なぜ獣神サンダー・ライガーのマスクから始まるのか
この回は、松本市で開かれた野外音楽フェス「りんご音楽祭2026」の振り返りです。番組の3人はこのフェスのサブステージにトークで出演しており、北爪さんはその場で獣神サンダー・ライガーのマスクを被っていました。
冒頭の自己紹介でも、北爪さんは「山佐の獣神サンダー・ライガーです」と名乗ります。マスクは、北爪さんが20代までプロレス観戦に通っていた頃、1.4東京ドーム大会の会場で買ったものだそうです。
プロレスね、20代まで行ってたんですよ。
北爪さんによると、獣神サンダー・ライガー ── 新日本プロレスで長く活躍した覆面レスラー。ジュニアヘビー級の象徴的存在として、国内外に多くのファンを持ちますはコアなファンが多く、会場ではマスクも売られています。被って応援する人もいる、というくらいのお約束だといいます。
藤原さんと百瀬さんは、テレビで観客席にマスクの人を見たことはないと首をかしげます。それでも北爪さんにとっては、買ってから約20年、タンスにしまっていたマスクをようやく被れたことが何より嬉しかったようです。
そう。あれ(ライガーのマスク)をだから被れたっていうのが本当に嬉しい。
公式サイトに自分の名前が載ったとき、何を思ったか
藤原さんは、この回のテーマを少し壮大に言い直します。「松本に住んでる松本市民にとって、りんご音楽祭とはどういう祭りなのか」というものです。
百瀬さんの説明では、今年のりんご音楽祭は2026年9月26日・27日に開かれ、3人は27日にサブステージのトークを担当しました。収録は10月5日で、記憶はまだ新しい時期です。
藤原さんは2年前にも出演経験があり、今回が2回目でした。そこで、初めて演者になった2人に、インスタグラムや公式サイトの出演者一覧に自分の名前が並んだときの気持ちを尋ねます。
百瀬さんは、まず家族に見せたと話します。せっかく出るのだからSNSで告知に使いたいと考え、どう盛り上げるかで2日ほど迷ったそうです。家族や知り合いからは「何になるの?」と聞かれたといいます。
はい。演者になりたい側なんで。
百瀬さんは音楽が好きで機械いじりも好きなため、もともとフェスの演者や裏方に憧れていた側でした。恥ずかしさはなく、「アーティストの仲間入り」ができたことが純粋に嬉しかったと話しています。
一方の北爪さんは、番組のロゴが出る程度だと思っていました。ところがプロフィールを送ると、そのまま個人として大きく掲載されます。しかもプロフィール写真は、左胸に「山佐」と入った作業服姿でした。
山佐って書いて。そう。だからあれでいいんすかっていうね。
並んだプロのアーティストは、素人の出演をどう見るのか
北爪さんが気になったのは、自分たちの名前と並んだアーティストの側の視点です。藤原さんによれば、その日は岸田さんも出演しており、名だたるアーティストと同じ一覧に作業服のおじさんが並んでいたことになります。
なんで?っていうその虚無っていうのが多分あると思うんですよ。
北爪さんは、主催者の古川さんが語っていたように、アーティストはリスクを取りながら表現をしていると受け止めています。そこに素人が同列で出てくることを、プロはどう整理しているのか気になったといいます。
藤原さんはこの視点を考えていなかったと認めつつ、2人がふだんから音楽をよく聴き、アーティストをリスペクトしているからこその疑問だと受け止めます。ポッドキャストもまだ1年未満で、藤原さんは「まだ三学期みたいな」段階だと笑います。
北爪さんは最終的に、こうした出演のさせ方こそりんご音楽祭の面白さかもしれないと話します。ほかでは見たことがない構成で、「よくやるね」と感心したそうです。
アーティスト専用の入口は、どうやって通ったのか
当日、演者は一般の来場者とは別の入口から入ります。素人の3人がこのゲートをどう通ったかで、それぞれの性格の違いが出ました。
北爪さんは、知らない人がまごまごしていると怪しまれると考え、「さも当然のように」入ったといいます。百瀬さんも同じく、ドヤ顔で当然のように入りました。
いや、得意げに入ってきました。
藤原さんは逆でした。出演者一覧に名前があっても、本人であることを証明しなければ、運営側が不審者を通したことになりかねないと考えたからです。そこで名刺入れから名刺を出して名乗りましたが、スタッフには「名刺は結構です」と言われ、チェックを受けて腕バンドを付けてもらっただけでした。
