旅行サイトは嬉しく、マッチングアプリは腹が立つ。広告の差はどこに?
この回は、名倉さんが末松さんに「この1週間で見た広告を何個覚えているか」と尋ねるところから始まります。末松さんは電車の広告は1つも覚えていない一方で、動画の間に挟まる数十秒の広告は2つほど覚えていると答えました。
末松さんによれば、動画広告は同じものが何回も流れ、しかも十数秒なので、放置せずにそのまま見てしまうといいます。
1つ目は、海外旅行プランのフェアやサマーセールを知らせる旅行サイトの広告でした。末松さんはちょうど旅行の計画を立てたいと思っていた時期で、腰が重かった計画づくりを後押しされたと話しています。
そういう動画(旅行サイトの広告)見たら、ああ、やらねばみたいな、ちょっとなったりしますね。
名倉さんはこの広告を「リマインドにもなっている、ポジティブに見ている広告」と受け止めました。末松さんも、セールをやっているならそのサイトで見ようかなと思うと続けています。
2つ目は、何度も流れてくるマッチングアプリの広告です。末松さんはこちらには強い苛立ちを感じていると語りました。
(マッチングアプリの)広告の最初がなんか一人で寂しがっているあなたへみたいな感じなんですよ。寂しくないんですけどみたいな。
なんか絶対頼まれても入れへんからって思いながらいつもスキップしてるんですけど、
むかつきますよ、本当に。勝手に決めんなよみたいな。
同じ動画広告でも、旅行サイトの広告は行動のきっかけになり、マッチングアプリの広告は企業への嫌悪感につながっていました。
ちょうど旅行を計画したい時期に届き、計画を立てるきっかけやセールへの関心につながった
求めていないのに「寂しいあなたへ」と1日に何度も流れ、絶対に登録しないという嫌悪感につながった
広告の良し悪しは商品ではなく「届く相手」で決まる
中村さんは、末松さんの2つの広告の話を「すごく示唆に富んでいる」と評価し、今回の前後編のテーマである「効果的な販売促進」につなげました。
中村さんが強調したのは、旅行が楽しくマッチングアプリには心理的抵抗がある、という商品やサービスの良し悪しの話ではない、という点です。広告を無差別に流せば、その広告が必要な人と必要でない人がいる、という話だといいます。
それこそ何ら旅行に対して今関心が全然高まってない時に、旅行サイトの広告がいっぱい来ても、それはそれでまた鬱陶しく感じて。
中村さんによれば、買い手が知りたい、欲しいと思っているときに広告がタイミングよく届けば歓迎されます。一方で、そうでないときの広告はまったくの逆効果で、場合によっては発信している側の信用まで失いかねないと話しています。
ここで名倉さんは、今回の問いとして「今やっている販促はどの段階のお客さんに向けたものですか」を示しました。
「効果がわからない」の裏で起きていること
名倉さんは中村さんに、MiraQの研究会で一番多く出てくる悩みを尋ねます。中村さんによると、事業を伸ばすために広告やセミナーなど何かしらの販促はやっているものの、その効果が出ているのかどうかわからない、という悩みが共通しているそうです。
これって効果あるんかなみたいなね。その効果測定がどうしたらいいかがようわからんみたいな。意外にあるんちゃうかなと思いますね。
名倉さんが、その裏で末松さんのようなことが起きている可能性を指摘すると、中村さんは効果測定以前に「そもそも誰に対して訴えたいのか」を整理することが大事だと応じました。
中村さんは、マッチングアプリの会社も一定のニーズがあるから存続しているのであって、やっていることそのものは悪ではないと補足します。ただし、伝える対象を間違えると、その人にとっては迷惑でしかないといいます。
名倉さんは「100人に届ければ1人は引っかかるだろう」と考えていたと打ち明けます。これに対して中村さんは、喜んだ1人の裏に、うざいと思った99人がいると返しました。
名倉さんは、一度悪い印象を持たれると、将来別の商品を売り出しても「あ、この会社か」と思われる可能性があると続けました。中村さんも、負のイメージがつくと同意しています。
無差別に発信
