なぜ跡継ぎたちは鹿児島に集まるのか
冒頭は雑談から始まります。7月に小平さんのもとへ、跡継ぎのグループが視察に来るという話題が出ました。
跡継ぎ甲子園の決勝に残ったチームが中心になってツアーを組み、5、6人ほどが訪れる予定だといいます。最近は鹿児島への視察ツアーが続いていました。
なんか一日がっつり経営の話みたいな感じかな。それも含めてオフィスの、そのどういうふうに経営されてるかっていうか、地域の取り組みをお聞きしに行くっていう感じですね。
小平さんは、4月、5月、7月と、跡継ぎのチームが10人ほどずつ視察に訪れていると話します。
跡継ぎに対しては、小平さん自身がプロボノのようにサポートしており、無料で対応しているとのことです。一方で、会社として視察に来る場合は別枠になると説明されました。
この背景には、地域の産業縮小や労働人口の減少という共通の課題があります。跡継ぎたちは、家業を守るためにも地域をどう立て直すかを学びに来ていました。
どうしてもやっぱり地域のこう地盤沈下というか、産業がなくなっていったりとか、労働人口が減っていったりとかっていうのを何とかしないと家業も大変だというので、どういうふうにアプローチすればいいのかみたいなことを学びに来る人とかが最近多い。
95年続いた銭湯をオフィスにした理由
本題は、中村さんの会社のオフィスです。今のオフィスは、95年続いた銭湯を改装した建物でした。
その銭湯はコロナ禍にボイラーが故障し、90歳を超えていた経営者が続けられなくなり、一度休業していました。
きっかけは、飲食店を経営する中村さんの妹が物件を見に行ったことでした。飲食店には広すぎると見送られましたが、そこから中村さんが銭湯の面白さに気づきます。
借り手が見つからなければどうするのか尋ねたところ、返ってきた答えは印象的なものでした。
この後どう、もし借り手が見つからなかったらどうされるんですか?って聞いたところ、スケルトンにするしかないっていうふうに言われたんです。
中学時代、友人の家の目の前にあったその銭湯によく入っていた中村さんは、もったいないと感じます。そして、銭湤とオフィスを掛け合わせるという発想に至りました。
うちコミュニケーションを売る会社なんで、なんか裸の付き合いだとか、テルマエ・ロマエとかも、やっぱりローマのお風呂もそのコミュニケーションの場だったっていうふうに考えた時に、うちと合うなって思った。
ただし、銭湯としての機能を残すには公衆衛生法の問題があり、コストがかかります。そこで設計担当者から提案されたのが、足湯という逃げ道でした。
足湯なら公衆衛生法上の負担を抑えられるという提案を受け、実際に足湯ができるオフィスが完成しました。
旧銭湯の浴槽は壊しましたが、思い出を残すため、当時使われていた配色のタイルをほぼ99パーセント似せて再現しています。昔通っていた人が懐かしさを感じられる空間を目指しました。
足湯オフィスは投資として回収できるのか
従業員や社長は、この奇抜なオフィスに戸惑わなかったのか。桺本さんが尋ねます。
中村さんによれば、最大の課題は人員増でした。旧オフィスでは手狭で、移転そのものが必要だったといいます。
さらに、食品衛生上の基準が年々厳しくなり、投資が避けられない状況でした。銭湯オフィスは、これらを一気に解決する手段だったのです。
それに裏テーマでPRと採用的な部分を掛け合わせるとより強化できるんじゃないかっていうところで作った。
小平さんは、かつて「オフィスに金をかける会社は潰れる」と言われた時代から状況が変わったと指摘します。今はむしろコスパがよく、理念の強化や採用、PRにつながると考えていました。
中村さんも、PR面での回収は十分にできていると話します。初期コストは広告換算でカバーでき、営業コストも下がったといいます。
さらに、小さな会社にもかかわらず、デロイトのような大企業がわざわざ訪ねてくるようになりました。相手が来てくれるため、移動費もかかりません。
ハロウィンに300人集まる住宅街の飴屋
話題は地域とのつながりに移ります。お菓子屋である中村さんの会社は、ハロウィンに子どもたちへお菓子を配っていました。
目立つオフィスのおかげで、想像以上の人が集まります。去年は300人ほどが訪れ、今では会社に収まりきらず、公民館を借りて開催しているといいます。
地域にマジこんなにいたかっていうぐらい来るんで。去年三百人ぐらい来たんかな。
子どもたちに飴屋の存在を知ってもらうことで、地域の接し方が変わってきました。母親たちがよい印象を持ってくれることが、大きいと中村さんは話します。
ポイントは、オフィス街ではなく住宅街でやることでした。埋もれずに目立つことで、地元を代表し、応援したくなる企業として位置づけられます。
地元の本当に住宅街でやるっていうことに意味があって、そこで目立つことによって埋もれずに、こう応援したくなる企業として位置付けられるのは結構大きい。
