外注のメリットに続く「デメリット」を語る理由
社会保険労務士の吉田優一さんによる今回のテーマは、給与計算をアウトソーシングするデメリットです。
この回は連続シリーズの後半にあたり、前々回で「給与計算をアウトソーシングするメリット」、前回で関連する話をしたうえで、今回はデメリットに焦点を当てています。
吉田さんは、外注には便利さがある一方で、事前に理解しておくべき注意点があると話しています。今回はそれを一つずつ整理していきます。
外注そのものが情報漏洩のリスクになる
1つ目のデメリットは、情報漏洩のリスクです。前回、外注先にきちんと保管してもらえば社内で管理するより漏洩が防げるという話をしていましたが、今回は逆の見方を示しています。
吉田さんは、社内で保管するよりも外注先にデータを出すという行為そのものが、リスクをゼロにはできないと指摘します。
厳しい見方をすればですね、社内で保管してるよりは外注先に出すっていう、その行為そのものが、情報漏洩のリスクがゼロじゃないよねってところがあるんですよ。
問題は外注先の選定です。細心の注意を払って管理する会社もあれば、そうでない会社もあり、選定を誤ると給与データが転売されるケースも考えられると話しています。
仮に給与データが同業他社に渡ると、従業員の引き抜きに使われるおそれもあります。
今Aさんここの会社で給料50万でもらってるんで、うちに来たら55万になりますよとかっていうような引き抜きとかに使われちゃうかもしれない。
距離が遠くなることで生じるコミュニケーションの負担
2つ目のデメリットは、コミュニケーションの問題です。社内で完結していれば、現場の人と給与計算担当者の距離が近く、やりとりも短く済みます。
一方で外注すると、外注先に「こういう形で給与計算してください」という情報をまとめて渡す必要があります。距離が遠いぶん、その資料づくりが負担になりやすいと吉田さんは話します。
吉田さんの事務所では、給与計算連絡票を用意し、昇給情報や退職情報をそれぞれ決まった場所に入力するルールを設けているそうです。
社内で完結している場合、たとえばkintone ── サイボウズが提供する業務アプリ作成のクラウドサービス。社内の情報を登録し、必要な情報を自動抽出するアプリなどを作れるに情報を登録すれば、給与計算に使う情報を自動抽出する仕組みを作れることもあります。
しかし外注先の給与計算会社は、社内のコントロール上、独自の書式を持っていることが多く、「これに入れてください」という形になりがちです。そうなると転記の手間が発生します。
「外注すればゼロになる」という思い込み
吉田さんは、開業当初に顧客からよく言われたことがあると振り返ります。それは、外注すれば社内の作業がすべてなくなると思っていた、という声です。
外注したら全部やることなくなると思ったら、そうじゃなくて、意外と社内でもやることあるんですねみたいなことを言われたことあります。
外注しても、外注先に渡す情報の整理は社内に残ります。ここは事前の目線合わせが必要だと吉田さんは話しています。
一時的だが避けられない初期コスト
3つ目のデメリットは、初期コストです。今まで社内でやっていた業務を外注に切り替えるのは、意外と大変な作業になります。
どういうルールで、いつまでにデータを渡すかを決め、最初は多くのデータを渡す必要があります。場合によっては、外注先の計算が従来のルールと合っているかを一緒に点検することもあります。
ただし吉田さんは、初期コストは一時的なものであり、乗り切ってしまえば大きな問題ではないと話しています。
一度外注すると社内に戻せなくなる「依存性」
デメリットの最後は、依存性です。吉田さんは、自立性のある会社を作りたい経営者にはとくに意識してほしいと強調します。
理由は、外注すると社内に給与計算を実行するノウハウがなくなってしまうからです。
一度給与計算を外注して当社で引き受けた場合、やっぱり元に戻しますっていうケースっていうのはほとんどないです。
内製化に戻すには、外部の運用ルールを理解し、それを社内に移し、実行できる人材を獲得し、定着させる必要があります。吉田さんは、これは他の社労士やアウトソーシング会社でも同様だろうと述べています。
吉田さんが挙げる理想は、外注しつつも、いざとなれば社内でできる人を抱えておく形です。外注業者の倒産や連絡不能といった万一の事態でも、自社で給与計算を続けられるからです。
クラウド給与で「データの人質」を防ぐ
依存性への対策として吉田さんがすすめるのが、クラウド給与の活用です。吉田さんの事務所ではマネーフォワードクラウド給与を使っているそうです。
通常のアウトソーシング会社に任せると、給与データは外注先が使う給与計算ソフトに蓄積されていきます。これが「情報の人質」のような状態を生むと吉田さんは指摘します。
いざ社内に戻そうとすると、自社で給与計算ソフトを買い、100人分の過去数年分のデータを入力し直すような作業が発生し、これがかなりの手間になります。
一方、最初からクラウド給与で計算していれば、データは自社側に残ります。外部業者を外して自社スタッフに切り替えれば、そのまま給与計算を続けられます。
吉田さんは、最初からクラウド給与を使えば、データを人質に取られる依存性がなくなるため、安心して外注できると話しています。
迷ったときの外注の判断基準と上手な使い方
最後に吉田さんは、上手な活用の仕方をまとめとして示します。まず、迷っているのであれば、小さい会社はアウトソーシングした方がいいという考えです。
判断の軸は、社長や優秀な人のキャパシティを空け、その空いた時間で作れる売上と、外注コストを比較することだと話しています。
その獲得できる売上とアウトソーシングする給与計算コストを比較して、どっちが高いかでアウトソーシングするか決めた方がいい。
吉田さんは、社内の人ができるからそのままにしておくというのは経営上最善ではないとし、アウトソーシングを推す立場を示しています。
2つ目のポイントは、給与計算をしばらく見直していない会社は、外注して整備してもらう方がよいという点です。紙のタイムカードのままだと勤怠集計に時間がかかり、承認や申請のプロセスで不正が起きやすいといった問題もあるためです。
そのうえで、依存性への対策として、社内にも給与計算をある程度理解している人がいる状態にしておくと、いざというときに戻しやすいと補足しています。
最後のポイントは、気持ちの面が軽くなることです。夏休みの宿題を最後にためる人と同じように、給与計算をギリギリまで放置しがちな場合は、外注で気持ちを軽くし、本業に集中する方が事業は伸びると話しています。
まとめ
吉田優一さんは、給与計算のアウトソーシングには情報漏洩、コミュニケーションの負担、初期コスト、そして依存性というデメリットがあると整理しました。そのうえで、クラウド給与の活用や社内での理解者の確保といった対策を示し、コストと売上を比較して判断することをすすめています。
- 外注そのものが情報漏洩のリスクをゼロにはできず、外注先の選定が重要になる
- 外注しても社内での情報整理は残るため、事前の目線合わせが必要になる
- 一度外注するとノウハウが失われ、内製化に戻すのはかなり困難になる
- 最初からクラウド給与を使えば、データを人質に取られる依存性を避けられる
- 迷ったら、空いたキャパで作れる売上と外注コストを比較して判断するとよい




