雑誌に載るための「こだわり」は漫画でした
この回はまず、以前話していた雑誌に載る話の続きから始まります。「オーシャンズ」や「ウーマン」といった雑誌を目指そうという投稿をしたところ、番組に何度か話が出ている中村さんという方から「僕、載ったことありますよ」と反応があったそうです。
後継ぎで正直ウーマンとかオーシャンズ載りそうな人ってあんまいないよなとかってヘラヘラ笑ってたら、ほんまに載ってたんかいっていうね。
冗談まじりに悔しがりつつ、二人は「なんとか紹介してもらって載ってやろう」と盛り上がります。そのうえで、スナップ写真を撮られるときには「こだわり」がないといけないのでは、という前回の話につながっていきます。
そこで千種さんが自分のこだわりを1つ見つけてきました。それが漫画です。
僕のこだわりは漫画です。漫画が一番好きなんで、カバンからパッと漫画取り出して、これですって言ってやろうかなって思うんですよ。
ここで阪本さんが「奥さんより漫画が好きなのか」「会社より、お客様より好きなのか」といじり倒すのですが、千種さんは「奥さん子供が一番」ときっちり訂正しつつ、漫画への愛を語り始めます。
物心ついた頃から漫画漬けだった少年時代
千種さんと漫画の付き合いは、とにかく長いそうです。物心ついたときからすでに漫画を読んでいたと振り返ります。
6歳と8歳の兄がいたこともあって、家にあった漫画を片っぱしから読んでいたそうです。父親が読んでいたゴルゴ13 ── さいとう・たかを氏による長寿劇画。凄腕のスナイパー、ゴルゴ13ことデューク東郷を主人公とするハードボイルド作品です。まで手を出していました。
5歳の時に(ゴルゴ13を)読んでたら兄貴から「お前にはまだ早いわ」って言って回収されたんですけど。
昔ってその、まだ文字の意味とか文脈とかよくわかってないけど、なんかわからんけどおもろかったですよね。
古本屋での立ち読みも定番だったそうで、中学・高校・大学のころまで、買うのはもちろん、古本屋で立ち読みするのをずっと続けていたと話します。おかげで、ありとあらゆる漫画を読んできたそうです。
そんな漫画歴の長い千種さんが、今カバンに1つ入れるならこれ、という作品を阪本さんに伝えたい、というのが今回の本題です。
「図書館の大魔術師」ってどんな漫画?
千種さんが挙げたタイトルは「図書館の大魔術師」。阪本さんは「全然聞いたことがない」という反応でした。
千種さんいわく、まだアニメ化も映画化も実写化もされていないので知名度はそこまでないものの、べらぼうに面白い作品だそうです。だからこそ、みんなが知っている漫画ではなく、あえてこれを知ってほしいと熱を込めます。
どれくらい好きかというと、千種さんは他人へのプレゼントの定番にしているほどです。甥っ子・姪っ子に贈り、入院する叔母さんが「小説は今読まれへんわ」と言えば全巻買って贈ったそうです。
結婚祝いには「結婚アフロ田中」、それ以外の場面では「図書館の大魔術師」を贈る。千種さんにとっては、これが数少ない「他人に推せる」作品なのです。
推し活の話もしてましたけど、他人に何かを推すって俺、感覚ないなと思ってたんですけど、僕の中でこの図書館の大魔術師が推しです。
図書館が「本を守る組織」になった世界観
タイトル通り、この作品は図書館が舞台です。ただし、私たちが思い浮かべる図書館とはかなり違います。
作品の概要としては、掲載誌は「グッドアフタヌーン」で、現在10巻まで出ています。単行本の刊行はほぼ1年に1回というペースで、千種さんは「大丈夫? 完結する?」と心配しながら待っているそうです。作者は泉水光さんで、絵がとても上手だと絶賛します。
舞台は和風・物語風のファンタジー世界で、エルフのように耳の長い人、アジア系の人、ヨーロッパ風の人、獣と人が混じった獣人など、さまざまな種族が入り交じっています。
