どんな簡単な計算でも気が抜けない、給与計算の難しさ
今回のテーマは、給与計算でミスを防ぐ6つの方法です。前編と後編に分かれていて、この回は前編にあたります。
吉田さんは給与計算について、この仕事を始めて10年以上経つものの、一度も気が抜けたことがないと話します。どんなに簡単な給与計算でも、何か落としているのではないかと心配になりながら作業しているそうです。
この仕事始めて10年以上ですけど、給与計算で気の抜けたことってあまりなくて。というか一度もなくて。
比較的ミスは少ない方だと述べつつも、それでもミスをしたことは何度もあり、どう取り返すかを必死に悩み、試行錯誤してきたと振り返ります。その経験を2週連続で共有していく形です。
スケジュールを立てるだけでミスは減る
1つ目の方法は、給与計算のスケジュールを立てることです。当たり前に思えるものの、スケジュールを立てないまま給与計算をしている会社も珍しくない、と吉田さんは指摘します。
データが揃ったら計算しよう、という状態の会社もあります。零細企業だとデータが上がってこず、いつまでも給与計算に手をつけられないケースもあると言いますが、吉田さんはその状況自体がおかしいと考えています。
まず決めるべきは、勤怠の締め作業をいつまでにやるかです。タイムカードの入力漏れや有給休暇の申請漏れを確認する作業を勤怠の締め作業 ── タイムカードの入力漏れや有給申請の抜けなどを確認し、その月の勤怠データを確定させる作業。給与計算の前段階にあたる。、期限を決めて進めます。
給与と一緒に前月の立替経費を精算している会社なら、経費申請の締め切りも決める必要があります。データが揃ったあとも、2人で作業する場合は一次作業者と点検者それぞれの期限を決めていきます。
さらに、給与計算は計算して終わりではなく、最終的に銀行振込まで行います。ここで使うのが、通常の振込ではなく給与振込という特殊な方法です。
普通の振込って当然振込手数料かかるし、給与振込も振込手数料かかるんですけど、給与振込の方が手数料が安いんですよ。
給与振込は、銀行にデータを送るタイミングが厳密に決まっています。都市銀行では3営業日前、地銀では2営業日前までにデータを送金する、といった具合です。
例えば25日支給なら、24日、23日、22日と数えて、22日にはデータを流さなければならない、という形になります。加えて、15時までにアップロードといった時刻の指定があるケースもあります。
だからこそ、最後にどこまでに何をしなければならないかを決めることが大切だと吉田さんは言います。給与計算が始まってから終わるまでの全体スケジュールを組むことが、ミスを防ぐ第一歩だとまとめています。
勤怠の締め作業
タイムカードの入力漏れや有給申請漏れを確認する
経費の締め
立替経費を精算する場合は申請の締め切りを決める
一次作業・点検
作業者と点検者それぞれの期限を設定する
給与振込データ送金
営業日前ルールと時刻指定に間に合わせる
締め日と支払日は「近すぎ」を避ける
スケジュールと合わせて、締め日と支払日の間隔も重要になります。給与計算は1か月に1回締めるもので、例えば末締め翌15日払いなら、前月末までの給料が翌月15日に支払われます。
1月1日から1月31日までに働いた分が、2月15日に振り込まれる、という流れです。この締め日と支払日が近すぎると、作業期間が足りず、物理的にできない、あるいは非常に大変になると吉田さんは説明します。
そのため、あまりに近すぎる場合は間隔自体を見直した方がよいと言います。おすすめは最低でも15日は空けることです。
従業員が1人2人のうちは末締め翌5日払いでもなんとかなりますが、100人規模になると絶対にできない、と吉田さんは断言します。将来を見据えて、15日ほど空けた締め日と支払日を設定した方がよいと話しています。
給与体系はシンプルなほどミスが減る
2つ目の方法は、給与体系をシンプルにすることです。ミスしやすい給与計算とミスしにくい給与計算があり、ミスしやすいものには例外やローカルルールが多い、と吉田さんは指摘します。
