初めての二人回、八木さんの「淡々と戦略的」が刺さった理由
今回は、前回まで出演したイラストレーターの八木渉さんの回を、平田さんと山崎さんの二人で振り返るテスト企画です。制作のクロニクル・野村さんの提案で始めたと説明されています。
山崎さんがまず挙げたのは、八木さんの話しぶりの印象です。表情も語り口も淡々としている一方で、マーケティングの部分はきわめて戦略的だったと振り返ります。
(八木さんは)めちゃくちゃ淡々としてるんですよ。だけどマーケティング的な部分はめちゃくちゃ戦略的だし。
平田さんも、肩の力が抜けているようでいて、実は緻密に考える策士だと感じたと話します。この緩急が二人にとって印象的だったようです。
ものづくり一直線ではない、横に広いキャリアの新鮮さ
山崎さんは、自分の周りのクリエイターの多くが「ものづくりが好きで、一段一段登ってきた」タイプだと言います。八木さんはそれと違い、通訳翻訳や芸人を目指した経歴を経てたどり着いた点に肩透かしと新鮮さを感じたと語ります。
全然違う、通訳翻訳やってましたけどみたいな。芸人目指してましたけどみたいな。あれ新鮮でしたね。
平田さんは、必死に極めてきたタイプのクリエイターとは違い、紆余曲折を経てトップクラスに活躍している点が、模索中の人の励みになると話します。
山崎さんは、クリエイティブの人は自分の業界の先輩を見上げて縦に考えがちだと指摘します。八木さんは経験の幅から、縦ではなく横の軸が強く、業界を俯瞰していると感じたそうです。
縦じゃなくてなんか横の軸が強いなっていう感じがしたんですよね。
その視点の切り替えの背景として、平田さんはUSJのCMOだった森岡毅さんの本に触発されたという八木さんの発言を挙げます。
平田さんは、一つの道を極める働き方も、複線的にキャリアを築く働き方も、どちらにも成功者がいると整理します。八木さんのような複線的な築き方は今風だと山崎さんは受け止めています。
「作るのがゴール、SNSはその先」という感覚のズレ
話題は、クリエイターと発信の関係に移ります。山崎さんは、作ることが好きで生きてきた人にとっては、作ることがゴールで、SNSはその先だという感覚があると語ります。
作ることが好きで生きてきてるから、作るのが基本的にはゴールなんですよ。で、SNSとかその先じゃないですか。だからなんかちょっとギアが落ちるんだよね。
その感覚ゆえに、アワード(賞)よりも次の作品を作りたい気持ちのほうが回る、と山崎さんは言います。ただ、今の主戦場はその制作の奥にあると感じているそうです。
だからこそ、クリエイティブと社会の向き合い方を変えないと、この時代に仕事を取ったり上に行ったりするのは難しいだろうと山崎さんは話します。
平田さんは、これはクリエイターだけの話ではないと広げます。本の編集者、新聞記者、人事、広報、社長まで、みんなが発信を求められる時代になっていると指摘します。
平田さんは、SNSを業務と位置づける会社の例にも触れ、そうなると発信が得意な人と苦手な人で生きやすさが分かれそうだと話します。
(発信が得意か苦手かは)別れると思う。僕結構苦手なんで。
昔のも今のも等価にアセット、若い世代の発信感覚
山崎さんは、SNSの振り付けをする若い世代と仕事をしたときの発見を語ります。彼らは曲の新旧を問わず、昔のものにも今のものにも振り付けをつけるといいます。
僕らの感覚だと今年の最新作に振り付けをつけるみたいなことをやりたくなるんだけど、彼らにとってはその最新とかあんま関係ないですね。
山崎さんは、自分は新しいものを作らないと世に出せないと思ってしまうが、若い世代は昔のものも最新作も等価にアセットと捉えているようだと話します。
平田さんは、その背景として露出する場所がフラットになった点を挙げます。かつては新譜と旧作、新刊と旧作が分かれていたが、今はXでもTikTokでも横に並ぶと整理します。
山崎さんは、常に作り続けることが生きる術だと思ってきたが、案外そうでもないかもしれないと話します。極端に言えば、5年作って5年マーケティングに全振りする働き方もあり得るのではないかと投げかけます。
新しいものを作らないと世に出せない。最新作に価値がある
昔のものも最新作も等価にアセット。露出の場はフラット
今20歳なら同じやり方では、のし上がれない
山崎さんは、もし自分が今20歳の学生として、これからイラストレーターやデザイナーとしてのし上がろうとしたら、今まで生きてきたやり方では通用しないだろうと感じると語ります。
山崎さんは、大きい仕事が名刺になるという感覚でもなくなってきたと言います。若いデザイナーには、昔からのデザイン団体への疑義もあるそうです。
一方で、若い世代は絶対にSNSをやるだろうと山崎さんは見ています。SNSが前提になっているという感覚です。
山崎さんは、自分たちの世代は賞を取ることが強かった時代だが、今はそうではないと振り返ります。取ったほうがいいが、賞以外のルートもあるという整理です。
フォロワーは資産か、発注者にだけ届けばいいという割り切り
平田さんは、八木さんの「みんなに見てもらったり、いいねをもらう必要はない」という発言が印象的だったと話します。発注者にだけ届けばいいという割り切りです。
発注者にだけ届けばいいっていうのは、なるほどって思いましたね。フォロワーは別(に)発注者じゃないもんね。