ここで阪本さんが気にしたのが、最近多い「ナロー系 ── 「小説家になろう」発の作品群を指す俗称。異世界転生・転移ものが多いことで知られます。」との違いです。千種さんは、この作品は転生ものではなく、主人公はもともとその世界にいる少年だと説明します。
その少年は、ある種族とある種族の混血であるために迫害されています。貧しい田舎の村に住み、本が好きなのに、図書館の館長からは「お前みたいなやつが来たら盗みをするだろうし本が汚れる」と言って読ませてもらえない、という状況からスタートします。
物語が動き出すのは、国の図書館から派遣されてきた人たちが村にやってくる場面です。図書館で起きた事件を解決するなかで、少年は国で一番すごい図書館の使い手であるお姉さんのような人物と出会います。これが第一話です。
この世界で図書館が力を持つ理由も語られます。かつて種族間の戦争が絶えず、ある種族を「悪だ」と決めつける本をきっかけに、その種族を世界から消し去るような迫害が起きたそうです。
(本を)歴史とかを改ざんするっていうアクションが起きたんですね。それを守るために立ち上がったのが図書館という組織で。図書館は本を守る組織です。
つまり図書館は、本と世界の文化を守るために自衛の力を持ち、各地の村や町に図書館を設置する手助けをする組織になったのです。阪本さんが連想した「図書館戦争 ── 有川浩氏の小説。表現の自由を守るために図書館が武装するという設定で知られます。」に発想は近い、と千種さんも認めます。
種族間の戦争
ある種族を「悪」とする本をきっかけに、種族間で激しい戦争が起きる
歴史の改ざん
戦争のなかで、本や歴史を改ざんする動きが起きる
図書館の設立
本を守るために図書館が立ち上がり、自衛の力を持つようになる
各地への設置
大事なのは知識だという理念のもと、各村・町に図書館の設置を手助けする
司書になるための試験と、少年の旅立ち
戦争が終わったあと、少年はその出会った人たちを師匠と仰ぐことになります。ここでの司書は、本の案内をするだけの存在ではありません。図書館を守るために戦い、予算を獲得するためにいろんな国とやりとりもする、力を持った存在です。
図書館は、たくさんの国がある中で独立した組織で、国に近い存在だと千種さんは説明します。そして、この世界で司書になるのは、とてもハードルが高いことなのです。
試験は昔の中国の科挙 ── 古代中国で行われた官吏登用試験。難関で知られ、合格すると高い地位を得られました。のようなもので、何千人・何万人が受けに来て、受かるのは10人ぐらいという難関です。
司書が特別な役割である理由の1つが、女性の事情です。この世界で女性がなれる職業は限られていて、そのうちの1つが司書だと語られます。
そのため、自立したい女性や学者になりたい女性、貴族の娘や裕福な家の娘が必死に受けに来ます。男女比はおよそ10対1で、男性ももちろん受けられます。そんな試験に、司書に憧れた男の子である少年が挑もうと、村から旅立っていくのが第二章です。
主人公と一緒に未知の世界へ入り込める面白さ
ここで阪本さんが、漫画としての面白さを想像で語ります。知らない国を初めて訪れ、まったく違う文化に触れてビビる描写が好きだ、というのです。
初めて知らない国に訪れて、全然違う文化とかに見てビビるみたいな描写がめっちゃ面白いじゃないですか。この世界ってこういう文化なんやなっていうのが結構おもろい。
千種さんも大きくうなずきます。この作品の魅力は、主人公と一緒にその世界を楽しめること。千種さんは、それを初めてハリーポッターを読んだときの感覚にたとえます。
世界の作り込みも徹底していて、クリーク族やコパ族といったさまざまな種族について、漫画には描かれない膨大な設定資料があるように感じられるほど、歴史や文化が構築されているそうです。
