「一生これしか食べられない」なら何を選ぶ?
幸あれこさんが紹介したのは、ロンドン大学の教授ハジュン・チャンが書き、東洋経済新報社から出ている『経済学レシピ 食いしん坊経済学者がオクラを食べながら資本主義と自由を考えた』という1冊です。
幸あれこさんは本題に入る前に、「一生これしか食べちゃいけないとしたら、鳥の唐揚げ、チョコレート、バナナのどれを選ぶか」という質問を2人に投げかけました。
栄養的に言ったらバナナじゃない。
唐揚げばっかり食ってたら死ぬ。
鳥の唐揚げだね。
しゅうへいさんは唐揚げを選び、タンパク質が取れることや、衣を外して肉だけ食べればよく、残りは肥料にすればいいと理由を重ねます。幸あれこさんは、栄養を考えるイケハヤさんとの違いを「長期視点、短期視点」の違いとして面白がりました。
幸あれこさんによると、この質問に正解はなく、どれを選んでも「経済の入り口」になるといいます。『経済学レシピ』は、唐辛子のことを考えていたらいつの間にか介護のお金の話につながっているような、身近な食べ物から経済を説明する本です。
数字がたくさん出てくる本ではないものの、生活の基盤である経済につながる問題に切り込んでいるとして、幸あれこさんはこの本から3つのポイントを絞って紹介していきます。
鶏肉オンリーの機内食は本当に平等なのか
1つ目のポイントは鶏肉です。幸あれこさんは、牛は神様扱いする国があり、豚肉は宗教で禁じられることがあり、魚には旬や格があるのに対して、鶏肉はあまり特別扱いされていない「不遇」な存在だと切り出しました。
ちなみにイケハヤさんの家では鶏を8羽飼っていたものの、卵からかえしたら全部雄鶏で、さばいていった結果、今は残り1羽になったそうです。
卵からかえしたら、全部コケコッコーって。それは確率論的におかしいだろみたいな。
本の中で著者は、ソ連時代の航空会社の機内食が鶏肉だけだった経験を書いています。ベジタリアンの乗客が鶏肉以外はないのかと尋ねると、客室乗務員は「社会主義の旅客機なので全員平等で、特別扱いはできない」と答えたといいます。
幸あれこさんは、このエピソードを「全員に同じものを配れば平等・公平とは限らない」という経済学のポイントにつなげます。本では、平等には3つの種類があると整理されています。
| 種類 | 中身 |
|---|---|
| 結果の平等 | みんなに同じものを配る |
| 機会の平等 | 競争できるチャンスを同じにする |
| 能力の平等 | 競争に参加できる最低限の土台を揃える |
鶏肉オンリーの機内食は、一見すると全員に同じ対応をする優しい制度に見えます。けれども幸あれこさんは、ニーズの違う人を置き去りにしているのではないか、と本の問いを紹介しました。同じ量のパンを配っても、小麦アレルギーの人にとっては不平等になるという例も挙げています。
「島の全員が一斉に犬になるとしたら、普段から犬を意識している人が有利」という幸あれこさんの例え話には、出演者から「質問が難しい」とツッコミが入りました。それでも言いたかったことは、平等という言葉だけで制度を作ると事故が起きやすい、という点です。
出演者の一人は、島から通学船で通っていた頃、台風や霧の日は学校が休み扱いになり、周囲から「ずるい」と言われた経験を話しました。行きようがないのだから、それこそ「ちゃんとした平等」だという受け止めです。
幸あれこさんは男女のトイレの例も挙げます。同じ数を作っても、利用時間を考えると女性の方が行列ができやすい。大事なのは特別扱いをしないというポリシーではなく、必要な配慮で同じスタートラインに立てるようにすることだと、鶏肉の章のポイントをまとめました。
ライムが世界史を動かした理由は「ラム酒」にある?
2つ目のポイントはライムです。幸あれこさんに「ライムってどんな存在か」と聞かれた出演者たちは、お酒に入れて絞れば何でも美味しくなるもの、レモンよりおしゃれなもの、といったイメージを語りました。
本によると、ライムは実は世界史を動かした果物です。昔の船乗りが嵐や敵より恐れたのは壊血病 ── ビタミンCの欠乏によって起こる病気。歯ぐきの出血や歯の脱落、関節痛などが起き、長い航海に出る船乗りの間で大きな問題になりましたで、歯茎が腫れて出血し、歯が抜け、最悪の場合は死に至る病気でした。
当時は原因がビタミンC不足だとわかっておらず、船乗りたちの経験から「柑橘の汁を飲むと治るらしい」と言われ始めたといいます。イギリス海軍は最初レモンを使っていましたが、安く大量に手に入るライムを取り入れるようになりました。
経験知
柑橘の汁を飲むと治るらしいと言われ始める
必須配給
1795年、イギリス海軍が柑橘類を必須配給にする
ラム酒に混ぜる
船乗り全員が自然にライムを摂取できる仕組みを作る
幸あれこさんが強調した経済学ポイントは、壊血病対策の決め手が「ラム酒に混ぜたこと」にあった点です。各自で柑橘を持参して食べてね、と市場任せにしていたら、問題は解決していなかったかもしれないといいます。
つまり、正解がわかっているだけでは足りず、確実に実行される仕組みが必要だということです。本では、これが気候変動問題と同じだと指摘されています。省エネ、リサイクル、断熱、公共交通への投資など、やるべきことはわかっているのに進まないという構図です。
商品にCO2の量を書くようになっても、それを見て買い物をする人は多くありません。幸あれこさんはファッション業界も同じで、リサイクルされた服が良いと言われても、結局は安くて環境に悪い服が10代にも買われている現実があると話しました。
そのため著者は、個人の良心に任せず国や自治体が動くべきだと主張しているそうです。幸あれこさんは「私じゃなくて著者が言っておりました」と念を押していました。
