元ヤフー会長の視察で交わした「AIに何を手放すか」
雑談回の口火を切ったのは、小平さんのもとを元ヤフー会長の川邊さんが訪ねてきた話でした。
きっかけは、鹿児島・日置市を拠点とするバレーボールチーム「ヴォレアス鹿児島」{要確認: フラゴラット鹿児島}の経営者が川邊さんの元右腕で、鹿児島に来るならと日置に立ち寄る流れになったといいます。市長を通じて「日置の面白い経営者に会いたい」と紹介され、小平さんとの面会が実現しました。
近ごろの川邊さんはAIの一人会社を立ち上げて動いているといい、話題は自然とAIに向かいます。小平さんが特に印象に残ったのは、AIネイティブの経営になったとき人は何を手放すかという問いでした。
川邊さんが言うには、会社がAIに100パーセント乗っかったとき、経営者はもう経営戦略を作らなくてもよくなるよね、という話をされていて。
経営戦略はAIが担う。だから経営者の仕事は関係性の創出へと寄っていく、というのが川邊さんの描く未来です。
ただし、各AIエージェントをAI社員のように使いこなすには、まだAIのスペックが足りない、というのが川邊さんの現時点の感覚でした。そこがもう少し上がれば、社会の変革が本格的に起きるという見立てです。
上司の主観が消える? AIによる人事評価の未来
川邊さんとの昼食では、人事評価の話も盛り上がったといいます。
川邊さんの見立ては、人の評価には結局主観が混じるので、AIに評価される方がエンゲージメントは上がるはずだ、というものでした。
どういう会議でどんな話をしたとか、どういう成果物を出したとか、Slackでどういう発言をしたかは全部情報が取れるので、ホワイトカラーに関してはAIが評価する方が納得度が上がるんじゃないかと。
上司の機嫌や好き嫌いで評価が左右される状況がなくなる。ここは今後大きく変わりうるポイントだと2人は話します。
桺本さんは、現状の成果評価がポイントごとのパフォーマンスチェックにとどまるのに対し、AIなら働いている時間すべてを評価できるのではないか、と受け止めました。
一方で桺本さんは、常時評価されるストレスに耐えられない人も初期は出てくるかもしれない、と付け加えます。ただ、それもいずれ当たり前になるだろうという見方です。
この未来は今すぐではないにせよ、半年後や1年後に来ても不思議ではない。一部の会社ではもう起きていてもおかしくない、と2人はうなずき合いました。
鹿児島弁の壁と、日報が握るブルーカラー評価
話はホワイトカラーからブルーカラーの評価へと移ります。開発系も含めホワイトカラーは評価が進めやすい一方、現場仕事はどう評価するかが課題になります。
そこで小平さんが重要になると挙げたのが、日報です。現場に負担なく、いかに正確に書かせるかが鍵になります。
ただし鹿児島には鹿児島弁の壁があるといいます。音声入力を使っても、ゴリゴリの鹿児島弁で話されるとうまく入力できない場面があるそうです。
さらに川邊さんは漁や狩猟、漁師もこなす人物です。身体性を研ぎ澄まし、自然と触れ合いながらAIと共存していく、という話にも強い関心を示していたと小平さんは振り返ります。
音声入力の話題から、桺本さんはGPTライブのような会話がスムーズにできるツールに触れます。エージェントと話しているうちに文章が書かれる、という使い方が普通にありそうだと指摘しました。
1分、2分喋るって結構ハードルが高いじゃないですか。普通の人ってすぐ詰まっちゃう、何言えばいいのって感じになっちゃうんで、会話的にできるとよりそういうのが書けるのかなと。
以前に桺本さんが使っていたAIアバターのサービスなども含め、対話しながら文章を作る形が良さそうだ、と2人の見方は一致しました。
AIアバターが本人に圧勝? お披露目で起きた気まずい瞬間
話題はそのAIアバターへ移ります。桺本さんは最近、ある上場企業の会長のAIアバターを制作したと明かしました。
披露の場は、京都府知事も来るような200人規模のイベント。そこでAIアバターに挨拶をさせたといいます。
