労使紛争は「無作為」には起こらない
今回のテーマは、労使紛争に巻き込まれる会社の特徴です。吉田さんは2013年から社労士として活動しており、10年以上にわたって多くの会社の労務をサポートしてきました。
その経験からわかったのは、労使紛争は「どんな会社にも無作為に起こるわけではない」ということです。労務のプロから見ると、「それは起こるよね」と思えるような会社で争いごとが起きやすいと吉田さんは話します。
定番の例が、未払い残業の請求です。残業代を払っていなければ労働者が怒るのは当然だといいます。ほかにも、ハラスメントの事実関係や懲戒処分の有効性を争うケースなど、展開はさまざまです。
(経営者は)俺の会社に喧嘩売ってきたなみたいな感じになるんですけど。
一方で、労働者側の視点に立つと事情は違って見えます。わざわざ弁護士に相談し、会社に内容証明を送ったり裁判を起こしたりするのは、非常にエネルギーのいる行動だと吉田さんは指摘します。
つまり、そこまでの行動をするということは、労働者がよほど怒っているということです。そして怒らせている経営者がいて、そこには特徴があると吉田さんは話します。
紛争になる会社は「下位2割」に集中する
社会保険労務士は、紛争になった場合、基本的に弁護士に仕事を引き継ぎます。未払い残業の請求やハラスメント、事実関係を争う訴訟などになると、吉田さんは弁護士を紹介する立場になります。
その経験から、吉田さんは顧客を262の法則 ── 組織や集団を、上位2割・中間6割・下位2割の3層に分けて捉える経験則。「働きアリの法則」とも呼ばれるに当てはめて説明します。上位2割、中間6割、下位2割と分けたとき、労使紛争に巻き込まれるのはこの下位2割の会社に集中するといいます。
具体的には、残業代を払っていない、雇用契約書が整備されていない、就業規則を作っていない、社労士が改善を提案しても放置する、といった会社です。
吉田さんが強調するのは、労使紛争には原因があるケースが多いということです。裏を返せば、その原因がわかっていれば、紛争は回避できるとも言えます。
1つ目の特徴「だらしがない」
ここから、労使紛争に巻き込まれやすい会社の具体的な特徴を3つ挙げていきます。1つ目は「だらしがない」ことです。
たとえば社労士から連絡をしても何日も放置する、期日までに資料をくださいと伝えても出してくれない。こうした会社は、その後に労使紛争になっているケースが多いと吉田さんは話します。
吉田さんの考えでは、雇用契約でも業務委託契約でも、お金を払って仕事をお願いするという点は変わりません。ちゃんとした経営者なら、契約形態に関わらず指定期日までにやることをやってくれるといいます。
それができない経営者は、そのだらしなさ自体に相手が怒りを感じ、紛争につながることが多いと説明されています。
2つ目の特徴「従業員に無関心」
2つ目の特徴は「従業員に無関心」であることです。吉田さんは、就業規則や雇用契約書を整備していない会社は紛争になりやすいと話します。
本当にちゃんとした会社を作ろうと思うなら、雇用契約書や就業規則をきちんと作るはずだといいます。入社時には、自社で合格点となる期待成果 ── 入社時に会社が従業員に対して示す、達成してほしい成果や合格ラインの基準。前回の回でも取り上げられたテーマを伝えたいはずだ、というのが吉田さんの考えです。
(会社側が)これくらいの期待成果やってくださいねって言った時に、同時に雇用契約書も渡して、こういうことはやらないでくださいねって話もしたいはずなんですよ。
そうしたことをしないのは、従業員に関心がないからだと吉田さんは指摘します。入社後の社員面談もしていない会社は、経営者の考えが従業員に伝わらず、恨まれやすいといいます。
3つ目の特徴「会社経営に当事者意識がない」
3つ目の特徴は「会社経営に当事者意識がない」ことです。典型的なのは、社員の悪口を言っている経営者だと吉田さんは話します。
うちのスタッフ使えないんだよねみたいな。
吉田さんは、程度によるとしつつも、サボりまくっている、備品を盗んでいるといった深刻なケースなら悪口を言いたくなるのもわかると前置きします。ただし、一生懸命やっているのに成果が上がらないのなら、話は別だといいます。
その人を雇ったのは経営者自身であり、だらしがない会社は期待成果も示さず教育もしていない、というのが吉田さんの見立てです。そうした状況で部下のパフォーマンスを陰で悪く言うのは、職務放棄ではないかと話します。
吉田さんは、会社は経営者自身の鏡だと表現します。スタッフが思い通りに動いていないと感じるなら、社長自身の行動に問題がないか目を向けたほうがいいと述べています。
これら3つがそろう経営者は、労使紛争が起こりやすいと吉田さんはまとめます。スタッフが「こいつは許せない」と感じ、社会正義のために労働者側の弁護士や労働組合に相談する流れになりやすいといいます。
紛争後も続くトラブルと、弁護士とのすれ違い
下位2割の会社は、トラブルが起こった後も問題が続くことがあると吉田さんは話します。真面目にやっていて、たまたま紛争になった会社も多いと断りつつ、ひどいケースでは紹介した弁護士ともトラブルになるといいます。
たとえば、解決のために信頼できる弁護士を紹介したのに、その弁護士にも連絡をしない、放置する。すると今度は吉田さんのところに問い合わせが来ます。
ご紹介してくださった(会社)と連絡取れないんですけど、吉田先生ご状況ご存知ですか、ご病気ですかとか来るわけですよ。
さらにひどいケースでは、請求書が出ているのに料金を払わないこともあるといいます。吉田さんは、こうした顧客を紹介するのは気を使うと語り、紹介先とトラブルになったために自分が裏で謝ったケースも過去に1、2回あったと明かしています。
「労働基準法を守る」はビジネスの参加権
最後に吉田さんは、どういう考え方でやっていけばいいのかをまとめます。労働基準法を守ることは最低基準であり、これを守れて初めてビジネスに参加できるという発想を持ったほうがいいといいます。
吉田さんは、「労働基準法を守っていたら会社経営できない」「社会保険料が高すぎて払えない」と言う人がいることに触れます。ただ、そう言うようなビジネスモデルは、その時点でどこかおかしいはずだと指摘します。
吉田さんの見立てでは、残業代を含めた適切な人件費や社会保険料を払える経営計画・収支計画がないから、そうした言葉が出てくるといいます。
本当に採算が取れないビジネスなら、計画の段階でやらなければいい、というのが吉田さんの主張です。計画がないまま、なし崩し的に始めてうまくいかず、後から文句を言っているのではないかと話します。
吉田さんは、当事者意識のある経営者なら計画の段階でうまくいくかを必ず考えるはずだといいます。労働基準法を守れないと感じている人は、計画の段階から見直したほうがいいとまとめています。
まとめ
労使紛争は無作為には起こらず、原因のある会社に集中して発生します。だらしがない、従業員に無関心、会社経営に当事者意識がないという3つの特徴を見直すことが、紛争回避の出発点になると吉田さんは話します。
- 労使紛争は原因のある会社で起こりやすく、下位2割に集中する
- 1つ目の特徴は、連絡や資料提出を放置する「だらしがなさ」
- 2つ目の特徴は、契約書や就業規則を整備しない「従業員への無関心」
- 3つ目の特徴は、成果の出ない社員の悪口を言う「当事者意識のなさ」
- 労働基準法を守ることはビジネスの参加権であり、守れないなら経営計画から見直すべき