100人に届ければ1人は反応するだろうと考えて広く出す
99人が不快に感じる
必要としていない人には迷惑な情報になる
信用を失う
喜ぶ1人より、うざいと感じた人の方が多くなる
負のイメージが残る
別の商品を出しても「この会社か」と思われかねない
ポスティングのチラシはなぜマイナスになるのか
名倉さんには、無差別な販促に心当たりがありました。自宅のポストに、介護施設や健康食品など高年齢層向けとみられるチラシが毎日入っているといいます。
いや、うちにそんな年齢の人おらんから、そもそもターゲットじゃない。でも多分不特定多数にも全部の家に入れてるじゃないですか。
名倉さんはこのポスティングを「マイナスだと思う」と話します。中村さんは、本当にそのサービスが必要になったときに、真っ先に候補から外されるだろうと応じました。
なんか誰でもいいから、とりあえず誰かに当たればいいっていう、その意思がわかる。
中村さんは、数を打つことも大事かもしれないとしつつ、時代はもうそういう時代ではなくなったのかもしれないと話しました。
マスで届けられた時代と、多様化した今の違い
名倉さんが「昔は数だったのか」と尋ねると、中村さんは高度経済成長期の消費者の価値観を例に挙げました。当時は車が欲しい、家が欲しい、次は何が欲しいと、欲しいものの順番がみんな似ていたといいます。
中村さんによると、そうした時代は大量にマスで宣伝しても響く人が一定数いて、響かない人がいても大きな問題にはならなかったのではないか、とのことです。
今って何を求めるかってすごくやっぱり多様化しちゃってるので、そこに無差別にバーンってやっちゃうと、なんだこれはみたいな、そういう反応する人は増えてるんちゃうかなっていう気はしますよね。
高度経済成長期は欲しいものの順番が似ていて、マスで大量に届けても響く人が一定数いた
今は求めるものが多様化し、無差別に届けると「なんだこれは」と反発する人が増えている
名倉さんはこれを受けて、しっかりターゲットを定めることが大事になる時代なのだとまとめました。
「知らない人」から「ファン」まで、顧客の5つの段階とは
中村さんは、お客様がその会社のファンになるまでのプロセスには、5つほどの段階があるのではないかと話します。
最初の段階は、まだ自社の存在を知らない人です。中村さんは、何かしら悩みがあり、自社の商品やサービスを知れば解決の第一歩につながるかもしれない人だと説明し、そういう人には向けた伝え方があるといいます。
2つ目は、知っているけれど直接コンタクトを取ったことがない人です。中村さんはココフルを例に、社労士事務所があることは知っていても、依頼や接触はまだしたことがない段階だと説明しました。
3つ目は、一度問い合わせて話を聞いたものの、タイミングなどで取引に至らなかった人です。4つ目は、実際に利用したことがある人で、1回で終わった人も、継続的に取引している人も含まれます。
最後の5つ目は、商品やサービスを十分理解して自分でも利用し、それを積極的に宣伝してくれる人です。名倉さんはこの段階の人を「第二の営業マン」と表現しました。
中村さんは、一括りにターゲットと言ってもいろいろな段階があり、段階に合わせて発信を変える必要があると話します。たとえば、すでにココフルと取引のある人に「ココフルはこんな事務所です」とアピールしても、相手にとっては必要な情報ではないといいます。
段階ごとに届ける情報はなぜ違うのか
名倉さんに感想を求められた末松さんは、これまで「まだ接点のない人」と「接点のある人」くらいの分け方しか思いつかなかったと振り返ります。
遠ければ遠いほど(の人に)投げたい情報と、近ければ近いほどの人に投げたい情報って、そりゃ雲泥の差があるというか、
末松さんはそのうえで、やはり不特定多数に向けた販促はダメなのだと実感したと話しています。名倉さんも、届ける相手を具体的に想像し、この人に届けたいと考えて発信することが大事だと続けました。
中村さんは、まだ会社を知らない人に、いきなり自社の商品やサービスを熱く宣伝しても、そもそも信用していいのかが心配になるだけだと指摘しました。
