胡椒と唐辛子が同じ「ペッパー」になった理由
「うんちくエウレーカクイズ」は、問題自体が雑学になっていて、答えを聞いて「へー」と思えるうえにクイズとしても楽しめる、ゆる言語学ラジオの定例企画です。この回の第1問は、科の違う胡椒と唐辛子が、なぜ英語でどちらもペッパーと呼ばれるのかという問題でした。
胡椒はコショウ科、唐辛子はナス科の植物であるが、胡椒は英語でペッパー、唐辛子はホットペッパーやチリペッパーなど同じペッパーと呼ばれるのはなぜでしょう。
水野さんは最初に、植物や動物の名前は分類と関係なく見た目に引きずられることが多いと指摘します。例に挙げたのは白アリで、アリではなくゴキブリの仲間なのに、見た目がアリに似ているためにその名が付いたといいます。
堀元さんも見た目の類似で答えようとしますが、胡椒と唐辛子は形が似ていません。水野さんに「一応言っとけ」とけしかけられて誤答し、高校時代に告白をけしかけて振られた友達をいじる人のようだと抗議する掛け合いになります。
その後、堀元さんは大航海時代に胡椒が銀と同じ価格で取引されたという話から、歴史の観点へ進みます。唐辛子が南米原産で胡椒はアジア原産だと整理したところで、答えにたどり着きました。
(コロンブスが)インド行ってコショウ買ってくるぞって言って、コショウを取ってくるつもりがアメリカの方行っちゃって唐辛子持って帰ってきたけど、まあでもこれコショウっしょってなった。エウレカ。
番組の解説は「コロンブスがアメリカ大陸をインドだと勘違いしたから」。胡椒はインド原産、唐辛子は中南米原産で、胡椒を海路で運ぶことを目的の一つとしていたコロンブスが、胡椒と同じ辛味の唐辛子をペッパーと呼んで持ち帰ったため、両方がペッパーと呼ばれるようになったといいます。
解説の内容を順に並べると、勘違いがそのまま名前として定着した流れが見えます。
目的
コロンブスは高価な胡椒を海路で運ぶため、インドを目指して航海した
勘違い
到着したアメリカ大陸をインドだと思い込んだ
発見
胡椒があるはずのない土地で、同じ辛味の唐辛子を見つけた
命名
唐辛子をペッパーと呼んで持ち帰り、両方がペッパーになった
人はなぜ栄養のない辛いものを好むのか?
水野さんは辛さの話に絡めて、最近読んで納得した話を持ち出します。胡椒や唐辛子には栄養がほとんどなさそうなのに、人がそれを好むのはなぜか、という問いです。
堀元さんは臭み消しのためではと答えますが、水野さんが紹介したのは『文化がヒトを進化させた』という本の説明でした。胡椒はもともと肉が腐らないようにする処理に使われていたといいます。
胡椒がかかってるということは安全であろうみたいな風に選択圧が多分かかって、結果的に栄養価に全く関係ないような香辛料、スパイスっていうのが防腐効果っていうのからスタートしていって、(人間が)その味を選好するようになったんじゃないかという風に。
著者のジョセフ・ヘンリック ── アメリカの人類学者で、ハーバード大学教授。文化と遺伝子が互いに影響し合って人類が進化してきたという「遺伝子と文化の共進化」の研究で知られますは、人類が繁栄したのは文化と進化が相互にサイクルを回し合ったからだと主張しています。水野さんによれば、胡椒とそれを好む味覚も、その共進化の一例として説明されているそうです。
一方で堀元さんは、進化はもっと長いスパンで起きるイメージがあると、少し懐疑的な見方も示します。水野さんは、その点は本の中で詳しく書かれているので興味があれば読んでほしいと応じました。
「使い捨てプリンター」と呼ばれた理由と水族館
キヤノンが2010年に発売した家庭用インクジェットプリンターIP2700は、その特徴から使い捨てプリンターと呼ばれることがありました。その特徴とは何でしょうか。
この問題に堀元さんは、正規品のインクが高すぎるからだと即答し、ほぼ正解と認められます。解説によれば、プリンター本体より別売りのインクを全色そろえたほうが高くなるためでした。
即答できた理由として堀元さんが挙げたのは、液体の値段を比べたネットミームのグラフです。飲料水より石油が高く、それより人間の血液が高く、さらにそれを上回るのがプリンターのインクという内容で、普段からよく引用していたそうです。
堀元さんはさらに、EPSONが運営する品川の水族館「アクアパーク品川」の話をします。ショーにお金がかかっているのに入場料が高くないのは、インクで稼いだお金を企業イメージに投じているからではないか、という堀元さんなりの推測です。
(EPSONの水族館に)行った時に、あ、俺のインク代がこんな優れた水族館になってるなら本望だっていう気持ちになりましたね。
