カメラなしのAIグラスを選ぶ理由とは?
本題の前の雑談として、桺本さんは最近AIガジェットを多く買っていると話します。カメラのないAIグラス「Even G2」と、手首やネックレスに付けて24時間録音し、裏側でAIがジャーナルや議事録を作ってくれるサービスを購入したそうです。
同時翻訳ができるメガネ型スマートグラスを探していた小平さんは、収録直前に桺本さんに勧められ、その場で会社の経費で注文したといいます。小平さんが重視したのは、カメラが付いていないことでした。
あのカメラがあると結局セキュリティとかプライバシーの観点で(問題がある)。変なもん撮っちゃったりしたら、変なもんがクラウドであったり、世界に公開されることもあるかもしれないし。
やられてる方も気分悪いから、マジでいらないと思って。それ(カメラ)なしのを探してたんですよね。
小平さんはベトナムでのカンファレンスで同時通訳を試す予定です。実際に使っている桺本さんは、1〜2秒ほどのラグで表示され、翻訳精度も良いので、カンファレンスでも使えそうだと話しています。
バックオフィスはなぜ「コスト」から「勝ち負けの分かれ目」になったのか
今回のテーマは、小平さんがXで「バックオフィスは今の時代こそ強くするべきだ」と発信していたことがきっかけです。桺本さんも同意しつつ、その背景を小平さんに尋ねました。
小平さんによると、総務・経理・人事などのバックオフィスは、長く「間接部門」と呼ばれ、コストとして扱われてきました。しかし今は、そこが経営の勝ち負けを分ける場所に移ってきていると実感しているといいます。
小平さんは、この5年ほどの経営環境の変化を整理して理由を説明します。1つ目は採用と人材です。昔は募集を出せば人が集まり、採用は総務がやればよい仕事でした。しかし労働人口が減り、人を採れること自体が競争力に直結するようになったため、採用は経営がしっかり担う仕事に変わったと話します。
2つ目は、経営を社長1人で背負えなくなったことです。市場が伸びている時代は、ガンガン売れる社長が1人いれば会社は回りました。今は法律が複雑化し、コンプライアンスや組織の専門知識も必要になったため、経営チームを作って分担する必要があるといいます。
採用難
労働人口が減り、人を採れること自体が競争力になった
経営の複雑化
法律やコンプライアンスが増え、社長1人では背負えなくなった
バックキャスト経営
目標から逆算する経営で、バックオフィスが成長の制約条件になった
投資の必要性
バックオフィスに金をかけないと、全体の足を引っ張る
3倍の規模を先に想定するバックキャスト型の組織づくり
小平さんは、市場の縮小や物価の変動などでボラティリティが高まる中、先に目標を決めて逆算するバックキャスト ── 目指す将来像を先に決め、そこから逆算して今やるべきことを計画する考え方。現状の延長で積み上げる「フォアキャスト」と対比される型の経営が必要だと話します。
小平株式会社では、今から3倍ほどの規模になっても維持できるバックオフィスを、事業計画と合わせて先に作っているといいます。会社の成長速度に合わせて、バックオフィスの組織を整えておく発想です。
今のあのフォアキャスト型からバックキャスト型の経営の経営計画の立て方になった時に、結局バックオフィスがついてこない、ついてこれないと、それが全部の足を引っ張るし。
小平さんは、だからこそバックオフィスにきちんとお金を突っ込まないといけなくなったと述べます。中でも最も重要なのは採用と組織の部分だと、最近しみじみ感じているそうです。
現状から積み上げて計画を立てる
先に目標を決め、逆算して組織やバックオフィスを先に作る
経理と総務は7人から3人へ。DXが生んだ余力の使い道
桺本さんは、採用強化だけでなく、DXやAIの導入によって少ない人数で回せるようになった点にも触れます。人に頼らずAIで回すことも、バックオフィスを強くする1つの文脈だという問いかけです。
小平さんは自社の変化を振り返ります。以前はすべて人力で、経理と総務に7人ほどいても手一杯でした。4つほどの事業部と多くの子会社があり、毎月正確な月次の数字を出すにはそれだけの人数が必要だったといいます。
システム化とDXを進めた結果、小平株式会社の経理と総務は、パートを含めて2.5〜3人で回せるようになりました。桺本さんは「3分の1ぐらい」と受け止めています。
すべて人力で、7人ほどいても手一杯
システム化とDXで、パートを含め2.5〜3人で回せる
小平さんによると、余った人員は労務・法務・広報などへのリスキリングに回し、定年による入れ替えもあったそうです。その結果、さまざまな業務に対応できるようになり、社員の満足度も、数字が出てくるスピード感も上がったといいます。
DXとかAIは、あの、繰り返し作業を、無限の繰り返し作業をとにかく減らせるという利点がものすごくあるから。
