なぜプロの現場から台本が消えていったのか?
本つまみぐいラジオの番外編のテーマは、台本なしで喋る技術です。しゅうへいさんによると、イケダハヤトさんは8年ほどVoicy ── 日本の音声配信プラットフォーム。個人や企業がチャンネルを持ち、ラジオのように音声を配信できますで配信を続け、1日2時間ほど話す日もありますが、ほとんど台本がありません。
しゅうへいさん自身もVoicyを7〜8年続け、台本は基本的に使っていません。幸あれこさんは福岡で11年フリーアナウンサーを務め、テレビリポーターや司会、ラジオのレギュラー番組を担当してきた本職です。
多分ね、東京とかだと台本ありが多いらしいんですけど、私の場合はもう台本なしで進めなきゃいけないテレビもラジオも。
イケダハヤトさんは、ビジネス系のインフルエンサーがポッドキャストに注目し始めた今こそ、このテーマが役に立つと話します。「よく台本なしで話せますね」とは、誇張抜きに100回ぐらい言われてきたそうです。
しゅうへいさんは、台本があることでかえって話し方が固まり、トークの展開が作れなくなる感覚があると打ち明けます。その問いに対して、幸あれこさんはラジオパーソナリティになりたての頃の体験を語りました。
最初はディレクターさんが気を使って台本作ってくださってたんですけど、日に日に台本がなくなっていくっていう現象が起きて。なんでかっていうと、台本ない方が面白いからっていう。
幸あれこさんによれば、台本があると個性が出にくくなり、本当は別の展開ができたはずの場面でも台本に縛られてしまいます。担当番組の台本は、最終的に空欄ばかりになったそうです。
ただし、スポンサーのためのパブリシティ ── ここではスポンサーなどのために、商品やサービスの情報を番組内で紹介する部分のことのように、間違えられない内容には台本があります。台本の要不要は、話す内容によって分かれるということです。
大きなお金がかかっていて間違えられないため、台本がある
台本がない方が面白く転がっていく可能性が広がる
しゅうへいさんは、ChatGPTで作った台本をそのまま読み上げるポッドキャストが周りに多いと指摘します。イケダハヤトさんも、台本のまま読んでいるとわかる配信は正直面白くないと同意しました。
一番最初にメッセージを絞るように、今日のテーマを考えて、そのテーマさえ決まっちゃえば、あとはもう強引に話を作っていって。
イケダハヤトさんとしゅうへいさんはどちらもブログ出身で、頭の中にタイトルとPREP法 ── 結論、理由、具体例、結論の順に話す構成法。Point、Reason、Example、Pointの頭文字から名付けられていますのような構成がすでにあるといいます。最初に「今日はこの話をする」と決めることが、台本なしでもブレない大前提だという考えです。
台本なしで話せる人は、何を話しているのか
しゅうへいさんは、台本なしで話せる理由の1つを「ずるいこと」と前置きして挙げます。自分がもともと話せる話をしているから、台本がなくても話せるというのです。
だから台本なくて喋れないって思ってる方が思い出してほしいのが、自分が毎日毎日誰かに聞かれてたりとか、答えてることを思い出す。
しゅうへいさんの例は人事担当者です。新卒と中途採用の違いを何百回も聞かれている人なら、「新卒は3年、5年を見越して採用し、中途は即戦力」と説明するだけでも、わかりやすいポッドキャストになるといいます。
イケダハヤトさんも、普段の仕事や日常では誰もが台本なしで喋っていると応じます。一方で幸あれこさんは、LINEのメッセージでさえ合っているか不安でChatGPTを通す人が増えていると話しました。
もう本当になんか世界が今台本化してるのかもしれないですね。
ペラペラ喋れることがトークスキルなのか?
