名和さんがデザイナーになるまで
番組の冒頭で、まず名和さんがどうやってデザイナーになったのかが語られます。
名和さんの両親はデザイン系の仕事をしていて、いわゆるサラリーマンという働き方が想像できない家庭だったと話されています。
スーツ着て働くの嫌だっていうのは、多分中学生ぐらいから思ってた。
自分たちが幼少期を過ごしたのは30年近く前で、その時代に私服で働くことがイケていると中学生ながらに感じていたそうです。
進路は建築家かグラフィックデザイナーの二択でした。最終的にグラフィックを選んだ決め手は、シンプルに学力だったと振り返ります。
建築は受かる気しないみたいな。のがあったんで、まあグラフィックデザインやってみるかと思ったのがきっかけかな。
父親が桑沢デザイン研究所を出ていたこと、そして早く働きたかったことから、3年制の桑沢を選んだと話されています。
写生大会と父親のフィードバック
名和さんの初期衝動は、小学校の頃の写生大会にさかのぼります。
家族全員で動物園の写生大会に参加していたそうです。そこで小学1、2年の名和さんに、父親が思いがけない言葉をかけます。
全然違えだろって言うのよ。(ちゃんと)見ろと。そんな形してないだろみたいな。
自由な発想を育てるというよりも、まず観察をきちんとしなさい、というデッサンの姿勢を教えられていたと考えられます。
学校の写生大会で描いて持って帰ると「違う」と言われ、その週の休みにまた同じ場所へ描き直しに行かされることもあったそうです。
子供からしたら、「いやだってそう見えないんだもん」っていうのあるじゃん。
一方で、発想力が問われる場面では、発想もきちんと褒めてくれたと話されています。図工の時間に作ったニワトリが寝ている本立ては、父親が気に入ってずっと使っていたそうです。
立体物を作ると褒められることが多く、それが建築やプロダクトへの興味につながったのかもしれないと振り返ります。
小澤さんは、名和さんがグラフィックデザイナーでありながらプロダクトの感性を持っていることに触れ、以前一緒に作ったクッキーの仕事などを例に挙げています。
ZINEを描く漫画「RIOT」とActual Sourceの重なり
ここで小澤さんが、最近読んだ「RIOT」という漫画を紹介します。田舎の高校生がZINEを作る物語です。
主人公は二人組で、片方が企画編集を、もう片方が誌面デザインを担当し、雑誌を作り出していきます。最初に作ったものは誰にも認められなくても「楽しかったよね」「次はどうしよう」と続けていく物語だそうです。
小澤さんは、この漫画がActual Sourceの創業以前の話に「ほぼ」重なると話します。
ほぼこういうことやんと。ActualSourceの歴史を見ると「あれRIOTってActualSourceの話やん」っていう。
最も伝えたいのは、Actual SourceがまさにDIYカルチャーから始まったブランドだという点だと語られます。しかも今もアメリカのユタ州プロボという田舎に拠点を置き、スタートから場所を変えていないそうです。
Actual Sourceの成り立ち
Actual Sourceは、JPヘイニーさんとデイビス・ンガルペさんという二人組が中心のスタジオです。
二人は2004年に共通の友人を介して出会い、デザイナーになる前に友達になったそうです。その後、ルームメイトからグラフィックデザインの世界を紹介され、それぞれ別の大学でデザインを学びます。
卒業後、LAに行った方も一度ユタ州に戻ってテック企業に就職し、そこでもう一人がインターンとして働くことで再会します。そこから本格的に一緒に作り始めたそうです。
最初のプロジェクトが、自費出版の雑誌「Shoplifters」でした。これがActual Sourceの始まりの始まりだと語られます。
その後、二人が出会った2004年にちなんで「No.04」というデザインスタジオを立ち上げます。
ものすごいなんか友情にドライブされてる感じの、いい感じの関係性なんですよ。
自分たちが偏愛する雑誌やタイポグラフィの仕事を受けたくても最初は依頼がなく、ポートフォリオを作るために自分たちで雑誌を作り始めたそうです。
ユタ現代美術館での個展で、アートブックとして「Actual Source」という本を作り、それがそのまま今のブランド名になっていきます。
スタジオ名がActual Sourceになったのは2017年で、10年経っていない比較的最近のことだと話されています。
雑誌Shopliftersは10号で終わり、各号がコレクターズアイテム化しています。小澤さんによれば、中古市場にもほとんど出回らないほどの人気だそうです。
なぜクリエイターの支持を集めるのか