同じ現象として堀元さんが挙げたのが、ブログプラットフォームのnoteです。毎月数十万円の手数料に苛立っていたものの、イベントの楽屋で出た天むすおにぎりを、取り戻すつもりで6個食べたそうです。その結果、お腹がいっぱいで出番のパフォーマンスはまったく出なかったと話していました。
「一生に一度はしたい」と言わしめたカードゲームの名訳
3問目は、カードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」のカードに書かれた英文と、その日本語訳の素晴らしさを問う問題です。
マジックザギャザリングというカードゲームに使用されている以下の英文があります。The quick onyx goblin jumps over the lazy dwarf。これに対する日本語訳は以下となっています。歴戦減る素早い黒乞食うに怠けドワーフたちを平らり。裃縫え胸褒めてよつゆ誘う。この日本語はある翻訳家が一生のうちに一度でいいからこのような素晴らしい翻訳がしたいと言わせるほどの翻訳なのですが、この翻訳の素晴らしさがわかるでしょうか。
堀元さんは最初、原文のリズムを日本語でも保つ「韻律を保つ翻訳」を思い浮かべます。これを受けて水野さんが紹介したのが、俵万智 ── 日本の歌人。1987年刊行の歌集『サラダ記念日』がベストセラーとなり、口語短歌を広く普及させましたさんの代表作「この味がいいねと君が言ったから7月6日はサラダ記念日」の英訳でした。
水野さんによれば、2つある英訳のうち1つは五七五七七のリズムで読めるように訳されています。さらに英訳にはS音が多く、原歌の「サラダ」「7月6日」のS音の響きも残しているといいます。
水野さんの説明では、俵さんが実際に作った料理はサラダではなく、音の心地よさを狙ってサラダに置き換えたそうです。堀元さんは、サラダをそんなに褒めないだろうと長年疑問だったと明かし、謎が解けたと喜びます。
実際に作った料理はカレー味の唐揚げだった
音の心地よさを狙って「サラダ」に置き換えた
この味がいいねと君が言ったからカレー味の唐揚げ記念日になっちゃう。最悪だ。
ただ、マジック:ザ・ギャザリングの日本語訳は原文よりずっと長く、「裃縫え」のように原文にない要素も足されています。この長さの違いに注目した堀元さんが、答えにたどり着きました。
これあれだろ。元の英文はABCDEFGを使い切っていて、同じことをあいうえおでやったのが日本語訳だ。
番組の解説は「元の英語文章はパングラムになっており、日本語訳もそれに倣っていろは歌として訳してある。特に下の句は元の英文にはないが、全体の雰囲気を保ったまま訳しているところが素晴らしい」。
英文のパングラム ── アルファベット26文字をすべて使って作った文。英語では「The quick brown fox jumps over the lazy dog」が有名で、書体の見本などに使われますとは、すべての文字を使った文のことです。二人は、quickのQ、onyxのX、lazyのZと、珍しい文字もきちんと使われていることを確かめていきます。
日本語訳も、すべてのかなを一度ずつ使ういろは歌 ── 仮名47文字を重複なく一度ずつ使って作られた歌。「いろはにほへと」で始まり、仮名の手習いや順番を表すのに使われてきましたの形になっています。「ドワーフ」という少し不思議な表記も「ア」を使うためだと気づき、下の句で残りのかなを使い切った帳尻合わせにも感心していました。
五七五七七のリズムとS音を残し、原歌の音の心地よさを再現する
英文のパングラムに合わせ、日本語ではいろは歌として全かなを使い切る
補足によると、このカードの名前は「Now I Know My ABCs」です。効果は、自分のアップキープ開始時にコントロールするパーマネントのカード名にアルファベット26文字がすべて含まれていれば、ゲームに勝利するというものでした。
水野さんはさらに、ゲームデザイナーのリチャード・ガーフィールドがマジック:ザ・ギャザリングの対戦中にプロポーズしたという話を紹介します。プロポーズ用のカードがなかなか引けず、3戦目でようやくプロポーズできたそうで、堀元さんは「1戦目だったらキザなんですけどね」と惜しがりました。
堀元さんも、マジック:ザ・ギャザリングはチューリング完全 ── 計算機科学の用語で、理論上あらゆる計算手順を表現できる性質のこと。プログラミング言語の多くが備えており、ゲームのルールが偶然この性質を持つ例もありますだといううんちくを披露します。ただ、その意味をうまく説明できず、いつもここでまごつく「披露できないうんちく」だと自虐していました。
犬のMRIで左右を取り違えたのはなぜ?