フォロワーが資産だと言われることもあるが、フォロワーは必ずしも発注者ではない、という視点です。山崎さんは、SNSを見るメッシュが細かくなってきていると受け止めます。
平田さんは、誰が自分の顧客なのかを、広い言葉ではなく狭い言葉で考えることが大事だと感じたと話します。
山崎さんが特に感心したのが、八木さんの戦略的な発信の手法です。落としたい編集者が作った本の感想をつぶやくという方法を挙げます。
落としたい編集者が作った本の感想つぶやくんだよ。すごい戦略的撒き餌ってことでしょ。
山崎さんは、こうしたSNSの使い方でも、八木さんは自分にとって何が大事かがブレていないと評価します。フォロワー数の多さにとらわれない姿勢です。
平田さんは、この考え方に気づけると、発信やSNSとの向き合い方が楽になり、気負わなくてよくなると話します。
フリーランス協会でも発信は2〜3割、口コミで回る経済圏
山崎さんは、フリーランス協会の人たちがSNSをやっているのかを平田さんに尋ねます。平田さんの答えは、思ったより発信していないというものでした。
(協会の事務局の仲間は)全員フリーランスですけど、多分発信してるの2割とか3割ぐらいの人じゃないかな。
平田さん自身もFacebook以外はほぼ使っておらず、インスタは閲覧専用で発信数はゼロだと明かします。それでも仕事は口コミや紹介、リピートで回っていると話します。
平田さんは、クリエイターやエンジニアは本業が楽しいから発信は後回しになりがちだと言います。だからこそ、どんな仕事をしたいのか、発信の目的が大事だと整理します。
みんなやってるからやるみたいなのだと続かないし、辛くなるし。
一方で、イラストレーターやフォトグラファーは、無料で作品を並べられるポートフォリオとしてインスタやnoteと相性がいいとも話します。ライターがnoteに記事をまとめる例も挙げられます。
発信に正解はあるのか、ブランディングで変わる正解
山崎さんは、フリーランスの発信の正解を知りたい、パターン化できないのかと問いかけます。平田さんは、これをやれば必ず成功するという王道はない気がすると答えます。
山崎さん自身もインスタを「仕事なので」やっており、Xもやるよう強く勧められるが断っていると明かします。やりたいかどうかは別として、一定はやっている人が多いのではないかと話します。
平田さんは、発信の正解はその人がどんなブランディングをしたいかによると整理します。認知を取りに行きたい人、信頼できる人とだけ仕事したい人で必要な発信は変わるという視点です。
必ずしもそのオープンに発信することだけが正解ではない気がする。
平田さんは、俳優やアーティストでも、本人がつぶやいてファンを増やす人もいれば、ミステリアスに徹してキャラを出さない人もいると例を挙げます。目指す方向性によって正解は変わるという話です。
山崎さんは、これまでのゲストを振り返り、お金周りの話と情報発信の話がどちらも重要だと毎回感じると言います。多くの人は提供価値である「真ん中」に自信があって独立するが、勝負を決めるのはその前後だという指摘です。
会社にホームページがない中国、統制が生む個への信頼
話題は中国の発信文化に移ります。山崎さんは、中国では会社もアーティストもホームページを持たず、発信がSNSで完結していると語ります。
中国ってさ、会社もさ、ホームページないのよ。だからアーティストのホームページ、文化として(は)SNSなの。
山崎さんは、インバウンドの仕事でも、中国から来る人はホームページを見ずに来るため、WeChatのミニアプリを仕込む形になると説明します。自身のアーティストサイトもSNS内に作りに行っているそうです。
なぜSNSで完結するのか。山崎さんは、聞いた話として情報統制の影響を挙げます。コーポレートはオフィシャルであるのに対し、SNSは個であり、そちらのほうが信頼度が高いという理屈です。
平田さんは、それは意外だと反応します。個の発信のほうが偽情報や誤情報が多いイメージがあるからです。山崎さんは、攻めに行く場所によって発信の仕方が変わることを痛感すると話します。
平田さんは、日本でもコーポレートサイトを簡易にしてnoteをコーポレートサイト化する会社があると補足します。独自ドメインも取れるため、必ずしもオウンドメディアを構築する必要はないのかもしれないと整理します。
フリーランスも同様で、ソーシャルのアカウントが一つあれば十分な場合もあると平田さんは話します。自身もホームページを作ったことがないと明かして、この回を締めくくります。
まとめ
淡々としながら戦略的な八木さんの姿から、二人は「作ることがゴール」の人にも発信が避けられなくなった時代を語りました。フォロワー数ではなく発注者に届く発信、ブランディングに応じた正解、国による発信文化の違いまで、発信との向き合い方を多角的に振り返る回です。
- 八木さんは、必死に極めるタイプではなく、複線的な経歴を経て横の視点で業界を俯瞰している
- 作ることがゴールの人にとってSNSはその先だが、今はその制作の奥に主戦場が移っている
- 若い世代は昔のものも最新作も等価にアセットと捉え、露出の場はフラットになっている
- フォロワーは必ずしも発注者ではなく、狭い言葉で顧客を定義し発注者に届ける発想が有効
- 発信の正解はブランディングの方向で変わり、中国では統制ゆえに個の発信が信頼される