さらに、実際のビデオメッセージとAIのメッセージのどちらが良かったかを評価してもらったところ、思わぬ結果になりました。
AIが圧勝するっていう、すごい気まずい空気になっちゃいました。
桺本さんによれば、メッセージは3〜4分ほど話すため本人のビデオだと単調になりがちです。一方でAIアバターはシーンを変えるなどの演出ができ、飽きさせにくいのだといいます。
しかもアバターとボイスクローンを一度作ってしまえば、テキストを差し替えるだけで何度も再利用できます。今後、普通に使われていきそうだと桺本さんは感じたそうです。
小平さんは、会社のサービスLPなどに向いていそうだと反応します。桺本さんは社内で遊びとして、犬派の自分のアバターと猫派の社長のアバターをディスカッションさせた実験も紹介しました。
社名変更と合併の真っただ中「AIないと無理だった」
雑談の途中、桺本さんが小平さんの会社名の変化に触れます。8月1日から社名が変わったというのです。
「コビラ株式会社」が「株式会社KOBIRA」になる。後株から前株へ、そして表記がアルファベットになる変化です。ロゴなどは大きく変わらないといいます。
ただし会社の中身は大きく変わり、小平さんは合併プロセスの真っただ中にいました。1日に10本ほどミーティングがある日もあるそうです。
名刺の作り直し、カンパニー制に伴う労務・人事の整理、さらに基幹の会計システムの入れ替えまで重なります。
じゃあもうAIないと本当にできなかったと思う。AI様様です。
合併の詳しい話は次回で深掘りする、として2人は次の話題へ移ります。
ヘラルボニー視察で向き合った「障害者アート」への問い
続いて話は、桺本さんが小平さんの岩手訪問を振り返る流れになります。訪ねたのは、障害者アートのライセンスやアパレルを手がける「ヘラルボニー」でした。
小平さんは最初、障害者アートをキャラクターのライセンスのように扱ってよいのか、とモヤモヤを抱えていたといいます。
その背景として小平さんは、近代的な資本主義の中で障害者が置かれてきた立場を整理します。工場などで働けないことで生産性がないとされ、社会から隔絶され、かわいそうだからケアする対象に置かれてきた、という構図です。
そうした人たちに対し、ヘラルボニーはアートを資本主義の世界とつなげます。ルイ・ヴィトンやJAL、三井といった名だたる企業とのコラボで絵をライセンス化し、企業に提供することで利潤を生み出していると小平さんは説明します。
しかしそこには、絵を描ける人と描けない人の区別が生まれ、資本主義が障害者に行った差別の再生産ではないか、という批判が常につきまといます。
彼らはそんなことは分かっていて、その上で硬直化して限界となった福祉の世界に一石を投じたいし、最終的には生産性で判断されない世界観をどう作るのかをやりたいと。
初期からヘラルボニーを支える板垣さんの話を聞き、小平さんは納得したといいます。ルンビニー学園・ルンビニー美術館でアート教育に携わる人物が、その問いを丁寧に言語化していたからです。
一方で、モヤる人がいることも理解できると小平さんは言います。実際に、うちの子は絵が描けないから見ると悲しくなる、という当事者の母親の声もあるそうです。それでも社会の可能性を一つずつ拡張していくしかなく、それに取り組む姿勢にリスペクトを持ったと語りました。
盛岡の街並みとわんこそば、47都道府県制覇の旅
視察の合間には、盛岡の街そのものにも小平さんは魅了されたようです。
古い建物を美しくリノベーションした街並みや、一つひとつのデザインの良さ、深い森に囲まれた雰囲気が印象的だったといいます。宮沢賢治や石川啄木の言葉が街中にあふれている点にも触れました。
わんこそばにも挑戦しました。さつまドラッグストアーズのトミーさん、元ニューズピックス社長の坂本さんと3人で臨んだものの、小平さんはボロ負けだったと笑います。
90秒のやつで僕が32杯で、残りの2人が60杯弱ぐらい食べて、ヘラルボニーの若手の子がさらにそれを超えて一番食べてたかな。
