」「仕事の動き」の3層で捉えられる
- 顧客やマーケットが変わり会社を大きくしたいなら、退職率や在籍年数を数字で決めて動く前提を設計する
- 異動は、ルールと意図を先に説明するかどうかで本人の受け止め方が大きく変わる
- アルムナイネットワークはプラスが多い一方で維持が大変。出会いの場だけでなく一緒に取り組む具体物が必要
- 流動性の目的は関係人口を広げ、つながりから新しい知恵やコラボレーションを生むこと