桺本さんは、それが街の自慢のようになると受け止めます。実際、桺本さんもオフィス訪問の際にもらったペロペロキャンディを、遠く鹿児島の子どもたちに配ったといいます。
飴は人をつなげる存在でもありました。地元の上場企業の工場長が訪ねてきて、一緒に何かやりたいという話が生まれるなど、企業間のつながりも育っています。
環境に配慮したカーボンニュートラルキャンディの発想
中村さんは、オフィスだけでなく環境や地域への挑戦にも取り組んでいます。その一つが、カーボンニュートラルキャンディです。
始まりは、オーガニックキャンディを作りたいという思いでした。オーガニックの加工食品市場は、日本では約2000億円ですが、アメリカでは10兆円を超える規模だといいます。
日本は欧米の市場を追従する傾向があるため、いずれ伸びると見込み、オーガニックキャンディに取り組みました。
ただ、環境にいい飴だけでは弱いと考えていたところ、J-クレジットという仕組みを知ります。これでオフセットすれば、脱炭素のキャンディになると気づきました。
こうして生まれたのが、実質排出量ゼロで、オフセット証書も発行できるカーボンニュートラルキャンディでした。会社のノベルティに組み合わせる形で商品化されています。
小平さんは、自社の小水力発電などでクレジットを生む側の立場から、この仕組みを解説します。
クレジット創出
小水力発電などの再エネでCO2削減分をクレジット化する
キャンディに付与
排出量に相当するクレジットをキャンディに組み合わせる
相殺の実現
クレジットが利用され、実質的に排出量が打ち消される
通常、カーボンクレジットは企業が排出量をゼロにするために購入するものです。それをキャンディにつける発想を、小平さんは面白がりました。
なぜノベルティにオーガニックと脱炭素を掛けるのか
この取り組みの狙いを、中村さんが語ります。SDGs関連の市場は今後拡大すると見込まれていました。
2030年までに上場企業はカーボンニュートラルへの対応が求められ、いずれ中小零細にも広がると考え、その先駆けとして取り組んでいます。
さらに、環境にいい会社は人にも優しいというイメージがつき、採用にもつながります。加えて、環境配慮を謳ったノベルティの市場には、競合がいませんでした。
環境にいいボールペンでも結局はプラスチックだと指摘されていた担当者に、キャンディを提案したところ、好反応が返ってきたといいます。
「じゃあキャンディーだったらどうですか?」って聞いた時に、「あ、それいいね」って言われたのと、オーガニックっていう部分で健康にもつながるっていう部分で「かなりいいね」って言われたのがきっかけです。
一方で、オーガニックの実現には大きな苦労がありました。オーガニックを商品名に謳うには、有機JASマークが必要になります。
認証取得には2年かかり、原料探しも難航しました。特に水飴の有機原料を見つけるまでに、さらに2年を要したといいます。
この飴は、地元で連携して作られています。祖父の代から取引のある飴屋と組み、その工場が認証を取得しました。
原料を探してくれたのも地元の商社さんなので。ある意味地元で完結してるっていうのは強みですね。
世界初のオーガニック塩飴と、跡継ぎへのメッセージ
環境や健康に配慮した展開は、他にも広がっています。中村さんの会社は、世界初のオーガニックの塩飴を作ったといいます。
この塩飴は名古屋鉄道に採用されました。夏場に線路整備士や車両整備士が熱中症で倒れるという課題の解決策として導入されています。
この飴は、複数の価値を一つにまとめたものでした。従業員の健康を守り、脱炭素を実現しながら、広告としての役割も果たします。
また、居酒屋のワタミもオーガニックに力を入れており、協業が進んでいます。オーガニックを広げたい人たちのつながりで、活動が展開されていました。
最後に、中村さんが跡継ぎ経営者へメッセージを送ります。肩肘を張る経営者が多いと感じているといいます。
ゆるく楽しく仕事をすることが、サステナビリティにつながるという考えでした。
まとめ
中村さんの3回にわたる回は、銭湯オフィスやカーボンニュートラルキャンディを通じて、地域とつながりながら会社を伸ばす戦略が語られる内容でした。奇抜に見える取り組みの一つ一つに、PR、採用、地域貢献という狙いが重ねられています。
- 95年続いた銭湯を改装し、足湯オフィスとしてPRと採用に活かした
- 住宅街での目立つ存在として、ハロウィンなどで地域とのつながりを育てた
- J-クレジットと組み合わせ、脱炭素のカーボンニュートラルキャンディを生み出した
- 有機認証の取得や原料探しを、地元企業との連携で乗り越えた
- 肩肘を張らず、ゆるく楽しく周りを幸せにする経営を跡継ぎへのメッセージとして示した


