富山の老舗鮮魚店は、なぜ送料や量で比べられるのか
厚利少売ラジオは、薄利多売 ── 利益の薄い商品を大量に売って売上を確保する商売のやり方。価格競争に巻き込まれやすく、規模がないと続けにくいとされますのビジネスモデルから抜け出す考え方を、すがけんさんと川原卓巳さんが語る対談番組です。
この回はマスタークラスの公開コンサル後編で、前編のインバウンドガイドYUIさんに続き、富山湾の魚介を扱う老舗鮮魚店の5代目、奥田鉄矢さんが登場します。番組内では「奥鉄さん」とも呼ばれています。
川原さんの紹介によると、奥田さんの店は富山湾の魚介や昆布締め、白エビなどを産地直送で扱い、贈答品にも力を入れています。ギフト商品はすでに1万5000円から3万円台のものもあります。
それでも奥田さんの店は、魚の種類や量、送料の安さで比較されてしまう壁にぶつかっています。
奥田さんの仮説は、魚を高く売るのではなく、贈答で迷うお客さんが失礼なく任せられる状態にすることに価値を置けるのではないか、というものです。そのために、1万2000円の入り口ギフト、3万円の法人贈答向け、5万円以上の「5代目おまかせ」完全予約型という3段階の商品を考えていました。
既存のお客様の中から検討したいけれども、どこから手をつければいいかわからない。
店に来る人は単価が高いのに、なぜ続かないのか
すがけんさんはまず、奥田さんがどうしたくてこの相談に至ったのかを聞き直します。
せっかくいらっしゃってるんで、もう一回。そのお困り事、何から手を付ければはあると思うんですけど、どうされたくてこう思ったんですかね。
奥田さんによると、店は家族経営で、そもそも多売ができません。店頭販売は現在ほとんど行っておらず、店頭向けの商品は卸している形です。
奥田さんの店にとって、一般のお客さん向けの主戦場はECです。ECは内容量や価格が比較されやすいチャネルで、魚種などのモノベースで売ると横比較をされてしまうと奥田さんは話します。
白エビ何グラムみたいな。
奥田さんの店では、若い人ほど情報収集をしてから問い合わせてくるといいます。奥田さんは30分ほどかけてヒアリングし、良さを伝えながら説明していますが、最終的な決め手は価格になりやすいそうです。
一方で、奥田さんの店には富山県の端などからわざわざ足を運ぶお客さんもいます。嫁ぎ先から品物が届き、そのお返しをしたいという相談に、組み合わせをカスタマイズして、通常より高い単価の商品を提供できています。
ただし、店まで来るお客さんは継続せず、一回きりになることが多いと奥田さんは言います。そうしたお客さんは1000人いたら1%ほどで、それだけでは売上が立ちにくく、結局ECと同じ軸で売らざるを得ないのが悩みでした。
奥田さんが考える自分たちの良さは、ネットに出せないお困り事に応え、利益を取りながら富山湾の魚を届けることです。その良さと、ECでの売れ方とのギャップに困っていると語られています。
すがけんさんはここで、奥田屋がインスタグラムをしているか、何と検索すれば出てくるかを確認します。奥田さんは、季節商材の入れ替えに追われて更新が難しいと話しつつ、インスタグラムはやっていると答えました。
「比べられるのは、比べられる売り方をしているから」
すがけんさんは解決策より先に、奥田さんの状況の構造を言い直して説明します。まず、地元の人以外が奥田屋の店舗に来るのは、良くて年に1回、下手をすると数年に1回だといいます。
そりゃそうですよね。わざわざ富山に行かないし、わざわざ富山のおっしゃってた遠い場所には行かないから。
店に人が来ない以上、商売するにはECしかありません。すがけんさんは、そのECの集客にも2つのパターンしかないと整理します。
1つ目は、インスタグラムやギフトをもらった人の投稿などを見て、奥田屋を知ってフォローしたり来てくれたりする指名のパターンです。2つ目は、誰かに送りたい、白エビや昆布締めを食べたいと思って検索するパターンです。
インスタグラムや、ギフトをもらった人の投稿などを見て奥田屋を知り、フォローしたり訪れたりする
「白エビ 贈答」などで検索して来る。戻るボタンを押せば他社のページがすぐ並ぶ
