『7つの激変』はどんな本か、なぜ「同世代の渦中」に響くのか
今回取り上げるのは、川邊健太郎さんの『7つの激変』です。川邊健太郎 ── 前LINEヤフーの代表取締役会長。会長を退いた後、個人でXを始めたり、キャンピングカーで日本を回るなど新しい挑戦をしている人物として紹介されています。
児玉さんは、川邊さんとは面識がないとしつつ、47歳の自分より4つか5つ年上のほぼ同世代だと語ります。インターネットが勃興してくる渦中にいた人の本として、興味を持って読んだといいます。
非常にライトで読みやすい本で、本当にこのインターネットが勃興してくる渦中にいらっしゃった方で、ずっと渦中にいると面白そうだなと思って読んでました。
児玉さんはこの本の感想を3つに整理します。1つ目が「懐かしい」、2つ目が「事前規制と事後規制」、3つ目が「いかがわしいもの」です。この3点を軸に話が進みます。
ブログ広告で月10万、一人でやる辛さ〜ネット勃興期の「懐かしさ」
1つ目の感想は「懐かしい」です。児玉さんはIT企業に新卒入社しましたが、配属されたのはシステム開発やCADソフトを販売する会社でした。広告のような領域を当時は「いかがわしい」と感じ、開発側のITを選んだ面もあったと振り返ります。
児玉さんが最初にインターネットに触れたのは、大学入学が決まった頃です。知り合いの社長のところで路線検索を見せられ、上田からの経路が一覧で出てくることに驚いたといいます。
児玉くん、これインターネットっていうのあるんだよって言われて、うわ、すげえと思って。こんな世界なんだと思ったのはほんと覚えてて。
大学では端末からアカウントで入り、Eメールなどを楽しんでいたものの、当時は野球部に多くの時間を使っていたため、一般の学生よりパソコンに触れる時間は短かったと語ります。
今思えば、野球をやらなかったら、もしかしたらこういう世界にどっぷり浸かってたのかもしれないなと思ったりしましたね。
会社を辞めて1年ほどフラフラしていた時期には、自分でブログを作り、Google検索の広告を貼って収益を上げていたこともあると明かします。月10万円ほど、あるいはもう少しになったといいます。
毎日毎日それやってて、これ頭おかしくなるなみたいな。ちょっとこれずっとやってるの辛いなと思って。
児玉さんは、この収益源から少し離れた記憶があると語ります。ただ、一人でやっていたのが良くなかっただけで、みんなでやれば楽しく続けられ、違う事業モデルになったかもしれないと振り返っています。
包茎7ヶ月間戦争と、コンプレックス語の単価が高い理由
児玉さんが「一番面白かった」と語るのが、本に出てくる「僕らの包茎7ヶ月間戦争」の話です。あるキーワードを、どの広告代理店が取るのかという争奪戦のエピソードです。
検索連動型広告では、誰もがどの単語にも入札できます。しかし昔は「この単語はどの代理店」という慣習があったといい、本では「包茎」という単語を電通と東急エージェンシーが取り合っていたと書かれていると紹介します。
コンプレックス系の単語はすごい単価が高くなるみたいなことも書いてあって。誰にも知られずに解決したいものですからね。
児玉さんは、10代後半から20代後半までがこうしたネットとの接点が最も多かった時代だと語り、同世代なら思い出が蘇るはずだと勧めています。
YouTube買収は「狂気の沙汰」だったのか〜事前規制と事後規制
2つ目の感想は「事前規制と事後規制」です。ここではYouTubeの買収の話が中心になります。
児玉さんはまず、本からYahoo側の悔しさがにじむと指摘します。同じネット勃興期を生きながら、GAFAMのような世界的企業を作れなかったという思いが随所にあると読み取っています。
その象徴がYouTubeの買収です。YouTubeは元々Googleが始めたものではなく、別の起業家が始めたサービスを、Googleが1900億円ほど、2000億円弱で買収したと本にはあります。当時のYouTubeは違法アップロードが多く、訴訟だらけだったといいます。
そのため日本側は冷ややかに見ていた、と児玉さんは紹介します。
あんな訴訟の時限爆弾を抱えたサービス買うなんて狂気の沙汰だみたいな。しかも1900億円みたいな。
この差の背景として本が挙げるのが、事前規制と事後規制という文化の違いです。児玉さんは本の記述をそのまま引きます。
本によれば、日本が事前規制の社会であるのに対し、アメリカはまずやってみて問題が起きたら訴訟で決着をつける事後規制の社会です。規制を一時的に緩和して実証実験を許可するサンドボックス特区制度なども、その一例として挙げられています。
訴訟リスクを抱えたサービスは買えない。事前規制の社会で、社会的批判も避けたい
まずやってみて、問題は訴訟で解決すればよい。フェアユースを後ろ盾に勝算を持てる
児玉さんは、日本のトップだったYahooが訴訟リスクの高いサービスに踏み込みにくかったこと自体は理解できると語ります。負けたら支払えばいいという割り切りが、日本では社会的批判を招きやすいという事情もあったのではないかと見ています。
「水清ければ大魚なし」〜GYAO撤退が示したもの
