組織改革の相談は、なぜ代表からでないと進まないのか
今回のエピソードでは、組織の変化や改革にどう向き合うかがテーマになっています。事業人にも組織変革のタイミングで相談が増えているといい、渡邉さん自身にも同様の相談が日々届いているといいます。
渡邉さんによると、ミッション・ビジョンを作りたいという相談は、今までそれがないか、作り変えたいときに来るものだといいます。そのため、作って終わりではなく、そこから浸透のプロセスが始まると話します。
本質的にはそこからが始まりで、一人一人が語り手に変わっていくような補助線をいかに引けるかっていうところも含めて大事なプロセスだなと。
相談の窓口はまちまちですが、渡邉さんは代表自身にやりたいという強いモチベーションがないとうまくいかないと指摘します。組織全体に及ぶことなので、現場の人が上長にプレゼンして通すというパターンでは途中で潰えやすいといいます。
代表レベルで相談してきてくれるとか、代表の使いでやるんだよっていうパターンじゃないと、なかなか変革までいけない。
劇的な変化の前に、日々の小さな変化に慣れておく
相談の入り口では「MVVだけ作り変えたい、制度や研修は今は聞いていない」というパターンもあると渡邉さんは言います。しかしやろうと思えば結局それらが必要になり、いざとなると大きく変えなければならないと感じてしまうこともあるといいます。
そこで渡邉さんが何より大事だと語るのが、日々現場の声によって組織がちょっとずつ動いているかどうかです。コロナ禍の働き方の変化のように「エイヤ」で変えるタイミングはどんな組織にも起こるからこそ、日々の小さな変化に慣れておくことが重要だと話します。
渡邉さんは、明文化された「大文字の伝統」と、現場から立ち上がってくる「小文字の伝統」を区別して説明します。これは編集デザイナーの小椋拓さんの言葉を参考にしているといいます。
現場ならではの新たなカルチャーがどれだけ有機的に育ってくるのか、育つような余白が組織にあるのかっていうことがすごく大事。
現場の力学が働いていれば、本当に大事なものはおのずと残り、そうでないものは押し出されていくと渡邉さんは言います。積極的な新陳代謝を促す力学があるか、それをリーダーが作れるかが問われるといいます。
千利休の楽茶碗にみる「部品を入れ替える」変化
渡邉さんは、リーダーが新しい動きを「これ面白いからもっとやってよ」と鼓舞できるかが大事だと語り、その例として茶道の歴史を挙げます。千利休の時代に価値観が大きく変わっていったといいます。
それまでは唐物、つまり中国など海の向こうからやってきた器が希少価値が高く、高額でやり取りされるのが常識でした。それに対し千利休は、日本国内で作られた国焼を大々的に取り上げ始めたと渡邉さんは説明します。
近所に住んでる楽さんっていう職人に、ちょっとさ、真っ黒ないびつなやつ焼いてくんない?みたいな。
最初にそれを見た客はぎょっとしただろうと渡邉さんは言います。しかし「一茶建立」という枠組みや、主人と客がいるもてなしは変わらないまま、その中の部品がちょっとずつ入れ替わっていったと解説します。
渡邉さんは、これは茶碗という点では大きく変えたようでいて、小さな変化を起こし続けることでもあったと言います。今までの伝統を自分好みに少しずつ変えていくのが茶人の本来の仕事だったと話します。
組織っていうのも、小さな変化に慣れ続けているかっていうのが、多分どんな組織にも求められてる。だから大きな変化の時もみんな準備ができてる。
大きな変化に備えるには、平時にこそ小さな変化に慣れておくことが必要だという結論に、宇尾野さんも前回の「共に編む」話とつなげます。普段からその状態を作っておくことの大切さを確認します。
現場の声で組織を少しずつ動かし、小さな変化に慣れておく
コロナやAIのようにエイヤで変えるタイミングが必ず訪れる
普段からスリーオンスリーやってるから、バスケの試合やろうよって言った時に、ちょっと頑張ればできると思いますみたいな感じになってる。
観察から見えてくる「丸J」──残すものと残さないものの分類
準備ができないまま変わらなければならない場面で、渡邉さんはどうサポートするのか。宇尾野さんが尋ねると、仕事のオファーが来ている時点で心の準備は少なくともできていると渡邉さんは答えます。
渡邉さんは、変化しないとどういうリスクがあるかをじっくり話し合い、MVVやロゴを一項目ずつ、今どこに課題がありそうかを調査すると言います。ロゴなら歴代のリサーチをし、誤用も含めて実態を観察するそうです。
