第3のメンバー・氏家さんと釣りのために移住した半生
今回は番組に初登場となる氏家浩史さんが参加しています。宮城県出身で、大学から東京に出て小澤さん、名和さんと一緒に働いていた時期があります。
現在は釣りを中心にした生活を送るため、北海道へ移住しています。きっかけはコロナ禍だったと話されています。
映画とか美術館とか古本屋みたいな、東京でカルチャーに染まりきった生活をしてたんですけど、コロナ禍で、行ったらちょっとやんや言われそうだなという感じがあって。人がいないところってどこ?ってなって、最初は登山をしてたんですよね。
登山をするうちに、水辺のある場所に惹かれていきます。南フランスのバカンスを描いた古いフランス映画の川のシーンが好きで、秘境感は水辺にあると感じたそうです。
登山と釣り、水が一緒にあるのって川釣りじゃない?っていうのに気づいて。そこから道具を買って釣りを始めたんですよ。
幼少期にも港町出身の親と釣りをしていましたが、当時は釣れずに飽きて寝ているだけで、家族からは釣り嫌いだと思われていたそうです。
東京や関東近郊で釣りを続けても、最初の1年はほとんど釣れませんでした。原因が自分の腕なのか魚がいないのかもわからなかったと言います。
調べてたら北海道ってトラウト王国らしいぞっていう記事を見かけて。よし引っ越そうって思って、会社を辞めて引っ越しました。
その後、札幌に住んでみたものの釣りがしづらいと感じ、さらに旭川へ引っ越しています。生活の中心はあくまで釣りだと話されています。
手に入らないルアー「タイニークラッシュ」の異様さ
そんな氏家さんが釣り生活の中で気になっている強烈なブランドが、琵琶湖発のルアーメーカーDRTです。氏家さんはまず「謎に包まれていて、手に入らないルアーを扱うメーカー」という印象を語ります。
この釣り具屋で売ってるぞみたいなのがXに投稿されると、オンラインストアを見たらもう売り切れてる。現地に行かないと手に入らないだろうなと。検索して出てくるのは、ヤフオクで使った後のルアーが定価の2.5倍とかで売られてるみたいな感じですね。
一般的な釣りルアーでは、限定色や監修モデルにプレミア値がつくことはあっても、通常品が手に入らないことは珍しいと話されています。
DRTで最も有名なルアー「タイニークラッシュ」は、どのカラーでも出た瞬間に即完売するといいます。何が何でも手に入れたいと思っても手元に届かないレベル感だそうです。
この構造はスニーカーカルチャーに近いようで、しかし決定的に違う点があると氏家さんは指摘します。
スニーカーは何々とコラボして限定だから高くなるじゃん。でもこれは別にコラボでも限定でもなく、通常販売してるのがそもそも高くなるっていう。あんまりない。
釣り狂いだから知る、知る人ぞ知るブランド
釣りにも様々なジャンルがあり、名和さんはDRTを知らなかったと話します。氏家さんは名和さんと自分の釣りへの向き合い方の違いに触れます。
俺はなんか釣れたら楽しいんだけど、どちらかというと釣りに行って、釣れなくても釣ってる自分が楽しいんだよね。行くまでとかも含めて遊び。
一方で、氏家さんは小澤さんの釣りへの姿勢を「狂ってる」と表現します。
どの色のルアーを何時にどの深さに投げて釣れたかっていうのをスプレッドシートにまとめたりしてたっていう。もうやばくない。
こうした研究対象として釣りに向き合う人だからこそ知る、知る人ぞ知るブランドがDRTだといえそうです。
氏家さんや名和さんがメインとするのは川や湖でマス類を狙うトラウトフィッシングで、その界隈ではDRTはあまり知られていないと言います。主にブラックバスを狙う釣りや、シーバス狙いの人たちに人気があるそうです。
でかいルアーででかい魚を狙う「ビッグベイト」の世界
DRTが根ざすのは、琵琶湖のバス釣り文化です。日本でルアーフィッシングが爆発的に流行したのはバスフィッシングだったと氏家さんは説明します。
日本にブラックバスを持ち込んだとされる人物が放流し、それが各地で増え、ゲームフィッシングを楽しむ人が増えていった流れがあると話されています。外来種として繁殖力が強く、釣って楽しむことが悪いことでもないという空気も広がりを後押ししたようです。
そのバス釣りの中でも、DRTは「ビッグベイト」というジャンルに位置づけられます。氏家さんはその歴史をたどります。
ビッグベイトの黎明期は1980年代後半から90年代のアメリカで、最初期のものはアラン・コールが作ったACプラグとされます。当時から20センチ超のルアーを投げていたそうです。
ちょっと絵が浮かばないんですけど、僕の知ってる釣りではないですよね。20センチぐらいのルアーを投げる。
その後2000年頃に日本へ入り、2004年にはS字を描いて泳ぐ「ジョインテッドクロー」が登場します。まっすぐではなく蛇行しながら向かってくるルアーで、今も定番中の定番だと話されています。