すがけんさんによると、奥田さんが悩んでいるのは2つ目のパターンです。指名されずに検索で来ているので、戻るボタンを押せば他社がリストに並んでいて、比べられて次へ行かれてしまいます。
だから自ら選んでやってらっしゃることが比べられるようなことをやっているだけで。
で、悩みが比べられるからっていうのは僕は変だと思うんですよね。
すがけんさんは、比べられたくないなら指名で来てもらう1つ目のパターンでやる必要があると話します。奥田屋を検索する人やインスタグラムをフォローする人がいなければ、「白エビ 贈答」「富山 なんちゃら」のような検索でしか来てもらえず、比べられてしまうからです。
奥田さんも、ギフト関連は2つ目のパターンになっていると認めます。指名買いされる単品商品も1つあるものの、それはメディアの影響で売れているそうです。
白エビが好きな人は、今月しかエビを食べないのか
すがけんさんが次に指摘したのは、贈答という商品の頻度の問題です。贈答は年に1回ほどで、忘れられれば数年に1回になり、お店に来る人と同じ頻度になってしまいます。
一度買ってくれた人がなんで来月再来月買わないんだろうと。
だってエビ好きで白エビ買ってる人は今月だけエビ食べたいんでしたっけと。
そんなことないですよね。来月だってご褒美に(白)エビ食べたいし、再来月だってご褒美にエビ食べたいわけじゃないですか。
すがけんさんは、月に1回ほど買ってくれる人がいないと、この種の商品は比べられる市場に入るか、忘れられるかのどちらかしかないと話します。
贈答は年1回
贈答や来店は年に1回、忘れられれば数年に1回の頻度になる
思い出す待ち・検索待ち
次の購入は、お客さんが思い出すか検索するのを待つしかない
比べられるか忘れられる
検索で比べられる市場に入るか、そのまま忘れられてしまう
すがけんさんが目指す姿として挙げたのは、家庭内でこんな会話が生まれる状態です。
お父さん今月もう25日よみたいな。奥田屋さんのやつ、来月の頼まなくていいの?みたいに、その家庭内の会話にどうやったらなるかを考えた方が、なんか僕はいいような気がします。
奥田さんによると、今はAI対応で、魚の名前を入れるとレコメンドで奥田屋が出やすい状況もあるそうです。それでもすがけんさんは、どんなに頑張っても1人が年に1回、2年に1回しか買わない問題は変わらないと返しました。
さらにすがけんさんは、白エビが冷凍だと確認したうえで、冷凍ならシーズンに関係なく届けられるので毎月買ってもらってもいいはずだと指摘します。毎月買わないから、変に高く売らなければならないという見方です。
奥田さんの店の実際の顧客データでは、白エビに絞ると2〜3年に1回ほどのペースで、毎月買う人はほぼいないといいます。
すがけんさんは、今ならAIにデータを入れればリピートしやすい商品を見つけられると提案します。別の商品を買った人におまけとしてその商品を入れるなど、奥田屋に「沼らせる」仕組みを考えるという案です。
奥田さんも、これまでの考え方を変え、沼らせたりリピートさせたりする取り組みをもう少しやりたいと応じました。
店に来た「最上位の顧客」を1回きりで帰していないか
すがけんさんは、沼らせる上で最も重要なのは、わざわざ店に来た人たちだと続けます。店まで足を運んだ人には必ず沼る要素があるのに、ギフトにも定期的な購入にもつなげず一回で帰しているのは、めちゃくちゃもったいないという指摘です。
だからヒエラルキーというか、ピラミッドがあるわけですよね。もうお店に来た人っていうのは、もう最上位にもう来ちゃうわけで。たまたまとはいえ。
すがけんさんの整理では、店に来た最上位の人には定期便や贈答といった下の商品を買ってもらい、逆に贈答から入った人には、最終的においしくて店まで来てしまう状態を目指します。奥田さんも「おっしゃる通り」と応じています。
そのうえですがけんさんは、顔の見えない人に売るのではなく、一人ひとり違う人に向き合い、何回買ってくれるか、もっと満足するにはどうするかを考えるのが厚利少売だと話します。
すがけんさんが勧めたのは、名簿の名前の数は変えずに、購入回数や単価を上げる考え方です。年間購入者数を増やそうとするのではありません。
