ICCはなぜ「知識のビュッフェ」なのか?
すがけんさんと川原さんは、スタートアップや投資家が集まるイベントICC ── ICCサミット。経営者や起業家、ベンチャーキャピタルなどが集まる日本の招待制カンファレンスで、多数のセッションが並行して行われますで数日前に顔を合わせたばかりです。すがけんさんによると、ICCは経営者が1000人ほど集まる場で、二人とも審査員や登壇の役割を担っていました。
すがけんさんの目に映った川原さんは、3日間のほぼ全コマを自分でプログラムを組み、「こんなのあるんだ」と言いながら講義に走っていく姿だったといいます。
(ICCは)好きな人からするともうよだれ物のコンテンツが、しかも同じ枠で7個ぐらい並んでるわけじゃないですか。
より取り見取り。究極のビュッフェですよ。
すがけんさんはこれを「知識のビュッフェ」と言い換え、音楽フェスのように会場を移動し続けるイベントだと説明します。川原さんは「時間が溶けた」と振り返りました。
ICCの特徴として川原さんが挙げたのは、登壇者が嘘偽りなく、話せる範囲の最大限を語ることです。すがけんさんは、セッションのランキングがあるため登壇者が全力になると補足しました。
すがけんさんによると、ランキング上位には「人間とは何か」をテーマにしたセッションが入ることもあったそうです。川原さんは、ICCには手前のノウハウではなく、どのレベルのビジネスパーソンにも通じる基礎であり奥義のような内容が並んでいると話しています。
座学ではなくワークショップを選ぶ理由
川原さんは、すがけんさんがICCで開いた厚利少売のワークショップの中身を尋ねます。すがけんさんはまず、ワークショップの目的そのものから説明を始めました。
ただの座学で2時間やるより、ワークショップも入れて2時間やった方が変化量があるってことにしなきゃいけないじゃないですか。
すがけんさんの見立てでは、座学は講師が一方的に教える形になります。日本で学んできた人は暗記に慣れているため、考えずにひたすらメモを取ってしまうといいます。
すがけんさんは、ワークショップにすると、自分の会社のことを書く、考えて発言する、フィードバックを受けてまた考える、というように時間の使い方が変わると話します。
講師が一方的に教え、受講者は考えずに暗記しようとメモを取る
自社のことを書き、発言し、フィードバックを受けて考える時間になる
すがけんさんにとってワークショップは、受講者の時間を「メモする時間」から「考える時間」へ変えるための手段です。
値上げで利益は3倍に。10分のエクセルが変えた実感
すがけんさんは前回のICCで、厚利少売のワークショップがうまく盛り上がらなかった反省を語ります。厚利少売は99%の人がやっていないビジネスなので、参加者の多くは薄利多売の当事者です。
グループで「厚利少売の企業を挙げてください」と問いかけても、参加者は能力が高いのに議論が深まりませんでした。川原さんは「ないインプットからだとアウトプット出ない」と受け止めています。
転機になったのは、セールスのワークショップを開いている向井向井さんとICCで立ち話をしたことです。そこから、最初に自社の売上と利益を書き出し、自分の薄利多売を数字で実感してもらう構成が生まれました。
すがけんさんが示した例では、5000円の商品で利益率が10%なら利益は500円です。単価を1.2倍の6000円にすると、利益は1500円、利益率は25%になると説明しています。
| 項目 | 単価5000円 | 単価6000円 |
|---|---|---|
| 1個あたりの利益 | 500円 | 1500円 |
| 利益率 | 10% | 25% |
| 売上1億円規模での販売個数 | 2万個 | 6000個 |
すがけんさんによると、利益が3倍になるため、売る個数は3分の1で済みます。参加者からは「こんなに違うんだ」という反応が出た一方で、「売上が4000万円に減るのが怖い」という声も上がりました。
すがけんさんは、上場企業なら株主は利益で見るので心配はいらない、といったフィードバックを一人ひとりに返せるようになったといいます。川原さんは「自分事化するんだその瞬間に」と反応しました。
すがけんさんは、計算式は横に書きつつも、エクセルのテンプレートは配らず、参加者に自分で打ち込んでもらいました。ポチッと入れて「ふーん」で終わらせず、自分で計算して検算することで「うちの会社は売上が下がっても利益を同じにできるのか」がわかるからです。
川原さんは、この計算はワークショップに限らず、経営者もリスナーもやったほうがいいと話します。エピソード説明では、すがけんさんの資料が期間限定で公開されています。
「満点以外は帰しません」は笑いどころではない
川原さんは、2時間で何を提供するかを考えたとき、価値は相手の変化量であり、その変化量を最大化するように設計している点に、すがけんさんの厚利少売脳が表れていると指摘します。
すがけんさんは、120分のうち20分をQ&Aに残し、参加者に次のように呼びかけたといいます。
今日5点をつけれない人、5点満点中5点をつけれない人は今すぐ聞いてください。不満があるなら今すぐ聞いてください。僕は絶対に挽回できるから。
会場は大爆笑になりましたが、すがけんさんは真面目な話だと続けました。目の前の客を満足させられないで他のことは考えられないので、客が変な顔をして帰っていくなら帰さないほうがいい、という考え方です。
川原さんは、笑いどころに聞こえて実はメッセージの本質だと受け止めます。すがけんさんは、120分の半分は自分のやり方を体感してもらう時間であり、スーツではなく普段着で登壇するのもその一部だと話しました。
優秀な人ほど学び続けるのはなぜか?