例えばJ-WAVEの例として渡邉さんは、正式なロゴとは別に、Jだけを切り取って丸で囲んだ、ブランドガイドラインに載っていないロゴがいつの間にか公式のTwitterでも使われている、といったケースを挙げます。
これはむしろ文字の伝統として丸Jはおもろいから、もう使われてるし、あえて守りましょうみたいな。
渡邉さんは、変化を押し付けるのではなく、経営者や組織が望んでいる変化に伴走しながら、いろんなアプローチや正当性を一緒に発見していくことに近いと語ります。
宇尾野さんは、歴史ある会社ほど遊び心やイベントで作られた非公式なロゴがありそうだと応じます。渡邉さんも、イベントで作ったものが使い回され、いつの間にか公式的に扱われるのはよくあると話します。
ブランド資産は積み上げに時間がかかり、失うのは一瞬
何を残し、何を残さないかの分類の基準について、宇尾野さんが尋ねます。渡邉さんは、ブランドはよく「ブランド資産」と呼ばれ、積み上げていくものだと説明します。
渡邉さんによると、どれだけ発信しても、受け手側が一つの固定したブランドだと認識できなければブランドにはならないといいます。だからこそガイドラインが守られていなければ資産は貯まらないと話します。
ブランド価値とか資産って積み上げるのはめちゃくちゃ時間かかるのに、失うのは一瞬だったりする。
一度誤用でイメージがブレると、ブランドに込められてきた信頼やイメージが揺さぶられると渡邉さんは言います。そのため、非公式なものを許容するのは矛盾を孕んでおり、本来はやってはいけないことだといいます。
それでも、たまたま使われ続ける誤用が愛されているなら、誤用だけどブランド資産になっていると見なすという考え方があると渡邉さんは説明します。教科書にはないことを逆にやってのける判断だといいます。
変革のカオスの中で、誤用はどこまで許容できるのか
宇尾野さんは、組織変革中はカオスであり、プロセスも許容範囲もはっきりしない中でさらに誤用を許容すると収拾がつかなくなるのでは、と初めて変革に向き合うリーダーの悩みを提示します。どこまでを許容するのかを尋ねます。
渡邉さんの答えはシンプルで、事実誤認は違う、これに尽きるといいます。そこは分かりやすい線引きだと話します。
新しく生まれてきた何か行間みたいなのがあるとしたら、それが正しいかどうかはまだ判断つかない。
渡邉さんは、新しく決まったものと整合性があるなら様子見でよいかもしれないし、分かりづらいなら一度ルールに沿ってやってみようというのも全然正しいと言います。まずは一度乗せてみるという姿勢です。
そのうえで渡邉さんは、先ほどの丸Jはめちゃくちゃ外れ値なので、誤用を認められるかの例として取り出すのはちょっと違うと補足します。あくまで例外的なケースだと整理します。
現場はリーダーの強い意志を待っている
組織変革において、渡邉さんは最初にどういう変革でありたいか、どの状態に持っていきたいかをリーダーとしっかり握りに行くといいます。現場に強い意志がある場合はディベートが可能だと話します。
一方で渡邉さんは、現場がリーダーの強い意志を待っているパターンも多々あると指摘します。それをしっかり言語化してもらうことが大事だといいます。
現場はリーダーの強い意志を待ってんだよってパターンも多々あると思って、それをしっかり言語化してもらうっていうのが大事。
ただし渡邉さんは、いわゆるサラリーマン社長的な人だと、意思決定自体がリスクになり得るとして決めてくれないこともあり、ハードルが高いと話します。
リーダーの変革像を言語化するアプローチについて、渡邉さんは、抽象的に「こう変えたい」という思いは必ずあると言います。仕事のオファーが来ている以上、思いがないことはなく、うまく言語化できないだけだと話します。
ひたすら対話しながら、メタファーとか事例とかを持ってきて、そこに共感するものがどこにあるのかっていうのに頷いてもらうしかない。
辞める人を裏切りと見るか、社会の流動性と見るか
渡邉さんは逆に宇尾野さんへ、辞めてほしくない人が辞めた場合と、辞めてくれた方がお互いに良かった場合を分けるものは何かと問いかけます。話題は組織の変化から個人の話へ移ります。
宇尾野さんは、リーダーが向かう地点に一緒にいてほしいとイメージできる人についてきてほしい、というのが経営者との対話で出てくるイメージだと答えます。逆にその場面で立ち振る舞う姿を想像できない人とは、途中でお別れするシチュエーションもあるといいます。
渡邉さんは、強い意志を持った経営者に乗るか降りるかという以外のシナリオもあり得ると広げ、円満退社やアルムナイネットワークをどう捉えるかというイメージを提示します。
