そもそもプレスリリースとは何を書くものか
番組「みんなのイベント楽屋裏」の第6回テーマは、「プレスリリースは配信した後が本番」です。イベントをやる側だけで裏側を語る回として、砂流さんとダイムさんがプレスリリースの役割を整理していきます。
まず前提として、プレスリリースとは何かという話から始まります。砂流さんは、リリースを「企業が公的に出している文章」と説明します。
プレスリリースは簡単に言うと、企業が公的に出している文章。
出し方に厳密なルールはなく、日本企業の主流はPR TIMES ── 企業のプレスリリースが集まる配信プラットフォーム。多くの企業がここに掲載し、メディアや一般読者に情報を届けているへの掲載だと砂流さんは話します。加えて、つながりのある媒体やフリーランスの記者にメールで送る方法も一般的だといいます。
書かれる中身は、新サービスの発表、キャンペーンの告知、人事異動、実績の伸びなどです。たとえば「10団体しか使っていなかったサービスが50団体まで増えました」といった内容を、基本的なルールに沿って書くものだと説明されています。
特にスタートアップでは、広報の最初の役割として「まずプレスリリースを出すこと」が振られることが多い、と砂流さんは話します。できるだけ多くのメディアに知ってもらうのが仕事の起点になっているわけです。
イベントのリリースは、なぜ記事になりにくいのか
ここから話はイベントのプレスリリースに移ります。砂流さんは、イベントのリリースには複数の役割があると考えています。
一番わかりやすいのは「◯◯イベントを開催します」という告知です。開催日時、場所、登壇者、ピッチコンテストなどのコンテンツ、そして主催者の情報を載せていきます。
新サービスや大企業のリリースなら、メディアに載せてほしい、話題にしてほしいというのが大きなゴールになります。ところが、イベントのリリースで記事を書いてもらうのは非常に難しい、と砂流さんは指摘します。
音楽フェスの場合、世界的に有名なアーティストの発表そのものが報道価値を持ちます。一方でスタートアップイベントは、超有名人が来るわけでもなく、「開催されます」という告知自体にメディア側のメリットが薄いのです。
今年のフジロック、こいつが来るぞみたいなニュースは多分PVも取れるし、媒体としても報道価値が高いと思うんですよ。
普通にこういうイベント(が)開催されますっていうことを告知するメリットがメディアさんにあんまないんですよね。
ダイムさんは、メディアが事前記事を書きにくい理由を、記事の性質から補足します。イベントは「どういうイベントだったか」という結果を報告する形が多く、開催前の期待値だけでは記事にしづらいというのです。
期待値だけで読者に対して記事書くのもちょっと違うなとは確かに思います。
そのため、プレスリリースを書けばメディアが記事にして客が集まる、ということはあまりないというのが、2人の共通認識になっています。
4ヶ月で20本。それでも出し続ける理由
ダイムさんは、IVSの具体的な数字を持ち出します。IVSは毎年7月開催に向けて、4月から7月の4ヶ月ほどで20本前後のリリースを出しているといいます。
これってなんでそんなに(何本も出すんでしたっけ)?
