なぜ漫画を読まなくなった大人が2冊を選んだのか
「大人が読むべき漫画」というテーマで、しゅうへいさんはまず、大人になってから漫画をほとんど読まなくなったと打ち明けます。子どもの頃は『NARUTO』を買ってまで読んでいましたが、大人になってからは『稲中卓球部』くらいだったといいます。
しゅうへいさんは、前回の収録のあとに『BLUE GIANT』を買って読み始めました。結論として「めちゃくちゃ読んでよかった、買ってよかった」と話しています。
『BLUE GIANT』はジャズの漫画です。仙台で生まれた宮本大という少年が、お兄さんにテナーサックスを買ってもらい、世界一のジャズプレーヤーを目指します。
しゅうへいさんによると、作中には大の過去を知る人へのインタビューのような回想が入ります。そのため「世界的なサックス奏者になる前提」で物語が進み、多少ネタバレしても読める作品だといいます。
しゅうへいさんがこの2冊を組み合わせた理由は、夢を叶えるための情熱と、それを支える事務の関係にあります。
夢を叶えるための情熱。大人こそ持ち続けるべきもの
情熱だけでは破綻する部分を、お金と時間の管理で補うもの
しゅうへいさんは、この2冊を両方読むことに意味があると考えています。
「音が聞こえる漫画」と、否定されても進む主人公
しゅうへいさんは高校時代に『BLUE GIANT』と同じ音楽漫画の『BECK』を読んでいて、バンドもやっていました。そのときの感動を思い出すような体験だったといいます。
漫画だから音(を出すのは)無理やん。(ジャズは)どうやって表現するんだろうと思いながら読んでたんだけど、聞こえるの。
しゅうへいさんは、主人公の宮本大が幸あれこさんに似ていると話します。幸あれこさんは頭脳派という意味かと返しますが、イケハヤさんとしゅうへいさんは「逆」「猪突猛進です」と答えました。
しゅうへいさんの説明では、幸あれこさんはテレビリポーターになると言ったとき、周りから無理だと言われました。それでも面接やアルバイトを重ねて実際にデビューしたそうです。
しゅうへいさんは、最近は周りから否定されるようなことを口にする人自体が少なく、否定されることにはむしろ希少性があるのではないかと話します。
しゅうへいさんは、イケハヤさんも例に挙げます。イケハヤさんはブログやSNSが仕事になると言って炎上しながらも、書き続けて方向転換を重ねてきました。『BLUE GIANT』は、そうした「周りから何を言われようが貫く」姿勢を思い出させる本だといいます。
ジャズを「ダサい」と思っていた少年と父のジャズ喫茶
しゅうへいさんは漫画の細かい説明より自分の話をしたいと前置きし、実はジャズをダサいと思っていたと明かします。
親父がジャズ喫茶やってたんです、まず今治で。当時ジャズ喫茶なんてほとんどないというか、この辺(今治)とかあんまりなかったところで開いたんですよね。
しゅうへいさんの家では、生まれたときからジャズが流れていました。けれど「親父が聴いているものはダサい」という感覚があり、学校で好きな音楽を発表するときもジャズが好きとは言えなかったそうです。
父親の車では常にジャズがかかり、ジャズ喫茶で録音したオープンリールのテープをカセットにして聴かせてくれたといいます。父親は国内のジャズピアニストの菅野邦彦さんと仲が良く、店にライブで呼んだこともあったそうです。
しゅうへいさんは、5歳ぐらいのときにアート・ブレイキーの「モーニング」を鼻歌で歌っていたことを覚えています。それを聞いた父親はとても嬉しそうだったといいます。
お前もアート・ブレイキーかみたいな。
しゅうへいさんが生まれた頃には、父親はお金がなくなってジャズ喫茶を閉めていました。家には1000枚ほどのジャズレコードとプレーヤーが残っていましたが、父親はしばらく聴いていなかったようです。
しゅうへいさんは、ある日父親が電気屋さんにプレーヤーの修理を頼み、聴けるようになると古民家の窓を開けて大音量で流したことを覚えています。そのときの父親はとても嬉しそうで、しゅうへいさんもダサいと思いつつ、どこかで「いいな」と感じていたそうです。
しゅうへいさんは、『BLUE GIANT』の宮本大がジャズを深く理解していなくても「ジャズが好き」とまっすぐ言い、川辺で3年間練習して上京する姿に心を動かされました。自分の世代には父親のことも含めて「ジャズコンプレックス」があったからこそ響いたといいます。
この話に幸あれこさんは驚きます。幸あれこさんは音楽番組を担当していた頃、ジャズを知らないことをディレクターに叱られた経験がありました。その後に出会ったしゅうへいさんが若いのに曲名をさらりと言えたので、尊敬していたそうです。
だから(シュウちゃんが)ジャズが嫌いだったなんて知らなかった。
