昭和33年創業の喫茶店がカレーのゴーストレストランに?
番組の冒頭で長谷川リョーさんは、カレーのゴーストレストランを開業準備していると明かしました。高宮慎一さんは「また多角化すか」と反応しています。
長谷川さんによると、きっかけは昭和33年から商店街で営業する喫茶店が、若干の赤字になっていることでした。RocketNowやUber Eatsなどのデリバリーで、その赤字分を補えないかという構想です。
僕が特に好きなカレー、カレーが特に好きなんですけど、カレー専門店みたいな見せ方にして、ゴーストレストランとしてデリバリーだけやろうかなと思って。
メニューを絞った理由について、長谷川さんはカレー1本のほうがオペレーションも楽だと説明しています。売り方は「昭和純喫茶が提供するカレー屋」にするつもりだといいます。
昭和純喫茶感をデリバリーで出しきれるのかと。
高宮さんのこの指摘に、長谷川さんは「そこが今課題」と認め、マーケティングの方法を考えている段階だと話しました。
バーンアウトとケニアの3年間は「人生の凪」だったのか
本題として長谷川さんが持ち込んだのは、人生の調子のいい時期と悪い時期をどう過ごすかというテーマです。長谷川さんは20代後半、ライターの会社を経営していた頃の経験を振り返りました。
当時はオウンドメディア ── 企業が自社で運営する情報発信メディアのこと。2010年代半ばに多くの企業が立ち上げ、記事制作の需要が急増しましたバブルと呼べる時期が3〜4年続き、企業からの依頼が溢れていたといいます。頑張れば頑張るだけ稼げる状況で、長谷川さんは売り上げを立てて調子よく働いていました。
ところがブームが下火になる少し前、長谷川さんはバーンアウトして体調を崩します。そして「導かれるかのように」ケニアへ渡り、3年ほどポーカーをして過ごしました。
その時はわかんなかったんですけど、今振り返るとなんか人生の凪みたいな期間だったかなと思ってまして。
ポーカー生活も3年続くと、生産性も社会とのつながりも貢献感もないと感じ、普通に働きたいという意欲が湧いてきたそうです。現在、長谷川さんは福祉の仕事で多くの社員と働いています。
人と働くってこんなに楽しいんだって思えるのも、その凪の期間というか、ケニアの期間があったからこそ。
凪の期間はもったいないと一瞬思うものの、あの期間があったから今を味わえているという感覚が長谷川さんにはあります。そのうえで、周りが活躍する中で成果を出せない時期を、焦らず種まき期間として過ごすにはどうすればいいのかと高宮さんに問いかけました。
「流れ」は変えられない。悪い時に先読みをやめる理由
長谷川さんの問いに、高宮さんは「人生永遠のテーマ」と応じ、この問題にはセオリーも「べからず」もあまりないかもしれないと前置きしました。来週50歳になるという高宮さんは、追い風も向かい風も凪も一通り経験してきたといいます。
高宮さんがよく使うのは「流れ」という言葉です。何をやってもうまくいく時期と、悪いことが重なる時期が人生にはあると高宮さんは考えています。
流れがいい時にいかに攻めて、流れが悪い時にいかに耐えるが大事だなとかって僕いつも思っていて。
流れを変えるっていうのはほんと難しいなと思ってて。というかできないなと思ってて。
ベンチャー投資でも、最後は投資を決めた自分の責任だとしつつ、領域ごと消える、規制が変わるといったことは自分ではコントロールできないと高宮さんは話します。悪いことが起きた時ほど、それをコントロールしようと頑張ってしまい、心身ともにしんどくなりがちだといいます。
そこで高宮さんが心がけているのが、目の前のできることを1つずつこなすことです。悪い時を耐えしのげばいい時が必ず来るというのは、根拠はないが50年の人生経験から思っていることだと話しています。
高宮さんは普段、先読みして逆算で先手を打つ戦略的な発想をする人です。ところが状況が悪い時にその先読みをすると、思考がぐるぐる回ってしまうといいます。
今状況悪いのにさらにこう悪くなったらこうしようみたいな、より悪い方のスパイラルに入って、なんかすごいこうメンタルやられる、MP削られるみたいな感じになっちゃう。
だから高宮さんは悪い時ほど先読みモードをあえてシャットダウンし、一手ずつ歩を進めて盤面が変わる時を待つようにしています。本人はこれを「精神論、慰めみたいなもの」とも表現しています。
普段は先読みし、逆算で先手を打ち、多くの手の中から最善手を選ぶ
悪い時は先読みを止め、目の前のできることを1つずつこなして流れが変わるのを待つ
神社でメール処理?不安と向き合う最後の手段
長谷川さんは番組初期の収録で、高宮さんが「やれることを全部やった上で、最後は神頼みで神社に行く」と話していたのが意外で覚えていたと振り返ります。高宮さんはこれを肯定しました。
