問題社員対応とはそもそも何を指すのか
今回のテーマは、経営者が問題社員対応のどこに一番ストレスを感じるかという点です。吉田さんはまず、問題社員という言葉の幅から説明します。
吉田さんによれば、程度の軽いものと重いものがあります。軽いものは会社の中でうまく活躍できていない人、重いものはハラスメントをして他のスタッフが困っているケースだといいます。
そうした人たちを活躍できる状態や真っ当な道に戻していくことを問題社員対応と捉えるなら、そこには経営者が強くストレスを感じる要素があると吉田さんは話します。
経営者が感じるストレスの正体は「終わりが見えない」こと
吉田さんが挙げる結論はシンプルです。経営者が問題社員対応で一番ストレスを感じるのは、終わりが見えないことだといいます。
その理由として、吉田さんは経営者の習性を挙げます。会社を経営するくらいなので、一般的に優秀でハイパフォーマーな人が多いという見立てです。
ハイパフォーマーの特性として吉田さんが挙げるのが、いつまでに何をするか決める習慣です。経営計画や売上目標を立て、期限を決めて動くことを自然に行ってきた人が多いといいます。
いつまでに何をするか決める習慣があるような気がします。
期限を決めて成功してきた人ほど、なぜ問題社員対応でつまずくのか
吉田さんは、経営者がその習慣をどう積み重ねてきたかを例で説明します。
いわゆるエリートコースの経営者であれば、学生時代は受験勉強で期限までに偏差値を上げ、司法試験や公認会計士試験、就活の面接なども逆算して行動し、結果を出してきたといいます。その積み重ねの結果として会社を経営するに至っているケースが多いという見立てです。
ところが、と吉田さんは話を戻します。問題社員対応は相手があることなので、期限が決まらないというのです。
ここで過去の成功体験に縛られて期限を切ろうとすると、別の問題が起きると吉田さんは指摘します。
たとえば「いついつまでに必ず成果を上げてください」と伝えれば、パワハラや行き過ぎた指導に見えかねません。そう接せられたスタッフは、かえって成果を上げにくくなるといいます。
さらに踏み込んで「いつまでに進退を決めてください」と言えば、それは解雇なのではないかという論点が出てきます。こうして今までの成功体験を出せず、打ち手がない状態になることが経営者にとって一番のストレスなのではないか、と吉田さんはまとめます。
期限を切る
「いつまでに成果を」と伝える
指導が過剰に見える
パワハラや行き過ぎた指導という論点が出る
進退に踏み込む
解雇なのではという論点が出る
打ち手がなくなる
成功体験を出せずストレスになる
「1年前の問題社員が今も未解決」という事例はない
吉田さんは、まずこの終わりの見えなさを経営者に理解してもらうことが重要だと話します。相手があることなので、必ず期限を切って解決できるわけではないと、相談の早い段階から伝えるといいます。
一方で、経営者に安心してもらうには別の材料も必要だと吉田さんは加えます。ここで持ち出すのが、社労士としての経験に基づく期間の感覚です。
吉田さんは社労士歴が10年以上あるといいます。そのうえで、5年前の問題社員対応が今も解決されていないという事例はなく、より短いスパンで見ても1年前の問題社員が今も未解決という事例もないと話します。
もちろん例外の例外を探せば長期化するケースもあり、絶対はないと吉田さんは断っています。ただ、感覚としてはきちんと話し合えば数か月ほどで解決するケースが多いといいます。
こうした話をすると、残りの人生ずっと問題社員対応をしなければいけないわけではないとわかり、経営者の気持ちも楽になると吉田さんは話します。そのうえで、では実際にどう解決するのかという話に進みます。
最初にやるべきは「期待成果」の共通認識づくり
問題社員にはいろいろなタイプがいますが、吉田さんはまず共通して欠けていることが多い点を挙げます。それが期待成果です。
期待成果とは、その会社でどこまでやれば合格点なのかという基準です。吉田さんは、この点で会社側と労働者側の共通認識ができていないケースが多いと指摘します。
なぜそうなるのか。本来は入社時に期待成果を説明すべきなのに、それを説明していないからだと吉田さんは話します。
ハイパフォーマーの経営者からすれば、会社に来て自発的に行動し、勉強し、売上目標があれば超えるのが当然という考え方になっているといいます。
一方、問題社員と言われる人の考え方は違うと吉田さんは説明します。たまたま受かった会社に通っているだけで、始業時刻が8時なら8時に行けばよく、指示されたことだけやれば労働契約は履行しているという受け止め方の人も多いといいます。
