敗れたカルタゴに課された条件は何だったのか?
第二次ポエニ戦争の決戦で、ハンニバルはスキピオに敗れました。ハンニバル本人は生き延びますが、敗者となったカルタゴには、以前の講和条件よりもさらに厳しい条件が課されます。
深井さんによると、平和条約を結びかけていたのに戦争を再開して負けたため、条件が厳しくなるのは当然でした。カルタゴは一部を除くすべての船と軍用の象を引き渡すよう求められ、保有できる船は20隻から10隻に減らされます。
カルタゴへの条件で特に重いのは、戦争の自由が奪われたことです。アフリカの外のいかなる民族とも戦争してはならず、アフリカ内部でもローマの承認なしには戦えなくなりました。
これ(戦争の制限)は大きなことで、要するに自分で国防ができないんですよ。
さらにカルタゴは、50年分割払いの巨額の賠償金と、14歳から30歳までの貴族100人をローマへ人質として送ることを課されます。カルタゴにはこの条件を飲む以外の道はありませんでした。
軍備の制限
一部を除く船と軍用の象を引き渡し、船は20隻から10隻に
戦争の制限
アフリカ外での戦争を禁止、アフリカ内でもローマの承認が必要
賠償と人質
50年分割の賠償金と、貴族100人の人質
将軍から政治家へ、ハンニバルの華麗な転身
敗戦後のハンニバルは、それでも諦めていませんでした。カルタゴでは敗戦した将軍は磔刑にされることもありましたが、ハンニバルは異例にも英雄のまま民衆に迎えられます。
カルタゴではこれまで政治と将軍が分離していましたが、ハンニバルは今度は政治の側に移ります。スフェス ── カルタゴの最高政務官。毎年選ばれ、ローマのコンスル(執政官)に相当する役職とされますに就いたかどうかは定かではないものの、おそらく就いたと言われています。
ハンニバルは政治の世界でももうめっちゃ有能さを発揮するんですよ。
政治家ハンニバルがまず取り組んだのは、賠償金を返すための財政改革でした。歳入と歳出の見直しや納税システムの整備といった、地道な仕事を徹底して進めます。
そんな地味なやつやるの?
ハンニバルの改革の結果、分割で払う予定だった賠償金は1年で返還できたといいます。楊さんはここに「通商国家カルタゴの底力」を見ており、深井さんはハンニバル自身が商業を振興したことも合わせたダブルパンチだったと説明します。
ただし貴族の既得権益を持つ保守層は、ハンニバルの改革にずっと反対していました。それでもハンニバルは民衆からの支持が厚く、貴族たちはなかなか対抗できなかったようです。
祖国を追われる英雄、暗躍するローマ
既得権益を脅かされたカルタゴ貴族は、ローマの元老院にすがり、ハンニバルを何とかしてほしいと懇願します。国を立て直している人物を、敵国の力で追い落とそうとしたわけです。
やばいね、国をこんだけ立て直してくれてるのに。
ローマにとってもハンニバルは脅威で、いなくなってほしい存在でした。ローマは使節を派遣し、ヌミディアのマシニッサ ── 北アフリカのヌミディアの王。第二次ポエニ戦争でローマ側につき、ザマの戦いでもスキピオを支えた人物ですを利用します。
マシニッサは、婚約者を奪われ自殺に追い込まれた恨みから、カルタゴに強い憎しみを抱いていました。ローマはマシニッサにカルタゴへちょっかいを出させ、カルタゴが応戦しようとすれば条約違反だとしてハンニバルの追放を迫る構図を作ります。
外交的な策略ではめたっていう感じだよね。
深井さんは真偽はわからないとしつつ、ハンニバルは「大衆は自分の味方だが、これ以上争うのは国のためにならない」と判断し、カルタゴを去る決心をしたと紹介します。ハンニバルは夜にひっそりと街を抜け出し、亡命しました。
でも片目ないしさ。わかりやすいからさ。バレバレだったと思うけどね。
樋口さんは、船で逃げるハンニバルが、正体を知る人々の「好奇心と畏敬の入り交じった目」に囲まれていた場面に触れ、「切ねえ」と漏らします。
逃亡の果てに迎えたハンニバルの最期
亡命後もハンニバルはローマに一杯食わせようと動き続けます。他国の顧問のような立場で、ローマを攻めようと説き続けたのです。
やっぱローマ絶対倒すマンなんだよね、この人(ハンニバル)。最後の最後まで。
ハンニバルはシリアのアンティオコス ── セレウコス朝シリアの王アンティオコス3世。東方に勢力を広げたのちローマと戦い、敗れました王のもとに身を寄せますが、献策は受け入れられず、シリアも敗れます。その後はクレタへ、さらに別の地へと逃亡生活が続きました。
最後にハンニバルがいたのは、ビテュニア ── 小アジア(現在のトルコ北西部)にあった王国の王プルシアス1世のもとでした。ローマの使者が引き渡しを要求し、対抗できないプルシアス1世はハンニバルを差し出そうとします。
ハンニバルはこうなることを予期しており、もう行くところがないと悟っていたといいます。周囲を二重三重に囲まれ、ローマに引き渡されるか自殺するかの二択になり、ハンニバルは自ら命を絶ちました。
伝わっている最期の言葉は、年老いた自分の死を待ち望むローマ人の「永遠の心配」を、今こそ満たしてやろうというものでした。深井さんはこれを、ずっと心休まらなかったローマ人を「もう解放してやる」という意味だと説明します。
お前らを安心させてやるよ。
宿敵スキピオも同じ年に世を去った?