砂流さんは、ここが本題だと話します。イベント系のものは当日に向かってどんどん仕上がっていくため、どこかで必ず情報の整理が必要になります。
ウェブサイトは常に最新にしておきたい場所ですが、更新が追いつかないこともあります。参加してほしい人に「常にサイトを見に来て」と求めるのも難しいものです。
そこでプレスリリースの役割が生きてきます。今の最新情報が常に一つにまとまっていて、対外的にも「これです」と言える場所になるのです。
ウェブサイトとかの更新が追いつかない時に、社内、チーム内、社内含め社外に対しても、これは情報として間違いないですっていう整理された情報ですね。
さらに砂流さんは、ウェブサイトとの違いにも触れます。ウェブサイトには主催者の強い思いや「最高のイベントです」といった主観を載せてよいのに対し、プレスリリースにはファクトでないものは載せられません。
だからこそプレスリリースは、想いも入りつつ、どちらかといえば整理された情報が綺麗に載っている可能性が高い、と砂流さんは説明します。
割と客観的に整理された情報が(プレスに)載ってますもんね。
リリースには、メディアだけでなく参加者、スポンサー、そして社内メンバーなど、いろんな人が入り口として訪れます。ダイムさんは、この役割を一度整理します。
(プレスリリースは)社内含め関係する人たちがみんな同じ(最新の)情報を知るために書く。
書く前に決める「このリリース、読者は誰か」
砂流さんが、プレスリリースを書くときに大切にしていることを打ち明けます。それは、他の人があまり言わない視点だといいます。
読者想定誰ですかっていうのがあるんですよ、そもそもプレスリリースって。
リリースの読者はメディアだけではありません。IVSであれば、参加を検討している人も読者です。読者が定まれば、その人にわかりやすい書き方になっていくはずだと砂流さんは話します。
さらに「メディアの方」とひとくくりにするのではなく、スタートアップメディアなのか、オリコンのようなエンタメメディアなのかで書き方は変わるはずだと指摘します。
エンタメに強い人が出るからエンタメ向けに書くのか、それとも結構ビジネス的にインパクトがあるから経済誌向けに書くのかだと、全然記事の構成とか書き方とか変わってくる。
読者想定がはっきりすると、リリースの中身が洗練されていきます。逆に読者想定が抜けたまま生成AIに書いてもらうと、AIは「なんとなくこれかな」でそれっぽい文章を出すだけになってしまいます。
ふわっとしたそれっぽい文章が出来上がるやつですね。
テーマも読者想定も決めずに書くと、たまに当たりを引くこともあるものの、たいていは「結局これ何が言いたいリリースなんだろう」というものができあがる、と砂流さんは話します。
書いた後こそ本番。リリースは再利用しまくっていい
ここからが今日の本当のメインテーマです。ダイムさんは、配信後の動きが変わってきたと感じています。PR TIMESに出して終わりだった時代から、リリースの使い方が広がってきたのです。
XがTwitterから変わってアルゴリズムが変化し、フォロワー同士でシェアしていた情報が届きにくくなりました。短い文章も伸びにくくなり、配信後に何をすればいいかを整理したい、とダイムさんは問いかけます。
砂流さんの答えは明快です。
砂流さんは広告との違いで説明します。「そうだ京都行こう」のような一枚の広告はそれ自体で完成されていますが、PRはそれを一つの素材として使いつつ、他の情報を編集し、別のメッセージで別の人たちに届けることをいくらでもやってよいというのです。
その再利用の第一歩が、リリースをそのままXの記事として載せてみることです。IVSはリリースを他所に転用せず、まるごとXの記事にした実績があります。
もう一つの再利用が、コラムの作成です。リリースは整理される過程で落とした情報があります。それを、リリースを書いた人や近い人がコラムとして書き起こすのを、砂流さんは最近よくやっているといいます。
コラムの作り方として、砂流さんは生成AIを使った一問一答形式をおすすめします。「一問一答にしてみて」と頼み、リリースに載らなかった追加情報もAIに渡しておくと、リリースを元にしつつ全く違うコラムができあがります。
砂流さんは、同じリリースから一問一答を作れば内容は似てくるものの、そこに自分の経験を少し足すだけでオリジナリティが出ると話します。たとえば「IVSに5年携わってきて、今年は去年とこんな違いがあります」と入れるだけで、書き手自身がそこに存在するようになります。
コラムでなら言える「このチケット、ちょっと高いかも」
ダイムさんは、コラムに入れたい要素として、セッションを体験した後の読後感や、企画の裏側にある思いを挙げます。ネタバレ感のある視点は、リリースには書きにくいものです。
砂流さんは、より踏み込んだ例を出します。それがチケットの値段の話です。