高宮さんによると、すでにプランCやDの状況でプランFまで考え出すと、理論上は効率よく立て直せるかもしれなくても、その時点で自分が持っていかれてしまう感覚があるそうです。
ほんとしんどい時は神社でメール処理とかしてましたからね。
高宮さんが挙げる神社の良さは、広くて緑があり、静かで人が少ないことです。日の光を浴び、歩いて行くので少し運動にもなる。後付けすれば実利もあるが、何より気持ちが落ち着くといいます。
高宮さんの考えでは、つらさの正体は起きる出来事そのものではなく、まだ起きていないことへの不安です。
リスクは確定すれば腹が座って対処できるが、何が起こるかわからない不安はコントロールできない。考えてもしょうがないことに対応するには、最後は神様だというのが高宮さんの結論です。
できることを尽くす
目の前のやれることにベストを尽くし、すがれる自信を持つ
残るのは不安
まだ起きていない未知のことへの不安が一番きつい
考えても仕方ない
不安はアンコントローラブルだと割り切る
神社へ
流れが変わることを祈り、心を落ち着かせる
コンサル時代の謎の微熱。向かい風の時期
長谷川さんが「メンタルが本当にやばかった時期はいつか」と尋ねると、高宮さんはまず、凪はそれほどしんどくなく、つらいのは向かい風の時期だと答えました。
高宮さんが挙げたのは、コンサル時代の後半、プロジェクトリーダーを務めていた時のことです。プロジェクトがうまくいかずに炎上し、上司ともうまくいかなかったといいます。
毎日3時ぐらいまで仕事をして、週末も仕事をするんだけど空回ってみたいな状況になって。
その頃、高宮さんには37度ちょっとの微熱が下がらない時期がしばらく続きました。振り返ると、体を壊す一歩手前だったのではないかと話しています。
(その時は)神社に行く余裕もなかった。アンコントローラブルなものもなんとかコントロールしようとしちゃった。
長谷川さんが「神社に行けるかどうかが余裕のバロメーターかもしれない」と言うと、高宮さんは、普通にしていると行けなくなるので「あえて行く」のかもしれないと答えました。
スタートアップ冬の時代、凪はむしろ好きな時間
長谷川さんは、スタートアップ業界を見てきた15年ほどの間に、2回ほど「冬の時代」と呼ばれる時期があったと振り返り、その時の心持ちを高宮さんに聞きました。
高宮さんの答えは意外にも、凪はあまり嫌ではないというものでした。マーケットが動かない時は暇になり、心にも余裕ができるからです。
(凪の時は)めちゃめちゃ新しいことを仕込めるから、「これやってみよう」、「あれやってみよう」みたいなのを思ってて。
追い風でも向かい風でも目先のことで手が動いてしまうのに対し、凪の時は一歩引いて、仕組みや構造を新しく考えられると高宮さんは話します。ROIが悪いかもしれない新しいことにたくさん挑戦できるのが楽しいといいます。
| 時期 | 状況 | 高宮さんの受け止め方 |
|---|---|---|
| 追い風 | 風に乗るために目先のことで手一杯 | 流れがいい時は攻める |
| 向かい風 | コントロールできない悪いことが重なる | 一番しんどい。目の前のことをこなして耐える |
| 凪 | マーケットが動かず時間と心に余裕がある | 新しいことを仕込める好きな時間 |
長谷川さんが研究者やコンサルのサバティカル ── 一定期間勤務した人が、通常業務を離れて長期休暇を取る制度。研究や学び直し、休養にあてられますを例に挙げると、高宮さんは同意し、Googleが業務時間の一部を好きなことに使わせる仕組みにも触れました。
高宮さんは、凪の期間に一気に仕込む余白も、向かい風の中で神社へ行くような余白も必要だと話します。心の余白と物理的な余白の両方が大事だとしつつ、「余白が作れないぐらいテンパるからしんどい」とも付け加えました。
燃え尽きそうな起業家に、VCはどう声をかけるか
長谷川さんは、アクセルを踏み続けられてしまう起業家に対し、バーンアウトしそうな時にVCとして声をかけるのかを尋ねました。
危うさを感じた時にもちろん声掛けをするし、究極、「いやもう会社畳んだ方がいいんじゃない?」みたいな、そういう議論も振ります。
スタートアップ界隈に関わって29年目になる高宮さんは、直接の投資先にはいないものの、業界では自ら命を絶つ人もいると話しました。コントロールできないことを気合で何とかしようとして、心身が限界を超えてしまうことがあるのかもしれないといいます。
そうした時に高宮さんがかける言葉は、「仕事だけが人生じゃないよ」「今の会社だけが仕事じゃないよ」「今悪くても将来はあるよ」といったものです。