怪しまれないよう、演者らしく「さも当然のように」堂々と入った
本人確認が必要だと考え、名刺を差し出してビジネスモードで名乗った
北爪さんは、楽屋にどこまで入ってよいのかといった演者としての節度を、誰も教えてくれなかったことも気になったといいます。替え玉が入り込んだら大変なことになる、という心配です。
藤原さんは、それも主催者の考え方だと振り返ります。できる限り縛らない、縛ろうとするから悪意が生まれる、という話を古川さんが熱く語っていたからです。
縛ろうとするから悪意が生まれるんだみたいな。構えるから喧嘩するんだって。すげえ熱く語ってたよね。
誰に聞けばいいかわからないサブステージ
3人の出番は、りんごステージの横にあるサブステージでした。小屋のような控えのスペースも用意されていましたが、百瀬さんは着いた時点で、どこから入っていいのかもわからなかったといいます。
場所はわかるんですけど、ここ(ステージ)にもう入っていいのか。
百瀬さんはしばらく外をうろうろし、知り合いの出店者に挨拶をしながら様子を見ていました。誰も来ないので、最後は自分から中に入っていったそうです。
ちょうどそのとき、ゲストの望月くんが家族と一緒に到着します。雨の後で地面がぬかるんでいたため、ベビーカーの家族を控室で休ませてよいかを聞きに行き、そのついでに自分たちの出番の段取りも確認できました。
百瀬さんはセッティングや録音の準備に追われていました。一方の北爪さんは、自分がいてもどうにもならないと考え、始まっていた台湾のバンドを見に行き、グッズを見て回っていたといいます。
北爪さんの「スイッチ」が入ったのは、ライガーのマスクを被った瞬間でした。被ってしまえば、もう見られても恥ずかしくないと思えたそうです。百瀬さんは、自分たちだけ顔をさらしていたとツッコみます。
あれ(マスク)で、あ、もうこんだけ、もう俺はもう見られても恥でもなんでもないぞっていう。
洗濯ネットで洗ったりんごの被り物と、前日の乱入宣言
北爪さんは、ステージ用にりんごの被り物を3つ購入して持ってきていました。家族用ではなく、このためだけに買ったもので、マジックで名前を書き、洗濯ネットに入れて洗ってあったそうです。
いつ使うかまたわかんないから。一応名前書いといて。で、ちゃんと洗濯ネットに入れて洗濯しましたよ。
奥さんからは、洗濯ネットなど1回も使ったことがないのに何をしているのか、優先順位がおかしいと言われたといいます。藤原さんは、外での公開収録の公式ユニフォームにすればいいと笑います。
ゲストには、2回目の出演となる望月くん、身内に近いヘビーリスナーの金井くん、紹介でつながったミコトヤのテッペイさんの3人を呼んでいました。
ところが前日、忙しくて出られないと言っていたソースダイナーの足立さんから、スタッフを増やしたので出られるというメッセージが届きます。ゲストはもう決まっていると断ると、返ってきたのは「じゃあ乱入すればいいのか」という答えでした。
結果として、3人分のりんごの被り物は乱入組に取られてしまいます。さらに百瀬さんは、本番前にトイレへ行って戻ると、もうみんなが喋り始めていたそうです。
キューも進行もないのに、なぜ運営が回るのか
藤原さんは、今回の体験の特別さを整理します。クラウドファンディングで応援し、主催者をゲストに呼んで話を聞き、当日は演者でありながら運営に協力する側にも立った、という流れです。
北爪さんが強く感じたのは、裏方の人たちの存在でした。PA ── 音響のこと。ステージのマイクや楽器の音をまとめ、スピーカーから適切な音量やバランスで流す担当や設備を指しますの担当者、自転車で誘導する人、関係者駐車場から演者をハイエースで運ぶ人など、それぞれがきちんと動いていたといいます。
百瀬さんは、サブステージには進行役も合図もなかったと驚きます。演者自身が「はい」と言って始め、隣のりんごステージの演奏が終わったのを見計らって、自分たちで締めていたそうです。
キューとかないんだなってびっくりしちゃって。
みんなの愛なんですよ。
百瀬さんは、セキュリティもほとんど目立たないのに、いがみ合ったりイライラしたりしている人がいないことにも感心します。ほかのフェスでは、激しい音楽の後などに殺気立った人を見かけることがあるからです。
北爪さんは、ステージ間の動線にも工夫があると見ています。OKAMOTO'Sの後のDJエリアは人が密集していましたが、タイムスケジュールで人の流れを分散させているように感じたそうです。何も考えなければ、フジロックのように身動きが取れなくなるといいます。
