社員に給与アップを迫られたら、まず何をすべきか
今回のテーマは、リスナーから寄せられた1つの質問から始まります。
社員から給与アップの交渉をされました。どう対応するのが正解ですか?
吉田さんは、経営者にとって対応が難しい場面だと前置きしたうえで、最初にやるべきことを示します。
まずはなぜそう思ったのか、なぜそう感じたのかというのを、じっくり話を聞いた方がいいと思います。
想定されるのは、「自分はもっと高い給料をもらえるはずなのに、会社が評価してくれない」という不満のケースです。ただし吉田さんは、話を聞いてみないとわからないと言います。
単純にいろいろ生活環境が変わって、生活費が上がったから、それだけで給与交渉してきている可能性もあると思うんですよ。
実際に吉田さんが相談に乗ったケースでも、家族構成が変わり、両親の介護で生活費が上がったから給料を上げてほしい、という交渉があったそうです。
仕事の評価とは直接関係のない事情ですが、人それぞれ事情があるので、まずは理由を聞くというのが出発点になります。借金の返済や家族のアクシデントなど、背景はさまざまだといいます。
「もっと評価されるべき」という訴えは、後手の対応のサイン
一方、想定される典型的なケースは「自分はもっと評価されて然るべきだ」という訴えです。これを言われた時点で、会社は反省すべき点があると吉田さんは指摘します。
この質問をされている時点で、後手後手の対応になっているなということを、まず反省するべきだなと思います。
評価基準やグレードがきちんと決まっていれば、給料が低いこと自体に納得できないという声は出にくいという考えです。
仮に不満が出るとしても、それは給与そのものより「評価の基準に納得がいかない」という形になるはずだと話します。
評価基準が明確に決まっていて、ちゃんとフィードバックができていれば、こういう質問は来ないはずなんです。
辞めてもらって困るかどうかで、対応は変わる
とはいえ、何が起こるかわからないのが人事の世界です。実際に交渉されたときの現実的な話として、吉田さんは社員を2種類に分けて考えます。
正直、会社って辞めてもらったら困る社員とそうじゃない社員の2種類がいる、というのが現実だと思います。
辞めてもらっても問題がない社員であれば、給与アップの交渉は断ってよいといいます。評価基準や給与制度を理由に、上げられないと伝える対応です。
一方、引き続きいてほしい社員から相談された場合は、じっくり話し合う方がよいとします。会社としても払える限界があるからです。
ここで吉田さんが避けるべきだと言うのは、労働問題のように「取り分の奪い合い」になる構図です。
会社のお金が有限であると。その中で俺の取り分をもっと増やしたい、会社としては払いたくない、みたいな話になっちゃうと、交渉が暗礁に乗り上げるというか。
目指すのは、同じ方向を見て一緒にやっていく話し合いです。
会社としてもできるだけ給料を還元したいですと。ただ、会社の台所事情もあるんで、あなたにはここまでやってくれればこの給料払いますよ。それにチャレンジしませんか、という話に持っていく。
どうすれば給料が上がるのかを、会社も社員も共有できている状態が、円満な着地の前提になります。安田さんも、評価基準がなければこうした事態になるのだと受け止めます。
そもそも交渉には応じないのが基本、それでも応じる理由
安田さんは、企業は給与交渉には一切応じないものだと思っていたと打ち明けます。吉田さんも、基本的には応じないケースが多いと認めます。
一人に交渉に応じたら、連鎖的に交渉に応じなきゃいけないし、その交渉している時間もすごく大変で、もったいないので普通はやらないんです。
それでも応じざるを得ない背景にあるのが、少子高齢化です。特に小さな会社では、断って辞められては困るという現実的な問題があると話します。
そして交渉に応じる以上、会社側にも覚悟が求められます。
会社側も相当な覚悟を持って交渉に応じないと、なかなか話がまとまらないかなと思います。
吉田さんは、士業でも珍しくない例として、重要な仕事を長く担ってきた社員が我慢ならないと交渉した結果、年収を大きく上げてもらうケースを挙げます。
ただし、それには疑問も残ると言います。
でも逆に、それ払えるんだったら、最初から払っておかないとダメなんじゃない、って思いますよね。
後手に回ってから慌てて対応する会社の姿を、ゴテゴテになっていると表現しました。
応じるにしても断るにしても、押さえておきたい心得
最後に、普段から気をつけておくべきポイントを吉田さんが整理します。まず土台になるのは、話を聞くことです。
気持ちの問題が、やっぱり人事労務ってあるんで、話を聞いて社員の感情に寄り添うっていうのが重要だと思います。
ただし、会社にいるのはその社員一人ではありません。基本は毅然と基準を示し、上げられないと伝える姿勢が必要だといいます。例外として、どうしても辞められては困る社員には交渉に応じますが、その際の注意点があります。
注意点としては、その場で結論は出さない方がいいと思います。
面倒になってその場で「あげるよ」と即答するのは避け、たとえ上げてよいと思っても一度持ち帰る。顧問の専門家などに相談し、冷静に判断すべきだと話します。
さらに吉田さんは、視点を一段引き上げます。
辞められて困る社員がいるっていうのは、それ自体がちょっと、会社の経営としてはリスクがあるんですよ。
もう1つ、交渉してくる社員側の事情にも注意が必要だといいます。インターネット上には、年収アップを交渉してダメなら転職しよう、とすすめる記事があるためです。
場合によっては、裏で転職サイトとか転職エージェントと繋がっていて、交渉がうまくいかなかったら転職しよう、みたいな話になって、転職を斡旋するケースもあるんです。
そうした記事を読んで、何も知らずに交渉してくる社員もいます。相手の意図を十分に把握したうえで臨むべきだと話します。
結局のところ、対応の鍵は事前の備えにあります。
人事評価制度とか給与設計をちゃんと事前にやっておけば、あんまりこういうことは起こらないし、起こったとしてもちゃんと反論できる。
安田さんも、会社の体制が不透明だからこそ起きる議論だとして、体制を整えることが第一歩だとまとめました。
まとめ
給与交渉への対応は、まず理由を聞くことから始まります。辞められて困るかどうかで方針は変わりますが、いずれにしても評価基準と給与設計を事前に整えておくことが、こうした場面を防ぎ、冷静に対応する土台になります。
- 給与交渉をされたら、まず「なぜそう思ったのか」をじっくり聞く
- 辞めてもらって困る社員かどうかで、断るか話し合うかの方針を分ける
- 交渉は取り分の奪い合いにせず、同じ方向を見て給料が上がる条件を一緒に考える
- 応じる場合もその場で結論を出さず、一度持ち帰って専門家に相談する
- 評価制度と給与設計を事前に整えておくことが、交渉を防ぎ冷静に対応する土台になる