川原さんは今回、初めてICCに一参加者として臨み、ワークショップで周りの人と話すのが楽しすぎたと振り返ります。すがけんさんは、その様子を「この1年なかったな」という顔に見えたと話しました。
優秀な人ほど学んだ方がいいんですよね。
すがけんさんは例として、マーケティングカンファレンスのプログラム責任者を務めたときの体験を語ります。2日間で約60本、登壇者は約240人の構成を決めましたが、どうしても質にばらつきが出たといいます。
当日、師匠のような存在の「マーケの神」と会場を回っていたとき、すがけんさんが「失敗した」と感じたセッションで、その人はメモをいっぱい取っていました。
だからやっぱね、結局教わる側のスポンジの問題なだけで。
すがけんさんは、良くても悪くても学ぶ姿勢を「究極体」と表現し、師匠には勝てないと感じたそうです。さらに、教える側の人が参加者として学ぶと、自分が教えるときの参加者の気持ちまでわかると話しています。
マーケティングは相手の気持ちにならないと買ってもらえない、というのがすがけんさんの考えです。一方で川原さんは、自分は何を受けても感動してしまう「いい消費者すぎる」ため、参加者との差分をチューニングするのは苦手だと明かしました。
すがけんさんは、ICCでは感想が仕組みとして掲示され、全セッション中の順位もわかるため、目標より下だと悔しくて改善に向かうと付け加えています。
頑張って嫌われるか、頑張らずに好かれるか
川原さんはICCで多くの人から声をかけられ、ほぼ全員に「厚利少売ラジオを聴いている」と言われて驚いたといいます。番組はジャパンポッドキャストアワード ── 日本のポッドキャスト番組を表彰するアワード。番組内では、厚利少売ラジオが企画賞を受賞したことが語られていますで企画賞を受賞しています。
二人は、打ち合わせも仕事の場も同じノリで臨むことについて話します。すがけんさんは「僕が緊張したらみんなが困るんで、フォーマルにはいきません」と言い、川原さんはそれをラフではなく「ニュートラル」だと言い表しました。
すがけんさんは、このあるがままの姿勢が厚利少売の本質とつながっていると話します。客から「高くても買いたい」と来てもらえれば、自分たちのまま提供して喜んでもらえるからです。
逆に、客が強く自分たちが弱い立場では、提案を求められて気張らざるを得ません。すがけんさんは詰将棋にたとえ、最後の場面から逆算する考え方を示しました。
相手が欲しいって指す。で、うちが提供する。最後の絵はもうそれなんですよ。
川原さんは、欲しいと言われる前に与えようとする人が多いと感じています。すがけんさんは、本来の努力はその場面に至る設計なのに、押し売りが努力になってしまっていると指摘しました。
こちらから提案し続け、相手は逃げ続ける。頑張って嫌われる
相手が「欲しい」と言う場面から逆算する。頑張らずに好かれる
川原さんはこれを「今日の金言」と呼び、ここからリスナーの感想を紹介する流れに移ります。すがけんさんは、感想会に入る前の話だけで1本分を撮り終えてしまったと笑っています。
衣装デザイナーに届けた、変化量を聞くためのメンテナンス
1通目は、以前お悩み相談で取り上げた衣装デザイナーのタケシさんからの感想です。川原さんが読み上げた便りには「この著書の中で一番の気づきは、『価値は相手の変化量』です」とありました。
タケシさんはフルオーダーメイドで客との距離が近く、より良い仕事を心がけてきたものの「心がけであるだけで変化量という部分は抜け落ちていた」と書いています。客の変化量を意識するようになり、提示する金額への恐れもなくなった気がするそうです。
すがけんさんは「心臓が震えた」という一文に「病院に行った方がいい」と冗談を返したうえで、具体的な提案に移ります。採寸して作り、納品したら終わりという流れでは、着た後の変化量がわからないという指摘です。
すがけんさんの提案は、衣装をしまう前のクリーニングや修理をサービスとして行い、そこで話を聞くことです。最初の販売時にメンテナンス込みで数万円上乗せする形でもよいとしています。
