「人事評価と給与を全社員に公開したい」への回答
会社の透明性を高めるために、人事評価と給与を全社員に公開することを考えています。ご意見をいただけますか。
この相談に対する吉田さんの答えは慎重なものでした。先進的で勇気ある考えだと認めつつも、条件つきで待ったをかけます。
すごく先進的で勇気のある考えだと思いますが、よほどの理由と覚悟、強い覚悟がない限りは公開はやめといた方がいいと思います。
理由は、公開によって不満が表面化しやすくなることです。同僚や先輩より自分の給与が低いと知れば、それが不満として爆発しかねません。
場合によっては、納得できない従業員が辞めるリスクもあると、吉田さんは指摘します。
安田さんも、同じ会社で働く人の給料は気になるものの、実際は知らない人がほとんどだと応じます。だからこそ、公開は衝撃的な話になり得ると受け止めていました。
自己評価と会社の評価が食い違う理由
吉田さんが公開に慎重な背景には、自己評価の難しさがあります。先輩や同僚と比べて自分の給料が低いと感じるのは人間として自然だ、と前置きした上で、こう続けます。
まず自己評価を正しく認知するって、すごく難しいんですね。
吉田さんは、ある中小企業の経営者の言葉を紹介します。仕事の出来があまり良くない人ほど、それを自分で認識していないから管理が大変だ、というものです。
できる人ほど謙虚に自分を評価し、そうでない人ほど自信過剰になりがちだと、吉田さんは見ています。
ここで重要なのは、評価基準はまず会社が決めるものだという点です。本人が頑張っていても、それが評価されるとは限りません。
たとえば夜遅くまで残って働く社員は、本人は頑張っていると思っていても、社長からは「段取りが悪いのでは」と見られて終わるかもしれません。評価は主観的で、正しい自己認知はとても難しいのです。
この前提に立つと、給与を全公開することは、会社が誰を評価しているかが丸見えになることを意味します。
つまり、自分は評価されていないという事実まで見えてしまうということです。納得できない人が辞めたり、大きなクレームにつながったりする可能性があります。
だからこそ公開に踏み切るなら、すべてに反論できるきっちりした評価制度と、説明のロジックを用意しておくべきだと吉田さんは話します。
GMOの実例に見る、公開が成り立つ会社の条件
実際に給与を公開している会社はあるのか。安田さんの問いに、吉田さんはGMOの例を挙げます。
吉田さんによると、GMOではすべての役員の給与を社員が確認できるそうです。社員一人ひとりの金額まではわからないものの、等級とテーブルが完全に公開されているため、大体いくらもらっているかはわかるといいます。
さらに給与を決める方法自体を役員に委ねたそうで、制度導入はかなり大変だったと吉田さんは推測します。社長の熊谷さんのインタビューでも、導入当時は大混乱だったと語られていたそうです。
それでも文化として根付かせ、公開を前提とした評価制度を定着させていったところに、吉田さんは意味を見出しています。
一方で、これが成り立つのは条件がそろっているからだ、とも吉田さんは釘を刺します。評価制度に投下できるお金があり、フィードバックや面談の時間も十分に確保できる。だからこそ設計も運用もしっかりできるのです。
多くの会社では、評価制度にそこまでの資金を割けないのが現実だと吉田さんは言います。そして、割けたとしても一番大変なのは運用だと強調します。
一番大変なのも運用なんですよ、評価制度って。設計が2割ぐらいで、運用が8割ぐらい、運用の方が重要ですよという人もいます。私もそれくらいだと思ってます。
評価制度に資金を割け、フィードバックや面談の時間を確保でき、設計も運用もしっかりできる
評価制度に投下できる資金が乏しく、運用まで手が回らない
運用できる自信があるのなら、人事評価制度と給与を公開するのも一つの選択肢だ、というのが吉田さんの結論です。
公開せずに透明性を高める2段階のやり方
相談者の目的は、あくまで社内の透明性を高めることでした。安田さんは、給与公開以外の方法はないかと尋ねます。
吉田さんが挙げたのは、給与そのものを公開せずに透明性を高める道です。まず重要なのは、評価の基準をきちんと公開することだといいます。
会社が何を評価しているのかを先に示しておかないと、認識がずれます。長時間働くことを評価する会社はほとんどなくなりましたが、成果で評価するならその方針をはっきり公開することが第一段階です。
第二段階は運用です。S評価やA評価といった結果だけを伝えるのではなく、なぜその結果になったのかを丁寧に伝えることが重要だと吉田さんは話します。
安田さんは、これがあってこそ改善や成長につながると受け止めます。テストで点数だけを見て終わるのではなく、問題を復習することと同じだ、とたとえました。
吉田さんも、正しく評価してもらわなければ自分の立ち位置がわからず、成長もできないと応じます。透明性を高め、きっちりフィードバックしていくことが重要だとまとめました。
まとめ
評価と給与の社内公開は、透明性を高める先進的な取り組みである一方、自分が評価されていない事実まで可視化されるため、強い覚悟と制度の裏づけが必要です。吉田さんは、公開そのものより、評価基準の明示と丁寧なフィードバックから透明性を高める道を勧めていました。
- 給与の全公開は不満や離職のリスクを伴うため、よほどの覚悟がない限り慎重に
- 自己評価は正しく認知しづらく、評価基準はまず会社が決めるものという前提を押さえる
- GMOのように公開が成り立つのは、評価制度に資金と運用の体力がある会社
- 評価制度は設計より運用が重要で、フィードバックの丁寧さが要になる
- 公開しなくても、評価基準の明示と結果の理由づけで透明性は高められる