大きなルアーで大きなバスを釣るビッグベイトは、専門メディアからバス釣り界のアンダーグラウンド、ハードコアと位置づけられるような自意識を持つジャンルだといいます。
「オール・オア・ナッシング」というギャンブル性とロマン
ビッグベイトは効率的にたくさん釣るためのものではなく、あえて難しいことをやる面白さがあると氏家さんは言います。
バス釣りのトーナメントでビッグベイトを使っている人は、日本では僕はそんなに見たことないかもなと思ってます。それぐらいギャンブル性が高いというか。
この性格を象徴するように、DRTの公式サイトのタイトルには「オール・オア・ナッシング」という言葉が掲げられています。
しかもそれ五分五分とかじゃなくて、多分九一ぐらいかゼロ百。そんな感じなんで。
釣れれば大きい。その一撃を味わいたいがために投げ続ける。ドーパミンやロマンを軸にした釣りだと二人は話します。
スケート・パンク・ものづくりが生んだDRTの美学
DRTは小売りの多くが抽選になり、取り扱い店でも一人一個まで、転売目的お断りと明示する店舗が多いといいます。ルアーを買うのに抽選申し込みが必要という、スニーカーブランドに近い状況です。
リセール市場では価格が高騰し、定価5,000円台のタイニークラッシュが高騰期には2万円前後になったこともあるそうです。限定カラーだと3万円という情報もあると紹介されています。
スニーカーの方がまだ理解できるよね。日常的に使えるじゃん。でもすごいね。すごい世界だね。
YouTubeでは「タイニークラッシュ」という商品名そのものが動画タイトルのタグとして使われることもあり、そのルアーが特別であることの証だと氏家さんは話します。偽物も存在し、真贋鑑定の記事まであるそうです。
この熱狂の背景には、創業者・白川友也さんの出自があります。スケート、パンクやハードコアのバンド活動、さらに塗装や溶接といったものづくりの職歴が、DRTの美学に反映されていると考えられます。
彼のインタビューからの抜粋では、ノブ交換はスニーカーを履き替えるように、という言葉が出ています。
白川さんはミュージック、スケート、アウトドア、ラジコンなどのカルチャーからインスピレーションを受けていると語っており、その出自がそのままブランドの色に反映されています。登山のMYOG(Make Your Own Gear)のような、自分の道具を自分で作るDIYカルチャーにも近い感覚があるといえそうです。
賢くなる魚と、環境が育てる琵琶湖のハードコアな釣り文化
白川さんはDRTの前身「DIVISION」を2007年頃に設立し、その後、釣り場として最も魅力的だったという理由で琵琶湖のある滋賀へ移住します。そこからDRTが本格化していきます。
琵琶湖のような釣り場では、釣ってはリリースを長年続けることで、ルアーに反応しない魚が増えていくと氏家さんは説明します。
魚はものすごくたくさんいるんですけど、すごく釣るのが難しいっていう状態になるんだと思います。適応していく魚と、釣り人やルアーメーカーとのいたちごっこみたいなことが起きているんだと思いますね。
小澤さんも、北海道の支笏湖で1年通っても初年度は一匹も釣れず、反応すらなかった経験を語ります。地元のフライフィッシングの人からは、20年前より魚が賢くなり釣れなくなったと聞いたそうです。
巨大なマザーレイク琵琶湖で繰り広げられる、賢くなる魚と釣り人の勝負。その環境そのものが、ハードコアな釣り文化を育てていると考えられます。
同じですね。釣り場が魅力的なところに住むんだ、釣り好きな人は。
スケートボード、ものづくり、サブカルチャー、そして琵琶湖という地域。個人の出自と状況がそのまま強いナラティブになり、ブランドへと結晶していく。DRTはその代表的な事例だと二人は整理します。
最後に小澤さんは、カルチャーが強固になる条件について私見を述べます。ギャル語やネットスラングのように、仲間同士でしか通じない暗号があることが鍵になると言います。
仲間同士でしか通じない暗号を作ることで、同じ言葉を使うと「お、君もこっちの仲間ね」ってわかる。ある種のゲートキーピングがあるからこそ、カルチャーとして強烈になっていくのかなと。
まとめ
DRTは、手に入らないルアーで熱狂を生む琵琶湖発のインディペンデントブランドです。ビッグベイトのギャンブル性、賢くなる魚との攻防、そして創業者の出自がそのままブランドになる構造から、「わかる人にしかわからない」ことで強くなるカルチャーの姿が見えてきます。
- DRTはコラボや限定ではなく、通常品そのものが高騰する珍しいルアーメーカー
- ビッグベイトは効率よりロマンを重視した「オール・オア・ナッシング」の釣り
- 創業者・白川友也さんのスケート、パンク、ものづくりの出自がブランドの美学に直結
- リリースを繰り返す環境が魚を賢くし、琵琶湖のハードコアな釣り文化を育てる
- 個人の強烈なナラティブと、暗号のような参入障壁がカルチャーを強くする
