頑張っているのになぜ昇給しないのか
今回のテーマは、勤務社労士が昇給幅の限界を知る方法です。「昇給しないよね」という声は勤務社労士の間でよく聞かれるネタだと吉田さんは話します。
吉田さん自身、2021年に開業する前は7年以上勤務社労士を経験しています。そのため、勤務社労士の悩みには強く共感するといいます。
よく聞く不満として、吉田さんはいくつかの例を挙げます。大変な顧客を担当しているのに所長が理解してくれない、夜遅くまで働いているのに昇給しない、といった声です。
ほかにも、業務の幅が広く芸の引き出しが多いのに昇給しない、通達に詳しいのに昇給しないのはおかしい、といった意見もあるそうです。
吉田さんは、これらはいずれもすごいことだと認めます。ただし経営的な感覚でいくと、給料の決まり方には明確な考え方があると続けます。
昇給の上限を決める「人事生産性」とは
吉田さんが今回伝えるのは、人事生産性という指標です。人事生産性 ── 従業員1人が一定時間に生み出す付加価値(粗利)を表す指標。労働集約型の業種で、給与水準の上限を左右する目安として使われる。
この指標が高くないと、どんなに頑張っても給料は上がらないと吉田さんは言います。これは社労士事務所に限らず、建設業やシステムエンジニアなど労働集約型の仕事に共通する話だと説明します。
求め方はシンプルです。社労士事務所の場合、自分が作り出している売上を、自分の労働時間で割るだけです。
正確には、原価がかかる業種では原価を差し引くため、粗利を労働時間で割った数値になります。この数値によって、その人の年収の上限値が決まると考えてほしいと吉田さんは話します。
100万円の顧客を担当すると人事生産性はいくらになるか
吉田さんはリアルな数値で説明します。勤務社労士が担当する顧客の顧問料と給与計算手数料が合計100万円を超えてくると、かなり忙しくなってくるといいます。
その場合、担当者が年間に作っている売上は、ざっくり1000万から1200万円ほどになります。仮に月100万円なら、12ヶ月で年間1200万円です。
その1200万円を担当者の労働時間で割ると、人事生産性が出ます。一般的な社労士事務所だと、この数値は3000円や4000円ほどになるそうです。
そしてこの数値が6000円を超えてくると、すごく儲かっている社労士事務所になると言われていると吉田さんは話します。
人事生産性3000円・5000円・7500円で年収はどう変わるか
ここから吉田さんは、人事生産性が3000円・5000円・7500円のそれぞれの場合で、年収の上限値を具体的に計算していきます。
前提として、社労士事務所では経営戦略にもよりますが、その人が持っている売上の3割から5割がスタッフの給料になると言われています。今回は中間の4割で計算します。
まず人事生産性3000円は、稼ぐ力が低い事務所のケースです。月間170時間、12ヶ月働くとすると、その人の年間売上は612万円になります。
612万円に4割を掛けると、年収は約244万円です。これ以上会社が払うと中長期的に利益が出なくなり、会社が存続できなくなるため、ここが限界だと吉田さんは説明します。
次に、よくあるケースとして人事生産性5000円の場合です。同じく月170時間・12ヶ月で年間売上は1020万円、年収換算で408万円になります。
吉田さんは、これは月給30万円ほどで夏冬に1ヶ月分ずつ賞与が出るくらいの水準だと補足します。人並みの給与に近づいてくる数値です。
さらに人事生産性が6000円を超えると壁を突破し、儲かる事務所になってくるといいます。吉田さんが目標とする7500円まで到達すると、粗利は1530万円、年収は約600万円になります。
| 人事生産性 | 年間売上(粗利) | 年収の上限 |
|---|---|---|
| 3000円 | 612万円 | 約244万円 |
| 5000円 | 1020万円 | 408万円 |
| 7500円 | 1530万円 | 約600万円 |
1人当たり600万円ほど稼げる状態だと、役職者や上位層はさらに高い年収を得られるため、職場として良い待遇を提供できるようになると吉田さんは話します。
吉田さんの事務所ワンハートは現在おおむね中間の5000円ほどで、日本一生産性の高い事務所を目指して全体で7500円への到達を狙っているといいます。
自分の昇給幅の限界を計算する方法
今回のタイトルにある「昇給幅の限界を知る方法」について、吉田さんは具体的な手順を示します。まず自分が作っている年間の売上を、社内の情報を集めてなんとか集計します。
その売上を自分の労働時間で割ります。普通の事務所なら、4000円から5000円ほどになるはずだと吉田さんは言います。
仮に割ってみて3000円しかない場合、前述のとおり年収の上限は約244万円になり、あまり稼げません。そこで多く稼ごうとすると、長時間労働や隠れ残業といった良くない状態になりがちだと吉田さんは指摘します。
3000円だったらどうするか|転職という現実的な選択肢
もし計算して3000円だった場合、吉田さんはまず自分で反省し、なぜ3000円なのかを考えるべきだと話します。
ただし顧客単価や売上は、経営者の考え方や集客のやり方に大きく依存します。そのため一人で変えられる部分は少ないと吉田さんは言います。
自分で効率よく仕事を進められる余地がないか考えた上で、それでもないという結論になれば、会社に変わってもらうか、自分が会社を変えるかのどちらかしかありません。
立場が上の人なら、生産性を向上させるプロジェクトや経営改革を社内で提案していくこともできると吉田さんは述べます。
ただ社労士事務所は所長がワンマンで決めているケースが多く、「俺の経営に口出すな」となりやすいため、うまくいかないことが多いと吉田さんは見ています。
そのため現実的な選択肢として、人事生産性が3000円の事務所では昇給しないのだから、正直、転職を考えた方がいいと吉田さんは話します。
転職や独立、事業会社への移動などさまざまな選択肢があり、そうした道を考えた方が年収は上がっていくといいます。勤務社労士時代に給与について悩んだ経験から、この話が役に立てばと吉田さんは締めくくりました。
まとめ
勤務社労士が昇給するかどうかは、頑張りや知識の量ではなく、人事生産性という指標で上限が決まります。自分の売上を労働時間で割って現状を知り、そのうえでキャリアを判断することが大切だと吉田さんは伝えています。
- 昇給幅の限界は「自分の売上÷労働時間」で求める人事生産性で決まる
- 人事生産性3000円なら年収の上限は約244万円、5000円で408万円、7500円で約600万円が目安
- 6000円を超えると儲かる事務所とされ、吉田さんは全体で7500円を目標にしている
- 売上や顧客単価は経営者の方針に依存するため、一人で変えられる部分は少ない
- 3000円で昇給の原資がない場合、現実的な選択肢として転職や独立を考えた方がよい






