OP-1との出会いと「おもちゃみたいな楽器」
番組では、まず二人がteenage engineeringをどう知ったかから話が始まります。名和さんはTwitterのタイムラインで筐体のデザインに惹かれ、小澤さんは創業初期から知っていたと言います。
teenage engineeringは2007年に創業。最初のプロダクトであるOP-1のプロトタイプ制作もこの頃で、発売は2011年でした。その後、数年のスパンで一気に人気になっていったと小澤さんは振り返ります。
小澤さんがOP-1と出会ったのは、フォークやアコギからエレクトロ系の音楽制作に移った頃。渋谷の楽器店でシンセやサンプラーを探していたとき、面でフィーチャーされていたOP-1を触って「めっちゃ楽しい」と感じたそうです。
そもそもシンセサイザーは、ツマミが大量にあり、音の発振源であるオシレーターにさまざまな変数をかけて音を作る、かなりオタク向けの楽器だと小澤さんは説明します。
一方、OP-1のツマミはたった5つ。しかも一番左はマスターボリュームなので、実質4つしかありません。画面を切り替えると、この4つに割り当てられる機能が変わる仕組みです。
正直シンセサイザーなんて、僕もアナログのシンセサイザーを買ったことありますけど、大きいツマミが大量にあるやつ。何をいじったらどう変わるのか全くわからん、みたいな。
OP-1が発売された当時、よく言われたのは「おもちゃみたい」という評価でした。ただ、小澤さんによれば、OP-1がすごかったのは、そのおもちゃのような楽器から強い創造性を引き出せる点だったと言います。
音がフィードバックされ、その音に自分がまた反応する。この繰り返しのループが創造性を高める。そこが秀逸だったと小澤さんは話します。
広告を辞め、モノづくりへ向かった創業者
OP-1を生んだのは、2007年にスウェーデンで会社を立ち上げた創業者のイェスパーさん{要確認: イェスパー・クートフーズ}です。話者もスウェーデン語の読みには自信がないと前置きしています。
創業のきっかけは、かつてデザイナーとして別の会社で活躍していたものの、クリエイティブでない仕事の割合が増え、嫌気がさして辞めたことでした。
小澤さんと名和さんも広告デザイナーであるため、この話には強く共感します。特に、創業メンバーとして始めた集団が、成功して規模が大きくなるほど、経営や組織マネジメントが増えていく状況はよく聞くと語られます。
イェスパーさんのルーツはグラフィックデザインで、もともとレコードのアートワークなどを手掛けていました。そこからエンジニアリングに憧れ、工学のスクールで学んだという経歴を持ちます。
さらに、teenage engineering設立前に、同じくスウェーデンの楽器メーカー、エレクトロン{要確認: Elektron}の創立者たちと知り合います。
エレクトロンは、テクノなどのダンスミュージック制作に向いた機材で知られ、DTM界隈ではteenage engineeringと並ぶ二大巨頭のような存在だと小澤さんは説明します。
イェスパーさんは、エレクトロンの初期製品であるマシンドラムやモノマシンのデザイナーのヘッドとして携わっていました。これらは、レディオヘッドのトム・ヨークなど、電子音楽に傾倒したクリエイターに支持された機材でもあります。
ハードウェアにも音楽にも深く関わってきたイェスパーさんは、2007年、「これ以上広告の仕事は続けたくない」と決意します。プログラマーと共同でスペースを借り、それまでの資金で3Dプリンターやレーザーカッターを買い、プロトタイプ制作を始めました。
リアルなモノに触れることの価値
ここから話は、二人が共感する「手を動かすこと」「リアルなものに触れること」の価値へと広がっていきます。
名和さんは、最近娘が生まれたことにふれ、ベビーベッドを組み立てた体験を語ります。ネジを回し、順番を考えながら手を動かすと、目の前でものが出来上がっていく感覚が楽しかったと言います。
手を動かせば動かすほど、ものが出来上がっていくんで、ちゃんと。で、その順番をミスったら自分に返ってくるじゃん。はまらないとか。
完成形を写真で想像しながら、説明書なしで手順を考える。簡単な作業でも、リアルな空間にものが増えていく達成感は、デジタルにはないものだと名和さんは話します。