本来、きちんとした会社であれば、賃金規定に定められた手当以外は支給しないのが普通です。しかし小さい会社では、特定の従業員だけに個別の手当がついている、といった運用が起こりがちだと言います。
(賃金規定に)規定されている手当以外は支給しないのが普通なんですね。
例えば創業から在籍しているからと特別な手当がつくケースはまだ可愛い方で、ひどい場合には社長のお気に入りだから一人だけ有給休暇が多い、といった不平等なルールもあると吉田さんは語ります。
こうした例外が1つ2つならなんとか管理できても、10や20と増えると管理が非常に大変になります。あれこれ気を配った結果、重要なところでミスが出てしまうのは、給与計算ではよくある話だと言います。
これから賃金制度を作るなら、できるだけシンプルな給与体系にした方がよいと吉田さんは助言します。すでに制度がある会社は、どうすればシンプルにできるかを考えることを勧めています。
ただし勝手に変えると不利益変更 ── 労働条件を従業員に不利な方向へ変更すること。原則として従業員の同意が必要で、一方的な変更はトラブルの原因になりやすい。の問題も出てくるため、社労士などの専門家に相談しながら進める方がよい、と補足しています。
給与計算は「事務作業」ではなくプロの仕事
3つ目の方法は、スタッフ教育です。社長がよく勘違いしているのは、給与計算は事務作業だから誰でもできるだろう、という点だと吉田さんは指摘します。
給与計算に関わる法律は数多くあります。雇用保険法、健康保険法、厚生年金保険法といった社会保険・雇用保険系の理解が前提として必要です。
さらに所得税の控除など税法の理解もなければ正しく計算できないため、労務系の知識に加えて税務の知識も求められます。加えて労働基準法の知識も欠かせません。
これらの一般的な知識をベースにしたうえで、就業規則を読み込み、その会社の給与制度がどうなっているかも理解する必要があります。一般的な知識と、その会社固有の知識の両方がないと正しく計算できない、というのが吉田さんの見立てです。
雇用保険法・健康保険法・厚生年金保険法・所得税・労働基準法などの理解
就業規則を読み込み、自社の給与制度やルールを把握する
給与計算にはマニアックな論点もあります。例えば歩合給 ── 出来高や成果に応じて支払われる給与。固定給と異なり、残業や有給の際の計算方法が特殊になる。で働く人が残業した場合、総労働時間で割り戻す特殊な計算式で残業手当を出す必要があります。
吉田さんは、この計算をしっかりやっている会社をほとんど見たことがないと言います。さらに歩合給がある場合、有給休暇を取得したら歩合給に相当する有給の賃金も支払う必要がありますが、これを出している例も見たことがないそうです。
こうしたマニアックな知識まで含めて持っていないと正しく計算できないため、給与計算担当者の労務知識がミスを防ぐうえで非常に重要になる、とまとめています。
前編のまとめと後編の予告
前編で紹介したのは、スケジュールを立てること、シンプルな賃金制度にすること、スタッフ教育をしっかりやることの3つでした。
吉田さんは次回、給与計算でミスを防ぐ方法の後編を伝えると予告しています。いずれも計算そのものの技術というより、ミスが起きにくい仕組みと前提をどう整えるかという話でした。
まとめ
給与計算のミスを防ぐには、計算前の仕組みづくりが効きます。前編では、スケジュール設計、給与体系のシンプル化、担当者教育という3つの前提が語られました。
- 給与計算は締め作業から銀行振込まで全体のスケジュールを組むことが第一歩
- 給与振込は営業日前・時刻のルールが厳密なので逆算して締め日と支払日を設計する
- 締め日と支払日は最低でも15日ほど空けると作業に無理が出にくい
- 例外やローカルルールの多い給与体系はミスの温床になりやすい
- 給与計算は法律・税務・自社ルールの理解が必要なプロの仕事で、担当者教育が欠かせない






