なぜ在宅勤務廃止のニュースに引っかかったのか
この回のきっかけは、GMOという会社が在宅勤務制度を廃止するというニュースが話題になったことだと、サエキさんは話します。
こうしたニュースが出ると、リモートワークにはこういう良さがあり、AI時代に逆行しているといった熱弁を、脊髄反射でする人が出てくるとサエキさんは指摘します。
そのネガティブな熱弁の姿勢に、サエキさん自身が引っかかりを覚えているというのが、この回の出発点です。自分の会社の周りにも、そういう人はいそうだと感じているそうです。
子育て世代にとってリモートは「ないと無理」
サエキさん自身は、リモートワークができる会社に勤めながら、2人の子供を子育てしています。このポッドキャストも在宅ワークの隙間時間で録っているそうです。
育児の面から見ると、リモートワークはなくてはならないものだとサエキさんは言います。
リモートワークっていうのはもう正直なくてはならないというか、ないと無理やんって思ってます。
理由は家庭の環境にあります。サエキさんは大阪在住ですが、地元は佐賀県で、両親は今も佐賀にいます。妻の地元も関西圏ではなく遠方だそうです。
そのため、じいちゃんばあちゃんのサポートを受けづらく、リモートワークがないと仕事と育児の両立は難しいと語ります。これが、サエキさんがリモートワーク肯定派である大きな理由です。
会議はむしろリモートのほうがいい、その具体的な理由
育児以外の場面でも、会議はむしろリモートのほうがいいとサエキさんは考えています。
理由の1つが文字起こしです。手元でメモを取るときは取るものの、文字起こしが残る前提で過ごすようになっていて、それがとても良いと感じているそうです。
もう1つは、リアル会議だと発言をかぶせてくる人が多いという点です。リモート会議ではかぶせるのにストレスや体力がかかるため、しづらくなります。
特に上司の中にはそうした被せ方をしがちな人がいるものの、リモートならしにくい。まだ管理職ではない一般層の立場として、その点はとても良いとサエキさんは話します。
なぜ「フルリモートでいい」という主張には否定的なのか
会議はリモートがいいと言いつつ、サエキさんはフルリモートには否定派だと切り出します。ここからは偏見も込みだという前提で話が進みます。
フルリモートでいいと熱弁する人の多くは、出社よりリモートのほうが楽で、ぬるま湯から出たくない気持ちが先にあるのではないか、というのがサエキさんの見立てです。
ただ、そんな自分をマスキングするためにいろんな理屈をこねてるじゃないって、僕は正直見てて。
だから実際は逃げているだけではないか、と思うところもあるとサエキさんは率直に語ります。ただし、これは偏見であり、人それぞれのスタイルがあるとも認めています。
AIがハードスキルを代替する時代に残るのは何か
サエキさんがフルリモートをもったいないと考える理由の中心には、AI時代の到来があります。
近い将来、来年再来年の話として、ハードスキルと呼ばれる専門技術はほぼAIに代替されてしまう、とサエキさんは見ています。
そんな未来で人に残るのは、ハードではなくソフトのスキルだと言います。コミュニケーション、気遣い、コネクションといった部分です。
その根拠として、AIの台頭で企業の人数が減っても、企業は人によって作られるものであり、AIは人にとっての手段であるという関係性は当分ひっくり返らないとサエキさんは述べます。
一方で、AIにとっての手段が人になる世界もパラレルワールドとしてはあり得るとし、それを映画『Matrix』になぞらえています。
フルリモートは「最後に残る持ち場」を手放す構図
そんな時代において、リモートワークを熱弁する人は、結局は人と関わるのがだるい、オンラインでいいと考えているのではないか、とサエキさんは指摘します。
それは、AI時代に唯一残りそうなソフトスキルという持ち場を、自分から手放していることになるというのがサエキさんの見立てです。だからもったいないと言います。
自分の最後の唯一残りそうなその持ち場をもう自分から手放してるっていう構図だとは思います。
企業目線で見ると、そうした社員の優先度は下がっていくとサエキさんは考えます。
AIの台頭で人が半分いらなくなり、半分辞めてほしいとなったとき、リストラ対象になってしまうのではないか、という懸念を語ります。
Microsoftの調査が示した「緩いつながり」の消失
