なぜ「ネットワーク効果」を士業のテーマに選んだのか
今回のテーマは、士業事務所におけるネットワーク効果です。きっかけは、顧問先のスタートアップ経営者からすすめられた1本のポッドキャストでした。
吉田さんが聞いたのは「ハイパー企業ラジオ」という番組で、小原さんと謙崇さんが出演しているものです。そこでネットワーク効果という考え方を知ったと話しています。
一般的にネットワーク効果はIT企業と親和性が高いと言われますが、吉田さんは士業事務所にも関係が深いと感じたそうです。
これ(ネットワーク効果)なんか士業事務所にも結構関係あるよなって思ったんですよ。
そもそもネットワーク効果とは何か
ネットワーク効果とは何かについて、吉田さんは総務省の定義を紹介しています。
総務省の定義では、ある人がネットワークに加入することで、その人の効用が増えるだけでなく、他の人の効用も増加することをネットワーク効果と呼ぶとされています。
吉田さんは、自分の番組は細かい理論解説が目的ではないとして、身近な例で単純化して説明していきます。
代表例として挙げられたのがLINEです。みんなが使っているからこそ、連絡手段としてLINEが便利になっている状態が、ネットワーク効果が働いている状態だと説明しています。
最初はLINEを使う人が少なかったものの、今では使っていない人のほうが珍しくなりました。連絡を取りたければLINEを交換すればよいという状態ができあがっています。
一方で、持っていない人は連絡を取りづらい人だと思われることもあり、アカウントを作らなければという圧力がかかっていきます。
士業事務所を「プラットフォーム」と見立てる
吉田さんは、このネットワーク効果が士業事務所にも当てはまると考えています。業歴10年以上のなかで、たくさんの相談を受けるほど相談の質が上がっていく実感があるからです。
法人単位で見ると、お客さんが増えるほど、いろいろな業種や事業フェーズの相談が集まります。その結果、相談のノウハウが溜まり、他のお客さんにもプラスになると話しています。
個人のキャリア形成という面でも同じで、多くの相談に乗るほど本人の中に相談の実績が積み重なり、相談の質が上がっていくとしています。
つまり士業事務所や士業個人をプラットフォームと仮定するなら、利用する人が多ければ多いほど強くなっていくというわけです。
(士業事務所を)プラットフォームだと仮定するんだったら、そこを利用する人がたくさんいればいるほど強くなっていくわけです。
ネットワーク効果というと、LINEやAmazon、AndroidやiPhoneといったIT企業に目が行きがちです。しかし吉田さんは、中小企業の経営や士業事務所の経営でも十分あり得ると指摘しています。
士業事務所に足りない「ナレッジマネジメント」
ただし、士業事務所の経営でネットワーク効果を活用しようという人には、これまで会ったことがないと吉田さんは言います。
ネットワーク効果という言葉を知ったのは最近ですが、問題意識自体は昔から持っていたそうです。かつてセミナーで、士業事務所はナレッジマネジメントが少ないと話したことがあると振り返っています。
(士業事務所は)知識を商売にしてるのにナレッジマネジメントがちゃんとできてないよね(と話しました)。
改めてネットワーク効果を学んだうえで、吉田さんはやはり士業事務所は知識を十分に蓄積していないと感じたそうです。
具体例として、10人規模や20人規模の士業事務所でも、相談事例の共有があまり行われていない点を挙げています。AさんBさんCさんそれぞれの相談事例が、たこつぼ化して蓄積されているケースが多いといいます。
せっかく個人が受けた相談は会社の財産になるのだから、どんどん共有したほうがよいというのが吉田さんの考えです。
自社での実践。マニュアル、FAQ、そして打ち合わせの全録
吉田さんの会社でも、忙しさのなかで完璧にはできていないと前置きしつつ、いくつかの取り組みを進めています。
まずはNotionの中に会社のマニュアルを作り、知識を溜め込んでいく取り組みです。
それ以外に、会社の中でFAQ、つまりQ&Aを作っています。これをお客さんに渡したり、社内で使ったりして、知識を溜め込む文化をつくろうとしています。
最初はマニュアルがないと厳しいという軽い気持ちで始めた取り組みでしたが、今考えると正解だったと吉田さんは話しています。
そしてAIが広がってきたことで、次の段階として始めているのが、打ち合わせの全録です。事業会社では当たり前でも、士業事務所では意外とやっていないと指摘します。
事業会社でクラウドサービスを売っている場合、新規商談は基本的に全録が前提です。録音データを自分や上司で見返して商談技術の向上につなげたり、言った言わないを防いで会社を守ったりする使い方をしています。
一方、士業事務所では所長先生が全部話を聞いて終わり、内容は所長の頭の中に記憶されるだけ、という形が多いと吉田さんは見ています。
所長先生が全部話聞いてそれでおしまいみたいな。全部所長先生の頭の中に記憶されてると。
データを溜め、AIで分析する次のステップ
打ち合わせを全部録画して溜め込んでいくと、ライブラリーのようになっていきます。吉田さんの会社ではまだできていないものの、次にやりたいのはAIによる分析だといいます。
これまでどういうことを話してきたのかを動画データから抽出し、次のお客さんへの提案につなげることができるはずだと考えています。ただ、こうした課題意識を持つ士業事務所は少ないと見ています。
吉田さんは、士業の価値には録音も録画もされない場でグレーゾーンの相談ができる点もあり、それ自体は今後もなくならないと述べています。
しかし、その面が強すぎるあまり、逆に記録するという文化がなくなっているのではないかと指摘します。だからこそ、データを記録し利活用することが次の経営のステップだと考えています。
ちゃんとデータ記録していって、それを利活用していくっていうのが、次の士業の事務所の経営のステップなのかなと思います。
溜まったデータを解析すれば、あの打ち合わせでこう言ったから次はこの提案をしよう、という使い方ができます。類似ケースでこの回答をしてお客さんが満足したから、同じ業種にはこうアドバイスしよう、という提案も可能になります。
そうした時代が来る前提に立つなら、まずはデータを溜めるところが士業事務所の次のステップだと吉田さんはまとめています。
士業事務所は「相談を蓄積するプラットフォーム」
最後に吉田さんは、AIの登場でどうなるかはわからないとしつつ、士業事務所は一種の、相談を蓄積するプラットフォームだと考えられると話します。
相談はもちろん実名で受けているものの、お客さんからはよく「他の会社どうしてますか」と聞かれるといいます。
つまりある意味で匿名的に、他社の相談内容が士業事務所に蓄積されている。その点が士業事務所の強みだというのが吉田さんの見方です。
(相談内容を)自分たちの相談を蓄積してるのが士業事務所の強みだと思うんです。
その強みを利活用することを前提に経営していくことが、次の士業事務所のあり方ではないか。吉田さんはそう述べて今回の話を締めくくっています。
まとめ
ネットワーク効果という概念を手がかりに、吉田さんは士業事務所を「相談を蓄積するプラットフォーム」として捉え直しました。個人の相談ノウハウを会社の財産に変え、データとして溜め、AIで活用する。それが次の士業経営のステップだという内容でした。
- ネットワーク効果とは、利用者が増えるほどサービスの価値や便利さが高まる現象
- 士業事務所は相談が集まるほど相談の質が上がるため、ネットワーク効果が働きやすい
- 多くの士業事務所は相談事例がたこつぼ化し、ナレッジマネジメントが不足している
- マニュアル化、FAQ整備、打ち合わせの全録が知識蓄積の具体的な手段になる
- 溜めたデータをAIで分析し次の提案につなげることが、次の士業経営のステップになる


