雑草の研究者が書いた、弱者が進化をつくる本とは?
しゅうへいさんが今回持ってきたのは、ちくまプリマー新書の『はずれ者が進化をつくる 生き物をめぐる個性の秘密』です。著者の稲垣さんは雑草や植物を研究し、弱い生き物の研究を重ねてきた生物学の専門家で、静岡大学の教授を務めているとしゅうへいさんは紹介しています。
しゅうへいさんは、稲垣さんの別の著書『眠れなくなる植物学』書名も読んでいたそうです。その本で印象に残ったのは、あれほど勝手に生えてくる雑草が、研究所で生やそうとすると条件が整わず意外と難しいという話でした。
しゅうへいさんが『はずれ者が進化をつくる』を「働き方の未来」というテーマで選んだのは、前回のイケハヤさんの本で出た「勤勉か怠惰か」という論点に、生物学から答えが見えると考えたからです。
結局見るとはぐれ者、弱者、弱いものが進化を作ってきてですね、むしろ強すぎるとですね、絶滅してきたっていうものが生物学の中でもあるんですよ。
しゅうへいさんが挙げた例は恐竜です。恐竜は強く繁栄しすぎた末に、隕石などをきっかけに絶滅しました。一方で人間は、生物学的にはライオンにもゾウにも負ける弱い生き物ですが、テクノロジーを発展させて生き残っています。
この本は中学入試の国語で出題数ナンバーワンの作品だと帯にも書かれていて、しゅうへいさんによれば1〜2時間で読めるほど読みやすいそうです。
オナモミの種はなぜ2種類あるのか
本に出てくる植物の例として、しゅうへいさんはオナモミを紹介します。服にくっつく「くっつき虫」として知られる雑草です。
雑草は芽を出す時期がばらばらで、オナモミの実の中にも異なる2つの種子が入っています。早く芽を出す種と、ずっと遅く芽を出す種を持っているのです。
(オナモミは)心配性だもんね。
幸あれこさんのこのひと言に、イケハヤさんも「確かに」と同意していました。1つの植物の中にさえ、こうした「ばらつき」が仕込まれているというのが、この本の出発点です。
「自分には個性がない」は本当か?
しゅうへいさんは、AI時代には「均一化するから個性を出せ」とよく言われる、と話を広げます。ただ、そう言われても自分の個性がわからない人は多いはずだという問題意識です。
イケハヤさんは子どもの頃を振り返り、自分は一般的なルートではなく「常に端っこの方にいた」はずれ者側だったと話しています。
しゅうへいさん自身は、発信を始める前は「自分なんて普通で、発信することもない」と思っていました。ところがイケハヤさんに相談すると、借金やマルチ商法にハマった経験が面白いからそれを出せと言われ、それが自分の個性になったといいます。
そのうえでしゅうへいさんは、本の主張を紹介します。生物学的に見ると、個性とは遺伝的多様性、つまりバラバラであることそのものだというのです。
でも僕らって目と鼻と口の数ってみんな一緒だよね。それは進化的に多分この数がちょうど良かったんだと思う。
目や口の数をめぐる話では、口が2つあると食べにくいというしゅうへいさんに、幸あれこさんが「どっちにしようってなっちゃう」「意思決定が多くなる」と即座に返し、イケハヤさんに「すごいリアルな想像」と笑われていました。
しゅうへいさんによれば、目や口の数や機能は同じでも、目の大きさや鼻の高さは人によって全然違います。普段の「個性」はキャラが立っているとか特技があるという意味で使われがちですが、生物学では違いがあること自体が個性です。
だからもう僕らはもうバラバラじゃん。だからもうこれ自体もう個性なんですよ。
雑草の種が同じ条件でも同時に芽を出さないように、人も早咲き・遅咲きに優劣はない、としゅうへいさんは続けます。幸あれこさんが遅咲きの例としてカーネル・サンダースを挙げると、しゅうへいさんは「大器晩成」だと応じました。
しゅうへいさんは36〜37歳の自分と、20代で10億円稼ぐ人や大谷翔平さんを比べて落ち込みがちだと明かしつつ、早い遅いは関係なく、存在自体が個性だと話しています。
80億人もいれば「その他大勢」なのか?