しゅうへいさんは、うまくスラスラ喋れないといけないという思い込みもあるかもしれないと話します。幸あれこさんから学んだのは、ペラペラ喋れることがトークスキルではないという点でした。
(イケハヤさんやしゅうへいさんは)喋るけどちゃんと聞くこともできるじゃん。ここがバランス感覚というか、それができない人もいるじゃん。
しゅうへいさんは、3人で話す場合と1人で話す場合にあまり差はないと考えています。1人で話すときも聞き手を想像し、「この流れならここが気になるだろう」と浮かんだ質問に答えながら話を展開しているからです。
ある種笑わせるポイントとかも話しながらわかるし、自分が笑うべきポイントとかも話しながらわかってるから。
イケダハヤトさんは、高知の山奥の林道でスマホを相手に一人で笑いながら収録しているそうです。本人も「傍から見たら気持ち悪いと思う」と笑います。
幸あれこさんは、これを相当なスキルだと評価します。ラジオの現場では目の前に必ずディレクターがいて、その反応次第でパーソナリティのテンションが大きく変わるからです。
ディレクターの反応を見ながら、あ、これ面白いんだとか、これもっと話した方がいいのかなとか、これはちょっと違うのかなとかいうのが結構ラジオ現場であって。
幸あれこさんによれば、イケダハヤトさんたちは、ディレクターがいないポッドキャストで相手の顔を想像しながら同じことをしていることになります。しゅうへいさんも、話しながら「わかりにくかった」と気づけば、途中で要約を入れるといいます。
イケダハヤトさんは、けんすうさんが「一人語りで笑えない」と話していたことに触れ、一人で笑えるかどうかは1つの分水嶺だと話します。しゅうへいさんは、家族が隣にいると恥ずかしくてかしこまってしまうという、家での収録ならではの壁も挙げました。
こうした没入は最初からできるものではありません。しゅうへいさんは、イケダハヤトさんの2018年ごろの配信は「お葬式みたい」だったと振り返ります。
最初やっぱり聞かないとね。で、やっぱり聞き比べるとわかるし、テンションが大事ってことに気づくのが多分大事だよ。
イケダハヤトさんは、ワンピースの話でもモグラの話でもかまわないといいます。テーマの中身より楽しそうに話すことのほうが大事だと気づけば、聞き手目線で話せるようになり、台本もあまりいらなくなるという考えです。
必ずやっぱそこに人がいるっていうのを忘れないのが大前提で。
幸あれこさんは、聞き手がおじいちゃんおばあちゃんならそれに合わせ、子どもなら子ども向けの話し方になると続けます。話し方は相手次第で、相手がいることが大前提だということです。
ながら聞きのリスナーに、ポイントはいくつ届くのか
しゅうへいさんは、ポッドキャストが通勤中や家事をしながら聞かれるメディアであることを前提にすべきだと話します。7年ほど続けてきて、7つや10個のポイントは多すぎて満足度が下がると気づいたそうです。
もうだから1個のポイントで10分15分深掘りするっていうのが聞いてて満足度が高いというか。
イケダハヤトさんも「3つでも下手すると多い」と応じます。しゅうへいさんは、いい話をしなければと思うと情報を詰め込み、覚えきれないから台本が必要になると分析し、1つのポイントをシンプルに伝えることを勧めました。
幸あれこさんは、ラジオならではの視点を加えます。ラジオは周波数を合わせてもらって初めて聞かれるため、たまたま合わせてくれた人を虜にすることがリスナーを増やす唯一の方法だったといいます。
ディレクターによく言われてたのは、CM明けとかってなあなあで、「いやーさっきも言ったんですけどね」っていうと、これもうその時に(チャンネルを)変えた人わかんないから。
幸あれこさんによれば、その場面では「歯は白くないんですよね」のように、思わず聞いてしまうワードを入れる必要があります。ポッドキャストも同じで、初めて聞く人がいる以上、最初から自分の話ばかりしても聞いてもらえません。
いつも聞いてくれる人。向けた話し方も大事で、バランスよく入れてよい
自分のことを知らない体で話し、引きつけるワードで虜にする必要がある
しゅうへいさんは「これ前も話したんですけど」とよく言っていたと反省します。イケダハヤトさんは、その表現にはプラスがなくマイナスしかないと指摘しました。
結局、台本なしで話す技術とは何なのか?
イケダハヤトさんは、もともとセミナー講師をしていたため、箇条書きレベルの構成で話すことは最初からできたそうです。そのうえで、台本なしで話す技術をいくつかのポイントに整理しました。
幸あれこさんは、話すことは言語化と結びついていると話します。何を話して何を捨てるかをその都度決める必要があるため、日頃から文章などで言葉にしてきた量が関わるという考えです。
しゅうへいさんは、自分の放送と、好きなパーソナリティの放送を交互に聞く方法を勧めます。トーンの違いや、言葉が流れてしまっている箇所がわかるからです。
しゅうへいさんも、タイトル、大事な部分、3つのポイントほどの構成は毎回入れているといいます。例えば「リール台本で気をつけるべき3つのこと」なら、数字を入れる、皮肉を入れる、100文字減らす、をそれぞれ話せば1本が完成します。
イケダハヤトさんは、頭の中の情報が口から出るまでの回路のスムーズさはトレーニングするしかないと話し、しゅうへいさんはジャズの即興演奏に近いのではと例えました。
私と一緒にレッスン受けてた人たちもそうだけど、最初から話せる人なんか誰一人いなくって。1分でさえ話せなくて、みんな。
幸あれこさん自身も、口下手なところから始めたといいます。1分、2分、3分と話せる時間を延ばすには毎日の練習しかなく、地道だからこそ誰もが嫌がる一方で、やれば必ずできるようになるという実感を語りました。
そんなギター初めて握ってギター弾けるわけねえだろみたいな話なんだよね、これって結局ね。
しゅうへいさんは、日本では人前で話すことへの抵抗感が強く、海外のポッドキャストのように家に招いたような自然な雰囲気は少ないと話します。だからこそ、台本なしで話せる力は日本では希少なスキルかもしれないと考えています。
完璧に喋らないほうが伝わるのはなぜか?