納品
衣装を作って渡す
メンテナンス
使用後にクリーニングや修理を受け付ける
ヒアリング
どこが壊れたか、着てどうだったか、何が嬉しかったかを聞く
改善
聞いた内容を提供価値に反映する
僕たちは作って終わり、売って終わりなんだけど、お客さんは買って始まりなんで。
すがけんさんは数字の例も挙げます。100人のうち10人でもメンテナンスに追加で払ってくれるなら、その人たちは服を大切にする「真のお客様」で、10人ほどに聞くと同じことを言う傾向が見えてくるといいます。
その要望をサービスに組み込めば、メンテナンスを選ばなかった残りの90人にも喜ばれるかもしれない、というのがすがけんさんの見立てです。川原さんは、顧客理解、自信、関係性、リピートがつながる好循環だと受け止めました。
すがけんさんがこの仕組みを勧めるもう一つの理由は「褒められたい」からです。売り手が「どうでした?」と聞いて喜びの声を聞ける瞬間は、相手にとっても嬉しい瞬間だと話しています。
すがけんさんは、GoogleマップやAmazonのように、聞かなくても評価は書かれてしまう時代だと指摘します。星3がたくさん書かれる前に初期の客の声を聞いて挽回するほうがよく、評判から逃げずに向き合うことが厚利少売向きだと語りました。
元アパレル販売員の挑戦と、YouTubeで6割しか頭に入らない問題
2通目は、シーズン2の開始を受けて届いたアパレル販売員の方からの感想です。以前は昼休みにポッドキャストで聴いていたものの、YouTubeで見るようになると、二人の様子に笑って大事な話が6割くらいしか頭に入らず、後日ポッドキャストで聴き直しているそうです。
すがけんさんはこれを、ごちゃごちゃさせて何度も来店させる「ドン・キホーテ商法」にたとえ、二人で笑い合いました。便りでは、自然に繰り返し聴くことで気づきが深まる視聴体験になっているとも書かれています。
この方は、川原さんが開いた「死ぬまでにやりたいことを100個書き出す会」をきっかけに番組と本を知りました。販売員の価値はもっと高いと感じて去年会社を辞め、アルバイトをしながら個人でアドバイザーとして発信を始めたといいます。
便りには、売り場とは地域もターゲットも違い、価値の表現も価格設定も投稿づくりも大変だと書かれていました。それでも番組の「2倍にしてみればいいだけ」「大切なのは辞めないこと」といった言葉に勇気が出ると綴られています。
便りの最後には、川原さんのボタニカル柄の服や、すがけんさんの手首の花のモチーフについてのファッションチェックまで添えられていました。すがけんさんは「映像がないと襟シャツを着てると思われてるんですね」と、実際はTシャツ姿であることを明かしています。
販売員の価値は「1年間の変化量」で決まる
すがけんさんは、うまくいく見込みが立つ前に独立に踏み出したこの方の勇気を評価します。すがけん自身も仕事を辞めてYouTuberになるとしたら見込みはないものの、仕事があると頑張ろうとは思わないため、退路を断つことは人間に必要だと話しました。
そのうえで、元販売員が販売員を指導するアドバイザーになると想定し、すがけんさんは2つの方向を示します。同じ分野で教える人と比べて1位を目指すより、その人ならではのオリジナリティで唯一になるほうがよいという考えです。
1つ目は、売り方ではなく客の引き込み方を教えることです。SNSで発信して「この販売員さんに会いたい」と思ってもらえれば、客は買いに来てくれた状態から始まるため、売りやすくなるとすがけんさんは説明します。
2つ目は、アパレルの販売単位を広げることです。すがけんさんは、単品からコーディネート、手持ちの服を含めた着回しへと拡張していった先に、1年を通じた付き合いがあると話しました。
すがけんさん自身は、ユナイテッドアローズの販売員から20年ほど服を買い続けているそうです。洋服好きな人は減り、TPOに合わせて普通に見えればいいという客が増えている中で、年間を通じて関わる販売員はほとんどいないといいます。