消耗している時は、時間軸でも人生の構成要素でも悪い部分にしか目がいかない視野狭窄に陥ると高宮さんは考えています。家族や趣味、将来といった、ポートフォリオ的な分散に目を向けさせ、視点をずらすことが大事だと話しました。
ただし、必要なのはわかっていてもやり方が難しく、戦略論的なハックはあまりないとも認めています。会社の仕組みを個人に当てはめて、自分なりの余白の作り方を持つことが手がかりになりそうです。
精神科医に聞いた「緊急停止ボタン」のルール
話の終盤、高宮さんは「これ結構大事」として、ガードレールの話を加えました。VCになってから、状況が悪く1〜2日眠れなくなったことがあったといいます。
高宮さんが心配したのは、本当にテンパると自分がテンパっていることに気づけず、客観性を失うことでした。そこで、まだ大丈夫だと思えるうちに精神科医を訪ねています。
本当にやばいラインってどこですか?どうなったらガチ診療受けた方がいいですか?って聞いたんですよ。
精神科医から示された基準は2つでした。1週間眠れなくなったら本格的に治療を始めること、そして身近な人に「しんどい」と言えなくなったら来ること。言える相手がいるうちは、それ自体がセーフティーネットになっているそうです。
この2つの条件を満たしたら、自分が大丈夫と思っても無条件に緊急停止ボタンを押す。高宮さんはこのルールをその時に把握したといいます。
新規事業の撤退基準を、自分の人生に当てはめる
高宮さんは、緊急停止ボタンが新規事業の撤退基準と似ていると説明しました。例えば「3年で黒字化しなければ撤退する」といったルールを事前に決めておく仕組みです。
高宮さんが挙げるグリーンライティング ── 新規事業などの継続・撤退を、事前に決めた基準に沿って判断するプロセス。当事者の思い込みで投資を続けるのを防ぐ狙いがありますは、当事者が「もう少し投資すればJカーブ ── 新規事業で初期に赤字が膨らみ、その後黒字に転じて利益が伸びる曲線のこと。形がアルファベットのJに似ていることから呼ばれますを抜けられる」と客観性を失うことを防ぐためのものです。
高宮さんによれば、経緯としてはこの仕組みを熟知していたからこそ、自分に当てはめたら撤退基準はどうなるかと考え、ルールが決まったといいます。戦略のセオリーを個人の生き方に当てはめる試みの1つです。
「3年で黒字化しなければ撤退」など事前にルールを決め、当事者が客観性を失っても判断できるようにする
「1週間眠れない」「身近な人に打ち明けられない」なら医者に行くと元気なうちに決めておく
仕事を投げ出せない、責任がある、という状況ではないと前提を設定できること自体が大きいと高宮さんは話します。長谷川さんも、事前に準備しておくだけで全然違うと応じました。
正解のない領域こそ、フレームワークが補助線になる
長谷川さんは、絶対的なセオリーがない話が好きで、樋口さんや今井さんのバージョンも聞いてみたいと話しました。高宮さんは、人それぞれに自分をマネージする仕組みがあるはずだと応じています。
圧倒的な正解がない領域こそ戦略論のフレームワークを使ってアナロジーで考えると、自分なりの正解にたどり着く補助線になりますよっていう。
補助線が正しいかどうかは別として、アナロジーがあると自分を説得でき、腹落ちが高まると高宮さんは言います。グリーンライティングの考え方が腹に落ちたから、緊急停止ボタンの運用を始められたというわけです。
長谷川さんは、悩んでいる最中は視野狭窄になり焦燥感を覚えると共感しつつ、番組のエピソード3で語った「正しそうな道をジグザグ進む」話に触れました。
自分の人生って自分なりにストーリーテリングというか、都合のいいように編集ってできるんで。
長谷川さんは、後から振り返れば意味付けはできるというのが、35〜36年生きてきた今の暫定解だと語りました。最後に高宮さんは、番組は寝る前に聴くとよく眠れると定評があると冗談めかし、回を締めくくっています。
まとめ
この回では、人生の凪や向かい風の時期をどう過ごすかについて、高宮さんと長谷川さんがそれぞれの経験から語りました。流れは変えられないと受け入れ、悪い時は目の前のことに集中し、元気なうちに緊急停止ボタンを決めておくことが、心が折れる前のガードレールになりそうです。
- 流れが悪い時は先読みをやめ、目の前のできることを1つずつこなして局面が変わるのを待つ
- つらさの正体は出来事そのものより、まだ起きていないことへの不安だと高宮さんは考えている
- 凪の時期は余白を使って新しいことを仕込める時間にもなる
- 「1週間眠れない」「身近な人に打ち明けられない」なら医者に行くという基準を、元気なうちに決めておく
- 新規事業の撤退基準のような戦略のフレームワークは、正解のない人生の悩みにも補助線になる






