そもそも「母集団形成」とは何か
採用というと、多くの人が最初に思い浮かべるのは緊張する面接の場面かもしれません。吉田さんは、採用面接は採用活動のスタートではなく、むしろゴールに近い工程だと話します。
面接の前には、自社の求人広告を出したり、ハローワークに求人を出したりと、たくさんの工程があります。今回のテーマは、その面接に応募してくれる人をどう集めるかという「母集団形成」です。
吉田さんはまず、どこの中小企業も今は採用に苦労していると指摘します。背景には人口減少社会があり、働き手が純粋に増えていく状況がなくなってきたことがあります。
人の取り合いのような状況になると、雇われる側は経営体力があって待遇もいい大企業に行きたがります。そうなると、中小零細企業の採用はどうしても難しくなると話されています。
どの会社にも共通する最初のハードル「情報開示量の不足」
吉田さんが中小企業の採用相談を受けていて、まず共通して出てくる問題点があります。それが企業情報の開示量の不足です。これが採用における最初のハードルだと言います。
有名な会社であれば、コーポレートサイトや採用専用のサイトを持っているのが普通です。ところが中小企業では、そもそもコーポレートサイトも採用サイトもないことが珍しくありません。
それだけでなく、企業名を検索しても会社名が出てこない会社も、まだまだ世の中にたくさんあると吉田さんは話します。
だからこそ、コーポレートサイトがないところはきちんと作ったほうがいいと吉田さんは言います。それに加えて、どういう人を募集しているのかを示す採用専用のサイトも作ったほうがいいという考えです。
「うちには売りがない」への反論と、当たり前を書く重要性
サイトを作りましょうと話すと、多くの経営者から「うちの会社なんて書くことないですよ」「売りがないから何を書けばいいかわからない」という反応が返ってくると吉田さんは言います。
しかし、そんなことはないというのが吉田さんの立場です。会社を起業し、さらにそれを継続することは、それだけで難しいことだからです。
人を採用するということは、会社が継続しているのは当然として、さらに人を雇えるだけの財務状況になったということです。吉田さんは、それだけでまず誇りを持ってほしいと話します。
自社のいいところは、採用サイトを作る業者と話せば引き出してもらえますし、自分で作る場合でも第三者と話すうちに指摘してもらえることが多いといいます。
ここでのポイントとして吉田さんが挙げるのが、当たり前のことを書いていくのは意外と重要だという点です。
例えば「社会保険に加入しています」という一文。当たり前だろうと思うかもしれませんが、いまだに試用期間中に社会保険に入っていない中小企業は珍しくないと吉田さんは指摘します。
そうした会社にいた人からすれば、入社初日から社会保険に入れるというだけで、いい会社だと思ってもらえるかもしれません。
同じように「残業代は1分単位で払います」も労働基準法上は当たり前ですが、まだ残業代を払っていない会社もあるため、そうした会社にいた人には魅力として伝わると話されています。
給与は「弊社規定による」で終わらせない
情報開示の不足は、給与の書き方にもあらわれると吉田さんは言います。
スタートの給与がいくらかは当然書かれるものの、その後のキャリアステップや賃金テーブルが開示されていないことが多いといいます。給与面が「弊社規定による」とだけ書かれているケースです。
応募を検討している人からすれば、まさにその弊社の規定こそ見たい部分です。できる限り自社の情報を開示していくことが、面接に人をたくさん集めるための第一歩だと吉田さんはまとめます。
社労士法人ワンハートは採用ページに何を書いたか
ここから吉田さんは、自身が代表を務める社会保険労務士法人ワンハートの採用活動の実例を紹介します。
ワンハートでは、Notionというクラウドサービス上に採用専用のページを作り、自社がどういう会社なのかをまとめたそうです。
最初に書いたのは会社の目標です。ワンハートは、リモートワークとITソリューションを武器に、日本一生産性の高い社労事務所を作ることを目標に掲げています。
次に書いたのは業務内容です。入社したら労務相談、社会保険手続き、給与計算など、実際にどんな仕事をしてもらうのかを具体的に記したといいます。
そのうえで会社の特徴を3つ挙げました。
リモートワークによる効率化
リモートワークを推進し、業務を効率化している
ITソリューションの活用
SmartHR、KING OF TIME、マネーフォワード、Notion、Google Workspaceなど多数のツールを使い、その使い方を学べる
顧客目線
お客さんをリードしていくのが士業の仕事だという考え方
吉田さんは、これだけITツールを使い倒している社労士事務所はあまりないため、そこで実務経験を積めることは求職者のキャリアにとってもプラスになると話します。
ミスマッチを防ぐために「してほしいこと」も明記する
求職者が知りたいのは、入社したらどんなメリットがあるのか、そして何をしてほしいのかです。吉田さんは、この両方を書くことが大事だと言います。
ワンハートの場合、リモートワークによるワークライフバランスや、ITツールでの実務経験というメリットを提示できます。しかし、メリットだけを書くと採用のミスマッチが起こると吉田さんは指摘します。
例えば、ワークライフバランス重視なら楽して働けそうだと考える人が応募してきた場合、それは事実ではあっても後でミスマッチになります。会社である以上、成果を出してもらわないといつか潰れてしまうからです。
そこでワンハートは、ITツールを多く使うのでITへの関心を持ってほしいこと、リモートワークでは組織を作りづらいので一緒に作っていく意識を持ってほしいことなど、してほしいことも採用ページに書いたといいます。
会社がどう考え、今後どうしていきたいのかをドキュメントとしてまとめて説明すれば、母集団形成もやりやすくなると吉田さんはまとめます。
採用は「待ち」から「主体的」へ。経営者へのメッセージ
最後に吉田さんは、経営者へ強いメッセージを送ります。かつての採用は「待ち」の状態でよかったという点です。
一昔前は、ハローワークに求人を出して応募を待つ、求人広告会社に連絡して出しておいてもらうといった受け身の姿勢でも人が取れたと吉田さんは振り返ります。
しかし今は、会社側が主体的に採用しようという強い意志を持ち、何を提供できるのか、何をしてほしいのかを明確にしないと、なかなか人が取れなくなっていると話します。
求人を出して応募を待つ受け身の姿勢でも人が取れた
提供できるものとしてほしいことを明確にし、主体的に採用しないと人が取れない
この背景には人口減少社会による労働人口の減少に加え、労働者の権利意識の向上もあると吉田さんは考えます。まともな会社で働きたいという思いが強まっているという見方です。
そうした変化に対応するには、経営者自身の考え方も、会社としての採用のあり方も変えていく必要があると吉田さんは締めくくります。
まとめ
採用面接は採用活動のゴールに近く、その前段階である母集団形成が勝負どころです。中小企業がまず取り組むべきは自社情報の開示で、当たり前のことこそ丁寧に書くこと、そして提供できるものとしてほしいことの両方を示すことが、人を集めミスマッチを防ぐ鍵になると語られました。
- 採用面接はスタートではなくゴールに近く、その前の母集団形成が重要になる
- 多くの中小企業に共通する最初のハードルは、企業情報の開示量の不足である
- 社会保険加入や残業代の1分単位支給など、当たり前のことを書くだけでも魅力になり得る
- 給与は「弊社規定による」で終わらせず、賃金テーブルまで開示することが望ましい
- 提供できるメリットだけでなく、してほしいことも明記することでミスマッチを防げる