桺本さんが「売上が倍や3倍になっても人を増やさずに回せる」と応じると、小平さんは、タスクが増えたときの吸収のバッファーを増やせるイメージだと答えます。
桺本さんも、以前の回で話したGPT-6やコンピューターユースの登場で、パソコン作業の多くをAIができるようになってきたと話します。24時間働ける未来は近そうだという見方です。
会計システムの刷新で、バックオフィスの守備範囲はどう広がったか
小平株式会社は、会計システムをマネーフォワード ── クラウド型の会計・経理・人事労務サービスを提供する企業およびそのサービス群。「マネフォ」と略されることが多いに変えたそうです。小平さんは、3.5人だった体制が、財務と経理、あとはパートさんぐらいで回せそうになると見込んでいます。
小平さんは、会計システムの刷新によって数字がリアルタイムで見えるようになり、Claude Codeなどともつなげて会計情報を取りやすくなるとも話します。そのための投資は惜しまないという姿勢です。
以前の小平株式会社には、労務もきちんと整っておらず、法務担当もいませんでした。小平さんは、複雑化する業務に対応できる幅が大きく広がったと振り返ります。
整備の順番は、経理・労務・法務から採用広報へ
桺本さんは、今は採用のために人事や広報に力を入れているのではないかと尋ねます。小平さんによると、小平株式会社でバックオフィスを整えた順番は、最初から広報だったわけではありません。
小平さんは、社内規定や人事評価制度を変え、それをしっかり実行させるところまでやり切ったのが最初だったと話します。それがひと通り回った今、入社5年目でようやく広報、特に採用広報に力を入れられるようになったそうです。
桺本さんのアナテック・ヤナコでも、来年3月で人事制度の運用が3年になり、そろそろ採用広報に取り組むフェーズだといいます。
note月8〜10本、会社の輪郭を伝える50本の記事
採用広報の手段について、小平さんは以前はWantedlyを使っていたと答えます。Wantedlyはストーリー性のある内容が伝わりやすいからです。
小平株式会社がいま取り組んでいるのは、noteで記事をひたすら書くことです。目標は月8〜10本で、合併対応で忙しい中でも週1〜2本は書くようにしているといいます。
小平さんは、会社全体の輪郭がわかる記事を50本作り上げることをまず目指していると話します。担当のイケダさんが忙しいため今は小平さん自身が見ていて、編集会社ビオトープの石原さんに半年ほど伴走してもらい、品質管理やルール作りを進めているそうです。
企業noteは採用とAI検索にどう効くのか
桺本さんがnoteの効果を尋ねると、小平さんは採用ではやはり効果が出ていると答えます。先日面談した人も、記事をきちんと読んできていたそうです。
僕の記事もあるんだけど、やっぱりこれ(個人の記事)は属人的なところなので、法人としてどういうことをやろうとしているのかっていうのがしっかり見えるのはとても良いなと思いますね。
流入は小平さん個人のnoteやSNSからが多いといいます。フォロワーは1000〜3000人ほどでも、跡継ぎや経営者など質の高い層が多く、その人たちが会社の記事まで見てくれているそうです。外部の取材の際に、正式な広報記事を見てもらえることも大きいと話します。
さらに小平さんは、noteを量産する狙いはAIO ── AI Optimizationの略。生成AIが回答を作る際に、自社の情報が参照・引用されやすくなるよう工夫する取り組みにあると明かします。記事を100本、200本と積み重ね、鹿児島の会社の中で圧倒的な量とクオリティをAIに提供することが最大の目的だといいます。
社内向けの発信としては、以前ZoomでYouTube用の音声を収録していた時期もあったそうです。音声はバスの運転手などの現場ワーカーに聞いてもらいやすく、このローカル企業経営ラジオを聞いている社員もいるといいます。
粗利の10%をバックオフィスへ。兵站としての投資
小平さんは、先代の頃はバックオフィスがコストだと思われていたと振り返ります。人も採れた当時はそれでもよかったものの、その認識のままでは、法律を守れない、労務の要点を押さえられない、広報しないと会社を理解してもらえないといった形で痛い目に遭うと話します。
そこで小平さんが重視しているのが、バックオフィスに一定の予算を使うことです。大企業ではバックオフィス経費が粗利額の12〜15%ほどと言われており、小平株式会社では10%を基準にしようとしているといいます。
桺本さんは、大企業には人員や広告費の規模もあるとしつつ、中小企業で10%はすごいと驚きます。小平さんは、バックオフィスを軍隊の兵站部隊にたとえました。
