3人が持ち寄った「やりたいことが見つかる本」
この回の「本つまみぐいラジオ」は、司会の幸あれこさんと、イケハヤさん、しゅうへいさんの3人が、それぞれ1冊ずつ本を持ち寄って紹介する構成です。
テーマは「やりたいことが見つかる本」。幸あれこさんは、本を置いておくだけでは足りないのかもしれない、という迷いも含めて話を切り出します。
3人の選書はきれいに分かれました。イケハヤさんは岡本太郎の『自分の中に毒を持て』、しゅうへいさんは國分功一郎さんの『目的への抵抗』、幸あれこさんはフランスの人類学者による『ふだんづかいの人類学』を選んでいます。
本当やりたいことのヒントが、どっかみんなどっかに刺さりそうな感じの3冊。
20代のイケハヤを変えた岡本太郎の一冊
最初の一冊は、イケハヤさんが紹介する岡本太郎の『自分の中に毒を持て』です。1993年刊行で、累計部数は50万部を超える定番の本だといいます。
岡本太郎は太陽の塔 ── 岡本太郎が1970年の大阪万博のために制作した巨大なモニュメント。大阪の万博記念公園にあり、内部が公開されている時期もありますや、渋谷にある巨大壁画「明日の神話」で知られる芸術家です。「芸術は爆発だ」という言葉は有名でも、その思想はあまり知られていない、とイケハヤさんは話します。
イケハヤさんは、この本を20代前半のサラリーマンになりたての頃に読み、強い影響を受けたと振り返ります。今読むと、当時受け取った考え方がすでに自分の中に入っていると感じるといいます。
結果的に岡本太郎イズムが自分の中に入ってきましたね、完全にね。
表紙が燃えるような真っ赤であることにも触れ、エネルギーのある言葉が詰まった、熱源のような本だと表現します。自己啓発書の中で一番好きかもしれない、とまで語りました。
「迷ったら危険な方を行け」が意味すること
イケハヤさんが最初に挙げるのは「迷ったら危険な方を行け」という言葉です。今ではよく耳にする言い回しですが、少なくとも1993年のこの本に書かれている、と指摘します。
岡本太郎の論理はこうです。あれかこれかで迷うのは、一方に安全に食えることが保証された道があるからだ。食うことだけを考えれば迷う必要はない。それでも迷うのは、危険な道が本当は自分の行きたい道だからだ、というものです。
イケハヤさん自身、会社を辞めて独立するかどうかの場面でこの言葉を重ねます。当時はSNSのマーケティングのコンサルの仕事もあったものの、ブログを書くほうが面白かったと振り返ります。
(会社を辞めて独立するかは)そっちをやりたいから迷ってる場合じゃないし、じゃあそっちやるか、岡本太郎も言ってるしみたいなのを思って、一つ判断が分かれた記憶があって。
誰でもが選ぶ、ちゃんと食えることが保証された道。食うことだけを考えれば迷う必要はない
食えないかもしれない道。それでも迷うのは、本当はそっちに進みたいから
同じ言葉でも、動く人と動かない人がいる
ここでしゅうへいさんが疑問を投げかけます。有名な人が言ったからといって、それをそのまま信じて動ける人ばかりではないのではないか、という視点です。
自己啓発とかこういうものを読んだ時に、岡本太郎も言ってるしって思えるってすごいですよね。
しゅうへいさんは、素直に受け取って行動する人ばかりなら、みんなとっくに変わっているはずだと指摘します。世の中に自己啓発書が数多くあるのは、多くの人が動かないからだ、という理屈です。
多分そんなすぐに影響受けて素直に行動する人だけだったらみんな変わってるじゃん。だってこんだけいっぱいあるわけだからね。
イケハヤさんは、自分がすっと受け取れたのは若かったことに加え、もともと岡本太郎のアートが好きで、その人の言うことを聞きたかったからだと分析します。誰の言うことを聞きたいかが、影響の受けやすさを左右したという見方です。
自分を捨て、殺し、爆発する
イケハヤさんは、この本には「出る釘になれ」など、次々とメッセージが続くと語ります。冒頭からして「人生は積み減らすべきだ」という一文で始まり、過去の蓄積にこだわると身動きが取れなくなる、と説かれているといいます。
続いて挙げるのが「自分を殺せ」という言葉です。これは、道で仏に会えば仏を殺せという臨済 ── 中国・唐の時代の禅僧、臨済義玄。「仏に逢うては仏を殺せ」など、権威や思い込みを一度否定する激しい言葉で知られますの禅の言葉を踏まえたものだと紹介します。
岡本太郎は講演で、道で本当に仏に会うことはない、では誰に会うのかと問いかけたといいます。その答えが会場をどよめかせました。
己が最大の味方であり、また敵でもある。だから己を殺す決意を持って危険に対面し、生き抜けというメッセージだと、イケハヤさんは読み解きます。この考え方が、過去の自分の仕事にこだわらず次へ進む姿勢につながっていると話します。
さらに岡本太郎は「未熟であることが素晴らしい」とも語っているといいます。下手なほうがむしろ結構だ、上手いかどうかではなく自由に明るくやることが大事だ、という主張です。
大事にしすぎない
過去の蓄積や自分を守ろうとすると、堆積物に埋もれて身動きできなくなる
己自身と向き合う
道で出会うのは己自身。己が最大の味方であり敵でもある
自分を殺す
大事にしてきたものをいい意味で捨て、一度死んだ人間になる
前へ進む