そもそもあんた誰?みたいな。
名倉さんも、初対面なのに急に距離を詰められても困ると同意しています。中村さんは、段階に応じたやり方が今は必要だとまとめました。
開かないメルマガ、解除できないメルマガ
ここで名倉さんは、MiraQの研究会に参加した経営者の声として「当たり前になって鈍感になってしまっていることも、再度ゼロベースで向き合いたい」という感想を紹介しました。
末松さんはこの声を販売促進に重ね、「とりあえずこのリストに送る」が当たり前になっていると、その何が悪いのかに気づけないだろうと話します。
中村さんはメールマガジンを例に挙げ、毎回読みたいメルマガと絶対に開かないメルマガがあり、その違いを考えると面白いのではないかと提案しました。名倉さんは、毎回削除するのになぜ登録を解除しないのか、という点まで考えると深くなると加えています。
中村さんには、腹を立てながらも放置しているメルマガがあるといいます。理由は、解除ボタンがなく、「解除が必要な方はこのアドレスまで」とメールでの連絡を求められるからでした。
なんで俺がお前のところにメールを送らなあかん。
中村さんは、リンク1つで解除できるなら即解除しているといいます。さらに、送ってくる会社のことを知っているだけに、解除を求めていると相手に知られるのが嫌だという心理もあると話しました。
名倉さんは、こうした人の嫌な心理をつくやり方は良くなく、会社のファンには絶対につながらないと指摘しています。
他社との比較が「自社の当たり前」に気づかせる
名倉さんは続いて、幹部の参加者の声を紹介しました。事前学習動画を見ている時には自社とつながらなかった部分が、他の参加者の話を聞いて「この領域は手付かずだった」と気づいた、という感想です。
中村さんによると、MiraQでは定例研究会の前にインプットを済ませてもらうため、事前学習動画を用意しています。繰り返し見られる点が良いと考えている一方で、動画が長いことが唯一の問題だと笑いました。末松さんによれば、長いときは1時間半ほどあったそうです。
末松さんは、他社の人との交流で気づきがあるという声が上がっていることが、MiraQをやっていて一番良かった点だと話します。
中村さんは、究極の本質は「比較をするな」だと語ります。他社がこうだから自社もこうする、という比較で考えるのは実は簡単で、本当に自分たちがやりたいことを探求することが大事だといいます。
いろんな企業のいろんな立場の人と話を聞くことで、そこで何が起こるかっていうと、比較が起きるんですよ。
ただ、その探求は簡単ではありません。中村さんは、異業種の人が自社の商品を違う見方で捉えるといった比較を通じて、自分たちの当たり前が当たり前ではなかったと気づけることが、定例研究会でディスカッションする意味だと話しています。
販促は「知らない人」向けに偏っていないか
ここで改めて、今日の問い「今やっている販促はどの状態のお客さんに向けたものですか」に戻ります。中村さんは、5つの段階それぞれに伝えるべきことは違うはずだが、その色分けができているだろうかと投げかけました。末松さんは、できているところは少なそうだと答えています。
中村さんはテレビCMは広く一般に届けるしかないと話し、動画広告ならもっと細かく分けられるのではと続けました。名倉さんは、年代などの条件で絞り込めても、本当に求めているかどうかは一人一人を見ないとわからないと指摘します。
だって実際ね、末松さんは、いやいや、その条件には合ってるけどいらんってなるわけじゃないですか。
中村さんはこの話から、販促という行為そのものが「知らない人に知ってもらう」ことを前提にしているのではないかと考えます。それはそれで継続的に必要な活動だとしたうえで、知っている人向けには意外と何もしていないのではないかと話しました。
中村さんは、メルマガはその「知っている人向け」の媒体かもしれないと指摘します。登録したということは、少なくとも存在は認知しているはずだからです。
認知している人がメルマガの読者になっているはずなのに、書いている内容は知らない人向けに書いてるみたいな。