しゅうへいさんは、世界に80億人もいれば自分と同じような人がいて、自分はその他大勢と一緒なのではないかと思ってしまう、と打ち明けます。ところが幸あれこさんとイケハヤさんは、そう思ったことはあまりないと答えました。
しゅうへいさんがそう感じたのは、東京でサラリーマンをしていた頃、満員電車に押し込まれていたときだったといいます。
幸あれこさんは逆の感覚を語ります。周りのフリーアナウンサーがみな仕事のできる人ばかりで、自分だけができない落ちこぼれだと思ったことはあるそうです。
みんながワンオブゼムだなと思って見てる。こいつらその他大勢だなと思って多分電車乗ってたね。
だから(その他大勢から)抜け出したかった。
しゅうへいさんは、抜け出したいと思いながら、そこに染まっている自分を観察してしまうのがつらかったと振り返ります。そのため、独立してからのほうがメンタル的に楽だったそうです。
本によれば、DNAの組み合わせは理論上70兆パターンほどあり、80億人の人口の1万倍ほどにあたるとしゅうへいさんは紹介します。だから自分と同じ生き物は過去にも未来にも存在し得ない、というのが本の示す結論です。
しゅうへいさんは、借金6000万円でLLACハウスを建てたことやブログで独立したことなど、他の人がやらないことで実績が出たときに嬉しかったと話します。それが「他の人と違う」証明になると感じたからです。
ただ、それが行き過ぎると、フォロワー数や売上がアイデンティティになり、数字が出ないと自分はダメだと苦しくなる、ともしゅうへいさんは語っています。イケハヤさんはそのメンタリティを「要するに個性が欲しいということ?」と面白がっていました。
DNAとの、あと環境との組み合わせで言ったら絶対に同じ人はいないんで大丈夫です。
イルカとクジラの境界線は誰が引いたのか?
2つ目のポイントとしてしゅうへいさんが挙げたのは、人が個性を求めてしまう構造的な理由です。世界が均一化されすぎていて、脳が比べたがることに原因があるといいます。
そもそも区別とは何か、という問いに対し、本は今生きているすべての生物が「ルカ」と呼ばれる小さな単細胞生物から分岐したと説明しています。タコもヒラメも猫も人間も、恐竜も、もとをたどれば同じルカ ── LUCA(Last Universal Common Ancestor)の略で、地球上の全生物の最後の共通祖先とされる仮説上の単細胞生物ですだというのです。
ルカの話の途中で、幸あれこさんがアダムとイブを「アントニーとヨージャン」と言い間違え、スタジオが笑いに包まれる場面もありました。
続いてしゅうへいさんが出したのが、イルカとクジラの区別です。同じ哺乳類で、体長が3メートルより小さい種類をイルカ、大きい種類をクジラと呼んでいるといいます。
さらにややこしいのが、水族館にいる「ゴンドウイルカ」の正式名がゴンドウクジラであることです。大きさからクジラに分類されつつ、マイルカ科というイルカと同じ科に属し、ゴンドウクジラ亜科やシャチ亜科の分類も絡んできます。
同じじゃねえか。
しゅうへいさんによれば、こうした混乱が起きるのは、本来イルカとクジラの間に境界線がないからです。人間が無理やり線を引いているために、専門家が厳密に見るほどわけがわからなくなります。
ただ人間がイルカとかクジラとか無理やり境界線を引いてるからややこしいことになる。
幸あれこさんは、イルカに乗った経験は専門家から見ればクジラに乗ったことになるかもしれないと聞いて驚いていました。
「平均」にいる勤勉な人が危ない理由
しゅうへいさんは、人間の脳は世の中が複雑すぎるために単純に理解したがり、平均値や数値で序列をつけてしまうと話します。
前回のイケハヤさんの本につなげると、朝起きて会社に行き、仕事をして家族を守る「勤勉な人」は、正規分布でいえば中央に多くいる層だとしゅうへいさんは見ています。その両端に、イーロン・マスクのような極端に勤勉な人と、まったく働かない人がいるという構図です。
本によれば、進化の歴史では、数の多い平均的な層ほど環境が変わると絶滅しやすく、外れ値のほうが生き残ってきたといいます。
その例が、19世紀アイルランドのジャガイモ危機です。アイルランドでは収量の多い優良品種1つだけを国全体で育てていましたが、その品種に疫病が広がり、畑が壊滅して100万人以上が餓死しました。
一方で、ジャガイモの原産地である南米では、小さいものや収量の少ないものも含めてさまざまな品種を育てていたため、ジャガイモが残りました。しゅうへいさんは、飢饉の後に多くの人がアメリカ大陸へ渡り、「じゃがいもがアメリカを作った」と言われるほどだったとも紹介しています。
優良品種1つだけを国全体で栽培。効率は良かったが、疫病で畑が壊滅し100万人以上が餓死
小さい・少ない・取りにくい品種も含めて多様に栽培。疫病の中でもジャガイモが残った
もう1つの例はイギリスの蛾です。産業革命前は白い樹皮に白い蛾がとまり、鳥に見つかりにくかったのですが、煙突の煤で木が黒くなると白い蛾は目立ち、黒い蛾のほうが生き残りました。
木の樹皮が白く、白い蛾が鳥に見つかりにくかった
煤で木が黒くなり、白い蛾は見つかりやすく、黒い蛾が生き残った
しゅうへいさんは、AI時代も大きな環境変化だと見ています。働いて20万円稼いでいたのが、毎月20万円が入り、自動運転のシェアカーもある社会になれば、勤勉さをアイデンティティにしてきた人はそれを失うかもしれないというのです。
結局環境が変わるこれからって感じだと、そのはぐれ者、正規分布から外れてる人たちが次の未来を作っていくような標準になるよねっていうことなんですね。
幸あれこさんがネアンデルタール人と人類の違いを尋ねると、しゅうへいさんは、ネアンデルタール人のほうが強かったと答えます。イケハヤさんも、ネアンデルタール人のほうが体が大きく、脳も大きかったと補足しました。
しゅうへいさんは、人類が生き残ったのは、マンモスの獲りすぎや氷河期で食料が減ったときに川や海辺から食料を得られたからだと「どこかで読んだ気がする」と、あくまでうろ覚えとして話しています。
ナンバーワンより「ニッチ」を探すには?
