長く続く会社に、なぜ今さら戦略が必要なのか
MiraQラジオの新テーマは「経営戦略概論」です。中村さんは、今回は概論なので、経営戦略を考えるとはどういうことかという大枠を押さえてほしいと話します。
末松さんは、MiraQでは「難しい」という言葉は禁止だと前置きしつつ、「経営戦略概論」という漢字6文字には身構えてしまうと率直に語ります。ただ、大枠を捉える話だと考えれば、難しすぎず、それでいて考えなければいけないテーマだと受け止めています。
この回の問いは「あなたの会社がお客様に選ばれる理由を、今すぐ3つ言えますか?それはあなた自身の言葉ですか、それともお客様の言葉ですか?」というものです。
中村さんはまず、すでに商売を続けてきた会社は、必ず誰かに必要とされてきたと指摘します。創業100年の老舗でも、そこまで長くない会社でも、続いてきた事実そのものが選ばれてきた証拠だという考え方です。
誰にも必要とされない会社が生き続けるはありえないので、今まで継続できたということは確実に必要とされたんですよね。
ただし、中村さんが問題にするのは、その会社が「なぜ選ばれたのか」を知っているかどうかです。名倉さんは、選ばれているならそれでいいのではないか、今から経営戦略を考える必要はあるのかと聞き返します。
前やったら(戦略を)考えなくてよかったかもしれません。
中村さんによると、業歴の長い企業ほど「大層な戦略を立てなくても今までやってこれたし、これからもいける気がする」という感覚を持ちがちです。中村さんは、それは「そういう時代だった」からだと話します。
「作れば売れた」時代はなぜ終わったのか
中村さんは、日本の経済が成長していた時代には、需要と供給のバランスで「欲しい人」のほうが多かったと説明します。供給側が少なかったので、とにかく一生懸命やれば、なんとなくうまくいったといいます。
一方で今の日本は経済が成熟し、人が何を欲しがるかは人によってバラバラになりました。中村さんは、若い頃はみんなが同じものを欲しがっていた記憶があると振り返ります。
名倉さんは、前シリーズ「イキイキ企業の未来ナビ」でも、テレビや炊飯器のような必需品をみんなが買い求めたので経営戦略はいらなかったという話があったと補足します。
中村さんが例に挙げるのは車です。かつては「目指せ中流社会」の空気の中で、夢のマイホームの次は車という大きな枠組みがありましたが、今は都市部なら車はいらないという人も多いと話します。
末松さんの周りでも、車を持っている友人のほうが少ないそうです。仕事で地方に移った友人は持っていますが、大阪に住んでいれば電車で行けるという感覚だといいます。中村さんも、カーシェアが増えて持つより経済的になっていると続けます。
中村さんは、自身の世代では「彼女を作りたいなら車を買え」と言われ、バブルの頃には「アッシーくん」という言葉まであったと笑いながら振り返ります。名倉さんが、足代わりに使えるボーイフレンドのことだと末松さんに説明し、末松さんは「ちょっとバカにされてますよ」と返します。
欲しい人が多く供給が少ない。テレビや炊飯器、車など、みんなが同じものを欲しがり、作って出せば売れた
経済が成熟し需要が多様化。都市部では車を持たない人も増え、ライバルの中から選んでもらう工夫が必要になった
中村さんは、需要が完全になくなったわけではなく、多様化したのだと整理します。同じものを供給するライバル社がいる中で、どうやって自社を選んでもらうかを今まで以上に考えなければ、なんとなくやっているだけではうまくいかなくなっています。
だからこそ戦略考えなあかんよねって話です。
戦略と戦術、決めるのは誰か
経営戦略とは何かを考えるうえで、中村さんはまず言葉の整理が必要だと話します。戦略とセットでよく使われる「戦術」との違いを問われると、多くの人はイメージでしか答えられないといいます。
末松さんは、戦略は道筋で、戦術はその道筋に行くための武器というイメージだと答えます。中村さんの評価は「当たってるような当たってないような」でした。
戦略っていうのは結局、何をやるのかを決める。まあ裏返すと何をやらないのかを決めるみたいな。
中村さんは、経営戦略を何をやるか、何をやらないかを決める作業だと位置づけます。我が社はこういう事業をする、と決めていくことが戦略です。
中村さんが使う例えは、収録地の大阪から東と西のどちらへ進むかという選択です。東には東京があり市場が大きそうに見えますが、西に向かえばライバルが減って戦いやすいかもしれません。どちらが正しいかは誰にもわかりません。
どっちがいいかはわからんけど、とりあえず西みたいに決めるのが戦略みたいな。
名倉さんが「とりあえずでいいんですか?」と聞くと、中村さんは、誰かが意思決定しなければ組織は動けなくなると答えます。そして、その決断ができるのは社長しかいないと言い切ります。うまくいってもいかなくても、最終的に全責任を取るのは社長だからです。