しゅうへいさんが「喋るとバカがバレる」と言うと、幸あれこさんはラジオ現場での大きな気づきを語り始めました。賢く見せようと完璧に喋るための原稿を書いていた時期があったといいます。
それって結構失敗でもあったんですよ。私うまくいかなかったんです。
幸あれこさんによれば、話したかったことと全然違う方向に進んでしまった回のほうが、個性や人間らしさが出たとディレクターに褒められました。その経験から、完璧にしないほうが逆にいいと気づいたそうです。
しゅうへいさんは、知識がなくて喋れないというブレーキを持つ人もいるかもしれないと応じます。幸あれこさんは、最初は失敗ありきで喋っていくことが大事だと話しました。
イケダハヤトさんは、もう1つの大事なポイントとして、感情を乗せられるかどうかを挙げます。最初のうちは喜怒哀楽がまったく乗らないもので、感情を乗せられるようになることは1つの到達点だという考えです。
幸あれこさんは、レッスンで感情が乗らなかった人たちは相手を思い浮かべられていなかったと振り返ります。相手がどんな気持ちになりたいかを考えれば、声のトーンは自然に変わるという指摘です。
「今から抽選会を始めます」と、聞き手を思い浮かべずに淡々と言う
「今から大抽選会を始めます」と言って、初めて相手がワクワクする
イケダハヤトさんは、感情とは「相手にどうなってほしいか」に対する自分の感情だとまとめます。ただキレて話すと不快になりますが、西野さんが怒りながら話す配信が面白いのはエンタメ性があるからで、幸あれこさんはそれを俯瞰して第三者を思い浮かべているからだと補いました。
しゅうへいさんは、お金がないことや税金の払い忘れの話は、解決した後では二度とその感情が戻ってこないため、その時に撮るといいます。幸あれこさんの「タイムカプセルね」という一言を受けて、しゅうへいさんがこうまとめました。
時間がかかるからこそ、早く始めたほうがいいという点で3人の意見は一致します。しゅうへいさんは「まさに複利」と話し、今回のテーマの本の話にもつながりました。
人の気持ちを考えすぎると言葉が出なくなる?
幸あれこさんは11年間のアナウンサー生活で、言葉が出なくなった時期が何度かあったと明かします。それは、人の感情やスポンサーの気持ちを考えすぎたときでした。
(ここを言うと)ここを立てられなくなるとかいうので、この人はこういう気持ちになるけど、こういう感情になるなとか考えすぎると出なくなった日があったんですよ。
幸あれこさんは、ディレクターに「お前どうした?」と言われたほどだったそうです。考えすぎてしまう人には、それを取り払って自由にやっていいと思えるタイミングが必要かもしれないと話します。
しゅうへいさんも、優しく喋ろうとして「これはこういう意味ではなくて」と注釈をつけすぎ、本題に入れなくなった経験を語ります。幸あれこさんは、原稿を書くのと同じで言い損ねることに勇気を持つことが大切だと応じました。
3人は、このテーマならまだ1時間半ほど話せると笑い、別の機会に続きをやろうと締めくくりました。しゅうへいさんは、台本を作りつつそれを感じさせない幸あれこさんの心をほぐすラジオも、技術として聞いてほしいと勧めています。
まとめ
台本なしで話す技術は特殊な才能ではなく、テーマを絞ること、相手を思い浮かべること、そして下手でも話し続ける練習の積み重ねから生まれる、というのが3人の共通した結論です。
- プロのラジオ現場でも、フリートークは台本がない方が面白く転がるとされていた
- 最初に伝えるテーマを1つに絞れば、台本なしでも話はブレにくい
- ながら聞きのリスナーには、ポイントは3つでも多いくらいで、初めて聞く人を意識することも大切
- 聞き手を想像すると、テンションや感情が自然に乗ってくる
- 完璧を目指さず失敗ありきで、自分の放送を聞き直しながら毎日練習するしかない