宇尾野さんは、組織を船にたとえれば、船が別の方向からまた同じ島にたどり着くこともあり、今は距離があっても再び共に創るシチュエーションはあると話します。所属のあり方も多様になっているといいます。
アルムナイの人の会社に本籍の人が転職して、組織としては人が離れたんだけど、プロジェクトが別で生まれて、島自体が別の形でつながる。
宇尾野さんは、昔は抜けたら関係も切れる村八分のようだった状態が、今は再びつながっていくと語ります。渡邉さんはそれを「今っぽい」と表現するのも興味深いと受けます。
渡邉さんは、別の会社で活躍していた人が自社に来れば歓迎されるのに、自社を卒業する人は恨まれかねない、という非対称を指摘します。社会全体の流動性そのものが社会の価値だと話します。
卒業する人を否定してしまうと、面白い人が社内に入ってこないっていうことでも裏返しになりかねない。
複数のタグを見せ合い、別の顔が見えるチャンスを作る
話題は、新しく入ってきた人をどう受け入れるかへ移ります。渡邉さんは第1回で語った通り、世の中の人全員が副業でなくとも複数のタグを持っているという考えを改めて示します。
渡邉さんは、良い形で行き来・混同できた方が面白いと言い、特に新しいものを企画したり作ったりする仕事ではやりやすいと話します。例として、社外でカレー部をやっている人を挙げます。
研修と合わせてすごく美味しいカレーのケータリング頼んでみようよとか、みんなでスパイスカレーを作るのをアイスブレイクにしようとか。
渡邉さんは、所属やタグを有効活用して、みんなの別の顔が見えるチャンスを積極的に作っていくことがすごく面白いと語ります。日常の中でそうした機会を増やすことを勧めます。
渡邉さんは事例として、スープストックトーキョーを創業した遠山正道さんを挙げます。遠山さんは多くの小さなスタートアップに出資して支援しており、必ずしも上場やM&Aを狙ってのことではないといいます。
遠山さんは、バーをやりたいから独立するという人に出資したり、地方で料理屋を始めたい夫婦に古民家のオーナーシェフにならないかと逆オファーをしたりするといいます。渡邉さんはこれを、雇う側と雇われる側を超えた人間としての信頼だと語ります。
雇う側と雇われる側っていう関係を超えた、人間としての信頼みたいなのをお互いに持てないとオファーできないし、受け入れられない。
渡邉さんは、相手が次の動きを心から語ってくれるから心からオファーができると言います。いろんなタグを見せ合うチャンスが平時に多いほど、辞める辞めないの有事にも紋切り型でないコミュニケーションが生まれると話します。
普段からその話できてないと、バーの話とか急に退職の時に出ないですもんね。
3回を貫くのは「日常のあり方」という一点
宇尾野さんは、3回を通底するのは、特殊なタイミングでなくても普段からお互いの考え方を開示し合い、意見を交換する時間や空気やルールをどう用意するかだとまとめます。それが拡張や変化のときに大事になると話します。
宇尾野さんは、リスナーに向けて、あるテーマにフォーカスするとそこだけを見てしまいがちだが、実際は日常のあり方や普段何をテーマとして取り上げるかが非常に大事だと語ります。
最後に渡邉さんは、経営者に向けたメッセージを述べます。仕事イコール趣味という経営者ほど、別の所属や別のタグ付けを模索し体感する時間が増えた方が面白いと話します。
そういう視野が広い、余裕があるっていう経営者ほど、かえって自分の組織にも良い魅力を発信できるんじゃないか。
渡邉さんは、ブランド作りや組織作りは永遠の仕事で一瞬でできるものではなく、平時こそが大事だと繰り返します。話し相手が欲しいときやブランドを作りたいときはTakramを思い出してほしいと締めくくります。
まとめ
渡邉康太郎さんとの3回目は、組織の変化や改革は非常時のエイヤではなく、日常の観察と小さな変化への慣れから始まるという視点で語られました。ブランドや所属の捉え方から、退職や複数のタグの活かし方まで、通底するのは「日常のあり方」の重要性でした。
- 組織変革は代表自身の強いモチベーションが必要条件で、現場からのボトムアップだけでは潰えやすい
- 劇的な変化に備えるには、平時から現場の声で組織を少しずつ動かし、小さな変化に慣れておくことが大事
- ブランド資産は積み上げに時間がかかり失うのは一瞬。ただし愛される誤用は資産と見なす判断もあり得る
- 事実誤認は許容しないが、判断のつかない新しい動きはまず一度ルールに乗せてみる姿勢が有効
- 辞める人を裏切りと見ず社会の流動性と捉え、複数のタグを見せ合う関係を平時から作ることが健全


