「この人、辞めそう」と感じるサインとは
退職を考えている社員は、はっきり辞意を口にする前から兆候が出ることがあります。吉田さんは、この回の入り口として「まだ退職を明言しないけれど、絶対に考えていそうな人」の存在を挙げています。
定番のサインとしてまず挙がるのが、年次有給休暇の取得率の変化です。昔はほとんど使わなかった人が、急に有給を入れ始めると、上司は「辞めるのでは」と身構えることがあります。
あの人、昔は全然有給とか使わなかったのに、なんかポコポコ入れてくるじゃんみたいな。
一方で、上司がヒヤヒヤしていたら別件だった、というケースもあります。吉田さんは、相談があると言われて退職の意思表示かと思ったら、通院や病気の相談で本人はやる気があった、という例を紹介しています。
いよいよ退職の意思表示来るかと思ったら、通院とか病気の相談で本人やる気あったとか。辞めるんじゃなかったのかとね。
有給の前段階に出る「非協力的なサイン」
有給の取得率は、辞めるかどうかの最終段階に近いサインだと吉田さんは整理します。その手前の段階として、新しい役割を引き受けなくなる兆候があると話しています。
たとえば昇進を断ったり、新しい仕事を頼まれても「もう半年ぐらいで辞めるから」と断ったりと、会社の業務に非協力的になっていくパターンです。
さらに、以前は残業や休日出勤を頑張っていた人が、まったくしなくなるのも兆候の一つに挙げられています。
吉田さんが挙げる極端な例が、会議に来ても発言しなくなるケースです。会議で話すことは、その発言に責任を持つことだと説明しています。
真面目な人だったら、とりあえずもう辞めるんだし、何も言わなくていいかみたいな感じになってくると、だんだん影が薄くなってきて。
こうしたサインが積み重なると、「よく見たら昔とちょっと変わっているよね」という形で周囲が気づく、というのが吉田さんの見立てです。
新しい役割を断る
昇進や新しい仕事を引き受けなくなる
協力度が下がる
残業・休日出勤をしなくなる、会議で発言しなくなる
有給が増える
最終段階として有給取得率が上がってくる
辞めそうな人を見つけたときの、無難な対応
辞めそうな人を見つけたときの対応について、吉田さんはまず、まっとうな上司なら声をかけるのが普通だと話します。「最近どうですか」と面談やワンオンワンをして、困っていることがないか聞くのがよいという考えです。
一方で、意味がないと感じる対応として挙げるのが、飲みに誘って奢るなど、会社が下手に出て「続けてください」と接待のようにする対応です。
それ(接待のような対応)やられてる方もわかるんで、むしろ上司、俺に気使ってきてるじゃんみたいな感じになってナメられちゃいます。
辞める理由が単純にやる気の低下なら、会社のやりたいことや働く意義を伝え直せば少しは変わるかもしれない、と吉田さんは言います。ただし、一度冷めた熱が入り直すことはあまりないとも話しています。
一方で、家族や自身の病気など複数の要因が重なって「続けたいけれど辞めることを検討している」場合は、会社のサポートで気持ちを立て直せることもあるので、やはりちゃんと話したほうがよいという整理です。
吉田さんは、上司が気にかけている姿勢を見せることには、機密情報の持ち出しや横領への牽制という副次的な効果もあると付け加えています。
異常に先の日付で「退職宣言」されたら
ここから吉田さんは、退職まわりで実際に受けた労務相談を紹介していきます。1つ目は、異常に先の日付で退職を予告されるケースです。
たとえば「6ヶ月後に辞めます」「1年後に辞めます」と宣言する人がいて、「むしろ困る」と相談を受けたことがあると話しています。
結論として、これはなかなか手出しできないと吉田さんは言います。無期契約なら退職の予告 ── 期間の定めのない雇用契約では、民法上、退職を申し入れてから原則2週間(14日)で契約が終了するとされている。14日前に予告すれば辞められるのがルールで、それよりはるか前に退職日を明らかにするのは、むしろ親切だという法的整理です。
引き継ぎとか欠員補充とかを考えると、(先に退職日を伝えるのは)ものすごく親切な人っていうのが法的な整理になります。
ただし、退職宣言した人が会社にいるのが嫌だという場合は、リスクはあるものの、合意退職で退職日を変えることはできると補足しています。特別退職金を出して退職日を変更してもらうケースもあるそうです。
「90日前に予告しないと辞められない」ルールは作れるか