人間の発する単語を犬に聞かせながら、その脳をfMRIで調べたところ、犬も人間のように論理的と言える単語の意味を脳の左側、感情的と言える単語のイントネーションを脳の右側で処理していることがわかった。という研究が2016年サイエンス誌に載り話題になりましたが、後に右脳の画像と左脳の画像を取り違えていたことが分かりました。研究者たちはなぜ右脳と左脳を取り違えたのでしょうか。
堀元さんは、上から見るか下から見るかで左右が変わるのではと考えます。言いかけて映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』のタイトルがよぎってしまい、普通に話せなくなるあの映画は社会悪だと冗談を飛ばしました。
最初の答えは不正解でしたが、水野さんが動物はMRIの中でじっとしてくれないという話を出したところで、堀元さんが答えを導きます。
人間はMRIの機械に入る時仰向けで入るが、犬はうつ伏せで入るから向きが逆になっていたエウレーカ。
番組の解説は「人間は普通fMRIに入る時仰向けだが、犬は座った状態、つまりうつ伏せに近い状態だったから」。
仰向けで機械に入る
座った状態で、うつ伏せに近い姿勢で入る
水野さんは、四十雀を研究する鈴木俊貴先生の名前先生とも動物のMRIは頭を固定するのが難しいという話をしていたほどで、答えの材料は持っていました。それでも答えにたどり着けず、悔しがります。
堀元さんはこの様子を、競技クイズ漫画『ナナマルサンバツ』の主人公が「そのページをめくるんだ」と記憶をたどる場面にたとえます。水野さんの場合は、答えのあるページを飛ばして本を閉じてしまっていると皮肉っていました。
猿の動物園がよりによって「犬山」にある話
霊長類の飼育展示種数約60種800頭と世界最多であるという世界屈指のサル類動物園日本モンキーセンターがあるのはよりにもよって何市でしょう。
水野さんに有利な問題として出されたこの問題は、水野さんが答えを知っていたためノーカウントとなり、堀元さんが挑みます。堀元さんは「猿なのに犬市のような場所では」と推理し、ほぼ正解となりました。答えは愛知県犬山市で、しかも猿山が犬山にあるという構図です。
水野さんは、愛知県には「猿投山」という山もあり、そちらに作れば猿づくしになったのに、よりによって犬山にあると付け加えます。堀元さんは土地を間違えたと言いつつ、帳尻を合わせるよりおもしろいほうがいいと納得していました。
話はアクセントへ広がります。水野さんによれば、犬山は東京の人と愛知の人でアクセントが異なり、東京式で言われると「犬の山」のように聞こえてしまうそうです。
水野さんは、NHKのアクセント辞典には東京式に加えて現地のアクセントも載っていると紹介します。長野県の伊那市なども地元の読み方が載っているはずだといい、全国に放送局があるNHKならではの心遣いだと評価しました。
堀元さんは、沖縄出身の母親の話をします。めったに怒らない母親が、テレビでのシーサーやサーターアンダギーのアクセントにだけは厳しく、堀元さんの発音もすぐ訂正されるそうです。
人ってやっぱ何か許せないことがあるんだなって思いましたね。
NHKってむしろ一般的には言葉を画一化する方向に向かっていると思われがちで、そういう側面がないとは言わないんですけど、一方でその地元のアクセントは地元のアクセントにきっちり載せましょうっていう方針を取ってて、これは素敵だなと思いますね。
地名の読みはなぜ揺れるのか
堀元さんの実家の隣町は、同じ漢字の「水車町」に2通りの読み方があり、看板ごとに読みが揺れていたそうです。行政の中でも割れていて正式な読みがなく、郵便局と役場で読みが違う状態が続いていました。
数年前にようやく正式な読みが決まったものの、堀元さんはどちらに決まったか忘れてしまったと話します。地元の人には一大事だと力説した直後の告白に、水野さんは「なんでやねん」とつっこみました。