小澤さんは、これに関連して自身が好きな話として、AIとロボティクスの話題を、自信のなさを前置きしつつ紹介します。
人工知能が人の脳を再現できても、まだ「水槽の中の脳」のような存在は作れない。その理由の一つとして、触覚をフィードバックできるロボティクスが追いついていない、という考え方があると言います。
触ったり見たものでもいいんですけど、そのフィードバックをループしながら脳が大きくなっていく。触るとか、動かしたらこう動く、みたいな複雑なインプットの中で、人間の脳って進化していくんだ、みたいな。
名和さんは、いま興味がある職業として大工と農業を挙げます。土を触っただけで良い土かどうかわかるような感覚は、デバイスを通した判断とは違い、代替できないと語ります。
小澤さんは、第六感とは研ぎ澄まされた五感の組み合わせであり、訓練した人間に勝るものはないと応じます。二人は、リアルへの回帰というより、もともとリアルこそが重要だったのだと確認し合います。
小澤さんは、広告の仕事について、実体のないものを売り続ける空虚さにも触れます。ウェブサイトのように何かをアウトプットするならまだしも、価値がわかりにくいものを作って売り続けることには、辛さを感じるときがあると語られます。
デザインから始めるモノづくりと「絵が描けるか」
話は、teenage engineeringのデザイン哲学へと進みます。彼らは触覚を強調し、北欧的なスカンジナビアンデザインの影響を表面的ではなく本質的に体現していると小澤さんは評します。
機能とデザインの両立の秘訣を問われたイェスパーさんの答えは、「製品を一度見た後、その絵が描けるか」というものでした。
これはロゴデザインでも聞く話だと小澤さんは言います。自社の社員がざっくり正しく描けるか。細かいディテールは置いておき、ざっくり描けて合っている部分こそが本当のシンボルだ、という考え方です。
OP-1で言えば、右上に4つのツマミがあり、隣にディスプレイ、下に鍵盤がある、といった構成をざっくり描ける。この覚えやすさが特徴だと語られます。
人間の記憶なんて貧弱なので、自分はもう4桁以上の数字なんて覚えられない。だからノブの数は4つなんだ、みたいな。
さらに驚くのは、teenage engineeringが製品開発をデザインから始めるという点です。ハードウェアでありながら、機能からではなくデザインから入るのは珍しいと二人は話します。
小澤さんは、これはおそらく全体のイメージが先にあるからだと解釈します。完成形を先に見据え、途中のプロセスを無意識に組み立てているのではないか、という見立てです。
実際、ほとんどの製品はノートへのスケッチから始まり、大まかな形状からモックアップを作り、その上に直接アイデアを描いていくそうです。ハードウェアならではの、ものが出来上がる嬉しさがあると二人は共感します。
聞き手と作り手のギャップを埋める
teenage engineeringの根本にあるのは、「聞き手と作り手のギャップをどう埋めるか」という問いだと小澤さんは紹介します。
音楽ファンやリスナーが、自ら作る側に至るには何を埋めればいいのか。聞くくらい好きなら作ってみればいい、という発想が根底にあります。
(teenage engineeringは)みんなにもっと音楽を楽しんでほしい、ということですか。
名和大気 さんからの質問
聞くほど好きなら作ればいい、という考え方が根本にあります。ただしギターを覚えるのも、一曲を丸ごと作るのも大変です。OP-1はドラムマシンも備え、カチャカチャ触っていれば誰でも一曲作れるように設計されている、という点にその思想が表れています。
小澤さんによれば、あるインタビューでイェスパーさんは「どうすれば医療従事者をteenage engineeringのファンにできるか」を議論していると語っていたそうです。
受動的に聞く行動から、能動的に作る行動へ。音楽をスポーツやアウトドアとつなげるにはどうするか、という問いも根源的にあると言います。
名和さんは、これはある種の民主化の話だと受け止めます。おもちゃっぽく、とっつきやすい見た目にすることで、作ることを特権的なものにしない狙いがあるのではないか、と解釈します。