「1日1土」で気候変動は解決できるのか
ライムの章を受けて、幸あれこさんは気候変動の解決策として「1日1土」というアイデアを出しました。一人ひとりが1日に1つ土を運んで置けば、ピラミッドや万里の長城のように、お金をかけずに何かを作り上げられるのではないか、という発想です。
一人が1日1土運べばいいだけっていう、これバストシンプルじゃないですか。
しかし出演者からは「気候変動と1日1土がつながらない」「土を持ってきてもただの泥んこ遊びでアスファルトにはならない」とツッコミが続きます。会話はいつの間にか「1日1土」の発音のコツの話にまで脱線しました。
気候変動の話に戻ると、出演者の一人は、ゴミの分別を促しても人はやらないので楽しく分別できる仕組みを作った例を聞いたことがあると話します。さらに、化石燃料を使い続ける限り問題は終わらないため、イーロン・マスクのEVのように、太陽光や風力、原子力を含めた再生可能エネルギー比率を上げるインフラから変わっていくのではないか、と語りました。
別の出演者は、江戸時代の浮世絵には東京に雪が積もる様子が描かれているように、地球には温暖化と寒冷化のサイクルがあるという見方を紹介します。今後寒冷化するという話もあり、大局的に見ると今の対策の意味がわからなくなるほど難しい問題だといいます。
ただしその出演者も、それを言い始めたら何もしなくていいことになってしまうとして、資源が無尽蔵ではない以上、基本的な考え方は再生可能エネルギーへの置き換えと同じだとしています。
幸あれこさんは「みんなで一斉に息を吸えば二酸化炭素が一瞬下がるのでは」と続け、「やべえ宗教だよ」と返されて場は笑いに包まれました。最後は、著者は国や自治体が動けと書いていたものの、個人レベルでも意識は必要だとまとめています。
スイスのチョコレートが教える「見えない製造業」
3つ目のポイントはチョコレートです。幸あれこさんによると、チョコレートは「技術の塊」です。もともとはアステカ文明で、カカオに唐辛子やバニラ、トウモロコシなどを混ぜた飲み物として飲まれていました。
スイスのチョコレートが有名なのは製造技術の力だ、というのが本の見立てです。幸あれこさんがスイスのイメージを尋ねると、永世中立国、山、ハイジ、時計などの精密機器、お金持ちがお金を預ける国といった答えが返ってきました。
しかし著者は、スイスは世界一の工業国だと述べています。国民一人当たりの製造業の生産高が世界トップクラスで、作っているのは家電や日用品ではなく、精密機械や設備、工業用の化学物質など目立ちにくいものだといいます。チョコレートは、たまたま目に見える工業製品だったというわけです。
さらに本では、「サービスで豊かになれる」という考え方は一部しか正しくないと指摘されています。金融、コンサル、デザインといったサービスは、誰かが物を作っている世界を前提に成り立っているからです。
サービスに特化したから強い国になった、という多くの人の思い込み
世界レベルの製造業がある国が、その上でサービスでも強くなった
幸あれこさんは、見えない製造業が国の強さを支えているという点を、数字だけではない社会の支えを教えてくれる話として紹介しました。
出演者の一人は、Xで見た「暖かい国では一年中食べ物が取れるので工夫が生まれにくく、冬に作物が取れない国では貯蔵や生産量を上げる工夫が工業を育んだ」という説を挙げ、諸説あるとしながらも話がつながると感じたそうです。日本も車などの製造業が強く、それがGDP4位くらいを支えているのではないか、と語りました。
経済は「私たちが生きている世界の話」
幸あれこさんは、しゅうへいさんが2話目で紹介した本にAIに仕事を奪われるのかという話があったことに触れ、『経済学レシピ』ではイチゴを題材に機械化を取り上げていると紹介しました。
『経済学レシピ』の著者の立場は、仕事を失う前提で、学び直しの機会を与える社会が大事だというものです。そうした社会であれば別の仕事へ移行でき、仕事を失った人が絶望せずに済む、という考え方です。
本の締めくくりで著者は、どういう食事をするかを誰もが自分で考えるように、経済や自分たちが共有する世界についても一人ひとりが理解する方法を見つけなければならない、と述べているそうです。健康や財布のため、食べ物を作る人のため、世界から飢えをなくすため、そして地球のためだといいます。
幸あれこさんは、昔から数字系が苦手で経済にとっつきにくさを感じていたと明かします。そのうえで、この本を読んで経済の見え方が変わったと話しました。
本にはオクラの章もあり、ほかにも人参やエビ、コカ・コーラなど多くの食べ物が登場し、歴史背景や世界史への影響が語られるといいます。経済学の教授が書いた本なので、生徒にこんなふうに教えているのだろうと想像できる親しみやすさがあるそうです。
出演者からは、居酒屋で「このニンニク知ってる?」と雑学を話せそうだという声も上がりました。「オクラは何語か知ってる?」というクイズは答えが明かされないまま、リスナーへの宿題として残されています。
まとめ
『経済学レシピ』は、身近な食べ物を入り口に、平等のあり方、正解を実行させる仕組み、国を支える製造業といった経済の論点を考えさせる本として紹介されました。
- 全員に同じものを配る平等だけでは、ニーズの違う人を置き去りにすることがある
- 壊血病対策はライムをラム酒に混ぜる仕組みで機能し、気候変動も個人任せでは進まないと本は指摘する
- スイスのチョコレートの名声は製造技術の力で、製造業の上にサービスの強さがあるという順番が語られた
- 幸あれこさんは、経済を「私たちが生きている世界の話」として捉え直すきっかけになった本だと話している