チケットの値段いつもより高いなって思ってたとして、プレスリリースに高いですなんて書けないけど。でも個人的にはちょっと高いかもしれませんみたいなことはコラムで言うんですよ。
「高く見えるけれど実際は違いますよね」という説明は、プレスリリースの体裁では書けなくても、コラムならできます。こうして追加情報を出し、コラム化し、さらにそれをXで出せばコンテンツが増えていく、という循環が生まれます。
再利用の幅は広く、2本のリリースを1本のコラムにまとめることもできます。リリースの情報はメルマガやファクトブックにも活用できると砂流さんは話します。
さらに、リリースの反応を見て次の打ち手を調整する使い方もあります。40%くらいに刺さるつもりが、ふわっとしすぎて広くなってしまったなら、次はもっと絞ったメッセージで出し直したり、リリースの一部分だけを広告にしたりできるといいます。
リリースの一部分のこのキャッチのところだけ広告にしますかとか。
リリースを出して反応を見て、広げるか絞るかを決めるだけでも、リリースを出した意味がぐっと出てくるというのが、砂流さんの実感です。
PR TIMESのハートを9,999まで押す話
話はPR TIMESの「いいね」にあたるハートマークに移ります。ダイムさんは、これがカンスト(上限到達)しているかどうかが、企画の本気度を測る一つの指標になると考えています。
PRTIMESのあのハートマークがカンストしてるかどうかって一つ指標になるのかなって。
このハートは一人が何回でも押せます。カンストの上限は9,999で、そこまで押すファンがいるか、あるいはチーム内に9,999回押すほどの熱量がある人がいるか、が見えるというわけです。
砂流さんは、2〜3年前のIVSでこのカンストに挑戦したことを明かします。Slackで「みんなで達成したい」と呼びかけ、当時のメンバー全員で押していったといいます。
今1000超えましたとか。
1000だ、2000だ、3000だ。
チームビルド的にもいいなと思ってるんですよね。
砂流さんは、天地人の新サービス発表でも同じことをやったと話します。小さな目標ながら達成感があり、チームビルディングになるのです。
さらに、この取り組みには後日効果もあります。何も知らない人が後からリリースを見ると、ハートが並んだ「ものすごいプレスリリース」に見えるというのです。
何にも知らない人が後日見たら、ものすげえプレスリリースだって思うんで。
砂流さんは、実際に広報として人と会うとき「すごいプレスリリースにハートついてますよね、どうなってるんですか」と聞かれるといいます。答えは、自分たちで盛り上げるために押している、というものです。
自分たちで盛り上げるために押してますって言って、ひたすらひたすらハートをクリックしてますねみたいな話をする。
天地人の新サービスは3分で9,999に到達し、2時間以内で最も閲覧されたリリースの上位に入ったといいます。そうした結果を貼り付けて出し直すことで、注目されている雰囲気を作れます。
わざわざうちのサービスとかうちの企画がこんだけ見られてるんだって、結構やっぱ自信になります。
ハート押しは、モチベーションを上げたり、モメンタム(勢い)を作ったりする意味でも有効なテクニックだと2人は話します。
生成AIで下がった、リリースを出すハードル
リリースの本数について、砂流さんは今年はIVSのリリースをほとんど自分が書いたと明かします。ただしセッション登壇者まわりはダイムさんが担当するなど、役割分担で進めています。
IVSは生成AIの活用を公に宣言しています。生成AIを使い始めてから、「明日出したい」というリリースにもラフに対応できるようになったといいます。
向こうが(チームが)用意さえしてくれれば、全然やりますよ。
必要な情報がスプレッドシートやSlackのテキストに残っていれば、それを集めてAIに整えてもらい、最後に仕上げるだけになります。AIがない頃は、そもそもどこに情報があるかを探すところから始まっていました。
情報がまとまっていない場合は、コンテンツ担当者に15分から30分ほど話を聞き、それを文字起こししてリリースにする、というやり方もダイムさんは挙げます。
砂流さんは、リリースを作ること自体が生成AIでかなり楽になり、何本作っても苦ではなかったと話します。最新情報もAIが管理してくれるため、土台としてよい状態を作れるといいます。
主役に15分だけ話を聞いて、リリースにもコラムにも生かす
砂流さんは、リリースのハードルが下がった効果として、みんなが情報を簡単にくれるようになった点を挙げます。「こういう情報があります」という声が出やすくなったのです。
コンテンツの作り方として、砂流さんはリリースの「主役」に話を聞く方法を紹介します。イベントには主役となる人がいることが多いためです。