他人の目を気にせず、今の自分で新しく生きていく
「好かれるやつほどダメになる」という逆説
もう一つ、イケハヤさんが好きだと挙げるのが「好かれるやつほどダメになる」という見出しです。周りから好かれようとすると、そちらにすり寄って本当の自分がなくなっていく、という主張だといいます。
岡本太郎は、自分を大事にしすぎるから思い悩むのだ、それなら好かれなくていいと決めて自分を投げ出してしまえ、と説きます。イケハヤさんは、以前番組で紹介した中島義道 ── 日本の哲学者。『ひとを"嫌う"ということ』などの著作で知られ、人間関係の負の感情を正面から論じますの議論ともつながると話します。
自分なんか大事じゃないから、もう自分なんか殺して前に進んでいけよっていう、屈折してるようだけど、ものすごいまっすぐなメッセージがあって、これも若い頃見てかっけえなと思ったな。
幸あれこさんは、現代は「自分を大事にしよう」というメッセージが多く、それでかえって気を揉むことも多いと応じます。しゅうへいさんも、過去の自分も今の自分も大事にしすぎているのかもしれない、と受け止めました。
「芸術は爆発だ」の本当の意味
最後にイケハヤさんが取り上げるのは、あまりに有名な「芸術は爆発だ」という言葉です。岡本太郎はこれを、自分でしっかり解説しているといいます。
岡本太郎にとって芸術とは、生きることそのものです。人間として最も強烈に生き、無条件に生命を突き出して爆発する、その生き方こそが芸術だ、と語られているといいます。
そして、この「爆発」のイメージがふつうと違う、とイケハヤさんは強調します。バーンと物が飛び散るものではないというのです。
太陽のように、常に燃え続けているイメージだとイケハヤさんは説明します。岡本太郎は子供の頃から胸に炎があるような感覚を持ち、それを守ろうとすると弱くなるため、己自身と戦って炎を燃え上がらせるのだ、と読み解きます。
イケハヤさんは、無条件に無目的に爆発し続けるべきという言葉に触れ、あまり考えずにやりたいことをやっていくのが命の本当の在り方だと受け取ったと話します。情報が多すぎて完璧なリサーチをしてから始めようとする現代への問いかけにもなっている、と付け加えました。
岡本太郎の熱量はどこから来たのか
幸あれこさんは、岡本太郎のエネルギーはどこから来るのかと尋ねます。イケハヤさんは、まず戦争を経験した世代であることを挙げ、仲間や同世代が死んでいった経験が背景にあると話します。
さらにマニアックな話として、岡本太郎が18歳の頃にパリで青春時代を過ごしたことに触れます。当時のパリで、歴史を作ったアーティストたちと親しくなったといいます。
シュルレアリスム ── 20世紀前半にフランスで起きた芸術運動。理性や常識を超えた無意識やイメージの世界を表現しようとしましたの中心人物であるアンドレ・ブルトン ── シュルレアリスムを主導したフランスの詩人・批評家。運動の理論的な旗振り役でしたや、画家のカンディンスキーら、反体制の姿勢で芸術運動を続ける人々と同時代に生きた、とイケハヤさんは語ります。
戦争体験に加え、日本に戻ってからも前衛芸術がボコスカに叩かれた。そうした経験が思想をどんどん強くしていったのではないか、とイケハヤさんは推測します。自身を炎上系ブロガーになぞらえ、シンパシーを感じると話しました。
太郎を「インストール」するとどうなるか
しゅうへいさんは、イケハヤさんがAI時代でもアプリやゲームを作り、やりたいことが足りないくらいだと指摘します。イケハヤさんは、今はかなり爆発できていると応じました。
幸あれこさんが、やりたいことがなかった時期はないのかと尋ねると、イケハヤさんは、大体いつもやりたいことがあると答えます。素直にやり続けられる環境があったことをありがたいと振り返りました。
その上でイケハヤさんは、やりたいことがあり続けるのは訓練のようなものだと語ります。20年前にこの本と出会い、経験を蓄積した今では、やりたいことをやらない意味がわからなくなっていると話します。
でもやっぱり20年前に出会った時はそうじゃないと思いますよ。まだそこまで確信はないし。
しゅうへいさんは、この本はもうOSのようなものだと表現します。イケハヤさんも、この考え方は自分の精神の中に入れたほうがいいと強くすすめました。
幸あれこさんは「池太郎隼」だと名前をもじって笑いを誘い、この日の紹介を締めくくります。次はしゅうへいさんの『目的への抵抗』へと話が続いていきます。
まとめ
岡本太郎の『自分の中に毒を持て』は、「迷ったら危険な方を行け」「自分を殺せ」「芸術は爆発だ」といった熱い言葉で、やりたいことがわからないと言っている場合ではない、という気持ちにさせる本だとイケハヤさんは語りました。過去の自分や周りの目を大事にしすぎず、今の自分で前へ進むことをすすめる回でした。
- 迷うのは危険な道が本当に行きたい道だから、というのが岡本太郎の考え方
- 過去の蓄積や周りの評価を大事にしすぎると、身動きが取れなくなる
- 「芸術は爆発だ」は物が飛び散るのではなく、無条件に生き続けるイメージ
- 戦争体験やパリでの芸術家との交流が、岡本太郎の熱量の背景にある
- やりたいことがあり続けるのは才能ではなく訓練の面もある、とイケハヤさんは話す