深井さんは、ハンニバルの最期の言葉もどこまで本当かはわからないと断ったうえで、運命的な事実を挙げます。最大のライバルだったスキピオも、ほぼ同じ年に亡くなっているのです。
スキピオはザマの戦いで勝って英雄になったあと、ローマ内部の党派争いに敗れ、引きこもった先で失意のうちに亡くなりました。諸説あるものの、二人は同じ年に死んだと言われています。
運命やんもう。いやだからハンニバル絶対殺すマンやったスキピオがハンニバルの死と共にいなくなるわけでしょ。
二人とも死ぬ前になんかZOOMで話せたら面白かったんだろうね。自分ところの国の愚痴とか言い合ってたんじゃない?
深井さんは、あれほどの成果を残した二人が、ともに不遇のうちに亡くなっていくことに感慨深さを覚えると語ります。
ハンニバルこそ最もローマ人らしかった
深井さんは、ハンニバルの生き方は実はめちゃくちゃローマ人っぽいと指摘します。根性があって諦めないという、ローマの美質そのものだというのです。
ハンニバルはカルタゴ国内では追われましたが、深井さんは、ハンニバルを本当に評価していたのはスキピオをはじめとするローマ人だったのではないかと考えます。樋口さんも、ここまでの話がローマ側に残された資料に基づくことに触れ、切なさをにじませます。
深井さんによれば、ローマ人の美徳の一つは敵からめっちゃ学ぶことでした。ハンニバルから多くを学んだローマはこのあと大きく成長し、やがてカエサルが登場して帝政へ移っていきます。
本当にローマはポエニ戦争をきっかけにイタリア半島から飛び出して、イタリア半島の外で初めて自分たちの支配領域を持つようになったんですよね。
ハンニバルの誤算とカルタゴのグズグズ感
深井さんは、ハンニバルの唯一の誤算はローマ連合 ── ローマがイタリア半島の諸都市と結んだ同盟の体制。ハンニバルはこれを切り崩してローマを孤立させる戦略をとりましたが瓦解しなかったことだと振り返ります。それ以外は完璧にこなしながら、最も肝心なところだけ当てが外れたのです。
自分が取った戦略で最後負けるっていうのもさ、で、それを負かしてくるのがさ、かつての自分のようなスキピオなわけじゃんか。
一方で出演者たちは、ローマの人材の厚さに加え、カルタゴ側の「グズグズ感」も敗因に挙げます。深井さんは、カンナエの戦いで勝った瞬間に本国が大軍を送れば勝てたのに、カルタゴはどこか「バルカ家がやってること」と他人事だったと見ています。
楊さんはカエサルとの比較も持ち出します。カエサルはローマの外で戦いながら本国の政治を遠隔操作していましたが、ハンニバルは将軍と政治が分離したカルタゴの体制のもとで、軍人としての仕事を最優先していました。
挙国一致の感覚が強く、敗戦将軍さえ歓迎される。負けても打たれ強く諦めない
行政と軍事を分離し、ハンニバルへの支援も乏しかった。一方で商業国家としての自由さが強みだった
深井さんは、カルタゴが軍事国家でないからこそビジネスで成功し、その経済力で戦争もできたと述べ、全てが一長一短だとまとめます。そのうえで、ローマの美徳をすべて兼ね備えたハンニバルが敵として現れたことが、何より面白いポイントだったと語ります。
まだ終わらない、第三次ポエニ戦争へ
ハンニバル編の山場を終え、樋口さんは深く感情移入したハンニバルに拍手を送りたい、お疲れさまでしたと言いたいと語ります。
お疲れ様ですよね。最後までね、やりましたね、この人(ハンニバル)はね。
ただしポエニ戦争はまだ終わりません。ハンニバルの死後、カルタゴとローマは第三次ポエニ戦争を戦うことになり、シリーズはあと2話でその経緯とカルタゴの滅亡を描く予定です。
カルタゴは滅びます。
いやだから言わない。
まとめ
敗戦後のハンニバルは、政治家としても祖国を立て直しましたが、貴族とローマの策略で国を追われ、逃亡の末に自ら命を絶ちました。諦めない生き方はローマの美質そのもので、そのハンニバルから学んだローマは大きく成長していきます。
- 敗戦後のカルタゴは軍備と戦争の自由を奪われ、巨額の賠償金と人質を課された
- ハンニバルは財政改革で賠償金を早期に返還したが、既得権益を守りたい貴族とローマの策略で亡命に追い込まれた
- ハンニバルはビテュニアで自害し、宿敵スキピオも同じ年に失意のうちに亡くなったと言われる
- カルタゴの支援の乏しさと将軍・政治の分離が敗因の一つとされ、ローマは挙国一致と打たれ強さで勝った
- 物語は第三次ポエニ戦争とカルタゴの滅亡へと続く