ジャズを好きって言えなかった。それってなんか、嫌いとはまた違う何かがあるよね。
ピアノ、涙、川辺の練習。大人の心を動かすものは何か
しゅうへいさんは2020年、コロナ禍の時期に中古のアップライトピアノを30万円ほどで買いました。けれど、ジャズピアノの教本を買ったあとはほとんど弾いていなかったといいます。
しゅうへいさんは『BLUE GIANT』を読んで、生涯を通してやりたいのはジャズピアノかもしれないと思わされたと話します。この時点で読んでいたのは7〜8巻あたりまででした。
最新刊まで読んでいるイケハヤさんは、「その後やばいよ。泣けるよ」と反応します。漫画で泣くのかと幸あれこさんが聞くと、イケハヤさんは共感とは少し違う感覚だと答えました。
完成度が高くて、強制的に心を震わされるような何かがあって。
共感っていうか、普通にすごすぎるって感じ。作品としてすごすぎて震えるわみたいな。
しゅうへいさんは、大人こそ『BLUE GIANT』を読んでほしいと話します。ジャズをやらなくても、心の中で忘れかけていたものを呼び起こしてくれる作品だという考えです。
しゅうへいさんは、雨の日も雪の日も川で一人サックスを吹き続ける宮本大の姿に、幸あれこさんを重ねます。真冬の古民家で、お湯の入っていない浴槽に入ったまま勉強していたという幸あれこさんの話に、スタジオは笑いに包まれました。
しゅうへいさんがもうひとつ印象に残ったと話すのは、宮本大が仙台で演奏し、会場が沸く場面です。師匠のような人物は、ジャズを知らない人が盛り上がっただけで満足するなと、宮本大をさらに上へ押し出します。
しゅうへいさんは、純粋に「吹くのが楽しい」という気持ちを忘れない宮本大の影響で、周りの大人が変わっていく点にも胸を打たれたといいます。吹奏楽の経験があるイケハヤさんも、本気で音楽家を目指す同期から刺激を受けた経験があると答えました。
しゅうへいさんは全巻をスタジオのエレベーター前に置くつもりだと話し、イケハヤさんも子どもに読ませるために全巻そろえたいと話しています。
『生きのびるための事務』は不安をどう計算に変えるのか
しゅうへいさんは、ジャズを聴き続けられる生活をしたいと話したあと、「とはいえ現実が追いつかない瞬間がある」と続けます。そこで紹介したのが、坂口恭平さんの漫画『生きのびるための事務』です。
この本は、坂口恭平さんが初めて本を出そうとしていた21歳頃の実話をもとにしています。坂口さんの頭の中に「ジム」というキャラクターが現れ、夢を叶えるための事務を教えていきます。
しゅうへいさんによると、本で扱う事務は大きく2つで、お金の管理とスケジュールの管理です。イケハヤさんも、副業やフリーランスには「完璧に必要なやつ」だと応じます。
しゅうへいさんは、自分が独立したときの計算を例に出します。借金の返済も含めて月18万円あれば生活できるなら、1日6000円稼げばいいという考え方です。
月18万円
借金返済を含めて必要な金額
1日6000円
1日に稼げばよい金額
使える時間14時間
1日24時間から睡眠や入浴などを引いた時間
残り6時間
働きに出る8時間を引いた、自分のために使える時間
しゅうへいさんは、この計算をすると「あれもこれもはできない」とわかると話します。個別面談では、SNSもAIもライティングも動画編集もやりたいと、AからB、BからCへ移って結局Aに戻る人が多いそうです。
しゅうへいさんはその理由を、多くの人が時間のリソースを無限にあると勘違いしていることだと説明します。5年、10年という時間も実はそれほど多くなく、紙に書くと全体が見えてくるといいます。
しゅうへいさんは、本を読まなくても今日からできる方法として、次の手順を紹介しました。
しゅうへいさんによれば、坂口恭平さんの10年後の理想の時間割は、5時起床、執筆、コーヒーと読書、絵、作曲というものでした。作家になりたいではなく、朝5時に起きて9時まで原稿を書いている、というところまで具体化するのがポイントだといいます。
お金の面では、21歳の坂口さんは月11万1000円の支出を出し、国民年金の支払い猶予なども使って辻褄を合わせていきます。不安で動けなくなるのは計算していないからだ、という考えが紹介されると、幸あれこさんは「ぼんやりしてるから」と応じました。
坂口恭平さんは、まだ1冊も本を出していない段階で、10年後の年収1000万円の内訳を試算します。1万部売れたら印税150万円、それを4冊で600万円とし、連載や原稿料、トークショー、絵の販売まで数字に落としていきます。
作中のジムは、決まってから計算するのではなく、決まる前に計算するという姿勢を示し、「事務の世界には失敗がない」と言います。その後、坂口恭平さんは40冊近くを出す作家になったと、しゅうへいさんは紹介しました。
