なぜ「辞める理由」は経営者に伝わりにくいのか
今回のテーマは「なぜあなたの会社のスタッフは辞めるのか」です。会社からスタッフが去っていく理由について、吉田さんが正面から取り上げます。
吉田さんは、退職の相談を受けたときに原因をズバリ伝えるのは難しいと話します。顧問社労士として指摘はしなければならないものの、遠回しな言い方になりがちだといいます。
理由は、スタッフが辞める背景を説明することが、経営者が愛情を注いでいる会社の体制を否定することにつながるからです。
スタッフさんが辞めていくっていうことを説明するっていうことは、その会社の経営者の人が愛情を注いでる会社の体制を否定しなきゃいけないところがあったりして、社労士としては言いづらい部分があると。
それでも数多くの相談に乗るなかで、吉田さんは退職者が多い会社には共通点があると気づいたといいます。ポッドキャストという場だからこそ、遠慮せずに語っていく構成です。
1つ目の原因は「経営者がケチすぎる」こと
1つ目の原因として吉田さんが挙げるのは、経営者がケチすぎるという問題です。しかも自覚症状がないケースが多いと指摘します。
よくある例が、労働時間の管理を15分単位で丸めて処理している会社です。吉田さんは、これをIT化されていなかった時代の事務簡略化の名残ではないかと見ています。
今の時代はデジタル勤怠システム ── 出退勤の打刻や労働時間の集計をオンラインで自動化する勤怠管理の仕組み。分単位での正確な集計がしやすい。を入れれば1分単位の集計も容易なため、数分を削ったところで会社の利益は変わらないはずだといいます。
そこの数分を削ったところで、正直会社の経営とか利益変わらないですよねって思うんです。
それでも労働時間の切り捨てにこだわる経営者は一定数いる、と吉田さんは話します。
吉田さんが伝えたいのは、人を採用したり育成したりするには多額の費用がかかるという事実です。切り捨てで踏み倒した金額よりも、退職に伴う採用・育成費のほうが大きくなり、結果として損をするのは経営者自身だといいます。
切り捨て以外で残念に感じる例として、有給申請を受け付けない、あるいは申請すると嫌な顔をする経営者もいると吉田さんは挙げます。
そうした経営者の根底には、自分は有給もない中で働いているのに、なぜ労働者には有給があるのか、という考え方があるようだと分析します。
これに対して吉田さんは、経営者とスタッフは報酬も働き方も違い、経営者という職業を選んだのは本人だと指摘します。有給申請を嫌がることも、失うもののほうが多いのでやめたほうがいいと述べています。
2つ目の原因は「ルールがない」こと
2つ目の原因は、会社にルールがないことです。ルールがないと、経営者が朝令暮改 ── 朝に出した命令を夕方には変えること。方針や指示が頻繁に変わって定まらないことのたとえ。の状態になりやすいといいます。
以前決めたルールや出した指示が、次の場面では変わってしまう。吉田さんは、自分自身も含め、あらゆる中小企業の経営者が気をつけるべき点だと話します。
ルールがないと一番大変になるのは、そのルールで会社を運営していくスタッフだと吉田さんは指摘します。
社長は前こんなこと言ってたのに今はこんなこと言ってるぞって裏で悪口を言われたりするわけです。
その結果、「社長は信用できない」となってスタッフが辞めていくことがあるといいます。
具体例として吉田さんが挙げるのが、経費決裁です。あるときは「頑張ってるから経費は自由に使っていい」と言っておきながら、後日領収書を持ってくると「事前に話を通してもらわないと精算できない」と言い出すようなケースです。
スタッフからすれば「なぜ」と感じるところですが、経営者はさまざまなことを考えているため、前に言ったことと今言っていることが違うと自覚していないのだと吉田さんは説明します。
自分が前言ったことと今言ってることが違うってことを自覚してないんですね。
だからこそ吉田さんは、就業規則や経費のルールを明文化しておくことをすすめます。役職ごとにいくらまで使えるかなどを会社として決めておくことは、スタッフのためだけでなく、経営者が変なことを言わずに済むという意味でも役立つといいます。
3つ目の原因は「成長を実感できない」こと
3つ目の原因は、スタッフが成長を実感できないことです。吉田さんは、中小企業でありがちだと話します。
口では不満を言っていても、毎日同じことを続けて成長を実感できなくなると、人は飽きて辞めてしまう。あるいは「この会社で10年も20年も同じことをやり続けるのか」と考え、転職を検討し始めるといいます。
そのため、次の仕事を与えたり、次のキャリアステップに進める仕掛けを用意したりすることが会社には必要だと吉田さんは述べます。
ただし、ここには難しさもあります。役職や仕事には限界があるため、成長を実感できる環境を作るには、会社自身も大きくなっていく必要があるといいます。
ひたすらこう前進し続けなきゃいけないっていうのは、株式会社というか、資本主義の中で経営する宿命なのかなと思います。
会社が成長しなければ、与えられる役職も仕事もなくなり、詰んでしまう。吉田さんは、とにかく成長を実感できる体制を作ることが重要だとまとめます。
4つ目の原因は「入社前後の期待値ギャップ」
最後の4つ目の原因は、入社前と入社後の期待値のギャップが大きいことです。
吉田さんが描くのは、営業が得意で話がうまい社長が、入社を検討している人に「うちはこんないい会社だ」と散々アピールして採用するケースです。
ところが実際に入ってみると、経営者がケチで15分単位でタイムカードが切り捨てられ、ルールもなく、経営者の言うことも変わる。周りのスタッフは成長を実感できず会社の文句ばかり言っている、という状態だったりします。
この4つの原因が重なった職場をイメージさせる形で、吉田さんはこれまでの話を1つの場面につなげています。
入社前と入社後で全然違うじゃないかみたいな、怒るのが珍しくないんです。
そうなるとスタッフは「こんな状態なら最初から教えてくれればよかった」と感じ、「経営者の言っていることは嘘じゃないか」となって、早期退職を検討してしまうといいます。
労働者が会社を選ぶ時代に必要な設計
最後に吉田さんは、経営者として意識すべき点を1つ挙げます。それは、時代の変化を踏まえることです。
昔は「会社がスタッフを雇ってあげている」という感覚で経営する人が多かったように感じるものの、今は労働者のほうが会社を選ぶような時代になってきたと吉田さんは話します。
今は労働者の方が会社を選ぶような時代になってきた。
そのため、他の会社と比べて自社の労働条件がどれくらい良いのか、他社より優れた何かがあるのかを意識することが必要だと述べます。自社で働くメリットを意識しながら、労働条件や働き方を設計していくことが重要だといいます。
吉田さんが解説した4つの原因は、それぞれ独立しているようで、実際には重なり合って退職につながることが語られました。
まとめ
退職者が多い会社には共通点があり、吉田さんはそれをケチ・ルール不在・成長実感の欠如・期待値ギャップの4つに整理しました。いずれも経営者が自覚しにくい点であり、労働者が会社を選ぶ時代には、自社で働くメリットを意識した設計が必要だと語られました。
- 労働時間の切り捨てや有給の抑制は、採用・育成費を考えると経営者自身が損をする
- 就業規則や経費のルールを明文化すれば、経営者の朝令暮改を防げる
- 成長を実感できる仕掛けには、会社自身が成長し続ける必要がある
- 入社前のアピールと入社後の実態が違うと、早期退職につながる
- 労働者が会社を選ぶ時代には、他社と比べた自社の魅力を意識した設計が求められる