中村さんによれば、そうなると読者は「このメルマガはもういらない」と感じ、こっそり登録を解除することが起きるかもしれません。
絞りすぎが心配でも、既存の接点に予算を向ける理由
末松さんは、誰がどこで見ているかわからない以上、絞りすぎて誰にも刺さらなくなるのではないかという心配を口にしました。名倉さんも、どこまで絞り、どこまで内容を変えるかの線引きは難しいと同意しています。
中村さんは、広告宣伝費の観点から考えます。知ってもらうためには間口を広げて発信する必要があり、お金がかかるうえに、届いている人の大半は必要としていない人だといいます。
そのため、中村さんは認知のための広告を非常に無駄の多い作業とも言えるとしつつ、知ってもらうチャンスが減るため完全に削るのは難しいと話します。
一方で、存在を認知している人や一度利用した人は、ある程度リストができているはずです。中村さんは、そこに限定した広告なら大きな予算はいらず、すでに知っている人への発信の方が効果は大きいかもしれないと語りました。
間口を広げるため費用が大きく、届く人の大半は不要な人。ただし知ってもらう機会として完全には削れない
リストがあるため大きな予算はいらず、ドンピシャで届けば動いてもらいやすい
ピンと来ないという名倉さんに、中村さんは、知らない人に知ってもらってから行動してもらうまでには何段階ものハードルがあると説明します。
まさに今も問い合わせしようと思っとったんや、みたいな。
名倉さんは、すでに知っている人は動きやすく、タイミングとターゲットが大事なのだと納得していました。
広告の効果は「次に取ってほしい行動」で測る
まとめに入り、末松さんは、1つのパターンを不特定多数に響かせるのはかなり難しいと再認識したと話します。ターゲットを絞り、どんな内容でどう訴求するかまで事前に考えないと、販促は全部不発に終わる可能性がある、という学びでした。
中村さんは、冒頭の「販促の効果が感じにくい」という悩みに戻ります。効果を判断する1つの目線として挙げたのが、次にやってほしいアクションを取ってくれるかどうかでした。
中村さんは自社の例として、ホームページで有益な情報をホワイトペーパー ── 企業が自社の知見や調査結果をまとめて提供する資料。BtoBのマーケティングでは、ダウンロードと引き換えに連絡先を登録してもらう使い方が一般的ですとしてダウンロードできる仕組みを紹介しました。
広告を見る
不特定多数への広告で、こういう会社があると知る
ホームページを見る
面白そうだと感じてサイトを訪れる
情報を見つける
ホワイトペーパーとして役立つ情報があると知る
メールアドレスを登録
情報を手に入れるために登録する。これが取ってほしい行動
中村さんによれば、このケースでは広告によってメールアドレスの登録が生まれたかどうかが、効果が出ているかどうかの判断になります。
今すぐ注文欲しいのか。それともただね、足跡を残してほしいのか、それをちゃんと見越した設計にしておくっていうことが大事なんやろうなっていうふうにね、思いましたね。
中村さんは、どの段階の人に向けて何をするかによって、取ってほしいアクションも変わると締めくくりました。次回の定例研究会は10月8日で、販売促進を実行する現場の力を支える「効果的な組織作り」がテーマだと案内されています。
まとめ
今回のMiraQラジオは、嬉しい広告と迷惑な広告の違いから出発し、販売促進は商品の良し悪しではなく「誰に、いつ届けるか」で効果が変わると整理しました。そのうえで、顧客を関係性の5つの段階に分け、段階ごとに伝える内容と、次に取ってほしい行動を設計する重要性が語られました。
- 同じ広告でも、必要な人には行動のきっかけになり、不要な人には企業への嫌悪感を生む
- 顧客は「知らない人」「接点のない人」「問い合わせ経験者」「利用者」「宣伝してくれるファン」の段階に分けて考えられる
- 販促は知らない人向けに偏りがちで、すでに知っている人への発信は少ない予算で大きな効果を生む可能性がある
- 広告の効果は、次に取ってほしい行動を取ってもらえたかで判断する