水野さんは、日本を「ニッポン」と読むか「ニホン」と読むかも人によると応じます。さらに名古屋の「鶴舞」は、同じ「鶴が舞う」と書くのに駅と公園で読みが違い、公園の読みを知っているのが通だと語りました。上から見るとモンスターボールの形に見えることから、ポケモンGOの聖地になったこともあるそうです。
水野さんによれば、秋葉原も読みが揺れた例で、もとは「あきばはら」だったのではないかといいます。語の中の音の位置が入れ替わる音韻転換 ── 語の中の音の順番が入れ替わる現象。子どもが「とうもろこし」を「とうもころし」と言うのが典型例で、言葉の歴史的な変化にも見られますに加え、駅の設置という明確なきっかけがあったようだと説明しました。
堀元さんは、自分の会社でも似たことが起きていると話します。Notionのタスク管理ボードでは公式にタスクを「カード」と呼びますが、「チケット」と連呼する人が1人いたことで、今は社内の多数派がチケットと呼ぶようになったそうです。
水野さんは、それはチケットのほうがしっくりくると感じた人がいたからだろうと指摘します。言語変化は誰かが流行らせようとして起きるものではないという見方です。
言語変化ってそんな誰かが流行らせようって思って起きることではないから。
堀元さんも、ラジオ番組『浅井リョウと加藤千恵の信頼できない語り手番組名』を例に挙げて納得します。加藤さんがメールを「カード」と呼ぶと言い続けても浅井さんは「メール」と言い続けていて、ピンとこなければ1人が使っても広まらないのだと結論づけました。
1人の連呼をきっかけに、しっくりきた人が使い始めて多数派になった
1人が言い続けても相手がピンとこず、呼び名が移らなかった
明治時代、犬はなぜ「カメ」と呼ばれた?
明治時代、飼い犬の名前としてポチやクロのほか、カメと名付けるのが一般的でした。その理由は何でしょう?
この問題は土屋さんほか4人ほどから届いた、いわば定番の問題です。堀元さんはまず四足歩行仲間だからと答えて外し、水野さんは骨を食べたがらない犬に「噛め」と言ったからと答えて外します。
水野さんにとってはこれがこの日初めて提出した回答で、堀元さんは「知性の欠片もない回答」とからかいました。その後、堀元さんが答えを当てます。
あんまり日本に犬いなくて、外国人が飼うのを持ち込んだんだけど、その外国人が犬に対してカムって来いっていうことを言っていたから、そっからカメ、エウレカ。
番組の解説は「西洋人が犬を呼ぶ時にカムと言ったり、カムヒアと言っているのがカメに聞こえた。当時の日本人は犬の名前そのものがカメなのだと思い、飼い犬にもカメと名付けるようになった」。文化としては、和犬と区別するために西洋犬にカメと名付けることが多かったそうです。
呼びかけ
西洋人が犬に「カム」「カムヒア」と呼びかけた
聞き取り
日本人には「カメ」と聞こえた
誤解
犬の名前そのものがカメなのだと思った
命名
和犬と区別して、西洋犬にカメと名付けるようになった
実は水野さんはこの話を知っていたことがわかり、堀元さんに「知ってんならじゃあ答えろよ」と突っ込まれます。落ち込む水野さんに、堀元さんは当てることが目的ではないと声をかけました。
最後に堀元さんは、問題は概要欄の専用フォームから送ってほしいと呼びかけます。水野さんも、おたよりフォームに送られた問題は採用されないと補足していました。
まとめ
この回のクイズに共通していたのは、勘違いや聞き間違いがそのまま名前になるという言葉のおもしろさです。唐辛子のペッパー、犬のカメ、読みの揺れる地名や社内用語まで、言葉は意図とは関係なく定着したり、しなかったりすることが語られました。
- 唐辛子がペッパーと呼ばれるのは、コロンブスがアメリカ大陸をインドと勘違いしたため
- マジック:ザ・ギャザリングの名訳は、英文のパングラムを日本語のいろは歌で再現している
- 犬のMRIで左右を取り違えたのは、人間は仰向け、犬はうつ伏せに近い姿勢で入ったため
- 地名の読みや社内用語の揺れから、言葉は納得感がないと広まらないことが見えてくる
- 明治時代の犬の名「カメ」は、西洋人の「カム」が聞き間違えられたことから生まれた