Actual Sourceは、クリエイター界隈で一種のカルチャーアイコンになっていると小澤さんは語ります。キャップやTシャツを身につけていると、それだけで通じ合う何かがあるそうです。
その理由は、初期衝動のまま突き進みたい気持ちと、商業デザインの現実との折り合いにあると考えられます。
Actual Sourceは、デザインスタジオでマネタイズの大半をしながら、自分たちが最も愛する出版社・書店という活動を続けています。バランスを取るために、あえて両方をやっているそうです。
燃え尽き症候群にならないために、クライアントワークを受けすぎないようにコントロールしてるとか。そのノーという勇気とか。
名和さんは、多くの人がデザインに触れると生き方も美しくしたくなり、自分の偏愛を大事にしたいと思うと語ります。
一方で、働き始めるとお金が必要になり、いつしかお金をもらうデザインの方が偉いような空気になっていくと話します。
自分が一番気持ちいいって思う何かで、お金を稼げると一番ベストだって思ったから、このデザインみたいな仕事をやり始めた。
本来はより良い世界を作りたいという思いでスタートしたのに、目的がすり替わっていく。二人はそこに資本主義の難しさを感じていると語り合います。
本当に大事なのは時間のはずが、それがお金に転換され、初期衝動すら忘れていく。名和さんは、そのことを忘れないための循環をActual Sourceが体現していると評価します。
場所の制約を超えるDIY精神とマルチな展開
名和さんは、ユタ州という田舎で活動が成立していることに注目します。多くのクリエイターが東京に集まる中、Actual Sourceは別の可能性を示していると考えられます。
小澤さんは、技術の進歩で時間と場所の制約がなくなりつつあることに触れ、日本のデザイナーの地方移住の先駆けだったのかもしれないと話します。
雑誌を作り始めた結果、憧れのHYPEBEASTから仕事が来たそうです。その勢いのまま、帽子が好きだから帽子を、タイポグラフィが好きだからフォントを作るという展開を続けています。
専門性を問わずやりたいことをやってみるDIY精神から、Actual Sourceは「マルチフォーマットの出版社」とも呼ばれると語られます。
小澤さんは、そこに80年代USオルタナのソニックユースのようなアティチュードを感じると話します。デザイン界隈における、そうしたオルタナティブの先駆けにいるのではないかという見立てです。
新卒の面接で「自己表現なんかデザイナーはしない」と怒られた経験も語られます。頭では理解しつつ、表現したい欲求がなければAIに代替されるスキルしか残らないのではないか、と小澤さんは振り返ります。
コモディティ化とカウンターカルチャーの必要性
Actual Sourceを語るとき、しばしば「ペンタグラムのような無難でクールなブランディングではなく」という枕言葉が出てくると小澤さんは紹介します。実際に彼らがそう言ったかは定かではないと断ったうえでの話です。
名和さんは、世の中のほとんどがコモディティ化していると指摘します。今のやり方では、触れているものに差をつけることはほぼできないという見方です。
小澤さんは、コモディティ化していい領域もあると応じます。例えばUIは本来もっと効率化されるべきで、UIデザイナーの本質は多くの人がやっていない部分にあると話します。
一方で、メインがコモディティ化しているからこそ、カウンターとしてActual Sourceのような存在が求められる。そのコンテキストは絶対になくならないと語られます。
効率と妥当性が重視され、差をつけにくい。UIなどが例に挙げられる
主流に対する違和感から生まれ、新しいスタイルを提示する。Actual Sourceの立ち位置
FigmaやA24との呼応、時代の声
Actual Sourceは、フォントメーカーのDynamoと関係が深く、ロゴにもDynamoのフォントが使われていると語られます。
そのDynamoは、Figmaが初期に使っていたコーポレートフォント「White Interlap」も手がけていたそうです。緩くて今っぽいけれど不真面目ではない、Figma初期のボヘミアンなムードに、Actual Sourceの世界観が重なると小澤さんは話します。
さらに代表的なのがA24との関わりです。「ムーンライト」や「エクス・マキナ」の脚本集がActual Sourceのデザインで刊行され、マーチャンダイズにも関わっていると語られます。
ある時から急に自分たちの好きなものが全てA24の配給だったりして。なるほどと思ってた。
オルタナティブでカウンターカルチャー的という文脈で、Actual SourceとA24は密接に呼応していると二人は語り合います。まさに時代の声を捉えている、という評価です。
