デジタル給与払いとは何か、会社にメリットはあるのか
きっかけは、安田さんが見たニュースでした。デジタル給与払いが来年度から解禁される見通しだが、企業はどう対応すべきなのか、という疑問です。
デジタル給与っていうのがまだあまりしっくり来てないんですけど、これ企業はどう対応するべきなんでしょうか。
吉田さんによれば、デジタル給与払いとは、SuicaやPayPayといった手段でスタッフに給与を支払えるようになる仕組みのことです。
結論として吉田さんは、現時点ではメリットが少なく、慎重に対応したほうがよいと話します。
正直あんまりメリットがないと思うので、慎重に対応していった方がいいと思いますね。
PayPayの割り勘で見えた「新しい仕組み」の負担
慎重論の理由として、まず吉田さんは新しい仕組みの導入負担を挙げます。その例として持ち出したのが、先日の飲み会でのPayPay割り勘でした。
20代や30代の、スマホを使いこなしているように見える人たちでも、いざPayPayで割り勘となると話が揃わなかったといいます。
それでもやっぱりPayPayで割り勘するってなるとゴタゴタになるんですよ。使い方がよくわからないみたいな。
俺はPayPayで払いたいっていう人もいれば、現金しか持ってないんで現金で払いますとか言って、もうみんな話が揃わなくて。
吉田さんは、これと同じことが会社でも起こると指摘します。この人はPayPay、この人はSuicaといった具合に、電子マネーは種類が多いためです。
そうなると、支払う側の給与担当者と、受け取る側の従業員の双方に教育が必要になります。送ったつもりで送れていなかった、といったトラブルにもつながりかねません。
電子マネー会社が破綻したら誰が補償するのか
もう一つ、吉田さんがニュースでも指摘されている点として挙げるのが、補償の問題です。
電子マネーを運営する会社が経営破綻した場合、そこに給与を積み上げてきた人のお金は誰が補償するのか、という疑問です。
コツコツずっと払って、その電子マネーの中にずっと給与を受け取ってた人が、何百万、何千万ってなった時に、その電子マネーが破綻したらどうなっちゃうんですか。
銀行であれば1000万円まで保護される仕組みがありますが、電子マネーにはそうした保護がないと吉田さんは説明します。だからこそ、今は慎重になったほうがよいという意見です。
安田さんは、手数料などで悪いイメージを持たれがちな銀行にも、保証という面でメリットがあったと改めて感じたと話しました。
現金払いが原則、振り込みは例外という賃金5原則
話は、そもそも電子マネーでの給与支払いが今できるのか、という点に移ります。吉田さんの答えは明快でした。現行法では法律違反になってしまう、というものです。
その根拠が、労働基準法にある賃金支払いの5原則です。その一つに、賃金は通貨で支払わなければならないという原則があります。
つまり、紙幣や硬貨といった現金で払うのが原則だということです。昔よくあった、封筒に現金を入れて手渡しする方法が、本来の形にあたります。
多くの会社が行っている銀行振り込みは、労働者の同意や所定の手続きがあったうえで、例外的に認められているものだと吉田さんは説明します。
例外的なんですね。それも知らなかったですね。当たり前だと思ってました。
吉田さん自身も、社労士になる前は振り込みが原則で現金払いが例外だと思っていたそうです。しかし、法律上の建付けは逆なのです。
ここで吉田さんは、賃金支払いの5原則を一つずつ整理して紹介しました。
現金で支払うのが原則。銀行振り込みは同意などを条件に認められる例外
本人に直接支払う。代理人への支払いは認められない
給与を分割して払うことはできず、全額を支払う
年俸制でも、給与は毎月1回以上支払う必要がある
毎月10日や25日など、決まった期日に支払う
吉田さんによれば、年俸制でも1年に一度だけ支払う会社がないのは毎月1回以上払いの原則があるためで、支払日が毎月決まっているのは一定期日払いの原則があるためです。
法律で決まってたってことを初めて知りました。
デジタル給与払いのメリットと、現場でつまずく理由
続いて、デメリットの大きいデジタル給与払いにも多少のメリットがあるのか、という安田さんの質問に話が戻ります。
吉田さんが挙げたメリットは2つでした。1つは、デジタル給与で送金する場合、振込手数料がかからないことが多い点です。
もう1つは、給与計算で負担になりがちな銀行口座情報の回収がなくなる点です。銀行名や支店、名義、口座番号を集める作業は大変で、回収できたと思っても間違っていることが珍しくないといいます。
そのうえで吉田さんは、どんな業態なら検討する価値があるかを考えます。日払いや週払い、日雇いの人を多く抱え、出入りが激しい業態です。手数料削減と口座情報回収の手間の軽減が効くためです。
ただし、ここからが吉田さんならではの見立てです。クラウドツールの導入支援をしてきた経験から、その業態でもデジタル払いは現実的に難しいと考えています。
理由は、出入りの激しい業種は特定の業種に偏り、そこで働く人には比較的ITの使いこなしが苦手な高齢の方が多いケースが多いためです。
そうなると、そもそもアプリを使っていなかったり、使いこなすのに時間がかかったりして、給与を受け取れたのかわからない事態になりかねません。こうした理由から、吉田さんの見立ては明快です。
安田さんも、若い世代でもまだどうかというところなので、年齢が上がればさらに受け入れられない人がほとんどではないか、と応じました。
まとめ
来年度に解禁が見込まれるデジタル給与払いですが、吉田さんの見方は慎重です。現行法では現金払いが原則で振り込みは例外という前提を踏まえつつ、導入負担や補償の問題、そして現場の実態から、当面は大きく広がらないと見立てています。
- デジタル給与払いはSuicaやPayPayなどで給与を支払える仕組みで、来年度に解禁の見通し
- 電子マネーは種類が多く、担当者と従業員双方の教育負担や送金トラブルが懸念される
- 運営会社が破綻した場合、銀行の1000万円保護のような補償の仕組みがない点も課題
- 現行の労働基準法では現金払いが原則で、銀行振り込みは同意などを条件とした例外にあたる
- 手数料や口座情報回収の面でメリットはあるが、対象になりやすい業態ではITに不慣れな層が多く、吉田さんは普及に懐疑的