サエキさんは、調べた内容としてMicrosoftの研究を紹介します。おそらくコロナ禍にデータを取ったものだろうと補足しています。
その研究は、全社リモート体制へ移行した後に、社員6万人以上の共同データを調べたものだそうです。
結果として、組織のつながりがサイロ化、いわゆるタコ壺化し、組織が縦割りになったといいます。部署をまたぐ橋が減ったそうです。
さらに、リアルタイムの会話が減り、同期性の低い、分断的なやり取りに寄ってしまったとサエキさんは説明します。
全社リモートへ移行
社員6万人以上のデータを調査
つながりがサイロ化
組織が縦割りになり部署をまたぐ橋が減る
やり取りが分断的に
リアルタイムの会話が減り非同期に寄る
緩いつながりが痩せる
偶然の接点が密かに消えていく
リモートワークで最初に痩せていくのは、そうした緩いつながりだとサエキさんは言います。効率は上がるかもしれないが、偶然の接点は密かに消えていく、というのがその研究の結論だそうです。
サエキさんは、その偶然の産物であるセレンディピティがイノベーションのきっかけになると考えると、それは良くないのではないかと話します。
AI時代に「昭和的な働き方」が求められる理由
そんな世界で、サエキさんが最近思うのは、昭和的だと言われる働き方や動き方がむしろ求められる時代なのではないか、ということです。
理由の1つは上司世代の感情です。今の40代50代の上司は、自分が若い頃に昭和的な働き方をしてきた人たちなので、部下がそう動くと可愛らしく見えるといいます。若い頃の自分のようだ、と。
もう1つは、働き方の変化で失われたものの補填です。昭和的な働き方から令和的な働き方へシフトしたことで、必ず失われた何かがあるとサエキさんは指摘します。
それを補填できるのが旧来的な昭和的な働き方であり、現代で未充足なところを充足させられるからニーズがある、というシンプルな話だとまとめます。
理屈と本音のあいだで揺れる、自身の葛藤
一方で、サエキさん自身にも両側面があると認めます。効率だけ考えれば、今日は出社しなくていいと思う日も全然あるそうです。
それでも出社してみると、いろんな人との会話や、会議でのリアルな対話、隙間の雑談が楽しかった、行ってよかったと思うことがほとんどだと語ります。
逆に、頑張って出社したのにコミュニケーションを避け、会議室から逃げるように帰ってしまった日は後悔が残るそうです。サエキさんは、自分はコミュニケーションが得意なほうではないと打ち明けます。
さらに、上司から「今日はオフライン会議でお願いできないか」と言われるとイラッとし、旧来的で古臭いと感じてしまうこともあるといいます。
今まで僕が言ってきたこととちょっと矛盾してますよね。なんか人ってやっぱそんなもんなんかなと思いながらも、そんな葛藤の中生きてますよ。
問いは「自分はどこで生き残るか」
これまでの話には1つの前提があるとサエキさんは言います。自分が優秀かどうかはさておき、どれだけ優秀でもAIには絶対に勝てないと思っている、という前提です。
だからこそフルリモートでいいという選択肢はもったいないと言うのですが、そう主張する人は、AIに負けない何かを持っているという自負があるのかもしれない、とも考えます。
そうであればそれでいい。だからこれはどちらが正しいという話ではなく、自分はこの先どこで生き残ろうとするかという問いなのだろう、とサエキさんはまとめます。
将来のAIの台頭がほぼ間違いない中で、自分はどうやって生き残っていくかという問いは、常に自分に持ち続けたほうがいい。それが元々思っていたことだと締めくくります。
まとめ
リモートワークの是非を、AI時代に人に残るスキルという視点から問い直した回でした。肯定と否定の両面を抱えながら、最後は「自分はどこで生き残るか」という個人の問いに着地しています。
- 子育て世代にとってリモートワークは不可欠で、会議も文字起こしなどの点でリモートが良い場面がある
- 一方でフルリモートには否定的で、その理由はAIがハードスキルを代替する時代に残るのはソフトスキルだと考えるためである
- Microsoftの調査では、リモート移行で組織がサイロ化し、緩いつながりや偶然の接点が痩せていったとされる
- AI時代には、失われたものを補う昭和的な働き方にむしろニーズがあるという見方が示される
- 結論は正解探しではなく、「自分はこの先どこで生き残るか」を問い続けることの大切さである





