1兆円を投じる「リスキリング」とは何か
この回のきっかけは、アシスタントの安田祥子さんが見つけた1つのニュースでした。
政府がリスキリング政策に1兆円を投入するというニュースを見ました。国がこれだけの予算を割くということは、日本企業にとってリスキリングが非常に重要ということなんでしょうか。
安田祥子 さんからの質問
吉田優一さんは「すごく重要です」と即答します。
まず吉田さんは、リスキリングという言葉の成り立ちから説明します。英語の「スキル(能力)」に、もう一度や再設定を意味する「RE」を付けた言葉だと解説します。
吉田さんによれば、その正確な定義は「新しい職業に就くために、あるいは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを新たに獲得すること」だといいます。
背景にあるのは、働き方や求められる職業が刻々と変わっている現実です。DXやクラウドといったIT関連の言葉が飛び交うなかで、世の中が求める仕事も変わり続けています。
そこで吉田さんは、専門学校を20歳で卒業した人を例に挙げます。その時のスキルだけで、定年の60歳まで食べていける世の中ではない、と話します。
だからこそ、学生から社会人になった後も学び直しの機会をつくり、会社から求められる仕事ができるようにするのがリスキリングの目的だと説明します。
学び直しは、なぜ政府が後押しするほど大変なのか
安田さんは、大人になって仕事をしながら何かを学ぶのは、時間と機会が与えられないと難しいと応じます。
吉田さんも同意し、学び直しには時間もお金もかかると指摘します。仕事をしながら資格を取る人もいれば、貯金をして一旦退職し、勉強に専念するケースもあると具体例を挙げます。
学び直しって一言で簡単に言っちゃってますけど、ものすごく大変なことなんですね。
その大変なことを支援するには、政府が後押ししなければならない。それがこの政策の発想だと吉田さんは説明します。
政府の目的は、リスキリングを進めて成長産業に労働力を移動させることにあるといいます。DXの文脈で語られることが多い政策ですが、対象はITに限らない成長産業全体だと補足します。
学び直しによって今までのスキルに新しいスキルを加え、成長産業へ転職してもらう。それによって成長産業の労働力確保と日本全体の成長を実現したい、という狙いだと解説します。
経営者にとって、リスキリングにメリットはあるのか
話題は、国や個人ではなく会社の経営者にとってのメリットへ移ります。
国とか個人にとって大事なのはわかったんですけど、会社の経営者にとってはどうでしょう。メリットってあるんでしょうか。
吉田さんは「あります」と答えます。DXを求められる企業では、従業員のリスキリングを進めることでITによる業務効率化が図れると説明します。
業務効率化というと分かりにくいものの、今まで投下していた労働力や業務委託費が削減できれば、単純に利益が増える。つまり儲かる、という点を1つ目のメリットに挙げます。
一方で吉田さんは、DXを推進できる人材の少なさを指摘します。システムエンジニアやプログラマーは採用が難しく、給与も上がっているといいます。
そこで吉田さんが会社として一番いいと考えるのが、外部からの採用ではなく、既存の従業員をリスキリングで教育する道です。
既存の従業員をITもできる人材に変えれば、自社のことも分かっているうえにITの導入もできるようになる。だからスムーズにDX化して儲かる会社に変われるのではないか、と話します。
DXは「特定の人だけ」では成立しない
安田さんは、もともとできる人の能力を上げるより、ゼロベースの人を少しずつできるようにして平均値を上げるほうが、会社全体の能力も上がりそうだと応じます。
吉田さんはこれに同意し、DXは特定の人たちだけでできるものではないと強調します。
たとえば管理職のAさんだけがITに詳しくても成立しません。その部下も詳しくならなければならず、さらにはお客様も含めて全体でITに慣れていく必要があるといいます。
だからこそ大変であり、政府が予算をつけて、全体として学び直しの機会を後押ししている流れなのだと吉田さんは整理します。
能力が上がった人に、辞められるリスクとどう向き合うか
最後に、安田さんはリスキリングのデメリットについて尋ねます。
吉田さんが挙げたのは、リスキリングで能力が上がった従業員が「仕事ができるようになったので他の会社に行きます」と離職してしまう可能性です。
能力が高いほどどこの会社も欲しがるため、こうしたリスクはどうしても避けられないといいます。
だからといって、教えずに自社で抱え込むべきかというと、それは違うと吉田さんは考えます。目指すべきは、能力の高い従業員から選ばれる会社をつくることだと話します。
リスキリングをして、すごく従業員の能力を上げた上で、そういった能力の高い従業員から選ばれるような会社作りを目指していくということが重要だと思います。
具体策として吉田さんは、新しい面白そうな事業をやることや、この番組で取り上げている評価制度をちゃんとつくることを挙げます。ここで引き続き働きたいと思われる会社にすることが重要だとまとめます。
安田さんも、従業員の成長をサポートしつつ、会社と従業員の関係を見直していく必要があると受け止めます。
まとめ
リスキリングは学び直しを意味し、政府は成長産業への労働力移動と日本全体の成長を狙って1兆円を投じています。経営者にとっては、既存の従業員を教育してDXを進め、儲かる会社に変えていく好機になり得ます。ただし能力が上がった人に離職されるリスクもあり、選ばれる会社づくりが欠かせません。
- リスキリングは、変化に適応するために新しいスキルを獲得する「学び直し」を指す
- 政府の狙いは、リスキリングで成長産業へ労働力を移し、日本全体の成長を確保すること
- 経営者のメリットは、既存の従業員を教育してDX化し、業務効率化で利益を増やせる点にある
- DXは特定の人だけでは成立せず、従業員全体、さらには顧客も含めて慣れていく必要がある
- 能力が上がった従業員に辞められるリスクには、評価制度や新規事業で「選ばれる会社」をつくって備える