ほかのフェスと比べて何が違うのか
藤原さんは、ほかのフェスにも通う2人に、りんご音楽祭との違いを尋ねます。2人がまず挙げたのは、ステージ同士の近さでした。
北爪さんによれば、ステージ間の行き来がしやすく、同時に始まった2つの演目をはしごすることもできます。藤原さんたちも、サブステージにいながらNOBODYKNOWS+の延長戦をラーメンを食べながら聴けたそうです。
百瀬さんは、14年分の積み上げもあるだろうとしたうえで、りんご音楽祭を聞いたことのないアーティストが聞こえてくるフェスだと表現します。歩いていると音が聞こえ、気になって足を止める楽しさがあるといいます。
聞いたことないアーティストがなんか聞こえるフェスですよね。
食についても、百瀬さんは地元のこだわりの店や、主催側の人脈で集まった県外の店が多く、選び方がいいと評価します。大手チェーンが並び、買うまでに長く待つこともあるほかのフェスに比べて、店の数が多く分散しているため、あまり並ばずに選べるそうです。
| 項目 | りんご音楽祭 | ほかのフェス |
|---|---|---|
| ステージ間 | 近く、はしごしやすい | 同時進行の演目を両方見るのは難しい |
| 人の流れ | 多少の渋滞はあるが移動できる | フジロックでは身動きが取れなくなることもある |
| 出会い方 | 歩いていて知らない音楽に出会う | 目的のアーティストを目指して動く人が多い |
| 食 | こだわりの店が多く、あまり並ばない | 大手の店が多く、長く並ぶこともある |
入場無料のフリーエリアは何のためにあるのか
北爪さんは、入場券がなくても入れるフリーエリアも良かったと話します。カレーの店が多く並び、物販もあり、ダンスのワークショップやDJなど、ステージでの演目もありました。
北爪さんが心配したのは、主催者の収支です。古川さんのクラウドファンディングは、黒字を増やすためではなく、本気の赤字をぎりぎりでかわすためのものだったからです。
百瀬さんは、フリーエリアは子ども連れの来場者が静かな公園側で休んだり、公園に来ただけの人が少し遊べたりするように作られていると説明します。前日に飲んだ出店者からは、フリーエリアの出店料は比較的安いと聞いたそうです。
高いとこからスタートは厳しいから、じゃあフリーエリアからトライしましょうよみたいな、そういう設定になってるんじゃないですかね。
北爪さんは、この仕組みを出店者にとっての間口の広さとして受け止めています。出たい店がいきなり高い出店料を払わなくても、まずは関わることができるというわけです。
前夜祭から後夜祭まで5日間続く音楽三昧
百瀬さんが挙げたもう1つの違いは、期間の長さです。りんご音楽祭は前々夜祭、前夜祭、本番の2日間、そして本番後の夜の部まで、延べ5日間にわたって音楽が鳴り続けます。
前々夜祭
本番に先立つ夜から始まる
前夜祭
本番前日の夜に開かれる
本番2日間
土日にメインのフェスが開かれる
本番後の夜の部
本番の夜や翌日も音楽が続く
藤原さんは、本番1日目の夜にNUとカーリーレコードで開かれた夜の部にも足を運んでいました。真っ暗なクラブではなく明るい会場で、バンドもDJも出演し、ビートだけで掛け合う演奏も初めて見たといいます。
百瀬さんは翌朝、藤原さんを車で迎えに行きました。ところが藤原さんは完全に酔っ払っていたそうです。
多分だから48時間ぐらい多分ずっとベロベロでした。
藤原さんは、音楽好きなら年に1回これがあるだけで松本に移住してもいいくらいだと話します。北爪さんも、観光で来るなら5日間参加するつもりで休みを取るのがいいと応じます。
北爪さんはこの9月、フジロック、ラブシャ、りんご音楽祭に足を運び、百瀬さんの計算では合計10日間をフェスで過ごしています。その北爪さんが、今回はりんご音楽祭を一番楽しんだかもしれないと振り返りました。
リンゴ音楽祭を一番楽しんだかもしれない。
地元の参加は少ないのに、なぜホーム感があったのか
藤原さんは、古川さんから聞いた数字を紹介します。チケット購入者のうち松本の地元の人は10%ほどですが、クラウドファンディングでは支援者の約30%が松本市の人だったそうです。
それでも3人は、当日はかなりホーム感があったと口をそろえます。知り合いの店主や顔見知りが出演し、知り合いの店から「さっき来てましたよ、ベロベロでした」と情報が一瞬で回ってくるような距離感でした。