その主役に15分ほど、長くても30分以内だけ話を聞き、その内容をプレスリリースに生かし、さらに話とリリースをもとにコラムを作り直すのだといいます。
リリースにならなかったその主役のオリジナルの熱量の部分というか、こういう企画の設定の意図とか。
こうして今年はコンテンツが大きく広がった、と砂流さんは振り返ります。リリースを起点に、話を聞く時間を少し足すだけで、複数のコンテンツに展開できるわけです。
リリースは社内にも効く。3つの目的
砂流さんは、話しながらもう一つ大きな理由を思い出します。それは、リリースを出すことでチームのモチベーションが上がるという点です。
プレスリリースを出したっていうことでモチベーションが上がります。
特にイベントごとでは、社内以外にも関わる人が多くいます。リリースを出すことは大きなことで、自分たちのものが社内外に認められ、世の中に名前が載ることが、次の名刺代わりにもなります。
IVSのリリースには、責任者や担当者の名前が下の方に意図的に載せられています。「あのコンテンツをやっていました」と言ったとき、後日リリースを見れば名前が入っている、という状態を作るためです。
IVSのリリースの下の方にはその責任者誰?みたいなのも結構載りますからね。
協力会社にとっても、共同リリースがあれば「うちはパートナーで、今一緒にイベントをやっているんです」と言いやすくなります。リリースは社外への説明材料にもなるのです。
最後に、ダイムさんがプレスリリースの目的を3つに整理します。
メディアに伝える
元々の本流。情報を媒体に届ける
社内外の情報を統一する
関係者全員が同じ最新情報を持てるようにする
モチベーションを上げる
関わった人たちの熱量と自信を高める
サマソニに学ぶ「小出しにする」という発想
砂流さんは、他社の事例としてサマーソニックを挙げます。ものすごい量のニュースを、常に小出しにしているというのです。
サマーソニックは、毎年必ず話題になるビッグイベントでありながら、情報を小出しにして、いろんな入り口を常に用意していると砂流さんは観察しています。
もっともっとニュースって作れるんだなとか、もっともっと小出しにしていいんだなとか。
ダイムさんは、イベントあるあるとして、情報をまとめればまとめるほど落とす情報が増え、読み手が覚えきれなくなる点を挙げます。完璧にまとめて一気に出すと、受け取る側は「つまり何なの」と混乱しがちだというのです。
だからこそ、決まったことを社内共有するレベルで小出しにしていく方が、どういうイベントかが伝わりやすいとダイムさんは話します。
砂流さんも、メディアが記事にしにくいという特性があるからこそ、めちゃくちゃ綺麗にまとめる必要はないと個人としては考えています。毎回リリースがニュースになるイベントがあれば考え方は変わるので、そういう事例があれば教えてほしいと呼びかけます。
今日のパンチライン
番組恒例の「今日のパンチライン」に入ります。ダイムさんが選んだのは、砂流さんがずっと言い続けている読者想定の話でした。
(プレスリリースの)想定(読者)誰です。読者の想定誰です。
書かなきゃと思うと、誰が見ても同じ解釈をする60%や80%向けの情報を入れがちです。しかしそれでは「ふーん」で終わってしまい、面白くありません。
むしろ30%くらいに絞るほど、読者は「これは自分に言われていることだ」とわかるようになる、とダイムさんは話します。
ダイムさんは、この回で持ち帰るポイントも書き留めていました。
リリースは社内にも効く。あとPRは再利用しまくっていいですから。
砂流さんは、読者想定の話を他ではあまり言う人がいないため、自分だけなのかと思いながら続けてきたと打ち明けます。共感を得られたことに、少しほっとした様子でした。
次回のテーマも予告されました。メディアはイベントに来て取材してほしいと思っているものの、リリースを出すだけでは難しい。ではどうメディアと一緒にやっていけばいいのか、という話を掘り下げていく予定です。
まとめ
イベントのプレスリリースは記事になりにくい一方で、最新情報の集約、社内外の情報統一、チームのモチベーション向上という複数の役割を持ちます。だからこそ「出して終わり」にせず、コラムやXへの再利用、読者想定の徹底、そして情報の小出しへとつなげることが、配信後の本番になります。
- イベントリリースは記事になりにくい。だが最新情報を整理し、関係者全員が同じ情報を持つための場所として意味がある
- 書く前に「このリリースの読者は誰か」を一行決めると、中身が洗練され、絞るほど読者に刺さる
- PRは再利用しまくっていい。リリースを一問一答のコラムにすれば、値段の話など本体では書けないことも語れる
- PR TIMESのハートを自分たちで押してカンストさせる取り組みは、チームビルドと後日の注目演出の両方に効く
- 完璧にまとめて一気に出すより、決まったことを小出しにする方が、どんなイベントかが伝わりやすい