ここで吉田さんは、法律上はどちらが正しいのかにも触れます。指示に従って働くのが労働基準法で考える労働者の役割なので、法律の世界では労働者の人の方が正解なのだといいます。
法律の世界だと指示に従って行動する、してればそれでいいって話になるんで、うちの会社だとそれじゃ厳しいですよ、我々の会社の合格点って違うんですよって話をちゃんとして
だからこそ、会社側と労働者側でどこが合格点なのかを再確認し合うことが、問題社員対応で最初にやるべきことだと吉田さんはまとめます。これは特に、なかなか成果を上げられないローパフォーマーの人に当てはまるといいます。
ハラスメントなど悪いことをしている人の場合は、悪い行動をやめてもらうことに加えて、本来は他の人を助けてほしい、仲良くやってほしいという点も含めて話すといいます。それも含めて期待成果なのだと伝えることが重要だと吉田さんは話します。
「子供の喧嘩」を仲裁するのは経営理念
期待成果の話をすると、時に労働者側から反論が出ると吉田さんは言います。会社こそしっかりしていないじゃないか、という指摘です。
たとえば残業代を払っていないといった指摘であれば、それは会社側が明確にダメなケースだと吉田さんは話します。
より絶妙なのは、教育研修を受けていないといった指摘だといいます。教育研修は法律上必ず用意しなければならない義務があるわけではなく、すべてオンザジョブトレーニングという会社もあります。それでも「研修も受けていないのに成果は出せない」と会社の落ち度をついてくる労働者もいるといいます。
こうなると、会社は労働者の悪いところを言い、労働者は会社の悪いところを言うという状態になります。吉田さんはこれを子供の喧嘩にたとえます。
お前が悪いわ、私が悪くないみたいな、そんなね、喧嘩になってくる。
この状態では話が膠着し、埒が明かなくなると吉田さんは言います。そこで会社として準備しておくべきものとして挙げるのが、経営理念や経営目標です。
吉田さんは、経営理念を「仲裁する要素」として使うと説明します。たとえば社会貢献していく、生産性の高い会社を作るといった経営理念があるなら、それを持ち出し、我々はこういうものに向かっている集団だと確認するのです。
そのうえで、会社は落ち度や至らないところをその理念に向かって直しているのだと伝えます。労働者にも、その経営目標や経営理念に向かって一緒に歩くには今の態度ではダメだ、と話すといいます。
こうすると、話している側が子供の喧嘩で言えば親の立場のように一歩上に立てると吉田さんは言います。互いを非難し合う展開から、経営目標を達成するにはどうすればいいかという話し合いに移りやすくなるためです。
期待成果を共有する
会社の合格点をすり合わせる
反論・膠着が起きる
会社の落ち度をつかれ子供の喧嘩になる
経営理念を持ち出す
向かっている方向を再確認する
親の立場に立つ
非難し合いから解決の話し合いへ移す
もちろん、それを無視して大暴れする人も世の中にはいるようだと吉田さんは断っています。ただ、こうして話していけば大体うまくいくといいます。
問題社員対応は「数か月で終わるケースが多い」
最後に吉田さんは、この回で伝えたかったことを整理します。経営者が問題社員対応でストレスを感じるのは、終わりがなく、なかなかない経験だからだといいます。
経営者の成功体験は、期限を切ってその中で成功してきたことが糧になっているケースが多いといいます。だからこそ、そのギャップを理解してあげて話すことが大切だと吉田さんは話します。
そのうえで、本当にしっかりスタッフと向き合った場合、問題社員対応は大体半年もかからず、数か月で終わるケースが多いと吉田さんは言います。運が良ければ一度面談しただけで変わることもよくある話だといいます。
こうした期間の見通しを伝えることで、前向きな話し合いになりやすいと吉田さんはまとめています。
まとめ
この回は、経営者が問題社員対応で最もストレスを感じるのは「終わりが見えない」ことだと捉え、そのうえで期待成果の共有と経営理念の活用という具体的な進め方を示した回でした。
- 経営者が一番ストレスを感じるのは、期限を切って成功してきた成功体験を再現できず、終わりが見えない点である
- 問題社員対応は相手があるため期限を切れないが、1年前の案件が未解決という事例はなく、数か月で終わるケースが多い
- 最初にやるべきは、その会社でどこまでやれば合格点かという「期待成果」の共通認識づくりである
- 法律上は指示に従って働けば契約は履行しているため、会社の合格点との違いを丁寧に説明する必要がある
- 会社と労働者が互いの落ち度を責め合う膠着状態は、経営理念や経営目標を持ち出して仲裁する