小澤さんも同意し、適当に触っても混乱しないUIでありながら、音を作る中の構造もきちんと気にしている、と補足します。
ツマミが大量にあり、音響学的なアプローチから入る。何をいじるとどう変わるか把握しづらい
実質4つのツマミとシンプルなUI。触りながら音のフィードバックに反応し、素早くアイデアを形にできる
OP-1が広げた創造性と「適切な制限」
OP-1は、シンセ本来の枠を超えて、UIデザイン業界やIT系の人々からも支持されました。Figmaでハードウェアを模写する人が現れるなど、Twitterのタイムラインでも話題になったと二人は振り返ります。
小澤さんが好きなエピソードとして挙げるのが、アメリカのミュージシャン、ボン・イヴェール{要確認: Bon Iver}のジャスティン・ヴァーノン{要確認: Justin Vernon}です。グラミー賞にもノミネートされたインディー界の重鎮です。
もともとアンビエントフォーク寄りだった彼が、3枚目のアルバムでエレクトロニクスやインダストリアルな音を取り入れ、大きく作風を変えました。その変化を支えたのがOP-1だったと小澤さんは語ります。
OP-1は外部の音をサンプリングし、それを鍵盤の音程ごとに割り当てて弾くこともできます。ジャスティン・ヴァーノンは、コーラス隊の声をサンプリングしてコードで弾くなど、独自の使い方で新しい曲を生み出したそうです。
小澤さんは、こうした制限のバランスがちょうど良かったのだと分析します。ガチャガチャ触って生まれた音を、既存の音楽理論に当てはめて弾く。そのつながりが新しさを生んだと言います。
名和さんは、ツマミが多すぎると変数が理解できなくなるが、少なければ「これとこれを足すとこうなる」と考えられる、と応じます。
アナログシンセを音響学から使っていた人たちから、普通のミュージシャンへ。そして、もっと楽にイメージを形にしたい人たちへ。OP-1は新しい扉を開いたと語られます。
完璧じゃなくてもいいから、こんな感じのものがある、っていうのを、イメージを(形にする)。
名和さんはこれをプロトタイプを高速で作れることに例えます。小澤さんは、それがもはやプロトタイプではなく、そのまま出せるクオリティになっている点も指摘します。
teenage engineeringという名前に込めた哲学
最後に小澤さんは、社名に込められた哲学を紹介します。社名はスウェーデンのバンドの曲の一節からインスピレーションを得ているそうです。
その意図は、ティーンエイジャーのような好奇心や無鉄砲さを忘れずにいよう、というもの。大人になりきらず、常に新しいことにナイーブに挑戦しようという姿勢です。
ビジネスの適正価格や市場を考えず、まず作りたいものを作る。知識やスキルが十分でなくても、エネルギーと意欲でとにかくやってみる。そんなスタートアップ精神を会社の文化にしたかったと語られます。
名和さんも「それだよね、本当に」と強く共感します。
さらに小澤さんは、イェスパーさんとteenage engineeringが、実は同じスウェーデンのファッションブランド、アクネ ストゥディオズ{要確認: Acne Studios}の出身であることを明かします。
番組は、次回このアクネ ストゥディオズ周辺で生まれたコミュニティを、teenage engineeringと絡めて掘り下げる、と予告して締めくくられます。
まとめ
teenage engineeringは、広告の仕事に空虚さを感じた創業者が、リアルなモノづくりへ回帰する中から生まれました。触覚と適切な制限を軸に、聞き手を作り手へ変えようとする哲学が、OP-1というプロダクトに凝縮されています。
- OP-1は実質4つのツマミとシンプルなUIで、音のフィードバックのループから創造性を引き出す
- 創業者は広告デザインを辞め、車いじりやモノづくりを通じて触覚的な創造性を取り戻したとされる
- 製品開発をデザインから始め、「一度見た後に絵が描けるか」を重視する
- 根本にあるのは「聞き手と作り手のギャップをどう埋めるか」という問いで、音楽制作の民主化を志向する
- 「適切な制限がクリエイティビティのキーになる」という考えが、OP-1の設計と支持を支えている