さらに、主人公の少年はよく勉強しているので、初めて見る景色に対しても「これは本で読んだあれだ」と理解しながら進みます。学んだ文化を武器に、起きた出来事を解決していくのです。
千種さんは、転生ものも好きだとしつつ、その違いを語ります。転生ものはどうしても「こういう世界なんだ」と一歩引いた視点で見てしまうけれど、この作品にはそのメタっぽさがなく、めちゃくちゃ入り込めるところが良いと話します。
キャラクターも魅力的です。司書になった女の子たちは「司書になった女なんて区別はないぞ」という覚悟を持っていて、おしとやかなだけの人は1人もいないと言います。貴族だけれど愛人の娘で家の中では無視されていて、それをどうにかするには司書になるしかない、と人生を背負っている人物もいるそうです。
発売禁止にすべきか? 作中で描かれる表現の線引き
この作品では、図書館らしい事件も描かれます。千種さんが例に挙げたのは、ある小説をめぐる話です。
その小説は、少年がいろんな殺人をする内容で、「ある民族はこういう傾向がある、だからこいつを殺す」という形で進みます。民族は架空のものなのに、読む人が読むと「これはあの種族のことだよね」と実在の種族に当てはめてしまう、というものです。
そうなると、過去の戦争がまた起きかねません。だからこの本は発売禁止にすべきだ、図書館が回収すべきだ、という話になります。この世界では、本を発行する前に図書館が検閲するルールがあるという設定です。
そのうえで、作中では「じゃあ実際どうするのか」という議論が交わされます。千種さんは、これは現実にも通じる話だと指摘します。
インターネット上のこういった表現は規制すべきだとか、いろいろありますよね。だから、そういう情報に対してどういうような規制をすべきなのか。
ここで阪本さんは、映画「ズートピア」を「匠だ」と評します。現代では、特定の人種をステレオタイプに描くことは許されにくくなっているけれど、そうとは言わずに描いて、見る人が見ればわかるようにしている、という点でこの作品と共通していると語ります。
千種さんも、ズートピアは肉食と草食、続編は爬虫類の話になっていたと補足し、まさに同じだと同意します。文字数が多く、しっかり理解できるのは小学校高学年ぐらいからではないか、というのが千種さんの見立てです。
送り出すために俺の人生があった。かっこいい大工の頭領
番組のテーマにつながる本題が、ここで登場します。この漫画には、まさに「かっこいいおじさん」が出てくるのです。
主人公の少年はシオくんといいます。田舎でいじめられていたシオくんが、司書を目指して勉強しようとしたとき、相談したのが村の大工の頭領でした。おじいちゃんに近い年齢の人物です。
頭領はシオくんを自分のところで働かせ、疲れていても「10分でもいいから勉強に向かえ」と促します。その理由が、この作品の思想をよく表しています。
(シオくんが)勉強だけだったら、めちゃくちゃ家庭教師もつけてる子たちには勝てない。お前が絶対に勝てるのは体力。全ての土台は体力なんだ。
試験を受けに行くときも、頭領は一緒についてきてアドバイスをします。シオくんが「司書になりたい」と言って周りに笑われたとき、頭領はこんなセリフを口にします。
嘲笑は偉大な挑戦の始まりの合図なんだぜ。笑われもしねえ挑戦なんてのは、俺に言わせりゃロマンが足りねえ。
そして、シオくんが田舎を出ていくときの見送りの言葉が、千種さんの一番刺さった場面です。頭領は、自分が若い頃に学者になりたかったこと、なれずに田舎の大工の頭領で終わっていること、境遇にふてくされたこともあることを打ち明けます。
今は、お前をここで見送るために俺の人生があったんだとさえ思えるぜ。お前の人生の一部もまた、誰か別の人のためにある。
阪本さんも、このおじさんに感じ入ります。挑戦した過去があり、いろんな経験を踏まえて、それを次の世代に伝えられるようになっている姿を「かっこいい」と評しました。