あの人のところで買ってるとだんだんこうなるんだよなっていう変化量をもうちょっとつけてあげると、その販売員さんならでは、だってデータが溜まっていくわけじゃないですか。
すがけんさんによると、その場限りの接客では指名につながらず、「この人じゃなきゃダメな理由」が相性くらいしかなくなります。年間の予算を最もお得に使えるよう考えてくれるアドバイザーは富裕層に限らず価値がある、という見立てです。
すがけんさんは広告の仕事でも、1回100万円の単発出稿より年間予算をまとめてもらうほうができることが増えたと振り返ります。川原さんは、LTV ── 顧客生涯価値。1人の顧客が取引期間全体でもたらす利益の総額を指すマーケティング指標ですが上がり、マーケティングコストも下がる好循環だと付け加えました。
すがけんさんは、去年いくら服に使ったか、着た服と着ていない服はあるかと聞くところから、服のケアやメルカリでの売り方まで話を広げられると話します。上手に売れて手元にお金ができれば、また買いに来てくれるかもしれないからです。
レンタルの時代に、人から買う理由はどこにあるのか?
ここで川原さんは、最近衝撃を受けているアパレルのサービスとして「アナザーアドレスアナザーアドレス」を紹介します。川原さんの説明では、百貨店のグループが作った服のレンタルサービスで、LINEアプリで完結します。
月額料金に応じて3着や5着など借りられる数が決まり、オンラインでその百貨店の全ブランドから選べる仕組みだそうです。川原さんは、百貨店を仮想の自分のクローゼットのように使える状態だと表現しました。
購入して着て、満足したら自分で写真や説明を用意してメルカリで売る
ポチポチと押せば届き、着て満足したら返すだけ
川原さんは、誰も見ていなければ着心地のいい服をずっと着ていたいタイプです。ただ人前やSNSに出る以上バリエーションが必要なため、自分には最強のサービスだと話します。百貨店が持つブランドとの関係、管理場所、配送網を活かした、百貨店の次の価値だとも感じたそうです。
すがけんさんは、この話を先ほどの元販売員の方に引き戻します。こうしたサービスやSHEIN、ZOZOがある時代に、それでも人から買いたい人が求めるものは何かを考えるべきだという問いです。
川原さん自身は、スケジュールを渡すので着る服を選んで予約しておいてほしいと、選ぶことすらアウトソースしたい客です。すがけんさんは、川原さんにとって服を買うことはある種の仕事であり、一般の客はその逆だと指摘します。
来週の講演用にジャケットが必要など目的が明確で、5分で高いものを買って帰る
着回しに飽き、あと1枚要るのか要らないのか自分でもわからないまま探しに来る
目的買い、指名買いじゃない人たち向けに接客って何が必要なんだろうとかって考えていくと、ちょっと一個ヒントになるかもしれないですよね。
川原さんは、同じ仕事でも誰の何を解決するかで提供価値がまったく違うとまとめます。自分のキャリアや能力で一番価値を感じてもらえる相手は誰かを考えることが、厚利少売の肝だという結論です。
番組の最後には、経営者合宿は声次第で検討中であることや、書籍『厚利少売』の案内がありました。お便りフォームでは、売上や利益率を計算したうえで相談してもらえると、より具体的な打ち手を返せると呼びかけています。
まとめ
この回は、ICCのワークショップから2通の感想まで、一貫して「価値は相手の変化量」という考え方をもとに語られました。値上げの計算で利益の構造を実感し、満足するまで向き合い、長い付き合いの中で変化量を知ることが、厚利少売の具体的な打ち手として示されています。
- 単価を1.2倍にするだけで、すがけんさんの例では利益が3倍になり、売る個数は3分の1で済む
- 座学ではなく、自分で計算し考える時間をつくることで、参加者の実感が大きく変わる
- 「満足するまで帰さない」姿勢で、不満の差分をその場で埋めることが厚利少売の基本
- メンテナンスやヒアリングなど、売った後に変化量を聞く仕組みを持つと提供価値が高まる
- 販売員の価値は、単品販売ではなく1年を通じた変化や、迷っている客への接客から生まれる