3つ目のポイントは、本当の強さや「勝つ」とは何かという問いです。弱肉強食と言われる自然界でも、生物学で見るとナンバーワンになる必要はないとしゅうへいさんは紹介します。
自然界ではナンバーワンになる必要はないと。大事なのはナンバーワンになれるオンリーワンのポジションを見つけることだと。
このポジションが生物学でいうニッチ ── 生態学で、ある生物が生態系の中で占める固有の位置や役割のこと。マーケティングでは、大手が狙わない隙間市場を指す言葉として広く使われていますです。マーケティングで「ニッチを攻めろ」と言われる言葉も、もとは生態学の用語だといいます。
しゅうへいさんによれば、ゾウリムシ生物名などを使った実験では、それぞれの環境でナンバーワンになった生物同士をぶつけても、両方が生き残ったそうです。
さらに本は、進化するのは敗者だと説きます。魚は木登りでは負けても水の中なら速く泳げるように、自分が得意な場所を探しに行くのは、場所を追われる弱者だけだからです。
負ける
競争に負け、元いた場所を追われる
移動する
水辺から上がるなど、新しい場所へ向かう
ニッチを見つける
自分が得意でナンバーワンになれる場所を得る
生き残る
オンリーワンのポジションで生き延びる
しゅうへいさんは、自分もまさにそうだったと話します。9時5時で働けず、朝起きられず、メールを返すだけで1日が終わり、会社のトイレで2時間昼寝していたこともあったそうです。
幸あれこさんによれば、しゅうへいさんは今でも電話をすると「また別のことをやっていた」と答えるのだといいます。
しゅうへいさんは抑うつになって島へ移り住み、イケハヤさんの『まだ東京で消耗してるの?』を読んで、ブログとSNSで生きていけると知りました。その中でも「借金返済ブログ」というニッチの中のニッチでオンリーワンの位置を取り、8年島で生き延び、6000万円の銀行融資でLLACハウスを建てたと語っています。
まさにニッチだよね。当時なんか特にニッチだったね。
しゅうへいさんは本のまとめとして、みんなが憧れる中央値にいても環境が変われば外れ値が生き残るのだから、小さなはずれ者の部分を持っておく必要があると話します。そこでポジションを見つければ、ナンバーワンにもオンリーワンにもなれ、新しい場所でも生き残れるという結論です。
「頑張らない人」の時代は来るのか?
イケハヤさんが注目したのは、本の帯にある「私たち頑張らなかったから生き残りました」という言葉でした。
しゅうへいさんは、「勤勉であれ」「怠惰は罪」という頑張るルールは誰かが決めたものであり、そのルールはAIによって変わるはずだと話します。
その社会で働くのがしんどいと思ってる人は、いや多分ね、ほんとその人たちの時代なんだと思う。
幸あれこさんは、働かないことが当たり前になれば、仕事をアイデンティティにしてきた人ほど自分を見失い、逆に働いていなかった人が強くなるのではないかと考えます。
しゅうへいさんもそれに同意し、社会構造をどう柔軟に変えるかは課題で、個人個人が適応しなければいけないと話します。そのうえで、仕事以外のお金と関係ない趣味のようなものが大事になってくると語りました。
話は「猫のように生きる」に及び、しゅうへいさんは、そうした生き方のOSのようなものが今後必要で、事業にも役立ちそうな視点だとまとめています。
最後は、しゅうへいさんが毎回の収録に睡眠不足で臨んでいる話で盛り上がり、それもまた「はずれ者」なのかと笑い合いました。幸あれこさんは、早寝早起きも大事かもしれないとしつつ、自分をはずれ者だと思っている人も、それがこれから生き残るための強い個性になるかもしれないと締めくくっています。
まとめ
しゅうへいさんが紹介した『はずれ者が進化をつくる』は、雑草や動物の例を通じて、個性とはバラバラであること自体であり、環境が変わったときに生き残るのは平均ではなく外れ値だと示す本です。AIで働き方のルールが変わろうとする今、自分の小さなはずれ者の部分を手がかりにニッチを探すことが、未来の働き方のヒントになりそうです。
- 生物学的には、個性とは違いがあること自体。DNAの組み合わせを考えれば同じ人は存在しない
- イルカとクジラの区別のように、境界線や序列は人間が後から引いたものにすぎない
- アイルランドのジャガイモ危機や蛾の例のように、環境が変わると平均的な多数派ほど危うい
- ナンバーワンを目指すより、ナンバーワンになれるオンリーワンのニッチを見つけることが大切
- 働くことがしんどいと感じる人や、頑張らない人こそ、AI時代の変化に適応できるかもしれない