一方で、西に向かうと決めたあと、飛行機で行くか、新幹線か、車か、歩くかという手段を選ぶのが戦術です。中村さんは、これを「決断」ではなく「判断」と呼び、判断するのは現場だと説明します。
現場には、今の人員体制ならこのやり方がいい、取引履歴を見るとこの商品が一番売れているといった情報があります。中村さんは、現場の情報は現場が一番知っているはずなので、それを基に判断していくのだと話します。
| 項目 | 戦略 | 戦術 |
|---|---|---|
| 決めること | どちらに進むか、何をやるか・やらないか | どうやって進むか、手段 |
| 性質 | 決断 | 判断 |
| 決める人 | 社長 | 現場 |
| 根拠 | あるようでない。正解は後からわかる | 客観的な情報が必要。集めるのは社員の仕事 |
戦略は根拠があるようでないんですよ。
中村さんは、当てずっぽうでは困るので、戦略を決めるための情報収集は必要だと補足します。その方法は後編で扱う予定ですが、どこまでいっても本当にそれでいいかはわからないのが戦略だといいます。名倉さんは、現場の分析が先にあると思っていたものの、戦略を考えるための情報収集と戦術の判断は別物だと理解します。
正解がない中で、社長はどう決めるのか
戦略を決められない経営者が多い理由について、中村さんは「正解がないから決めづらい」と答えます。フリーランスのように、何かあっても自分が受け入れれば済む状況なら、決断にもそれほど悩まないはずだといいます。
中村さん自身も、一人で創業した頃は戦略を「気の向くまま」に決めていたと振り返ります。やりたいと思えばやり、やりたくなければやらない。事業が成長するかどうかはあまり考えていなかったそうです。
ただ、中村さんは、それで稼げなければ家族は野垂れ死ぬと付け加えます。影響が自分と家族に限られていたからこそ自由にできたものの、組織が大きくなると、ひとつの意思決定で会社の存続が危うくなることもあります。
そうやって考えると、答えのない中で決めるって怖くない?
名倉さんも、どちらを選んでもよさそうで、どちらもダメな気もして揺らぐと共感します。中村さんは、経営者も怖いからこそ決めきれないことが起こる一方で、社員からは「決めてもらわないとどうしたらいいんですか」と言われると話します。
中村さんがMiraQの定例研究会や顧問先の社長に伝えているのは、正解を求めないことです。そもそも正解がないのに正解を求めても答えは出ず、正解だったかどうかは後からしかわからないといいます。
(正解かどうかは)永遠にわからないんですよ。だからもう悩むなって。
中村さんは、前回の放送で紹介された会員の声にあった「正解にするために頑張る」という考え方に重ねます。経験や世の中の状況を踏まえて社長が西だと考えたなら、あとは突き進むしかありません。情報を集めたうえで、最終的には腹をくくって決める流れだといいます。
末松さんは、西に行って成功すれば正解に見えても、東にも別の道があったかもしれないと考えると、戦略には「正解」という言葉自体がないのだと感じたと話します。
選ばれる理由は自分の言葉か、お客様の言葉か
ここで、MiraQに参加した経営者の声が紹介されます。名倉さんが読み上げたのは「自社の強みをお客様目線で考えるという視点がこれまで抜けていたことに気づきました。自分では当たり前と思っていたことが、実はお客様にとっての価値だったかもしれない」という感想です。
この経営者は「研究会で他社の経営者の話を聞いて、戦略を語るためにまず選ばれる理由を言語化しようと思います」とも書いています。中村さんは、事業が続いているなら必ず選ばれているが、その理由は意外とわかっていないと強調します。
末松さんによると、研究会では「お客さんに、なぜうちを選んでくれているのかを実際に聞いたことがあるか」という問いが出されました。実際に聞いていない会社が多く、末松さんの周りでも言葉で確認している会社はほぼなかったそうです。
末松さん自身も、お客様の方向性と自社の理念が近いとは感じていても、決め手が本当にそこだったのかは一度も聞いたことがないと気づきます。聞いてみたら「え、そこ?」という答えが返ってくるかもしれないと話します。
中村さんは、さまざまな会社で社長や幹部に選ばれる理由を書いてもらうと、何かしらは書けるといいます。しかしそれは「自分たちがそう思っている」だけで、お客様の意見ではありません。
だから一番手っ取り早いのはお客さんに聞くなんです。
中村さん自身も、付き合いの長い顧問先に理由を聞いたことがあります。中村さんは、お客様の事業成長を本気で考えていることや対応の早さが自社の強みだと思っていました。
なんでうちをずっと使ってくれるんですか?って聞いたら、あの社長は「中村さんの話わかりやすいもん」とか言って。え、そこ?みたいな。