その後、YahooはGYAOという動画サービスをリリースしますが、最終的には撤退します。児玉さんは、その象徴的な言葉として「水清ければ大魚なし」を挙げます。
綺麗すぎてユーザーが集まってないというのが敗因というか要因ということで。
児玉さんは、こうした文化があるからこそ日本は住みやすく安全でもあると付け加えます。だからこそ、この判断そのものを否定できる人はあまりいないだろうと語ります。
一方で、結果的にはYouTubeが子供のなりたい職業にもなるほど普及しました。児玉さんは、川邊さんが本で書く「巨人の肩に乗るしかない」という姿勢に共感を示しています。
「若者よいかがわしくあれ」〜参加者が少ないものにチャンスがある
3つ目の感想は「いかがわしいもの」です。本のサブタイトルにある「若者よいかがわしくあれ」を、児玉さんは非常にいいフレーズだと評価します。
児玉さんは、事業をやっていると「いかがわしいな」と感じるものが多いと語ります。TikTokもかつてはそう見られた時期があり、今ではTemuのような販売サイトをいかがわしいと感じる人も多いといいます。
既存のみんながいいと思っているものには、それなりのプレーヤーがいる。つまり空白地帯ではない、と児玉さんは整理します。川邊さんも本で「空白地帯を見つけようぜ」と書いているといいます。
ここで児玉さんは、「いかがわしさ」の正体を捉え直します。それは技術やコンセプトの問題ではなく、参加者が少ないという現象を人が「いかがわしい」と感じているだけだという見方です。
もう1つ、児玉さんが挙げるのが、自分の苦手なゾーンを「いかがわしい」という表現で忌避してしまう精神性です。だからこそ、いかがわしいと感じたものは、自分にとってのチャンスや成長の余地だと捉え直せると語ります。
既存店とのカニバリと、AIという「デストロイヤー」
児玉さんは、自社でもチャレンジしていない領域があると認めます。その理由の多くは、原理的には単に嫌い、あるいはやったことがないから、というものだといいます。
だからこそ、いかがわしいものの中には無駄な投資に終わるものもある一方で、境目を見極め、これまでチャレンジしなかったものにも積極的に取り組みたいと語ります。
新しい技術としてのAIについては、これまでのインターネット産業が既得権益になり、AIがそのルールを壊す「デストロイヤー」として出てきていると本の見立てを紹介します。
わかりやすい例として、児玉さんは本にある構図を引きます。既存の店舗を持つ会社は、自社のネット参入で既存店の売上が下がる「共食い」を避けたいため、ネットに注力しにくいという話です。
既存店とのカニバリ(共食い)を恐れ、ネットに注力しきれず売れにくい
失うものがなく踏み込めるため売れる。同じ構図がAI発の事業にもあり得る
児玉さんは、AIをいかがわしいから使わないのではなく、AIをフルに使える組織体制になれていないことが今の課題だと語ります。そのうえで、AIを使った「なんとか屋さん」のような新しい事業になれないかと考えていると話します。
児玉さんは、朝に会社の社員へ「いかがわしいもの」を聞いてみたと明かします。何をいかがわしいと感じるかに性格がよく出ており、社長である自分が遠ざけているものにこそチャンスがあるかもしれないと考えています。
「即刻アンインストールを」〜次回は文化人類学へ
児玉さんは、川邊さんが本の内容を「即刻アンインストールしてください」と書いている点に触れます。昔の話から学ぶこともあるが、AIを実際に触って見つけた発見のほうが役に立つ、という趣旨だと受け止めています。
それでも、30年間の思い出は楽しい話の種になると児玉さんは語り、教訓というより思い出話として時々するのもいいと締めくくります。
次回は毛色を変えて、文化人類学の本『ビジネスエリートが身につける教養 文化人類学』を取り上げる予定です。児玉さんは、贈与などの話から文化人類学を身近な学問と感じているといいます。
学問として学びたいというより、文化人類学的な視点で事業をどうドライブするかを探したいと児玉さんは語ります。ネットやAI界隈の人の動き、TikTokのショップで買う人の観察などに生かしたいという狙いです。
まとめ
川邊健太郎『7つの激変』を、ネット勃興期を生きた地方経営者・児玉光史さんの視点で読み解いた回です。懐かしさ、事前規制と事後規制、そして「いかがわしさ」に眠るチャンスという3点を軸に、自社の経営とAI活用への構えまでが語られました。
- 『7つの激変』は、著者と同世代の児玉さんにとってネット勃興期の記憶が蘇る一冊。ブログ広告で月10万稼いだ体験なども重ねて読まれた
- YouTube買収を「狂気の沙汰」と見た日本と、訴訟で決着する事後規制のアメリカ。フェアユースを背景にGoogleは勝算を持てた
- GYAOの撤退は「水清ければ大魚なし」を示す例として語られた
- 「いかがわしさ」の正体は技術ではなく参加者が少ないという現象。苦手ゆえに忌避したものにこそチャンスや成長の余地がある
- AIは既得権益を壊す「デストロイヤー」。使わないのではなく、フル活用できる組織になり「AIを使ったなんとか屋さん」を目指したいと語られた