出演アーティストは百数十組にのぼり、オーディションも行われています。北爪さんは、5〜6組でもフェスになるところをこの規模で、しかも松本の人たちが自分たちで回していることに驚きます。
主催者の古川さんは、会場のあちこちや夜の部にまで神出鬼没に現れ、本人も歌っていたといいます。
会場には「スナックリリー」というコーナーがあり、お酒を飲みながら100円でカラオケを歌えます。大きなスピーカーで流されるため、駐車場側に聞こえてくる音の多くは、プロの演奏ではなく来場者のカラオケだったそうです。
アーティストの音漏れじゃなくて、ずっと誰かのカラオケが聞こえてるフェス。
藤原さんは、自転車のチェーン交換を待つ間、聞こえてくる歌が全然うまくないことを不思議に思っていました。その正体がスナックリリーだと知り、「全員参加型フェス」だと膝を打ちます。
北爪さんは、素人のカラオケがアーティストの演奏や近隣住民に干渉しかねない状況でも歌わせてしまう点が、ほかでは考えられないと話します。藤原さんは、いずれ御柱 ── 長野県の諏訪大社で7年に1度行われる御柱祭のこと。巨木を山から曳き出して社殿の四隅に建てる祭りで、日本三大奇祭の1つに数えられますと並ぶ新しい奇祭になるのではと笑います。
グッズ売り場が外にある理由と、素人も平等に並べる哲学
百瀬さんは、オフィシャルグッズの売り場が会場の外にしかないことも面白いと指摘します。会場内の場所は飲食店など別のコンテンツに使われていたようです。
マネタイズする気がないんじゃないですか?
優しさかもしれないです。
北爪さんは改めて、素人の自分たちをアーティストと平等に並べたことに感心します。藤原さんが「次に声がかかったら、掲載は遠慮すると言うか」と聞くと、北爪さんは「それも失礼ですから」と答えます。
北爪さんはここで、誰でも平等に並べることこそ古川さんのコンセプトなのだと腑に落ちたと話しています。藤原さんも、関わりやすさとしてそれを実感したと応じます。
藤原さんはここで宣言します。来年もりんご音楽祭が開かれるなら、古川さんをゲストに招き、クラウドファンディングの時期から番組で応援したいというものです。そして、あわよくばまた協力させてもらいたいと続けます。
北爪さんは、被り物も含めて全部洗って取ってあると準備万端です。藤原さんは、観客ではなく演者としてその場にいられる気持ちよさも語ります。
静岡から来たリスナーと「リンゴで会いましょう」
北爪さんは、自分たちのトークを聞いてくれる人がいたこと自体に驚いたといいます。なかでも、静岡からこの番組を聴いてくれているリスナーが会場に駆けつけ、トークを最初から最後まで聞いてくれました。
静岡で聞いてくださってる方が、回全部聞いてくれましたよ。最初から最後まで。
最後には集合写真まで一緒に撮り、3人は「普通ではありえないこと」だと感謝を口にします。藤原さんは、そのリスナーに向けた言葉として「リンゴで会いましょう」というセリフを気に入ります。
百瀬さんは、りんご音楽祭を音楽を知らない人でも絶対に楽しめるフェスだと語ります。藤原さんもそれを保証し、今まで一番楽しめたフェスだったと言い切ります。
藤原さんによれば、楽しめた理由は仲間がいてホーム感があることです。そのうえで音楽をいろいろ聴け、買い物も食べ物も飲み物も楽しめると、3人で挙げていきます。最後は北爪さんの「来年もリンゴでお会いしましょう」で締めくくられました。
まとめ
演者として初めてりんご音楽祭に関わった3人は、素人をアーティストと平等に並べる懐の深さ、キューも進行もないのに回る運営、誰かのカラオケが鳴り響く自由さに、このフェスの本質を見ていました。松本市民にとってりんご音楽祭は、観るだけでなく誰もが参加できる、少し狂気じみた地元の祭りだと語られています。
- 公式サイトでは、作業服姿の素人もアーティストと同列に掲載され、3人はそこに主催者の「平等」のコンセプトを感じた
- サブステージには進行もキューもなく、演者と裏方の連携だけで回る運営を3人は「奇跡」と表現した
- ステージの近さ、並ばない食、入場無料のフリーエリア、延べ5日間の日程が、ほかのフェスとの大きな違いとして挙げられた
- 100円カラオケのスナックリリーが会場外まで響く「全員参加型フェス」ぶりに、3人は新しい奇祭の可能性を見た
- 静岡から来たリスナーとの出会いもあり、3人は来年も「リンゴで会いましょう」と再訪と協力を誓った