極端なアバンギャルドには振れず、基本を踏まえたキュレーションの上に一振り二振りを加える。その地続きな感覚が今っぽいと話されています。
NIKEとの仕事、そして日本のデザインとの違い
HYPEBEAST以降、Actual Sourceは名だたるクライアントと仕事をしています。代表例がNIKEとのコラボレーションです。
NIKEの50周年を記念したデザインビジョン集「No Finish Line」で、Actual Sourceがパブリッシャーに選ばれています。GhostlyInternationalというエレクトロニック系レーベルのマーチャンダイズも手がけているそうです。
ここから話は日本と欧米のデザインの違いに広がります。名和さんは、欧米ではアート的な表現が比較的許容されると感じると話します。それは表現が企業の言いたいことと合致し、商業としても成り立つからだという見立てです。
名和さんは、デザインとアートを分ける二元論はあまり意味がないと語ります。世の中の人がワクワクし、美しいと感じれば結果としてOKだ、という立場です。
商業だけやってると、耕せない自分の能力があるじゃん。そこを耕していかないと、ある時点で劣化していくんだよね。
名和さんは、欧米のデザイナーがアートスクールで哲学を学ぶ点に注目します。考え方が違えば同じものも違って見える、という理解が「自分たちの哲学は何か」という問いにつながるという指摘です。
小澤さんは、日本のファッションブランドTSTSのデザイナーが、文化服装学院とアントワープの違いに触れていたインタビューを紹介します。前者は職業訓練校の色が強く、後者はステートメントを絶対視していた、という対比です。
名刺の渡し方のような実務や技術の習得に比重が置かれる傾向
哲学やステートメント、自分が何を主張するかを重視する傾向
岡本太郎、亀倉雄策、そして起業という結論
名和さんは、太陽の塔を初めて見て岡本太郎を誤解していたと感じたそうです。変わったおじさんではなく、世界への人類愛を持ち、地球をよくしたいと本気で思っていた人だと語ります。
多分彼にとってはそれが哲学なんだと思う。「これが俺にとってはすごく大事なこと」で、そこからあんまり作ってるものがブレてない。
亀倉雄策のポスターが今見ても美しいのは、美学と手業が集約され、それをビジュアルとして感じ取れるからだと話されます。岡本太郎も亀倉雄策も、ある意味で一つのブランドだという見方です。
小澤さんは、かつての大先生デザイナーの時代の方が遊び心のあるデザインが許されていた不思議さに触れます。中条正義の名前も挙がり、あれを見るとデザインかアートかを考える意味はないと語られます。
日本にも星野源のようにグラフィック界隈をフックアップする存在はいるものの、それを実現するには星野源ほどビッグにならなければいけない側面があると小澤さんは指摘します。Actual Sourceはそのレベルに頼らず、スタジオ単体でその位置に到達しているという対比です。
そこから導かれる結論は、デザイナーは起業して自分たちから発信すべきだ、というものです。受託は受けたものを形にするしかないが、起業すれば能動的に動けると語られます。
BはCにも行けるルートがなきゃダメで、ここを行き来できるようになんなきゃダメみたいな。
二人は、日本のNeue Tokyoを例に挙げます。カメラ系のプロダクト事業とクライアントワークが幸福に循環している、意思のあるスタジオだと評価します。
小澤さんは、アメリカのNot Boringがカメラアプリをリリースし、そこにNeueが関わっていた例を紹介します。能動的に動くからこそ、気の合う人から仕事が来るという流れです。
まとめ
Actual Sourceは、田舎で初期衝動から始まったDIY精神を、デザインスタジオと出版・書店という両輪で成立させています。商業と情熱の折り合いに悩む多くのクリエイターにとって、その両立の姿が憧れと指針になっていると語られました。
- Actual Sourceはユタ州プロボを拠点に、デザインスタジオ・出版社・書店の三つの顔を持ち、商業と情熱のバランスを保っている
- クライアントワークで収益を得ながら、燃え尽きないよう仕事を受けすぎない「ノーという勇気」が支持の理由とされる
- 主流がコモディティ化するからこそ、カウンターカルチャー的な表現の文脈は必要とされ続ける
- 欧米のデザイン教育は哲学を重視し、それが「自分たちの哲学は何か」という問いにつながっていると指摘された
- 番組が導いた結論は、デザイナーは起業して能動的に発信し、BとCを行き来できる立場を作るべきだということ