2つ目の相談は、人材難の業種から寄せられるものです。就業規則や雇用契約書で縛って、たとえば90日前に予告しないと辞められないようにしたい、という要望です。
民法上は14日前の予告で辞められますが、それより前に退職するようルールを作りたいという相談だと吉田さんは説明します。
これについて、3ヶ月前や6ヶ月前と就業規則に書くこと自体は、書いた時点ではすぐに違法とは言えないはずだ、というのが吉田さんの見解です。
ただし、身分拘束の論点や、SNSで「辞めるのに6ヶ月もかかるブラック企業」と書かれるレピュテーションリスク ── 企業の評判や信用が損なわれることで生じるリスク。SNSや口コミで悪評が広がると採用や取引に影響が出ることがある。レピュテーションリスクもあるため、あまり勧めていないと話しています。
どの社労士の先生も、せいぜい30日前ぐらいがいいんじゃないですか、1ヶ月前予告ぐらいがいいんじゃないですか、って言ってるケースが多いと思います。
さらに吉田さんは、長い予告期間は会社側にも不利に働きうると指摘します。辞めてほしい人が3ヶ月前に予告して、そのまま3ヶ月辞めない状態が続くのも大変だからです。総合的に見て、民法の14日か30日ぐらいが妥当だという考えを示しています。
今すぐ辞めてほしい人に、会社がやってはいけないこと
3つ目は、退職が確定していて、出社することで周囲にネガティブな影響を及ぼすと予想される、かなり厳しいケースです。会社側が一日でも早く辞めてほしいと思っている状況です。
ここでの注意点として、吉田さんは、会社から「辞めろ」「辞めてください」とは言わないほうがよいと強調します。解雇や退職勧奨だという論点が生じてしまうからです。
そのため、できるだけ事なかれ主義で、出社を我慢して時が経つのを待つのが無難だという考えを示しています。
ただし悪影響が大きい場合の対応として、本人と話し合って有給休暇を取得してもらう、あるいは給料を満額出して自宅待機してもらう方法を挙げています。
働かない人にお金払うのは嫌だっていう経営者の方もいらっしゃると思うんですけど、会社全体を守るために、そういう自宅待機とか有給を計画的に消化してもらうみたいなのも一つ。
特に有給は権利なので、こうしたケースではむしろ使わせてしまったほうがよいのではないか、と吉田さんは述べています。
辞める人の賞与を下げるのは、なぜ危険なのか
最後は給与設計の話で、退職する人の賞与の処理です。吉田さんは、ここで多くの人が悩むと話します。
わかりやすいブラック企業の例として、辞意を伝えた途端に最後の賞与がガクンと下がるケースが挙げられます。今まで50万、60万出ていたのが、最後だけ3万円になるようなイメージです。
吉田さんは、こうした極端な減額はやめたほうがよいという立場です。賞与は賃金の一部という性質があるため、明らかに下げると問題が生じやすいと説明します。
問題は、ネットに書かれる可能性だけではありません。辞めた人が、在職している人に「退職の意思表示をすると賞与が下がる」と伝えることが起きます。
それを聞いた頭のいい人は、賞与を受け取った日や、金額が確定した翌日にすぐ退職の意思表示をするようになる、と吉田さんは指摘します。
そうすると、賞与の後に退職者が連続して、極度な人員不足になったりします。あんまり会社にとっては良くないかなと。
結論として吉田さんは、賞与の支給基準をちゃんと決め、退職する場合でもしない場合でも差をつけないほうが会社を守れると述べています。
最後の賞与を減額
辞意を伝えた人の賞与を数万円まで下げる
情報が広がる
ネットに書かれたり、在職者に「辞めると下がる」と伝わる
行動が変わる
在職者が賞与を受け取った直後に辞意を表明するようになる
人員不足
賞与後に退職者が連続し、極度な人員不足に陥る
まとめ
退職を考えている社員には、有給の増加や協力度の低下といったサインが出やすく、見つけたらまず声をかけるのが基本だと吉田さんは話します。退職予告や賞与処理では、会社が守ろうとして極端な対応をすると、かえって信用や人員を損なう点が繰り返し指摘されました。
- 辞める兆候は「新しい役割を断る」「協力度が下がる」「有給が増える」の順で出やすい
- 辞めそうな人には接待ではなく、面談で事情を聞くのが基本
- 14日より先の退職予告や合意退職の日程変更は、原則手出しが難しい
- 退職予告期間を長く縛るのは、身分拘束や評判リスクから勧められず、14日か30日程度が無難
- 今すぐ辞めてほしくても「辞めろ」とは言わず、退職者の賞与を極端に下げないことが会社を守る