戦闘員とか食料をしっかり送らないと、結局前線の人たちが疲弊しちゃうから、やっぱりそこ(バックオフィス)はちゃんとやんないとなと思いながら思ってるかな。
桺本さんは、力を入れている会社が少ないからこそ差別化にもなると付け加えています。
売上20億円から3.5倍でも人員は増えていない
小平さんは、現在の小平株式会社を売上60〜70億円規模と見たうえで、3倍のサイズになっても今の体制に少し人を足す程度で回せるかを強く意識していると話します。
その根拠は、小平さんが戻ってきた当時の売上が20億円ほどで、合併を経て3.5倍ほどになった今も、経理と総務の人数は増えていないことです。昔は6〜7人でやっていた業務を、今は少ない人数で回しています。
売上20億円ほど。経理・総務は6〜7人
合併を経て売上は3.5倍ほど。経理・総務の人員は増えていない
小平さんは、今の売上の倍でも現在の人数でやれるはずだと見ています。基幹システムの入れ替えで経理はさらに1人ほど減らせる見込みで、その人をどこに回すかという話ができることが強みだといいます。
20代社員1人で基幹システムを入れ替えた方法
桺本さんが基幹システムの入れ替えは大変かと尋ねると、小平さんは、20代の若手社員が1人でやり切ったと答えます。AIを駆使し、NotebookLM ── Googleが提供するAIノートツール。資料をアップロードすると、その内容に基づいて要約や質問への回答をしてくれるなども活用したそうです。
オンプレミスのシステムからの移行は、マネーフォワード側も手厚く支援してくれたといいます。合併のタイミングだったため新しく一から作れた一方、仕訳の合わせ方や経費項目の標準化を税理士と進める部分には時間がかかったそうです。
でもまあめちゃくちゃいいね。めちゃくちゃいい。まだ最初の決算できてないんだけど。
小平さんは、まだ最初の決算は迎えていないものの、さまざまな情報にアクセスできるようになったことを評価しています。
freeeとマネーフォワード、選択を分けた税理士の壁
会計ソフトの選び方では、税理士との相性が話題になりました。小平さんによると、小平株式会社はfreeeも候補に考えたものの、顧問税理士からNGが出たといいます。桺本さんも近くfreeeのアンバサダーのような立場になる予定で、自社導入を考えているものの、同じく税理士が対応できないという問題を抱えているそうです。
小平さんは、freeeは思想が現代的で、マネーフォワードは従来の会計システムに近いと評します。桺本さんも「従来の会計システムをクラウドにした感じ」と応じています。
思想がモダンで、対応できる税理士がいないと導入が難しい
従来の会計システムに近く、クラウド化したもの
桺本さんは、長年同じ税理士と付き合っている会社では、新しいシステムに対応できないことが起こりやすいと話しています。
中小企業がバックオフィスに投資するための覚悟とは?
最後に小平さんがまとめます。経営そのものがバックオフィスに支えられるようになった今、昔の重要度のままなんとなく続けていると、採用・育成・資金繰りを含めた競争力が行き詰まると話します。
特に今後は金利が上がり、借り入れがしにくくなるため、手元資金を持つことが重要になり、金融や財務も大事になると小平さんは指摘します。
小平さんは、バックオフィスへの投資は短期の費用対効果では説明しきれない中期的なもので、AI投資と同じく経営者のガッツが必要だといいます。桺本さんは、効果が出るまでに短くても2年はかかる感覚だと応じています。
経営者が信じてやりきるのが必要で、説明はできないけど、これが絶対に勝ち筋に行くんだと、これはやるんだっていうような大きな経営戦略での説明が必要かな。
小平さんは、バックオフィスの仕事の多くは情報処理なので、AIやDXを使い倒し、判断に必要な情報が経営者に届く流れを作ることが大事だと話します。そのうえで、中小企業が組織や労務、広報にお金をかけるのは不安でも、これ割と勝ち筋だと勧めます。
小平さんは、決算が良い年に思い切って投資し、計画を作ってやり切ることを提案しています。桺本さんは「攻めのバックオフィスで強めていきましょう」と締めくくりました。
まとめ
この回では、バックオフィスをコストではなく成長の制約条件と捉え、3倍の規模になっても回る体制を先に作るという小平さんの考え方が、具体的な人員の変化や投資の基準とあわせて語られました。
- 採用難と経営の複雑化により、バックオフィスは経営の勝ち負けを分ける領域になった
- DXによって経理・総務は7人から約3人になり、余った人員を労務・法務・広報に回せた
- 整備は経理・労務・法務から始め、制度が回ってから採用広報とnote発信に進んだ
- 粗利の10%を目安に、兵站としてバックオフィスへ投資する
- 短期の費用対効果では測れないため、経営者が信じてやり切る覚悟が必要になる