かっこいいおじさんって、自分より下の立場の人をバカにしないですよね。
血筋ではなく努力。今っぽい主人公像
阪本さんは、ここまで聞いても「まだAmazonでポチッとはしていない」と正直に打ち明けます。今日は聞くことに集中したそうです。そのうえで、好きな漫画を人に伝える難しさを二人で語り合います。
これ多分めっちゃ好きやから言うてるんやろなって思いながら、知って聞くのと知らんと聞くんで絶対印象ちゃうやろなとか思いながら。
阪本さんが気にしたのは、主人公が「実は隠れた血筋を持っているのか」という点です。千種さんによれば、血筋の話は今のところ出てこないそうです。
ただし、田舎で暮らして体を鍛えていたことに関係する設定はあります。この世界では、近代に近い人ほど特殊な力を持たず、自然に近い人ほどそういう力を操れる、という仕組みなのだそうです。それでも、シオくんの能力だけで天下が取れるわけではない、とも付け加えます。
ここで阪本さんは、自分が伝統的な少年漫画をあまり好きではない理由を語ります。主人公が「すごい人の血筋を引いていたから」と明かされると、一気に冷めてしまうのだそうです。
結局、主人公はすごい人の血筋を引いてるからですかっていうので一気に冷めちゃうんですよね。ジャンプの漫画ってほぼそれじゃないですか。
その点で、「図書館の大魔術師」の主人公は魅力的だと阪本さんは感じます。たまたま人と違う立場にいたラッキーや、体力に振ってきた努力が生きる展開が、なんか今の時代っぽいというのです。
千種さんも、試験で3日間こもってテストを受け、最後は体力がものを言う、という描写を紹介します。合格後も知力が圧倒的に足りず、それを積み上げていく努力がきちんと描かれているところが良いと語ります。
本や情報とは何か、民族や文化、戦争、他者との違い。図書館というテーマから、さまざまなことが学べる。そのうえで世界観が壮大でめちゃくちゃ面白い、というのが千種さんの結論です。
好きなものを語る難しさと、おすすめ漫画の募集
紹介の締めくくりに、二人はお互いの好きな漫画の話へと広がっていきます。千種さんは、番組公式のおすすめとして「四畳半からは泣く頃に」を挙げ、これは「カコおじそのもの」という漫画だと紹介します。
阪本さんが最近読んでいるのは「マトリのお仕事」です。麻薬取締官である主人公が、アイドルや芸人、スポーツ選手などを推してしまう今どきの女の子で、その異常なオタク気質が捜査能力の高さにつながる、という内容だと語ります。
すると千種さんは、阪本さんが端的に面白さを伝えたのを見て、自分は魅力を伝えきれていないと苦笑します。二人は「好きなものを語るのは本当に難しい」と口をそろえました。
好きなことの話したら、みんな置いていって、早口で喋っちゃうんで。好きなもの喋るのマジ難しいな。
最後に、二人はリスナーのおすすめ漫画を聞きたいと呼びかけます。番組宛のお便りは概要欄から送れて、Xではハッシュタグ「#カコオジ」でつぶやいてほしい、と案内して回を締めくくりました。
まとめ
物心ついた頃から漫画を読み続けてきた千種さんが、一番の推し「図書館の大魔術師」を語った回です。壮大な世界観、表現の線引きというテーマ、そして「送り出すために俺の人生があった」と言える大工の頭領のかっこよさが語られました。
- 千種さんの一番の推し漫画は「図書館の大魔術師」。プレゼントの定番にするほどの偏愛ぶり
- 図書館が本と文化を守る組織になった、和風ファンタジーの壮大な世界観が魅力
- 発売禁止の是非など、表現規制の線引きという現実にも通じるテーマが作中で描かれる
- 主人公は血筋ではなく、体力と努力で道を切り開く「今の時代っぽい」少年
- 送り出すために自分の人生があったと語る大工の頭領が、番組テーマの「かっこいいおじさん」そのもの






