なぜシステム部門を子会社にして、今また吸収するのか
この回の入り口は、アシスタントの安田さんが読んだ記事への疑問でした。
大手企業が過去に子会社化したシステム部門を相次いで吸収合併しているという内容だったんですね。
そもそもなんで過去に子会社化してしまったのか、そしてそれをなぜ今になって吸収合併しているのか、その辺を教えていただきたいなと思いました。
吉田さんの答えは端的でした。かつてそうした会社は、ITやDXの重要性に気づいていなかったからだといいます。
昔はここまでデジタルが重要になるとは思われていなかった、と吉田さんは話します。時代の流れの中で、デジタルの重要性が徐々に説かれるようになってきたという流れです。
子会社化はコスト削減が目的だった
では、なぜ1990年代から2000年代にかけてシステム部門を子会社にしたのか。吉田さんは、単純にコスト面の理由だったと説明します。
別の会社にすれば、給与体系とか評価制度が変わりますから、そこのシステムの子会社で働いてもらうことで、給与を本体よりも下げてコスト削減するのが目的だったんじゃないかと言われています。
そして吉田さんは、その判断は当時としては正解だっただろうと補足します。これだけ流行ったのだから、と。
一方で状況は変わりました。DXという言葉が広がり、人口減少で労働人口も減る中、いかにデジタルの領域で仕事をさせるかがポイントになってきたのです。
会社の業務もDX前提で組む必要が出てくると、本体と子会社が別々では機動的な連携が取りにくくなります。うまくDX化できないという問題が生じるわけです。
コア事業と非コア事業をどう分けるか
ここで吉田さんが一番伝えたいこととして挙げたのが、会社の業務をコア事業と非コア事業に分けて考える視点です。
会社にはさまざまな業務があります。吉田さんの社会保険労務士法人であれば、社労士業務が中心で、それ以外にも経理やマーケティングなど無数の仕事があると話します。
吉田さんの法人では、非コア事業と考える経理業務は顧問税理士にすべて外注し、マーケティングの企画も基本的には外注前提で考えているといいます。
問題は、1990年代の判断です。当時はシステムを非コア事業、中核ではない事業とみなして子会社に切り離しました。それが時代とともに失敗だったとわかったのです。
その時の判断としては、もしかしたら間違ってなかったのかもしれないですけど、今に当てはめて考えると、もう大失敗という感じにも見えますし。
それだけ時代に順応して会社が生き残っていくのは本当に難しいことなんだなと思いますね。
吉田さんも、当時は経営のセミナーや書籍などで「こうした方がいい」と指導されていたのだろうと応じます。時代の流れの中で、当時の正解が後に失敗に変わったという難しさがここにあります。
家電にも広がるIT、切り離した会社が抱えた問題
では、システム子会社の設立は現状どう裏目に出ているのか。吉田さんは、システム業種に近いけれど違う業種として、家電メーカーを例に挙げます。
昔は冷蔵庫やエアコンは単体で売れるものでした。しかし今はIoTのように、既存の製品をインターネットにつなげてシステム的な要素を加え、付加価値を高めるようになっています。
具体例として、外からエアコンをつけられる機能や、夏に車内が熱くなるのを避けるため遠隔でエアコンを先につけられる機能が挙げられました。
そんな機能まであるんですね。知らなかったです。
つまり、IT以外の会社も顧客体験を向上させるために、あらゆる場面でITを使わざるを得なくなってきたということです。
そうなると、家電を売っているのにシステムのことが全くわからない状態では、良い商品やサービスを提供できなくなります。会社の中にIT部門をある程度持っておかないと勝負に勝てない、というのが子会社化が裏目に出た理由です。
最近すごく家電をたくさん買ったんですよ。そしたら全ての家電にアプリが連携していて、自動でデータを送ってくれるとか、冷蔵庫の中身を教えてくれるとか。
ITなしではもう今の世の中は生き残れないんだなと改めて感じたところだったので、すごく腑に落ちました。
子会社化が有効に働くのはどんなときか
一方で、子会社化そのものが悪いわけではありません。安田さんは、子会社化が有効に作用するケースを尋ねます。
吉田さんがまず挙げたのは、新規事業の立ち上げです。最初から子会社にする場合もあれば、本体で小さく始めてある程度乗ってきたところで子会社にする場合もあるといいます。
その背景には、意思決定のスピードがあります。しっかりした会社ほど決裁プロセスが整っているものの、それは裏を返せば遅いということでもあります。
そこで子会社を作り、その子会社の意思決定プロセスで迅速に立ち上げていく、という狙いが生まれます。
労務の視点からは、思い切り働きたい意欲のある人に向けた活用も語られました。労働基準法には労働時間の上限があり、当人によってはそれが制限に感じられることもあるといいます。
そうした人には、十分に協議した上で子会社を作り、その社長になってもらう方法があると吉田さんは話します。自分の生きたいように働けるというメリットです。
さらに、組織文化やルールの異なる会社を作りたい場合や、総務部門など本当に非コア事業になる部門だけを切り離す場合も、大きな会社では珍しくないといいます。
ほかにも、事業の多角化やブランド管理のための子会社化が紹介されました。
- 新規事業を迅速に立ち上げるため
- 意思決定のスピードを上げるため
- 組織文化やルールの異なる会社を作るため
- 総務など非コア部門を切り離すため
- 事業の多角化やブランドごとの分離のため
コアか非コアかを見極めた上で、目的に応じて子会社化が選ばれている、という整理です。
会社の中核となる事業。自社に抱え、社内で連携できる体制にしておく必要がある
中核ではない事業。外注や子会社化で切り離す選択肢がある。ただし時代でコアに変わることもある
まとめ
大手企業がシステム子会社を吸収合併している動きは、かつて非コアとみなしたITが、時代の変化でコア事業に近づいたことの表れだと語られました。何がコアで何が非コアかを見極める視点が、経営でも労務でも重要になります。
- 1990年代の子会社化は、給与体系を分けてコストを下げる目的が背景にあった
- DXやIoTの広がりで、IT以外の会社もITを社内に持つ必要が高まった
- 会社の業務はコア事業と非コア事業に分けて考えることが重要
- 子会社化は新規事業の立ち上げや意思決定の迅速化など、目的次第で有効に働く
- 当時の正解が時代の変化で失敗になりうる点に、経営判断の難しさがある