労務の分野は法律が絡み、専門用語が多く「法的にはこうだから」という話になりがちです。その社長は、これまで多くの社労士 ── 社会保険労務士の略。労働・社会保険の手続きや、就業規則、人事労務の相談などを専門とする国家資格者ですに相談しても何を言っているかわからなかったが、中村さんの話はわかりやすく頭が整理できると話したそうです。
中村さんは、それ以来どうすれば分かりやすくなるかにこだわるようになったと明かします。名倉さんは、その一言がなければ今も「迅速な対応」を一番の強みと考えていたかもしれないと受け止めます。選ばれる理由のヒントはお客様の言葉の中にあるという実例です。
幹部はどこまで決断に関わっていいのか
続いて、幹部社員の声が紹介されます。「戦略と戦術の違いが整理されて、自分が日々やっていることが判断ばかりで決断がなかったと気づきました。経営者だけではなく、幹部も決断に関わっていいというメッセージが印象的でした」という感想です。
中村さんは、東か西かを最終的に決めるのは社長だとしたうえで、答えがない決断をすべて社長に丸投げされても社長は悩むと話します。だからこそ、幹部が一緒に悩んでくれると心強いといいます。
入社したての新入社員にまで求めるわけではありませんが、キャリアを積み、事業をしっかり理解しているメンバーには参画してほしいというのが中村さんの考えです。前回扱った責任の話にも触れ、責任はただの重石ではなく、未来に希望を抱くための意味合いもあると語ります。
だからこそ、あの、進む方向を決めていいんですよ。
末松さんは社員目線で、どこまで踏み込んでいいのかわからず、提言できない人のほうが多そうだと質問します。中村さんは、社長の側から「関わっていいんだよ」と伝えてあげる必要があると答えます。
名倉さんが、社員の声も判断の指標になるのではと尋ねると、中村さんは起点次第だと慎重に答えます。事業全体が見えていない段階では、東か西かの議論でも自分にとってのやりやすさで考えてしまいがちだからです。
社会が求めている、その今の環境だとか、そういうことを総合的に考えれる力を養っていかないと、(発言する権利そのものが)まだその段階じゃないよっていう。
名倉さんは「東京に支社があったらカッコいいから東」ではダメだということですね、と受け止めます。中村さんは、社長もきっと幹部を巻き込みたいと思っており、参謀と呼べる仲間が両脇にいる組織になればいいと話します。MiraQが社長だけでなく幹部の参加も呼びかけているのは、そのためだといいます。
5年後、10年後の未来を社員に語れているか
最後の問いは「5年後、10年後にどうありたいか、今自分の言葉で語れますか?そして、それを社員に話したことがありますか?」です。名倉さんは、目の前のことで頭がいっぱいかもしれないが、社長は少し先を見据えている必要があると話します。
中村さんは、今しか見ていない状態で「西に行く」と言われても、社員は怖いと指摘します。5年、10年先にこういう会社になっていたいから、今は東より西ではないか、という視点があれば、社員も安心しやすいといいます。
だって言語化しないと誰にもわからない。
中村さんによると、考えている未来の話を端折って「だからこれをせえ」と今の話だけを伝えてしまう経営者は意外と多いそうです。理由がわからないまま指示を受けることが、社員や幹部のストレスになっているのではないかと話します。
未来を描く
5年後、10年後にどんな会社になっていたいかを考える
方向を決める
そのために今は東か西か、進む方向を決断する
言葉で伝える
未来と方向を社員や幹部に語る
納得して動く
なぜそっちに行くのかがわかり、社員の安心と納得につながる
中村さんは「ぜひ未来を語ってください」と呼びかけ、未来の描き方は後編で扱うと予告します。後編では、戦略を実際にどう作るかを掘り下げる予定です。
番組の最後には、MiraQの7月の定例研究会の案内がありました。7月9日木曜16時から、エル大阪またはオンラインで開催され、7月からは個別戦略として「商品戦略」を扱います。初回の無料体験も使えますが、6月は会場が定員に達していたため、中村さんは参加したいなら早めに行動してほしいと話しています。
まとめ
経営戦略は難しい理論ではなく、限られた選択肢の中で何をやり、何をやらないかを決めることです。正解がない決断は社長が担い、手段の判断は現場が担います。その決断の手がかりは、お客様が語る選ばれる理由と、社長自身が言葉にする未来の姿にあります。
- 需要が多様化した今は、続いてきた会社こそ「なぜ選ばれているのか」を考える必要がある
- 戦略は社長が責任を持って下す決断、戦術は現場が根拠を基に下す判断
- 戦略の正解は後からしかわからないので、情報を集めたうえで腹をくくって決める
- 選ばれる理由は自社の思い込みではなく、お客様に直接聞くことで見えてくる
- 5年後、10年後の未来を言語化して社員に語ることが、決断への納得を生む