年間購入者のユニークユーザー数、つまり名簿の名前の数
その人たちに買ってもらう回数と、買ってもらう単価
すがけんさんによると、そこで満足度が上がれば、いい商品やいいパッケージの作り方がわかるようになります。お客さんが欲しがる理由がわかっているので、その時に初めて単価を上げることも十分できると語られています。
奥田さんは、厚利少売と聞いて単価を上げる商材のことばかり考えていたと振り返り、すがけんさんの視点はわかりやすく取り組みやすいと受け止めました。
顔の見えないEC顧客を、郵便番号から想像できるか
すがけんさんは、リスナーにも向けて、厚利少売はただ単価を上げるためのものではないと念を押します。
お客さんに満足してもらう価値を上げるっていうことが一番重要で。
価値を上げるっていうのはリピートをしてもらうのもそうだし、一個の商品をどれだけ届いた瞬間にわー嬉しいって思ってもらえるかに向き合うってことなんで。
すがけんさんによると、ECではお客さんが目の前にいないため、お客さんを見ることが最も難しくなります。インスタグラムのDMやメール、あるいは買いやすい商品を作って買ってくれた人とやり取りするなど、方法はさまざまですが、とにかくお客さんの住所や名前からどれだけ想像するかが大事だといいます。
すがけんさんはその例として、大きなEC会社の昔の取り組みを紹介します。郵便番号から、その地域に住む人の像を確率的に推定するデータベースを買い、ライフスタイルを想像しておすすめを出していたそうです。
だから、そのぐらいECって見えないものにどう想像を働かすかみたいな努力をする仕事だと思うんで、そこをぜひやってみてもらえたらいいかなと思います。
川原さんは、奥田さんがECやデジタルの領域に明るく、キャリアも10年強あるからこそ、すがけんさんが示した方向転換も理解できているのだろうと感想を述べました。サイトを見ながら口が完全に白エビになった、とも話しています。
お客さんにもっと興味を持て、という厚利少売の原点
コンサルを終えたあと、すがけんさんはマスタークラスの参加者全体に向けて、もっと骨太に「お客さんに興味を持つ」ところから理解してほしいと語ります。
みんなお客さんのこと何もわかってない。
誰ですかとかもないし。
もっと喜んで欲しいですっていう気持ちも感じない。
すがけんさんは、お金を払って自分に相談する場でさえ、「私のお客さんをもっと成功させたい」という人が現れるくらいがちょうどいいと話します。自分の成功ではなくクライアントの成功を相談する気持ちこそ、お金をもらう側の資格だという考えです。
すがけんさん自身も、相談者が満足するまで帰さないといいます。川原さんはそれを「狂気」と表現し、お金をもらっていなくても時間をもらったのだからと価値を返そうとする姿勢だと応じました。
すがけんさんは、そういう気概で仕事をすると仕事に困ることがほぼない人生になると語ります。お金は当然入ってくるけれど、感謝されて嬉しい状態を作ることが厚利少売的だという結論です。
番組の最後には告知もありました。すがけんさんは、厚利少売の経営者版、AI、起業の教科書の3部作のnoteを販売中だと紹介しました。川原さんは、Takumi Inc.のメルマガを、プロデュースを軽やかに学べる「ぷぷぷプロデュース」としてリニューアルしたと伝えています。
まとめ
富山の老舗鮮魚店の相談は、ギフトの単価をどう上げるかという問いから始まりました。すがけんさんは、比べられるのは検索で来てもらう売り方を選んでいるからだと構造を示し、本当の課題は一度きりで終わる購入にあると指摘しています。
- 検索で来てもらう売り方は、戻るボタンひとつで他社と比べられる。比べられたくないなら指名で来てもらう導線が必要
- 贈答は年1回になりがち。冷凍の白エビなら毎月届けられるので、リピートを生む仕組みを考える
- わざわざ店に来た人は最上位の顧客。1回きりで帰さず、定期便や贈答につなげる
- 名簿の名前の数は変えず、購入回数と単価を上げる。満足の理由がわかれば値上げもできる
- ECはお客さんが見えないからこそ、住所や郵便番号からどこまで想像できるかが問われる