10杯でかけそば1杯ぶんほどになるといい、100杯を超えると「たくさん食べました」という証明書がもらえるそうです。小平さんは10杯目で気分が悪くなってしまったと振り返りました。
この岩手訪問で小平さんは、宿泊での47都道府県制覇を達成したといいます。地元の人たちがヘラルボニーを愛している空気も伝わり、有意義な視察になったと語りました。
薩摩会議のテーマ「Who am I」とAIの自己規定
話題は鹿児島で開かれるイベント、薩摩会議に移ります。小平さんは代表として運営を手伝っており、猫魔半や撮影と重なる年度末らしい過密スケジュールをこなしていました。
今年のテーマは「Who am I」です。小平さんは、自我をどう規定するかという哲学の議論を背景に説明します。かつては神と自分の対立で足りたものが、デカルト以降の近代哲学で神の席がなくなった、という流れです。
デカルトは自分の認識があるからそれでよいとしましたが、その後は人との関係性が自分を規定する、という仏教哲学に似た議論を西洋の哲学者が語り始めたと小平さんは言います。
さらに香港出身の哲学者ユク・ホイ{要確認: ユクホイ}は、自己を規定する要件として土地やコミュニティを挙げます。ここから、AIの自己はどう規定されるべきかという問いへとつながります。
薩摩会議のDAY1は、個人・コミュニティ・土地という3つのセッションを軸に、AIという自我がこの議論の中でどう規定されるのかに向き合う構成だといいます。
昨年のDAY1は内田先生やチームラボの猪子さんが登壇し、シンギュラリティを前提に人がどう身体性を取り戻すかを話したそうです。今年は自己の規定とこれからの生き方に焦点が移っている、と小平さんは整理します。
跡継ぎ全員で作戦会議、100万社を変えるには
DAY2は例年どおり離島や湯之元へ移動し、DAY3には小平さんが仕込む企画があるといいます。関係者全員を呼んで討論させる試みです。
その中心が、後継ぎ経営者向けのセッションです。小平さんは、百億シンクタンクや跡継ぎファーストなど複数の取り組みがある一方で、規模の壁があると指摘します。
中小企業って300万社ぐらいあって、全体を変えるには3分の1の100万社ぐらい変えないとダメだなと思ってるので、じゃあその100万社変えるにはどうしたらいいかの作戦会議みたいのをやろうと思って。
行政や研究系の人も呼び、フィッシュボール形式で議論する構想です。丸い円卓を何十人も囲み、入れ代わり立ち代わり議論に参加できる形だといいます。
今年は全部で5室あるうちの1室を企業系のテーマで通し、最初からつながったテーマとして展開していきたいと小平さんは語りました。自ら大変なことに突っ込んでいる、と苦笑いも見せます。
最後に2人は、地域経営の研修「猫魔半」の高いプランが2社契約済みで残り1枠であることを案内し、雑談回を締めくくりました。次回は「ローカル企業合併」をテーマに掘り下げる予定です。
まとめ
AIネイティブ経営で経営者は戦略づくりを手放し関係性創出へ寄っていく、という川邊さんの問いを起点に、人事評価やアバター、社名変更、視察、薩摩会議まで話題が広がった雑談回でした。技術の話と、障害者アートや自己の規定といった問いが地続きで語られたのが印象的です。
- AIネイティブ経営では、経営者の仕事が戦略づくりから関係性創出へ移っていくという見立てが語られた
- ホワイトカラーはAIによる全アクション評価で納得度が上がりうる一方、ブルーカラーは日報や方言の壁が課題になる
- AIアバターは再利用性と演出力が強みで、本人のビデオメッセージに評価で勝つ場面もあった
- ヘラルボニー視察を通じ、障害者アートを資本主義とつなぐ試みへの批判と意義の両面が整理された
- 薩摩会議のテーマ「Who am I」では、土地やコミュニティ、AIを含めた自己の規定が問われ、跡継ぎ100万社を変える作戦会議も企画されている