しゅうへいさんは、自身の借金6000万円を毎月60万円ずつ返していて、もうすぐ残りが5000万円を切ると話します。イケハヤさんが「事務の力で生き延びたのか」と返すと、スタジオは笑いに包まれました。
しゅうへいさんは、『BLUE GIANT』を読むと夢を叶えたくなる一方で、現実に戻ると不安で動けなくなることもあると話します。不安になったら事務をして計算し、紙に書き出してすっきりしたら、あとは動き出すだけだという考えです。
芸術家こそ事務が必要。デュシャンとピカソの話
イケハヤさんが基本的な内容を漫画にしているのかと聞くと、しゅうへいさんは『生きのびるための事務』も全編漫画で、ゆるいタッチで読みやすいと答えます。
しゅうへいさんが前半で面白かったと挙げるのは、芸術家の事例です。デュシャン ── マルセル・デュシャン。20世紀のフランス出身の美術家で、既製品の便器を作品として出品した「泉」で知られ、現代アートに大きな影響を与えましたは最初は儲からず、他の彫刻家の作品を売るという「事務」をしていたと紹介されます。
しゅうへいさんは、ピカソについても話します。自由に絵を描くために成功が必要だと考え、売れる絵を描いてお金を得てから、好きな絵を描き始めたというエピソードです。
しゅうへいさんは、芸術家だからこそ事務が必要という前半の内容に「しびれる」と話します。副業やフリーランスでも、型にはまらず自由にやりたいと考える人は多いものの、うまくいくには数字とプランが必要だという考えです。
それはどのビジネスも、その芸術家も同じなんだなっていうこと。ある種スッと入ってくるというかね。
この「スッと」の声が高かったと幸あれこさんが反応し、しゅうへいさんは「ソプラノサックスが出た」と返しました。幸あれこさんは、全然違う2冊なのにつながっていると話をまとめます。
絵で鳴る音と、ニューヨークに行かなかった父
イケハヤさんは、『BLUE GIANT』は後半に進むほど面白く、音の描写もすごくなるとすすめます。映画版もあるそうですが、イケハヤさん自身はまだ観ていないといいます。
幸あれこさんがどのように音を表現しているのかを聞くと、イケハヤさんは、絵で音を表現しているのがすごいと答えました。
ビジュアルで、絵で音を表現するんですよ。
しゅうへいさんは、音が聞こえる理由として、家の大きなスピーカーでレコードを聴いてきた経験を挙げます。東京のブルーノートかコットンクラブでジャズを聴いたときの音圧と同じものが、漫画からも来るといいます。
しゅうへいさんの父親の話にはオチがあります。父親はニューヨークの本場でジャズを聴いたと話していましたが、大人になってから聞くと一度も行ったことがなかったそうです。
しゅうへいさんは、ジャズ喫茶の常連だったピアノの調律師から、父親は演奏できないのにジャズピアニストと対等に話していたと聞きました。イケハヤさんは、本当に好きで聴き続けて極めたのだろうと応じます。
親父を超えたくて、僕もやっぱニューヨークに自分で行って。ちょっとしたバーでジャズを聴いたりはしましたけど、親父は超えたかなみたいな。
家には、カーメン・マクレーを呼んだときなどの、世に出回っていない録音のオープンリールが残っている可能性があるそうです。しゅうへいさんはデジタル化して音を聴いてみたいと話し、レコードの針のカートリッジも買い替える予定だといいます。
幸あれこさんは、20代の頃はジャズをゆっくりで聴けないと感じていたが、聴き始めると深いと話します。イケハヤさんは「全然ゆっくりじゃない」と応じ、しゅうへいさんはミュージシャン同士の師弟関係などの人間関係も面白いと話しました。
しゅうへいさんの父親は、昔のライブ映像をYouTubeで見られることに感動し、しばらくYouTubeばかり見ていたそうです。イケハヤさんは、あれだけハマれるのはすごいと話しています。
まとめ
しゅうへいさんが紹介した2冊は、夢へ向かう情熱を呼び起こす『BLUE GIANT』と、その情熱を現実の数字と時間に落とし込む『生きのびるための事務』です。父親のジャズ喫茶と借金返済という自身の経験を通して、2冊をセットで読む意味が語られました。
- 『BLUE GIANT』は絵で音を表現する漫画で、周りに否定されても貫く情熱を大人に思い出させる
- しゅうへいさんは父親のジャズ喫茶の影響でジャズを「好き」と言えなかったが、この漫画でジャズとピアノへの思いを取り戻した
- 『生きのびるための事務』は、お金とスケジュールの管理を通して、不安を計算に変える方法を漫画で示している
- 今日と10年後の1日を円で描き、その差分をやることリストにする方法は、今日から試せる
- デュシャンやピカソの例から、芸術家にも事務が必要だという視点が紹介された





